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サイバーエージェント藤田社長は、先日インターネット広告事業の大改革と、インターネット総合サービス企業として新たなインターネットメディアの創出を強化することを明らかにした。そこではスマートフォンを中心に100の新規事業を、わずか2年間で生み出すという──その真意とは?
(取材・文/白谷輝英 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.10.21
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![]() 株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長CEO 藤田 晋氏 |
サイバーエージェントは先頃、インターネット広告事業の大改革を決断した。これまで「インターネット広告事業本部」と呼ばれていた部門を、「ネットビジネス総合事業本部」に改組。ネットに関する事業を、幅広く展開する組織に刷新しようというのだ。 これまで同社の事業は、ブログサービスやアバターコミュニティサービスを展開する「Ameba」関連事業、オンラインゲームやソーシャルアプリケーションを開発・運営する「インターネットメディア事業」、国内外のネット企業を対象にしたベンチャーキャピタルの「投資育成事業」、そして、インターネット広告の企画から制作・運用まで行う「インターネット広告事業」の4つが柱になっていた。このうちインターネット広告事業を担うのは、インターネット広告代理店部門。この事業は創業当初からの事業であり、かつ売上高も国内最大級規模であるため、同社はときに「ネット専業広告代理店」と呼ばれることもあった。
「現在もインターネット広告事業の売り上げは好調です。ただ、サイバーエージェントをより高収益な事業体にするため、インターネット広告代理店部門を広告代理機能という枠にこだわらず、より広い範囲でネット広告やネット・マーケティングを展開するように変革することが必要だと感じていました」 |
事業構想は大きいし、未知の部分も多い。しかし「ネット専業広告代理店」という呼ばれ方から完全に脱皮したいという決意が、藤田氏にはあるという。そして、藤田氏がインターネット広告事業の改組を決めた理由は、もう1つある。スマートフォンの爆発的な普及だ。
「現在の消費者は携帯電話を肌身離さず持っていて、その接触時間はPCとは比べものにならないほど長い。メディアとして、これほど価値の高いものはない。フィーチャーフォンからスマートフォンへの流れも確かなものになってきました。スマートフォンは、小型版のモバイルPCのようなもの。今までできなかったことが、一気に実現できるようになった。ネットビジネスの大きな構造改革が起こりつつある」
というのが、藤田氏のスマートフォン市場への認識だ。
とはいえ、スマートフォンビジネスでは、従来のノウハウが通用しないケースも多い。PCやフィーチャーフォンで大成功したビジネスモデルやサービスをそのまま持ち込んでも成功の保証はない。つまり、他業界で成功を収めた企業も、改めて横一線のスタートラインに立たされる。
「まさに今が、新規事業を立ち上げる、またとない絶好機。“インターネット広告”という従来の枠組みを突き破り、インターネット総合サービス企業として業界No.1を狙う新たなインターネットメディアを生み出すチャンス」というのだ。

新しく生まれ変わる「ネットビジネス総合事業本部」では、100の新規事業を生み出す予定だ。まさにこの部署は、新規事業のデパートと化す。現時点で固まっているのは、そのうち約10事業。例えば、20〜30代女性向けのコミュニティ、ビジネスパーソン向けのお役立ちツールなどは、早期のサービス提供を目指して開発が進んでいる。
「実は、それ以外の事業の中身は決まっていません。その全てを、これから入社するエンジニアの皆さんと一緒に作っていきたい」
と、藤田氏は呼び掛ける。
これまでのサイバーエージェントも、無数の新規事業のアイデアラッシュの歴史だった。事業化に至る前に雲散霧消したアイデアも多いし、サービスインしてはみたものの、採算が取れずに撤退した事業も少なくない。社内と市場における厳しい事業バトルに生き残ったものだけが、継続される。それがインターネットビジネスの特徴でもあり、サイバーエージェント流なのだ。
今回も100の新規事業の可能性を見極めるまでの期間は2年間だ。
「『Ameba』が黒字化するまで、ほぼ5年かかりました。このときに得た経験を踏まえると、2年で100の新規事業立ち上げという目標は、十分に実現できると考えています。もちろん、全てが成功できるとは思いません。失敗に終わる事業もあるでしょう。100のうち、『Ameba』に匹敵するようなヒット事業が2つか3つ登場してくれれば、それで十分。私は、そんな風に考えています」
ビジネス企画の事業性を高めるためには、技術基盤がしっかりしている必要がある。そこで求められるのがエンジニアの力だ。「ネットビジネス総合事業本部」には、現在「Ameba」を担当している技術者も何人かは異動するが、けっして多くはない。つまり、戦力として期待されているのは、中途採用のエンジニア集団ということになる。
「これまでのインターネット広告事業では、顧客の要望を受けてソリューションを生み出すケースがほとんど。自社のプロジェクトをゼロから生み出したことのある人は、さほど多くありません。人員構成の面でも、プロデューサーやマーケティング担当者は比較的豊富ですが、技術者の数は不足気味です。だからこそ、新規事業の担い手は、新しく採用する技術者の方々に務めてもらいたい。組織改革の成否は、技術者で決まるとさえ考えています」
と、藤田氏のエンジニアへの期待は高まる一方だ。

