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「自然風」を生む省エネの扇風機、世界で売れる「醸造」プラント

「世界にひとつだけ」を作る!
レアもの機械設計の魅力

ちょっと変わった機械製品がある。大手では生まれなかったベンチャー企業のユニーク家電、専門用途に特化したニッチ市場のプラント設備。あまりなじみはないかもしれないけれど、こんな機械設計に興味があるエンジニアも多いはず。「変わり種」をちょっと覗いてみませんか?

(取材・文 総研スタッフ/高橋マサシ 撮影/関本陽介) 作成日:11.08.31

「やさしい風」を送る扇風機、元シンガーの社長が独力で開発
/バルミューダ

10年のバンド活動を終え、素人から家電メーカーを設立

GreenFan2

GreenFan2

バルミューダ

バルミューダ株式会社
代表取締役社長
寺尾 玄氏


今、ある扇風機が爆発的に売れている。自然のような柔らかな風、驚くほどの低消費電力、無音に近い静音性…価格は約3万4800円と安くはないが、累計で4万台を販売しているという。それが「GreenFan2」だ。家電ベンチャーのバルミューダ株式会社が開発した。カギとなる技術は2重構造にしたファンにある。
「中央のリングで内側と外側に分けて、内側に5枚、外側に9枚の羽根をつけました。内側の羽根はわざと効率を落とし、外側の羽根は最大まで上げるように設計して、風量の差を約2倍にしました。この著しい差によって、両方の羽根が生む風がファン前方でぶつかり合い、面として大きく拡散していく。これが『自然界の風』を生むのです」

こう語るのは、バルミューダの創業者であり代表取締役社長の寺尾玄氏。流体力学を熟考して設計したのかと尋ねると、全くの初心者とのこと。開発に当たっては流体力学の本を3冊読んだという。
「入門編と中レベルの本と、論文も載っているような上級者向けです。読んでわかったのは、『まだ人間は流体力学をわかっていない』こと。だったら私もやっていいだろうと(笑)。逆に、何も知らないので突っ込んで、色々な方向から検討できたと思います」
寺田氏の経歴がユニークだ。高校中退後に海外を放浪、帰国すると独学でギターを覚えて、何とインディーズでバンドデビュー。10年続けた後で「やりきった」と解散。音楽活動中からMacやハーマンミラーの椅子などが好きで、「質の高い、カッコいいもの」をユーザーに提供したいと「メーカー設立」を目指した。

だが、何もわからない。ネットで検索しようにも「切削」「ダイカスト」などの単語を知らない。そこで東急ハンズや秋葉原を巡り、マニアっぽい人に声を掛けまくった。「これの材質は何?」「どんな加工?」…と情報を集めて検索した。電話帳も強力な武器だ。近所の町工場を調べて、片っ端から訪ね歩き、「モノづくりを教えてほしい」と頼み込んだのだ。
「当然ですが門前払いがほとんど。でも50件も当たると2〜3件は面白がって、色々と教えてくれました。『機械を使わせてあげるよ』という工場もあって、やすりの掛け方からボール盤、フライス盤、旋盤などの操作を教えてもらいました。バイトが終わるとすぐに駆けつけていました」

こうした「修業時代」が1年ほど続き、2003年に30歳で会社を設立。「無駄にカッコいい製品」(寺尾氏)を開発・販売し、評価は得たものの、高い値段がネックになったのか思ったより売れない。「欲しがってはもらえても、選んではもらえない」という状態が続く中で、多くの人に使ってもらうための方法を考え抜き、「人は必要なものは買う」と「時代の波」と結論した。
「地球温暖化や化石燃料の枯渇を考えると、暑い寒いで困る時代がやってくる。省エネと技術革新を核とした、冷暖房機が必要にされると感じました」

2重構造のファンから広がった低消費電力と静音性


2重構造のファン

2重構造のファン

モーター

DCブラシレス・デジタルモーターが内蔵された背面部分

寺尾氏は「送風が基礎中の基礎」と考え、扇風機に思い至る。そして、炊飯器や洗濯機などほかの家電は「ボリュームゾーン」と「高価格帯」の商品があるのに、扇風機にはないと気付いた。なぜ高い扇風機がないのか。
「従来の扇風機の風は気持ちよくなかった。メーカーもユーザーもそれで仕方ないと思っていたので、高い扇風機はなかったんです。では、気持ちのいい風は何かというと『自然の風』。調査を続ける中で思いついたのは、エアコンのない職場で長年仕事をしてきた町工場の職人さんたちでした。聞いてみると、一度壁にぶつかって跳ね返った風はやさしくなるとのこと。そこから2重構造のファンに辿り着くのですが、この期間も結構長かったですね(笑)」

