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発見!日本を刺激する成長業界22 IaaSが成長ステージへ移行、顧客企業が急増中
ITインフラをネット上のサービスとして提供するIaaS市場が今、改めて注目されている。インフラ以外のサービスを含むソリューションも登場し、ソーシャルゲームやEコマースなどのIT需要を取り込む格好で市場が急拡大。エンジニアニーズも高まる期待の分野だ。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:12.01.16
Webサービス需要を取り込む形で、2015年には1000億円市場に
 サービスの形が明確化するにつれ、本格的な市場形成が進み始めたクラウドコンピューティングサービス。うち、インターネットを通じてサーバー環境をユーザーが必要とするだけ提供するIaaS (Infrastructure as a Service)が企業ユーザーを急速に増やしている。インターネット通販などのEコマース、ソーシャルゲームなど、大規模で強固なセキュリティが要求されるネットサービスを簡単に始められるという特性の浸透が、急増の理由と見られる。
 IT調査会社のIDC Japanは昨年11月、国内クラウドサービスに関する最新の市場予測を発表。コンテンツサービス、BPOサービス、導入支援/システム/アプリケーション開発などのプロフェッショナルサービスを含まないクラウド本サービスで、2015年には2010年比5.6倍の2550億円(売上額)に達し、そのうちIaaSは1000億円程度になる可能性が高いという。しかも、パブリッククラウドだけに相当する、IDCクラウドサービス市場定義に基づくものだという。ITエンジニアにとって期待の新分野と言えるだろう。
国内クラウドサービス市場セグメント別売上額予測:2010年〜2015年(2011年は見込み、2012年以降は予測)
ニフティ/右肩上がりの成長を続ける「ニフティクラウド」の優位性
 大小さまざまなIaaSベンダーが割拠する中で、データセンターの国内設置による高パフォーマンス、迅速なトラブルシューティング、良好なユーザビリティで顧客数を伸ばしているのがニフティ株式会社の「ニフティクラウド」だ。将来はPaaS/SaaS領域までを取り込んだ総合サービスを目指す。
導入実績1000社の理由は、高品質なサービスと高いユーザビリティ
コントロールパネルのパターン認証申し込み画面
コントロールパネルのパターン認証申し込み画面
 サーバーの仮想化技術によって、物理サーバーを占有することなしに動的にサーバーをレンタルすることができるクラウドコンピューティングサービスのひとつ、IaaS。
 その品質はかつては通信やサーバーの処理速度など、インフラそのもののパフォーマンスと単価が左右すると考えられていたが、今日では新たにPaaS/SaaSの要素を含む多様な機能・サービス提供で付加価値を高めるというビジネスモデルも登場するなど、多様化が進んでいる。そして今、さらに付加価値を高めるチャレンジが見られるようになった。
「クラウドサービスの中でもパブリッククラウドは今後、大きな成長が期待できると感じています。私たちの展開するIaaS『ニフティクラウド』は2010年1月にサービスイン、昨年10月末には導入実績が1000社を超えたのですが、特に最近になってカスタマーが急激に増えました。高い通信・処理品質と、カスタマー側の管理者のスキルによらずに簡単に操作できるユーザビリティ。この2つを両立したサービスを提供すれば、必ずメリットを理解していただけると感じています」
 「ニフティクラウド」を運営するインターネットの老舗、ニフティのクラウド事業部でサーバー、ストレージ、ネットワークなどを幅広く担当する山田佑輔氏は語る。

