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カスタマイズ住宅、建築士とのWeb相談、重視されるデザイン

「住宅の個性化」で変わる、
    建築技術者の自由度と責任

パワービルダーの急成長はもとより、最近では「カスタマイズ住宅」や「ネット住宅」などの新しい形態が出てきた新築戸建。住宅は個性化の傾向を強め、それにこたえてサービスが多様化する中で、建築士や施工管理者の人物像にも変化の兆しが見えてきた。これから求められてくるのかは何か。

(取材・文 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:11.09.28

変化する人材像:建築士には提案力、施工管理者には対応力
――不動産・住宅サイト「SUUMO」編集長

低価格化路線が成功した、シェア約6割のパワービルダー

SUUMO

株式会社リクルート
SUUMO編集長
池本洋一

新築の戸建住宅には建売住宅と注文住宅があるが、各々の近年の動向を見てみよう。建売で目立つのは、特に首都圏(1都3県)でのパワービルダーの躍進だ。供給量の多い建売住宅に特化したディベロッパーのことで、この10年で約2倍のシェアを獲得し、今では首都圏シェアの約60%を占めるという。弊社の不動産・住宅サイト「SUUMO」の編集長、池本洋一はこう語る。
「部材の一括調達、間取りの均質化、施工期間の短縮などで大幅なコストダウンを図り、消費者のニーズをつかみました。坪単価でみると大手住宅メーカーの3分の2以下、中には半値近くで供給している企業もあります」

一方、大手住宅メーカーの特徴は、耐震・免震システムや太陽光発電などの省エネ設備といった、先端技術の採用。大手ディベロッパーは街並みから計画する大規模分譲が得意で、近年ではコンパクトな戸建建設にも取り組む。ただし、シェアはどちらも約5%にすぎない。コストを意識しながらも独自のこだわりを出すのが地元密着ビルダー。いわゆる工務店などで、これが約30%を占めている。

注文住宅は、大手住宅メーカー、低価格住宅メーカー、地元の工務店に大別される。建築費はピンキリで、建築費が坪80万円を超える大手住宅メーカーもあれば、坪40万円で請け負う低価格住宅メーカーもあるという。
「建売のパワービルダーの中には、坪30万円くらいで供給する会社もあり、都内でも1000万円台で土地付きの新築一戸建てが手に入る。この圧倒的な低価格戦略がパワービルダーの成長の要因だと思います」

「カスタマイズ住宅」と「ネット住宅」で業界に変化も

SUUMO

「SUUMO」のトップ画面

SUUMO

キャラクターの「スーモ」

池本によれば、新築戸建には3つの傾向があるという。ひとつは東日本大震災以降に強まった「安全性」への要望。耐震性、耐久性、省エネ、アフターサービスを重視する顧客が増えたという。
もうひとつは建売住宅における「カスタマイズ」だ。敷地内に同じ形の住宅が並ぶことも珍しくなかった建売だが、特に20〜30代の若い世代から、少しでも自分らしい設備やデザインを選びたいというニーズが出てきた。

「現状では壁紙や床・ドアなど建具の色の選択がある程度で、まだ一般化していません。建売では立地が重視されるため、上物の自由度を高める必要性を、住宅メーカーはさほど感じていないのでしょう。ただ、コストを抑えつつも多少の自由度を消費者に委ねる手法はニーズが強いので、今後は普及していくと思います」
最後は注文住宅における「ネット住宅」だ。主として営業職を介さず、インターネットを通じて顧客と建築士が設計プランのやりとりするもので、人件費削減などの理由から、同じ住宅を建てても費用は割安になる。「人生の買い物である住宅をネットで決める」に躊躇する顧客もいそうだが、池本はこう語る。

「注文住宅の基本は自由建築ですが、実は土地が決まればある程度ベーシックな、住みやすいプランの方向性は見えてきます。そこをうまくついて合理化を果たしているのがネット住宅。汎用性の高いプランをベースに、その中からオプションを選んでもらう『パターンメイド』型の住宅です。実質的な自由度は建売より高く、一方でフルオーダーの注文住宅より費用が安くすみます。今後広がる手法だと思いますし、業界を変える可能性も感じています」

顧客に提案できる建築士、完成後のサポートができる施工管理者

住宅
住宅

池本の新居(注文住宅)

こうした戸建住宅の変化は、建築士や施工管理者に求められる人物要件に影響を与えそうだ。例えば建築士では、顧客への提案力や説明力がより必要になると池本は語る。
「顧客に個性重視の傾向が広がれば、その希望を満足させるセンスが大切になります。このセンスに加えて、『この建築方法なら工程が短いので人件費が安くなる』『部材や設備を変えれば耐久性が高まる』など、さまざまな角度から提案をし、顧客に納得してもらう能力が重視されると思います」

現在は主に営業職が担当する業務だが、これを建築士が行うことは企業のメリットも大きいという。建築士と顧客が直接やりとりするのでコミュニケーション・ロスはなくなり、時間も短縮できるからだ。営業職の役割が変化してくる可能性もあるという。
また、施工管理者も、現場の職人をまとめるコミュニケーション能力と工程管理能力以外に、信頼感と対応力が必要になりそうだ。

