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発見!日本を刺激する成長業界21 レンズ交換式一眼カメラの時代が走り出す
コンパクトデジカメに近い小型サイズながら撮影意図に応じてレンズを自在に換えられる"ミラーレス"のレンズ交換式一眼デジタルカメラが、カメラ市場でシェアを急速に高めている。ITとの組み合わせなど従来のカメラとは違うトライも始まるなど、開発熱は高まるばかりだ。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:11.12.05
“ミラーレス”化で人気上昇!今後5年で8倍増の大マーケットに
 今日、デジカメの世界で急速に存在感を高めているのが、レンズ交換式一眼カメラだ。かつてはレンズ交換可能なデジカメといえば高画質・本格志向の一眼レフタイプが一般的だったが、2008年、カメラ内部のミラーを省いた小型・軽量な"ミラーレス"タイプが発売されると、コンパクトデジタルの画質に満足できなかった層を中心に大いに支持を集めた。
 日本ではすでに5社がミラーレスタイプの一眼カメラを市販化。顧客層は増加の一途をたどっており、今後もこのトレンドは拡大すると見られる。市場調査会社の富士キメラ総研はミラーレス型の販売について、2015年には2010年の218万台に対して825%増の1800万台になり、一眼レフカメラを抜くとの予測を発表。期待のマーケットである。
デジタルカメラ関連の世界市場推移(2011年は見込み、2012年以降は予測)
ニコン/“Nikon 1”が発売!開発責任者が語る「半世紀ぶりの革新」
 内部のミラーを省いた小型のレンズ交換式一眼カメラが流行する中、あのニコンが今秋、ついに同分野に新商品を投入した。本格一眼レフに迫る高画質と小型化を両立させたばかりでなく、動画と静止画の融合など新しい表現手段も盛り込んだ。
コンデジとも一眼レフとも違う“アドバンスト”カメラ
Nikon 1 J1
Nikon 1 J1
 今年10月、ニコンがまったく新しいレンズ交換式一眼デジタルカメラシステム「Nikon 1(ニコン・ワン)」を発表した。同社は一眼レフカメラの銘機を多数輩出してきた名門だが、新システムのカメラは一眼"レフ"ではない。
 一眼レフはレンズに入射した像をミラーを使って光学ファインダーに投影し、撮影者はそれを見てアングルなどを決めるが、新システムはミラーを廃止し、撮像素子の映像をリアルタイムに背面液晶ないし電子ファインダーに電気的に表示させる。撮像素子のサイズは1インチサイズと、同社の本格一眼レフデジカメに比べてはるかに小さい。ミラー廃止とあいまって、レンズもボディも少し大型のコンパクトデジカメと同程度の小ささで作ることができる。
 カメラ市場では、いわゆるミラーレス一眼というジャンルに区分されるモデルだが、ニコンはミラーレスという言葉を使わず、「レンズ交換式アドバンストカメラ」と呼んでいる。
「Nikon 1を開発する過程で強く感じたことなのですが、超小型一眼システムは普通の一眼レフカメラからミラーを取り去っただけのカメラではありません。撮影テクニックや取り回しなど、いろいろな面で一眼レフとは全然違う楽しみを追求できるカメラになる可能性を秘めているのです」
 開発を指揮した鈴木政央氏は、アドバンスト(先進的な)と呼ぶ背景についてこう語る。氏が持参した実機は、新システム第1弾となる2機種の中でもコンパクトな「Nikon 1 J1」。極薄型の広角単焦点レンズ「1 NIKKOR(ニッコール)10mm f/2.8(35mm換算27mm)」を装着したものだ。
 手のひらにすっぽり収まるボディは、寸法以上にコンパクトな感覚を与える。また、鮮やかな赤のボディカラーも車のそれのように高品位で、洒落っ気を重視した仕立て。一眼レフの亜種ではないという主張には十二分に説得力がある。
「発売してすぐ、写真のアップロードサイトなどに早速撮影された作例が多数上がりました。われわれ開発者のイメージを超えて工夫された写真が多くあり、驚かされましたし、うれしかったですね」
 J1で撮られた写真の中には、高性能単眼鏡と組み合わせる「デジスコ」という手法でカワセミなどを遠方から大写しで撮影したり、600mm望遠レンズにさらに拡大用テレコンバーターを組み合わせて装着し、実質3000mm以上のスーパーテレスコープ化して月面を精密撮影したりと、興味深い作例も多い。
 ミラーレスタイプの一眼カメラが初登場したのは2008年のこと。以来、プロスペックの高級一眼レフではかえって撮るのが難しい写真をモノにするのが、マニアの間で流行っている。撮像素子が1インチサイズと、ライバル機の中でも小さい部類に属するNikon 1だが、それらミラーレス機でも難しい、本来ならコンデジのものである撮影手法も簡単に使えたりする。前出のデジスコはその一例だ。
「Nikon 1のシステムは、一眼レフのニコンFシステム以来、およそ半世紀ぶりに開発した新フォーマット。まったく新しいカメラだと思ってください。ですから、Nikon 1は単発ではなく、Fシステムのように長い歴史の一歩を踏み出したところなのです」
 鈴木氏はAF(オートフォーカス)や信号処理などの基礎開発を約2年、それをベースにしたNikon 1の製品開発を約2年半担当し、先ごろ完成させた。「今後のこともすでに考えています」と語る。
鈴木政央氏
株式会社ニコン
映像カンパニー
開発本部
開発推進部 ゼネラルマネージャー
鈴木政央氏
Nikon 1で見えたカメラ開発の仕事とカメラの未来形
上位機種に当たるNikon 1 V1
上位機種に当たるNikon 1 V1
Nikon 1 J1のカラーバリエーション
Nikon 1 J1のカラーバリエーション
 カメラ開発というと、光学分野をはじめとする専門家たちが秘密のノウハウを駆使して製品を開発、別分野のエンジニアは足を踏み入れるのも難しいというイメージを持たれがちだ。だが鈴木氏は、「そんなことはありませんよ」と笑う。
「そもそも今回のNikon 1の開発は、カメラとはこうあるべきという技術主導型の開発ではありません。弊社のように一眼レフに特段の思い入れがあるメーカーが既存の技術を組み合わせてパッケージングしたら、従来のカメラとほとんど同じ形になってしまうでしょう。デザイン、操作、ソフトウェア、新しい表現方法の考案と実装など、ありとあらゆる部分をゼロから作ったからここまで変われたんです。どういうカメラを作るのかを決めるだけで1年かかりましたからね」
 カメラは工業製品の中でも、家電などに比べると全般的に寸法は小さいほうである。だが、使われている要素技術は光学、半導体、メカトロニクス、ソフトウェア、電気など多岐にわたる。製品の開発チームが要素技術を一から十まで開発するわけではなく、シャッター、レンズ、撮像素子……と、各分野の研究開発チームと連携してカメラを作っているのだという。

