マニアな話が満ちている!超こだわりの「一筋メーカー」探訪記 |
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粉一筋87年!
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プロセスも時間も関係ない、ただ砕ければいいのだ
固体、液体、気体を兼ね備えた「粉体」という存在
1925年(大正14年)に開発された国産初の粉砕機
「『粉』と聞いて何を思い浮かべますか? 小麦粉や砂糖などでしょうか。私は粉体を現象面で考えます。例えば水です。水は液体ですが、凍って固体(氷)になり、沸騰させると気体(水蒸気)になる。つまり3つの形態がありますが、粉体はこのすべてを兼ね備えている第4の形態なのです。例えば雪で説明しましょう」
雪を固めればかまくらのような強度を持つ固体となり、雪崩になれば流体挙動を持つ液体になり、吹雪のような振る舞いをする気体にもなる。その雪とは、「粉雪」という言葉があるように粉体なのだ。
奈良機械製作所は1924年(大正13年)に創業し、翌1925年に国産初の「高速回転衝撃式粉砕機」を開発した老舗メーカー。粉砕機とは原料を砕いて「粉」をつくる機械のことだ。上の写真が86年前の初代の粉砕機。上から入れた原料を、突起(衝撃柱)のついたローターを高速回転させて強い衝撃力を与え、細かな粉体にする仕組みだ(写真はふたが開いた状態)。
86年前の初代粉砕機から変わらぬ構造
株式会社奈良機械製作所
プロジェクトチームα 技術担当
副主査
大和田昌彦氏
後にさまざまな技術開発が進み、粉砕機の種類も増え、現在では「自由粉砕機」と呼ばれるこの装置は同社の代表的な製品だが、驚くことにこのシンプルな構造は変わっていない。その理由を大和田氏に問うと「謎なんですよ(笑)」。
「粉砕機は原料が砕ければそれでいいんです。弊社は乾燥機も主力商品ですが、乾燥機は熱計算で表現できるので、机上の計算やシミュレーションがしやすいのです。しかし、粉砕機は粉の動き、装置の動作、粒子同士の衝突など、言わば想定外の挙動が起きるので開発は難しい。でも、実はそのプロセスに注目する人はいません。細かくなればOKですから」
乾燥機も「乾けばいい」のだが乾くまでのプロセスが長い。一方、粉砕機は原料を入れて出てくるまでの時間はわずか1秒以内と非常に短い。ほとんど瞬間的なものだから、時間も制御せずに「なりゆき」に任せているという。
砕く対象は食料品から金属までかなり幅広い。そのため、例えば柔らかい樹脂は衝撃で割れにくいので、スライスするように切るか、液体窒素につけて脆くしてから割る。また、粉砕したサイズにはバラツキが出る。そこで、粗い粉体を再粉砕して細かくするなどで対応する。粉砕機単体でなく、他の装置を組み合わせて目的を達するケースもある。90年弱という長いノウハウの積み重ねが「解決策」を導いているのだ。
リンゴ、稲わら、磁性粉、鉱物、大豆、焼酎かす、魚の骨……って?
リンゴの酸化を防ぐために窒素雰囲気を利用
何と!最新式の粉砕機の構造は初代とほぼ同じ
こんなに巨大な粉砕機も!
1994年に入社した大和田氏が粉砕機開発を始めたのは、実は5年前から。入社当時からそれまでは、粉体の個々の粒子(母粒子)の表面にミクロン単位の微粒子(子粒子)をつける、「表面改質装置」に携わっていた。本社から北海道サテライト、ドイツのケルンにあるヨーロッパ支店へと移り、本社に戻った2006年から粉砕機を担当する。
そして、この5年間にいくつもの粉砕機を開発。「ジュース用のリンゴの密閉粉砕・輸送装置」「バイオエタノール用の稲わらの粉砕・輸送設備」「磁性粉の粉砕・輸送装置」「鉱物・セラミックスの粉砕設備」「昆布、大豆、砂糖の粉砕設備」「焼酎かすの粉砕装置」などで、素材も用途もバラバラだ。
「表面改質装置は粉砕機をベースに開発されたものですが、やはり勝手が違いますから当初は、いえ、今でも苦労しています。特に前例がないものは大変で、『リンゴ』『稲わら』『磁性粉』は過去に誰も開発していないと思います」
リンゴの密閉粉砕機とは、ジュース用に絞る前にリンゴを砕く設備のこと。砕くだけなら簡単だったが、目的は酸素に触れてリンゴが変色するのを防ぐこと。こうすることで黄色ではない「白いリンゴジュース」ができるのだ。大和田氏は装置内に窒素ガスを充満させて窒素雰囲気にすることでこれを解決。絞る工程を考慮して、サイズはすりおろしりんごより少し粗い状態にしたそうだ。
通常はプロセスフローの構想に約2週間、次の詳細設計で図面を書き上げるのに約2カ月が掛かるそうだが、構造を大幅に変えたリンゴの密閉粉砕機は詳細設計に3カ月以上を要したという。製造工程になると出来上がりをチェックし、顧客の注文から完成まで長くて6カ月が掛かるという。同僚に知恵を借りることはあっても、基本的にひとりで担当。2〜3台を平行して受け持つという。
徹底的に勉強する!だからアイデアが浮かぶのだ
プリオドンは稲わらの粉砕機
バリオニクスは竹の粉砕機
「稲わらの粉砕は1メーター弱のわらを3ミリ以下にして、これをエタノールに変換するわけです。学術的には先行していますが実際のプロセスは困難で、できるメーカーがなかったようで弊社が依頼されました」
ロールにしたわらを裁断して、粉砕する。ただ、ロールのカッターがなかったので農業機械メーカーから導入して開発にこぎつけた。後は自社技術をフル活用したわけだが、「下準備」にも苦労したと語る。装置はほとんどがオーダーメイドの特注品であり、原料や用途はそのたびに異なるので、周辺知識がどうしても必要になる。バイオエタノールの場合は顧客に研究者も含まれており、特に時間を割いたという。
「自分でも学びますし、社内で勉強会を開くこともあります。中途半端では仕事にならないので、徹底的に調べますよ。大学の専門の研究者の論文を読んだり、展示会や研究会などに参加して生の情報を得るようにもしています」
だからアイデアが浮かぶ。磁性粉(磁石の粉)の粉砕では、希ガス(不活性ガス)のアルゴンを入れて内部で循環させるようにした。空気中で粉砕すると燃えてしまうからだ。ソーセージのカルシウム剤などに使われる魚の骨の粉砕では、原料の骨の状態を調整してもらうようにした。粉砕だけでは目的が果たせないとわかったので、顧客側に協力を求めて解決したのだ。
雪を粉砕……液体窒素で低温脆性にして割るか?
奈良機械製作所の敷地内には粉砕機を祭る神社があり!
「理解していると思っていても、自分の知らない不思議な一面を見せてくれるのが粉体です。一つひとつはきれいな粒子でも、まとまると想像を超える現象を引き起こしますし、周囲の環境によってもさまざまな挙動を示します。それを理解するには自分が成長するしかありません。だから、私にとっての粉とは自分を成長させてくれる存在です」
最後に「雪」を粉砕できるか聞いてみた。顕微鏡で見られる大きさなので可能とのことだったが……大和田氏は考え込んでしまった。
「薄い形状なので難しいですし、粉砕すると熱が出るので溶けてしまうでしょうから、液体窒素を十分に入れて固くした後で衝撃を与える方法でしょうか。ただ、私は細かく砕くことよりもその先の、『何に使われるか』に興味があるんです。ですので、それをずっと考えていたのですが、粉砕した雪をどうやって評価しましょうか」
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