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2011年12月17日発売予定のPS Vita。対応するソフトウェアも同日に20タイトル以上リリースされるが、そのうちの一本が、PS Vita上でニコニコ動画・生放送が楽しめる専用アプリ「ニコニコ」だ。その開発に携わったドワンゴのエンジニアにインタビューを行った。
(取材/広重隆樹 文/川畑英毅 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.12.16
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ニコニコ事業本部
企画開発部 第七セクション 竹村 和晃氏
PlayStation(R)Vitaでニコニコ動画・
生放送を楽しもう! 2011.12.17 DEBUT |
PS Vitaは、プレイステーション・ポータブル(PSP)の後継機。PSPの基本的なデザインを踏襲しつつも機能は格段に向上、マルチタッチに対応した有機ELディスプレイ、本体背面にもあるタッチパッド、3G/Wi-Fiモデルでは第3世代携帯電話回線にも対応、メインメモリは512MB、VRAMが128MBと、メモリ搭載量はPS3を上回る。 「何ができるのか」「どんな操作感覚なのか」「どんな“面白さ”をみせてくれるのか」――発売前から、全世界で注目を浴びる次世代ゲーム機である。 そのPS Vitaの発売と同日にPlayStation®Storeにて無料配信が開始されるのが「ニコニコ」。PS Vita上で「ニコニコ動画」や「ニコニコ生放送」を視聴できるアプリケーションである。メインプログラマの竹村和晃氏はドワンゴに入社したのが2011年9月。入社してすぐプロジェクトのメンバーとなった。 竹村氏はそれまで大手ゲームメーカーに11年間在籍し、有名RPGシリーズなど数多くのタイトルに携わってきた。
「前職では、主にゲーム内のワールドマップやエフェクト周りを担当していました。いまコンシューマゲームの業界は、とにかくグラフィックの技術でしのぎを削る世界なんですね。しかし、実際のユーザーは、もうそこまでのグラフィックを求めていない。そのあたりのギャップが気になってしまって。 ドワンゴが運営する「ニコニコ動画」には圧倒的な楽しさがある。コメント機能を切り口として、ユーザー同士の交流が密で、そこからまた新しいものが次々に生まれてくる。 「大人から子どもまでが楽しめるコンテンツがある。しかもコンテンツを作っている方の多くは普通のユーザー。作り手がプロのクリエイターであることが多い他の動画共有サービスとは違い、ある意味、プロとユーザーの境目がなくなっている世界なんですね。その過程が見られることが面白い」 |
入社前、ドワンゴに対しては「何をやってもいいのかな」という期待感があったという。
応募の段階では“ものづくり”に関係した仕事をやりたいと、PS Vita向けアプリ開発、サーバー・エンジニア、それにプロデューサー枠へもエントリー。「欲張りにやりたいことを並べてみました」(竹村氏)。ちょうどドワンゴでPS Vita用アプリの開発が始められたばかりのタイミングだった。
「入社の時点ですでに開発は始まっていたんですが、その時点でチームメンバーは3人かな。そこから一気に開発が始まって、人も大勢集まってきて……。開発期間は短くて、ものすごいスピード。その間、とてつもなく忙しかったんですが、楽しかったですね。メンバーもいろんなキャリアを持っている人がいて面白いですよ。フリーランスで画像分析をやっていた人とか、SEの人。やはりゲームメーカー出身者が一番多いんですが、手がけてきたジャンルはレースゲームとか、アクションゲームとか、いろいろです」
リリースされるアプリケーションの正式名称は、PS Vitaタイトル「ニコニコ」。プロジェクトにおける竹村氏の役割は――。
「アプリケーション全般、全員の作ったものを組み合わせて仕上げるメインプログラマです。スケジュール管理やマネジメントは他に手馴れた人がいたので、その人に任せ、私はリーダーとしてみんなの意見を聞いて、全体を組み上げていきました」
PS Vitaに使われているOSはソニーの専用のもので、PS3に載っているものと基本はほぼ同じ。アプリケーションの開発においては、OSとうまく付き合いながら、タスクの切り替えなどを作りこんでいかねばならないが、ここで前職での経験が役立ったという。
「OSに新しく追加された部分もありましたが、半分くらいは知っている機能でした。ただ、新しい技術が使われているところは、クセを掴むまでに時間がかかりました。グラフィックエンジンの部分で、ディファードレンダリングと か、半透明画像をあまり使わないテクニックとかが難しくもあり、新鮮でした。