「最も専門的だと考えられている光学分野も、専門家の聖域というわけではないんですよ。もちろん光学に関する高度なノウハウは大事ですが、一方で最近はシミュレーション技術が大きな進歩を遂げていて、光学設計は昔よりずっと先進的になっています。流体や熱など、他分野のシミュレーションの経験があれば、その技術を生かして光学分野の開発に移行するのも不可能ではないでしょう。それに、レンズは(ガラス、プラスチックなどの)透過部だけでなく、筐体設計も重要。ウチのレンズ設計部門も物理、波動光学の専門家ばかりではなく、機械の専門家もいます」
 ボディ側も理想的なスペックの追求ばかりではない。小型化を進めると、画像処理エンジンの基板は高密度実装が要求され、また電池、DC/DCコンバータ、撮像素子まわりなど、多くの部分について熱対策を行う必要が生じたりと、タフネスさを上げるための改善作業は基本設計に負けず重要だという。
 また、地味ながら重要なもののひとつに、操作ボタンの設定があるという。小さなボディのカメラは設置可能なボタンの数も少ないので、細かい設定するときにはメニューを呼び出して、そこで一覧から操作を選ぶ方法になる。
「例えば、特定メニューのときにどのボタンやダイヤルを操作しても、あるいは複数のスイッチ類を同時操作しても、絶対に競合しないように仕上げる組み込みソフトエンジニアの仕事はとても重要です。ある程度カメラ好きで、撮影法を知っている方なら仕事はスムーズですね」