100の事業をわずか2年間で作り出すためには、開発のスピードが不可欠だ。
「即戦力として活躍できる技術者は、のどから手が出るほど欲しいですね。優秀な人を見つけると、もう、その場で入社を口説きたくなるくらいです」と、藤田氏は笑う。
求められるエンジニアのイメージとして、藤田氏は次のような例を挙げた。
「例えば、ケータイ向けのサービスを1人で作っていた人はピッタリ。自ら企画を立て、自ら実装してしまう。そして、ユーザーの反応を見ながら次々とサービスを改善していく。そんな経験を持つ人は、まさにこの仕事にうってつけでしょう。また、趣味で個人サイトを運営していた人なども、経験を役立てられる可能性があると思います」
ただ、そうした即戦力の人材が、世界的な規模で不足していることは痛感している。とりわけソーシャルゲームの分野を中心に、技術者の争奪戦が激しくなっていることを認識しているからだ。そのため、「経験が多少足りなくても、将来性があれば積極的に採用しよう」と、門戸を広く開く構えだ。
技術・経験以外に求める資質として挙げるのは、やはり「ベンチャー・スピリット」。
「新規事業を進めるためには、自分の頭で企画を立て、自ら進んでサービスを作ろうとする姿勢が不可欠。また、毎日巻き起こる新しい状況を面白がれる気持ちも大切です。一方で、誰かに指示されないと仕事ができなかったり、安定志向が強かったりする人には向かないかもしれません」
逆に、ベンチャー精神に溢れたエンジニアの立場でいえば、出来上がった組織で、枯れた技術で開発するよりも、今回のような新規事業の立ち上げに中心メンバーとして参加できるのは得難い機会と言える。藤田氏は加えて、プロデューサーやマーケティング担当者と議論ができるコミュニケーション能力、ユーザーの要望を取り入れるカスタマー・オリエンティッドな姿勢も必要だと言う。
「今回の募集は、いわば店舗の“オープニングスタッフ募集”のようなもの。今後、サービスが拡大すると、新人が続々と配属されるかもしれない。そうなったとき、良き先輩として周囲を引っ張っていける人に入社して欲しい」とも希望している。

「私たちは、技術者こそが当社の競争力の源だと考えています。ネットサービスのアイデアは誰もが考えつきますが、それを実現するのは本当に難しい。高い技術をもった技術者がたくさんいなければ、企画を形にすることは不可能です。また、ネットサービスは生き物。ユーザー数の推移や、寄せられた要望などをその都度チェックして、細かな調整をし続けていかなければなりません。そのためには、外注ではなく内製化が必須。社内にたくさんの技術者を抱えていればこそ、ユーザーの要望に応えることができます」
と藤田氏は、エンジニアへの期待をあらためて語る。
これまでも、サイバーエージェントは、ネット技術者のコミュニティの中で「技術者を大切にする」企業の一つとみなされてきた。エンジニアの昇給率は他の職種より高く設定されており、エンジニアブログなど、エンジニアを会社の顔として前面に登場させる工夫もしてきた。
「ネットビジネス総合事業本部」で技術陣の取りまとめを行うのは、最高技術責任者(CTO)の佐藤真人氏だ。中途入社の身ながら、「Ameba」のシステム基盤を立て直し、オープンソースの大胆な活用で、サイバーエージェントを業界トップに匹敵するレベルまで引き上げた人物として知られる。百戦錬磨のリーダーと、中途採用エンジニアの技術力がミックスされれば、これは面白いことになりそうだ。

1973年生まれ。青山学院大学経営学部卒。株式会社インテリジェンスを経て、98年株式会社サイバーエージェントを起業。2000年、史上最年少で東証マザーズに上場。ブログを中心としたコミュニケーションサービス「Ameba」やアバターコミュニティ「アメーバピグ」など多数のメディアを運営するほか、ソーシャルプラットフォームで人気アプリを展開。11年9月、広告事業を中心としたビジネスから脱却し、インターネット総合サービス企業としての強化を宣言した。
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