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開始3週間で利用者100万人突破のヒット・ソーシャルゲーム!
“「ピグライフ」を支える技術者”名村卓の開発秘話
2011年6月にスタートした「アメーバピグ」内のソーシャルゲーム「ピグライフ」は、開始3週間で利用者数100万人を突破した。開発を率いるサイバーエージェントの主席エンジニア名村卓氏に、企画・アイデアから実装までのプロセス、開発秘話を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.09.28
新感覚の生産ゲーム。Ameba史上、最速の出足を記録
名村 卓氏
株式会社サイバーエージェント
技術推進本部 アメーバ事業本部
ピグディビジョン
執行役員 主席エンジニア

名村 卓氏
ピグライフ
仮想空間で自分だけのお庭を作るゲーム「ピグライフ」

「ピグライフ」は、サイバーエージェントのアバターコミュニティサービス「アメーバピグ」の中に、「釣りゲーム」「カジノゲーム」に続く新たなゲームとして登場した、ガーデニングをテーマにしたPC向けソーシャルゲームだ。利用者が自身の庭を持ち、野菜や果物、植物などを育て、収穫した材料で料理や裁縫を楽しむことができる。また、他のユーザーとのコミュニケーションを通してさらに「ピグライフ」での生活を充実させる機能や仕掛けがたくさん用意されている。

 2011年5月17日にβ版として1万人限定でサービス公開をしたところ、ブログなどを中心にインターネット上で話題となった。正式スタートは6月1日。そのわずか3カ月後には利用者が200万人を突破した。これまで展開してきたAmebaサービスの中でも最速の出足だという。今後もユーザー間でのコミュニケーションを楽しめる機能の追加が予定されている。

「ピグライフ」の企画開発には現在、エンジニア2名、Flash開発者2名、デザイナー3名、ディレクター・プロデューサー各1名、全体で10名弱が関わっている。エンジニアの一人に名を連ねるのは名村卓氏。「アメーバピグ」の開発にも主導的役割を果たした、同社を代表するギークの一人だ。今回もシステム開発だけでなく、企画全体に関与している。
「『アメーバピグ』の更なるサービスとしての進化を目指して、釣りゲーム、カジノゲームに続く大型ゲームを開発しようという動きは昨年(2010年)の暮れ頃からありました。私も『アメーバピグ』の世界でもっと挑戦してみたいことがあったため、これはチャンスだと思いました」

 次のモチーフを何にするかは、ゼロベースからチームで検討。幅広いユーザーが遊べて、生活(ライフ)の一部として溶け込むサービスをコンセプトとして考えられた。名村氏の念頭にあったのは、ネットワークRPGの始祖の一つと言われるゲーム「ウルティマオンライン(Ultima Online)」の「生産」という概念。
「羊の毛から布を織り、そこから衣服を仕立てる。鉱石を溶かして鉄を作り、鍛冶屋がそれを武器に変えるといった『生産』の仕組みはうまいと感じていました。『生産』だけでなく、オンライン上で『経済』が成り立つ仕組みを創ることで、よりリアルに感じ、生活の一部として使っていただけるではと考えました」

「ピグライフ」の住人たちは、庭の水やりを欠かさない勤勉な庭師であり、ときには綿花畑を収穫して綿布を織る裁縫家であり、牛を飼う牧畜農家でもある。生産は人とつながって初めて収益をもたらし、喜びを生む。ソーシャルゲームの原点がそこにはあるのだ。

「アメーバピグ」とは疎結合で、新たなアーキテクチャを開発

「ピグライフ」のプラットフォームは「アメーバピグ」の中にあり、ログイン機能などは「アメーバピグ」のものを流用しているが、ゲーム自体のアーキテクチャは「アメーバピグ」とは別のものが使われている。
「『ピグライフ』を『アメーバピグ』の中に入れ込むと、『アメーバピグ』全体が大きくなりすぎて障害が発生したときにメンテナンスがしずらくなります。また、チャレンジングな仕掛けを新たに入れ込もうとしても、全体のことを考えると躊躇してしまう。むしろ、『アメーバピグ』とは疎結合の形で切り離した方が新しいこともやりやすい。切り離してもユーザーが付いてきてくれるかどうかは不安がありましたが、『アメーバピグ』とは別軸のゲームを成長させる試みを仕掛けていかないと、『アメーバピグ』全体の成長も止まってしまう」と、名村氏はその理由を語る。