 カメラに実装される撮影メニューはさらに重要だ。J1の開発過程で、女性にも受け入れられるコンパクトな一眼ならではの表現手段を盛り込もうという話になった。開発部隊からの提案で市販品に実装された機能のひとつが、モーションスナップショットだ。
「静止画でもただのムービーでもなく、静止画を撮りながらその前後の数秒間、60コマでフルハイビジョン動画を撮るというものです。再生は2.5倍のスローモーション動画と静止画の組み合わせで、BGMも付けられるんですが、ちょっとしたプロモーション映像みたいなものがどんどん撮れる、なかなか印象的な表現手段にすることができました」
 こうした機能を付加している背景には、カメラというもの自体がただの撮影装置にとどまらず、新しい"何か"に変化していかなければならないという鈴木氏の思いもある。
「例えばiPhoneは、どのような機能をどのようなデザインでパッケージするかというアイデアが非常に先進的で、世の中を大きく変えていきました。カメラもそれに負けていてはいけないと思うんです。例えば通信機能を付加して、それがとても面白い何かを世の中にもたらすこともあるでしょう。ですから、スマートフォン開発の経験者のようなクリエイティブな分野の人には、ぜひカメラの世界の門戸を叩いていただきたいところですね。カメラだけやっていると、どうしても固まっちゃいますから(笑)」
 敷居が高いと思われがちなカメラ開発だが、実際の現場はいろいろなスキルが必要とされている、裾野の広い分野なのだ。写真が好きだという人から新しい映像表現手段を作りたいと意気込む人まで、レンズ交換式一眼カメラの開発は面白いフィールドとなるかもしれない。
鈴木政央氏
株式会社ニコン
映像カンパニー
開発本部
開発推進部 ゼネラルマネージャー
鈴木政央氏
憧れのカメラ業界、最先端製品に携わるチャンスはあるか?
日本から世界へ、期待されるミラーレス機の飛躍
 市場動向でも述べたように、ミラーを省いてコンパクト化を進めたミラーレス一眼カメラの販売は確実に上昇傾向にある。好調なのは特に日本市場で、欧米ではより大型の一眼レフカメラの人気が高いという状況だが、いわゆる"ガラパゴス"規格ではない。小型軽量による表現手段の多様化効果は、プロを含めた海外のカメラマンにも次第に認められつつあるからだ。

 また、大抵のミラーレス機はレンズアダプターを介してほかの一眼レフカメラ用レンズを装着可能という楽しみ方が可能なことから、その部分でもファン層を増やしていくものと考えられている。
 日本だけでもすでに、トップバッターのパナソニックはじめ、オリンパス、ソニー、ペンタックス、そしてニコンが参入した。未参入メーカーも富士フイルムがすでに開発中であることを明かしており、静観を決めているキヤノンも参入は時間の問題と見る向きもある。

 カメラの開発は商品企画、要素技術開発、アセンブリー開発と、エンドユーザー向け商品ならではの楽しみが凝縮されており、カメラ好きのエンジニアにとってはかなりのやりがいを期待できるであろう。
家電、自動車、携帯端末……得意の分野で参入が可能
 ニコンの事例研究でも述べたように、今日のカメラ開発は光学やシャッター幕など専門性が高い分野だけでなく、それ以外の分野の開発も差別化、競争力強化の点で非常に重要視されている。回路、ソフトウェア、撮像素子など重要部分を丸投げではなく、その多くを自社内や関連会社で行っているのもカメラ業界の特徴で、業界規模から受けるイメージ以上に先端開発を楽しめる可能性が高い。

 カメラ業界に他業界から転職するうえで有用なスキルとしてまず挙げられるのは、何と言ってもソフトウェアであろう。高度なリソース管理と徹底したデバッグが要求される自動車、携帯電話、電子機器などの分野でC言語を経験しているエンジニアは有利だろう。また、画像処理部分ではアルゴリズム構築経験者も強く求められている。
 ハードウェア系でも幅広い分野の人材にチャンスがある。中級以上のデジカメは小さいボディの中に、画像処理やメモリアクセスに限ればパソコン以上の性能のものを詰め込むことが要求されるため、電子回路の高密度実装経験者のニーズは非常に高い。携帯電話、PDAなどの電子端末や、家電のコンピュータ部分の設計経験者なら特にチャンスありだ。

 レンズ、シャッター、撮像素子も、異分野からの参入余地は十分にある。例えばレンズのAF機構などは、ごくわずかのズレがあってもピントが不正確になるなどユーザー満足度に直接影響する分野であり、ステッピングモーターの高精度制御などで腕に覚えのあるエンジニアは通用しやすい。撮像素子を自社設計しているメーカーの場合、半導体プロセス開発経験者を募集することもある。
 コンデジ市場が飽和状態に向かう中で、デジタル一眼レフカメラが新たな市場を拓き、さらにミラーレス一眼が拡大路線にあるカメラ業界。エンジニアリングの魅力たっぷりだ。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
私の愛機は「Nikon D60」。もう生産されていませんし、機能的には現機種に比べてかなり劣ります。しかし、手の小さい私にとって、ホールド感が絶妙に合うのです。かわいいヤツなのです。ミラーレスにはとてもとても惹かれますが、浮気すると怒られそうです。

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