 ニフティクラウドの特徴は、高品質や多様なサービスに加え、ユーザビリティの高さを徹底追求していること。今日、専従のサーバー管理者を置くのは負担が大きいという企業が増えている。サービスイン以降、この顧客ニーズを汲み上げる形で、知識がそれほど豊富でなくともサーバー管理の基礎がわかる人なら、直感的に操作するだけでほぼ操作ができるよう、コントロールパネル画面を徹底的に工夫したという。
「ニフティクラウドでは、コントロールパネルを使ってオンデマンド設定するだけで、5分でサーバー準備を完了させることができます。ユーザーがリソースを容易に管理できるインターフェースは今後、IaaSやクラウドの競争力のカギになるでしょう。また、コントロールパネルを開かなくても、コマンドを入力すればサーバー管理ができるよう、フレキシビリティも持たせています」
 利便性が高まれば、負荷が最大となるときに合わせて物理サーバーを占有する必要がなく、必要な分だけリソースを借りればいいIaaSは、コストメリットの点でも既存のホスティングサービスに比べて優位性高い。

 迅速なサーバー設定、操作の容易さなどの特性から、ニフティクラウドのクライアントには特にEコマースやソーシャルゲームなど、サービススピードの速いビジネスを展開する事業者が多いという。
「やはり、ソーシャルゲーム系は多いですね。次に多いのがEコマース、メール配信でしょうか。これらの業界ではまずはサービスをリリースして、成功したら様子を見ながらサーバーリソースを増強していくという傾向があるので、必要な分だけリソースを使えるIaaSには適合性が高いのです」
 ニフティクラウドは今後、さらにPaaSやSaaS領域のサービスを付加するなど、トータルソリューション化を目指す可能性が高いという。
ニフティ株式会社 クラウド事業部 クラウドビジネス部 山田佑輔氏
ニフティ株式会社
クラウド事業部
クラウドビジネス部

山田佑輔氏
3カ月ごとに新機能を追加、Iaasには新技術に日々触れる楽しさがある
コントロールパネルのサーバー一覧画面
コントロールパネルのサーバー一覧画面
コントロールパネルのダッシュボード
コントロールパネルのダッシュボード
 ニフティクラウドの特徴として特筆すべきは、豊富なオプション機能が用意されていることだろう。
「メモリなどハードウェアリソースの使用率によって、あらかじめ設定しておいたしきい値を超えたときだけ、自動的にサーバープランを上位移行させるオートスケール機能。コントロールパネルやAPIで管理可能にした、SSL証明書。サーバー設定の複製サービス。通信量が増大したときに負荷分散を行うロードバランサー。これらに加えて、ログイン時のセキュリティを強化する最新のパターン認証も使うことができます」
 ニフティクラウドの「売り」であるコントロールパネルをはじめ、付加機能の企画開発を手掛けている芳中隆幸氏は語る。
「サービスイン当初にあったのはロードバランサーくらいのものでした。クライアントのニーズを満たしてサービスレベルを上げたいという気持ちで、要望の多い機能をどんどん作って、3カ月ごとに付け加えてきました。売れるサービス作りを見すえてアプリケーション開発を行うことは、この世界では大事ですね」

 ホスティングサービスに代わるソリューションとして需要が増えているIaaSだが、一方でコモディティ化が進み、競争も激しさを増している。その業界を勝ち抜いていくには、ハードウェア、ソフトウェアの両方について、常に最新の技術を用いて顧客ニーズに応えていく必要があるという。
「プレッシャーがかかるときもありますが、常に最新の技術に触れられるのはとても楽しいですよ。新技術が出るたびに、それを利用したよいサービスはないかと考えています」
 最近作ったものの中で興味深かったのは、パターン認証だそうだ。特定のパスワードに依存せず、4×4マスの4つの正方形に出る乱数の中で、自分があらかじめ決めておいたパターンの位置に表示された数字を入力するという、とてもセキュアな認証システムだ。
「ソフトの中身を見てみたら、サーバー側とクライアント側のリクエストのやりとりなどが、従来の認証ロジックとかなり異なる。こんなやり方があるのかと驚きました」
 サービスやサーバー品質の強化が日々求められる世界だけに、人材の不足感はニフティのみならず、IaaS業界全体でも強まっているという。
「ニフティクラウドは今のところ独自のカラーを持ち、存在感を示せていると自負していますが、IaaSの企業間競争は激しくなる一方。ソフト開発、運用強化、ハード増強など、クオリティアップにつながることは何でもやるべきという状況なので、人材不足感はめっちゃありますよ」(山田氏)
 IaaSの世界で人材不足感が強いのは、ログ解析などからトラブルシューティングがわかる運用技術者、VMwareなどの仮想化ソリューションとLinuxやWindowsの両方がわかるサーバー技術者、SQLなどデータベース技術者などだという。
「仮想化については、『気合と根性』があれば何とか習得できるもの。加えて、自分の得意なプラスアルファがあるといいですね。例えば運用ですが、Splunkなどのログ解析・分析ツールを使って、ログを見たらトラブルの原因がわかるなどです。あと、日々の新技術への興味を持つことが大事ですね。VMwareだけ見ても新機能は次々に出るし、構成もしばしば変化します。新しいものが好きな人にとっては、かなり楽しい毎日だと思います」(芳中氏)
ニフティ株式会社 クラウド事業部 クラウドシステム部 芳中隆幸氏
ニフティ株式会社
クラウド事業部
クラウドシステム部