「アメーバピグ」と切り離すことで、従来のシステム的なしがらみから解放され、技術的には作りやすくなった面もある。
「『アメーバピグ』を開発していたのは2009年の終わり頃。それから約3年経って、Webテクノロジーも大きく進化しています。『アメーバピグ』を開発していたころ、もっとこうしたほうがいいとは思っていても、断念したこともある。ピグ開発当時は使いたくても使えなかったツールも、今では使える。この数年の技術の進化を取り込むことで、ゲームにより最適なアーキテクチャを選べるようになりました」
 名村氏は、自分が作った「アメーバピグ」のアーキテクチャをあえて過去のものにして、前に進む道を選んだのだ。

サーバープログラムをNode.jsで実装。MongoDBの活用も

「ピグライフ」の技術的特徴を挙げると、一つには「アメーバピグ」ではJavaメインで書かれていたフロントエンドのサーバープログラムを、Node.jsで書いたことが挙げられる。Node.jsは、近年、サーバーサイドJavaScriptの急先鋒として知られるようになったが、「おそらく『ピグライフ』の規模でフロントサーバーとして活用したケースは、世界でもまれではないか」と、名村氏はいう。

「アメーバピグ」では、Flashとの通信が大量に発生することを見越して、その同期通信を処理するために同社独自のプロトコルを開発したが、「ピグライフ」ではそれを使わず、標準化されたプロトコルWebSocketを採用し、データ記述形式にはJSONを採用している。JSONはJavaScriptのサブセットとして定義されており、Node.jsも文字通りJavaScriptで書かれる。言語的な相性が高いということも、採用の理由だ。

 データベース技術についても、「ピグライフ」では最近国内でも注目を集めているドキュメント志向型データベースMongoDBを採用している。データベース技術については、「アメーバピグ」の時代からリレーショナル・データベース(RDB)を使用せず、キーバリューストア(KVS)だけでシンプルなデータ構造を構築する試みが続けられていた。「アメーバピグ」では、MySQLは純粋なストレージエンジンとしてのみ利用されている。

「ピグライフ」ではその考えをさらに発展させて、KVSほどの高速性や容易性はないものの、RDBほどの煩雑性が少なく、使い勝手がいいデータベースとして、MongDBを位置づけ、その利用をメインとした。中でも、シャーディング機能で自動負荷分散がしやすいことや、JSON形式のデータをそのまま保存できるという、MongDBの利点を最大限引き出したアーキテクチャになっているという。データベースがJSON形式であるなら、これまた、フロントエンドのNode.jsプログラムとの親和性も高まるわけだ。

 MongoDBは、「アメーバピグ」の米国版サービス「Ameba Pico」でも採用の実績がある。「Ameba Pico」はクラウド上で動くため、高速性を担保するためには、MySQLではなく、シャーディング機能をもつデータベースの導入が必至だった。各種データベースを精査のうえ選んだのがMongDBだった。
「『Ameba Pico』でMongDBのノウハウも集まったため、製品自体、バージョンが上がって安定性も高まった。そのタイミングで国内サービスである『ピグライフ』にも導入してみようと思いました」

Webの進化を黙って見ているだけでは、技術はそこで止まってしまう

 名村氏にはもう一つ、同社のFlashエンジニアとサーバーサイドのエンジニアを技術的知見のレベルで融合したいというもくろみもあった。
「世の中的にも社内的にもFlashもサーバーサイドの技術もわかるエンジニアは少ない。しかし、自分が理解しているだけでなく、社内のメンバーも両方の技術を習得しないと、これからWeb技術の進化に追いついていけなくなるという心配があります」