「アフターサービスへのニーズも高まるでしょうから、引き渡して終わりではなく、完成時に『何かあったら私に連絡してください』と言えるくらいの人材が理想的です。戸建住宅は外観や内装のデザインで選ぶ人が多いのですが、これだけ頻繁に災害報道を目にすると、耐震性はもちろん『施工管理』の重視性も浮上するはず。それを売りにする企業が出てもおかしくないですね」

土地と建物のワンストップ提案、光るデザインセンス
――スターディ・スタイル一級建築士事務所

土地選びから入ると妥協か予算オーバー、この常識を変えたい

スターディ・スタイル

スターディ・スタイル一級建築士事務所
CEO
塚本光輝氏

埼玉県を地場に住宅・マンション事業を広げるポラスグループ。グループ内の社内ベンチャーとして、10年前に設立されたのがスターディ・スタイル一級建築士事務所だ。
注文住宅メーカーである同社の特徴は、不動産選びから建物の設計・施工までの一括提案、グループ力を活かしたコストダウンやアフターサービス、加えて斬新なデザイン力。同社を起業したCEOの塚本光輝氏は、設立の経緯をこう語る。

「注文住宅を建てる人はまず土地を探し、それから建築を依頼するのが普通です。私は10年ほど営業の責任者だったのでわかりますが、この方法だと少しでもよい土地を購入しようとして、日当りはよいけど予算オーバーする土地を購入しがち。『建築費がいくらかかるのか』の検証が甘く、結局建築費も膨らんでしまう。結果的に余計にお金を用意するか、予算内で妥協することになります。この『常識』を変えたいと思いました」

土地と建物を一括して請け負うことで、予算だけでなくさまざまな提案ができるという。例えば、多くの人は南側に道路のある日当たりのよい土地を希望するが、当然のように価格は高めになる。しかし、家の中心部を吹き抜けにして、上部に窓から斜光を採り入れるようにすれば、北側に面していても十分な日当たりが実現できる。
また、土地の坪数以上に空間を豊かに見せたり、床の位置を低くすることで天井を高く演出するなど、「体感的な広さ」を出すことも可能だという。ただ、経験のない一般の人にはわかりにくいので、セミナーを開いたり、オープンハウスで事例を紹介している。現物や間取りを見て初めて納得してくれるそうだ。

建築士のデザイン力を引き出し、顧客の満足度を上げる

住宅
住宅

スターディ・スタイルが設計・建築した住宅

顧客の中心は20代〜30代半ばのファミリー層。クリエイティブな職種に携わる人が多く、住宅メーカーやゼネコンの関係者もいるそうだ。つまり住宅、特にデザインにこだわりを持つ人が多く、それにこたえるデザインセンスが同社の「売り」でもある。この姿勢は社内の職種構成にも表れており、スタッフ約80人の中で建築士が50人以上を占める。

「設計事務所で働く建築士は下積みが長く、年収もよくはない。住宅メーカーの建築士は最大公約数の人が求める住宅を設計するから、どうしても画一的なデザインなる。どちらにも優秀で才能のある人たちはいるのです。一方、弊社はポラスグループの一員ですので、就職先としての安心感もあります。建築家を目指してきた人材に、活躍の場を与えたい気持ちもありました」

建築した住宅の評価は数字でも顕著だ。設立後10年の累計で、住宅の引き渡し数が1400以上、契約数で約1600。設立初年度は10に満たなかった契約数が、現在では年間240ほどという急増ぶりだ。
「『消費者の目線で見た最高の住宅を建てたい』が目標ですが、当初はどれだけ困難だったことか(笑)。グループ内の企業内で部材の調達をする際にも、『どうしてこれほどの部材がいるのか』などまさに喧々諤々。今はとてもバランスが取れていて、お客様の評判も上々です」

さまざまな方法でコストダウンも図っており、そのひとつが住宅メーカーで一般的な住宅展示場を持たないこと。見学会は完成前の個人住宅を利用し、完成後の住宅を提供してくれる顧客もいるという。また、同社を知るきっかけは住宅系ポータルサイトや自社HPのほか、新居に招かれた顧客の友人が依頼するなどの、紹介が伸びているそうだ。多い月だと契約数の4割にも上るそうで、こうした人脈が同社の強みと言える。

建築士には資格も経験も大事だが、「人間的な魅力」を重視

スターディ・スタイル

顧客が打ち合わせをするオフィスの様子

契約数1600件という実績を築いて、顧客との密なつながりもできた。そうでなければ完成した住宅を見学会に開放しないだろう。こうした顧客の共通点は「人生を家族と一緒に楽しみたい」。同社ではこうした価値観の合う仲間が参加できる、カート大会やパーティを主催しているという。

また、塚本氏は注文住宅の仕事を「聖職」と呼ぶ。相手の人生を左右するという意味では、医師や弁護士と同じだと考えるからだ。建築士についてはこう語る。
「PC造やS造などの資格を取り、経験を積まないと独立できないと言われていますが、それは建築士の勘違いだと思う。人は人との関わりの中でしか価値を生み出せないのですから、人格や人間的な魅力が最優先。これがあって努力をすれば、経験や資格は後からいくらでも付いてきます」

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