芳中隆幸氏
参入企業が本腰を入れ始めたIaaS業界、エンジニアニーズも増加中
2010年の“IaaS元年”からわずか2年で市場が急成長
 上記のニフティをはじめ、日本では2010年に多くのIaaSベンダーがサービスインした。大手ベンダーで名前が挙がるのはソフトバンクテレコム、日本IBM、富士通など数多く、2011年に入っても勢いは止まらない。今後もさまざまな分野から参入が予想され、ハードウェアのシステム設計、アプリケーション開発、保守・運用などの人材需要は高水準で推移すると考えられる。

 顧客企業はコンテンツ配信、オンラインゲームなどのWebサービス系が多く、企業内システムへの導入などは機密保持の観点からまだ盛んではない。逆に、その分野で機密が保証される有効なソリューションを提示できれば、新たな成長分野となるだけに、先行開発は水面下で活発化しているようだ。

 また、VMwareをはじめとする仮想化ソフト、仮想化への適合性を高めたOS、ミドルウェア、アプリケーションの開発も今後さらに活発化すると見られ、関連ソフト企業でも人材需要が高まるだろう。2010年からの2年で市場はほぼゼロから一気に年間約200〜300億円にまで成長。これからの将来性を考えると、転職バリューはかなり高いと言える。
仮想化技術を学べば、ソフト・ハード系ともに高マッチング
 IaaSの最大の特徴は、言うまでもなく仮想化技術。それ以外の部分については、ハード、ソフトともに一般的なサーバー、データベースとほとんど同じか、応用可能なもの。従って極論すれば、データベースの標準言語SQLや基幹系サーバー関連に使われる技術の知見、経験を持ち合わせ、サーバーのコマンドもある程度使いこなせるようなITエンジニアであれば、仮想化を学びさえすればIaaS業界に転職可能ということになる。

 問われるのはスキルセットより、むしろ適性のほう。IaaSベンダーのエンジニアは、アプリケーションや仮想化ソフトのベンダーとともにシステム検証を行うなどの機会が少なくなく、ニーズ把握のため顧客との意見交換も行うため、コミュニケーション能力が重視されるケースが多い。

 また、現状ではパフォーマンス、コスト、サービスなど多くの面で発展途上の段階にあるため、同じことを正確に繰り返すことを志向するタイプよりは、新しいものに飛びつくタイプのエンジニアのほうが適合性は高いようだ。
 「縁の下の力持ち」のインフラ事業に見られがちだが、キャッチアップが容易でないほどの先端技術の宝庫であり、知られざるエンジニアの新領域である。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
IaaSとはちょっと関係ないのですが、1.5TBの外付けHDDが壊れまして。いじくっているうちに電源すら入らなくなりまして。復旧を頼もうと思いましたが、中身を見られるのが嫌で決断できず、かれこれ半年になります。あー、クラウドにぶちこんでおけばよかったよ!と、いまだに後悔しております。

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