しかしそれ以上に苦労したのは、もともとニコニコ動画はユーザーの投稿サイトですから、動画のフォーマットがとてつもなく多いこと。内部的にはフォーマットの種類が何十、何百もあるんです。そこに対応するのが難しかったですね。中には時間切れで、初期段階では対応を断念したものもあります。もちろん、そのままにしておくつもりはなくて、後々必ず見られるようにしてやろう、と思っています」
「ニコニコ」は、スタート時点では「ニコニコ動画」と「ニコニコ生放送」の視聴ができるほか、当然ながらコメント投稿機能も利用できる。また、2012年春以降を目処に、動画投稿機能や内蔵カメラを使った生放送配信などの機能も拡張されていく予定。その先には、ゲームアプリケーションとの連携も予定しているとか。さらなる進化を見据えた開発がすでに始まっている。
「様々なバックグラウンドを持ったメンバーが集まっているチームですが、いい感じで連帯感が出てきています。欲しい機能をすぐに実装する技術がなくても、あきらめずに最短経路を考えて頑張る人が多い。みんな他の人を楽しませるのが好きだから、ユーザーの視点に立って、“私だったらこんな機能が欲しい”と、どんどん“あったらいいね”を言ってくる。それでそいつを作っちゃう。その熱気がすごいです」
竹村氏自身にとっても、「ニコニコ」の開発はこれまでのゲーム開発では味わえなかった楽しみがあったという。
「自分で作ったサービスを、自分が遊べる。これがいいですね。
コンシューマゲームだと作るのに精一杯で、関わった人は、作った後はほとんど遊ばない。中身を1から100まで知っていて、何がどうなるかわかってしまうので…。
けれど、ニコニコ動画は、ユーザーが投稿して作っていくから楽しい。エンジニアが100出して仕組みを作ったとしても、そこにユーザーが120とか、場合によっては200くらい、重ねてくれる。我々エンジニアもそこからインスピレーションを受けるといった、インタラクティブ性がある。
また、コンシューマゲームは、ハイエンド機向けになると開発に2〜3年かかることも多く、ユーザーに届けることができるのは、いわば「2〜3年前に思いついたサービス」だ。しかしネットの世界ではもっと回転が速い。「これはどう? じゃあ、これなら?」と、ユーザーの反応を見つつ、協力して進化させていくことができるのだという。
「コンシューマゲームの開発チームは、200人いたらそのほとんどデザイナー。プログラマは10人いたら、かなり大人数の部類でしょう。けれど、ドワンゴの場合はほとんどのメンバーがエンジニアで、しかも企画者を兼ねている。だから直接サービスにつながっていくんです」
「ニコニコ」も、リリース直後から大量にレスポンスが来るはず、と竹村氏は笑う。先に述べた機能拡張に加え、「なるほど、これは欲しい!」と開発チームも頷いてしまうリクエストもあるに違いない。
「その時に、現在のチームだけでは力不足になってしまうこともあるかもしれない。もし新たに加わってくれるなら、技術に対して貪欲でアグレッシブな人が欲しいですね。言われたものを作るのではなく、これがあれば楽しい、自分で作ってみようという人――。
PS Vitaってどういう機能があるのかと使い倒してみる。いや、分解まではしなくていいですけど(笑)。
ゲーム開発経験者の中にはWeb業界での経験がないことで足踏みをする人もいるかもしれない。けれど、『人を楽しませたい』という思いは強いはず。そんな人は大歓迎です。
もちろん、ゲーム業界に限りません。C++に関しては、普通にSTLが使えるレベルなら、あとはやる気で吸収できると思う。知識に対する貪欲さがあれば大丈夫。貪欲であれば、前職での仕事のやり方もあまり関係ありません。ユーザーとしてこういうものが欲しい、いっそ自分で作ってしまいたい、作れる自信がある、という人ならどんどん来て欲しいです」
ドワンゴには、エンジニアの「やってみよう」を活かす場がある、という。 「この会社は、『楽しいと思ったら、作ってみなよ』という感じですね。将来性も充分あるんじゃないかと思う。ユーザーが2400万人を超えて、子供から大人まで見ている。“楽しい”を提供することで、その対価を貰う――ニーズや市場は、どんどん大きくなっていくと思いますよ」
1974年生まれ。立命館大学情報学科卒。大学卒業後、家電メーカーを経て、大手ゲームメーカーに転職し、11年間にわたりコンシューマゲームの開発に携わる。2011年9月、ドワンゴに転職し、PS Vitaタイトル「ニコニコ」のメインプログラマを担当。
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