 FlashはScript系の言語で書くので、サーバーサイドをNode.jsで構築すれば、Flashエンジニアにも理解しやすいのではないかというのが、名村氏の隠れた狙いだったのだ。ただ、広い知識を習得しようというみんなの意欲とは裏腹に習得は容易ではなかった。
「確かに、Flashエンジニアからみて、Node.jsのコードは見た目にはわかりやすいのですが、実際は、Node.jsにおける“非同期”という概念が理解できないと、歯が立たない。むしろJavaよりも難しく感じる人もいる。この辺りの相互理解は、これからの課題ですね」と言う。

 新しい技術導入は、単に“新しいもの好き”だからやるのではない。開発効率の向上やコストパフォーマンス、さらに、技術者育成上のメリットも考えているのだ。引いてはその技術を導入することが、サイバーエージェントの事業にどのように寄与できるかという観点も忘れてはいない。技術の採用に当たっては、常にこうした総合的見地を大切にする。主席エンジニアならではの発想ではある。

 もちろん新技術導入に当たっての最大のモチベーションとなるのは、「進化を止めてはいけない」という切迫感だ。
「Web技術は絶えず進化をし続けています。こちらがちょっと一息ついていると、すぐに遅れてしまう。一度遅れると、その差を埋めるのには数倍の時間が必要になります。もちろん、オープンソースを採用する場合、安定版か最新版かという選択の迷いはあります。しかし、プログラムが安定するのを待っていたのでは遅いのです。安定したオープンソースがなければ、自分たちで開発する。その開発実績を元にオープンソースを評価し、よければそれを採用する。自分たちで開発しているからこそ、他の最新技術の評価もできるのです。その繰り返しが、これからも延々と続いていくと思います」

第3の“テッパン”ゲームに育てる。世界がライバルだ

 サービス開始まだまもないが、「ピグライフ」のユーザーからは、「ハマっちゃったなあ」という声がよく聞かれるという。ゲームにハマってもらうこと、つまりはユーザーに一日の時間の一部をいかに割いてもらうかは、ゲームビジネス成功の最大のポイントだ。

「今成功しているソーシャルゲームはいずれも、この時間の取り込み方がうまいですね。『ピグライフ』でも、畑に作物を植えるとすぐには収穫できず、8時間後にようやく収穫できるように設計しています。こうすれば、ユーザーは実際に栽培しているように感じますし、また畑に顔をだそうという気になります。ただ、Facebookのゲームなどでは、ユーザーが顔をださないと作物が全部だめになってしまうというのがあります。これを見て、外国人と日本人の意識の違いを感じました。日本だったら、作物が腐ってしまうゲームだと、おそらくやる気を保てないと思います。『ピグライフ』は、放置された作物は弱って収量は減るけれども、ゼロにはならない。そうやってユーザーのモチベーションを保とうとしています」

 Facebookのソーシャルゲームで圧倒的なシェアを誇っているのが、Zyngaのゲームだ。名村氏は「ゲームを有利に進めるためにうまく友達を使う仕組みができているなど、ソーシャルグラフの活用が実にうまく、グラフィックのクリオリティも、日を追うごとに進化している」という。世界的なライバルがいるからこそ、「ピグライフ」をもっと進化させようという開発のモチベーションも高まろうというものだ。

「ピグライフ」は現在PC上でしか遊べないが、近いうちにスマートフォン対応も検討している。日本発ならではのテイストと、きめ細かい機能を持ち、ユーザー支持が高く、事業収益にも貢献できる“テッパン”ゲーム。ピグライフがそこまで成長できるかどうかは、まさにこれからの開発チームの努力にかかっている。

株式会社サイバーエージェント 技術推進本部 アメーバ事業本部 ピグディビジョン 執行役員 主席エンジニア 名村 卓氏
1980年岡山県生まれ。大学在学中にシステム開発会社でプログラマとしてアルバイト、その後、小さなSIベンダーに勤める。1年半ほどECサイト構築に携わった後、サイバーエージェントに転職。「アメーバピグ」「Ameba Pico」など同社の主要サービスを開発。
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