独学で3D-CADを学んで設計を繰り返す。シミュレーションはせずに試作から入った。まず何らかの原型を作り、前後の2パターンと比較する方法だった。原型を羽根8枚とすれば、7枚と9枚を試作して比べる。あまりに幅を広げるとばらつきが出るので、3種類くらいが適当と考えたのだ。こうして約50のファンを試作する中で、羽根の形、面積、角度、材質などを決め、現在の形が出来上がった。ただ、最初の基本設計から大きな変化はないという。
「『気持ちいい』は感覚なので数値化できません。それは自分が決めること。自分の感覚が外れたら何をやっても無駄だと思いました」

問題もあった。一般的な扇風機より風力が強いのだ。普通の扇風機なら毎分600回転で出す風力を、半分以下の250回転で出してしまう。通常使われる交流モーターでは強すぎるため、価格の高い直流のブラシレス・デジタルモーターを採用した。
ここで意外なことを発見する。消費電力を測ると妙に少ないのだ。通常の扇風機なら30Wなのに5〜7Wしか出ていない。
「計測器が壊れているんだろうと何度も測り直したのですが、数値は変わらない。ならばもっと消費電力を下げようと、専業メーカーと協力して専用のモーターを開発し、最小消費電力を4Wにしました」

こうして2010年に「GreenFan」を販売してヒット。今年の4月にはバージョンアップした「GreenFan2」を発売して品切れ寸前の大ヒットとなった。最小消費電力は3Wまで落とし、静音性も向上させた。最弱運転時の動作音は13dBと、音を聞き取ろうとしても難しいほど静かに動く。
「3万4800円は扇風機としては高額でも、家電としてはさほど高くない。それも買っていただいている理由のひとつだと思います。来年には『暖かいもの』『冷たいもの』『空気をきれいにするもの』を出していく予定です」

日本の伝統技術「醸造」に特化したプラントを設計する
/フジワラテクノアート

主力プラントの「圧力容器」や「製麹装置」を設計

圧力容器

圧力容器の「蒸煮缶」であるNK缶

フジワラテクノアート

株式会社フジワラテクノアート
技術部
エンジニアリンググループ
係長
藤川 守氏

フジワラテクノアート

フジワラテクノアートの工場

醤油、味噌、清酒、焼酎…共通するのは、主に麹を用いて主原料(大豆、小麦、米など)を発酵させてつくるもの、すなわち「醸造食品」であることだ。この伝統的な醸造技術を機械化し、プラントの開発・製造からメンテナンスまで一貫して担う業界トップ級メーカーが、岡山空港の近くにある株式会社フジワラテクノアートだ。エンジニアリンググループの藤川氏は、大学の機械工学科を卒業して同社に入社した。
「最初の1年でCADを学ばせていただき、2年目から現場に入りました。『蒸煮缶』という、脱脂大豆を蒸すための圧力容器の設計でした。直径が2メートルほどの、醤油をつくるためのプラントです。一品ずつの受注生産ですから、設計の基礎は弊社にあっても、ジャストフィットなサイズや仕様の詳細は、お客様の要望に合わせた設計になります」

藤川氏はその後も多様なプラント設計に携わる。そのひとつを挙げれば、麹菌で麹を作るための製麹(せいぎく)装置だ。醤油、味噌、酒などの醸造に欠かせないプラントであり、同社の主力商品のひとつである。
「簡単に言えば、たくさん穴の空いた板の上に蒸した米、大豆、小麦などの原料を置き、麹菌をつけて、温度や湿度を調整した装置内で、前述の穴から風を通しながら製麹していくという装置です。約3日をかけて麹を作ります。醸造の主力プラントなので、その出来栄えは大きくお客様の製品のよし悪しを左右しますから、最初はとても緊張しました。今だってもちろん緊張はしていますけどね(笑)」

同社の設計部門はエンジニアリンググループと機械設計グループに大別され、大雑把に言えば前者が全体設計、後者が詳細設計になる。両グループともメンバーは7〜8人程度で、機械設計者のほかに電気やソフトウェアなどの技術者がいる。
エンジニアリンググループは全体的なレイアウトから配管やダクトまで含めた設計と、機械設計グループが担当しない輸送装置、麹を貯めておく麹ストッカー、水切り装置などの設計を行う。機械設計グループは圧力容器や製麹装置などメインとなるプラントの設計を、エンジニアリンググループの全体設計に基づいて具体的に進めていく。藤川氏は当初は機械設計グループにおり、部署が変わりながらも延べで両グループに約10年ずつ在籍した。

「どちらかといえばエンジニアリングのほうが好きですね。仕事の差ではなく、完成後の試運転に立ち会えるからです。ただ、弊社は大手企業ではないので完全な分業体制ではなく、仲間が困っていれば手伝うのが当たり前。また、1つの物件はひとりで設計しますから、特にチームは組みません。責任は重いのですが、その分ある程度担当者が自由にできる面白さはありますね。もちろん、お客様が望むことをつかんだうえで、その要望を満たす結果を出すという前提はあります」
注文を受けてから完成まで短くて半年、長ければ2〜3年かかるという。波があるもののプラントの受注は年に10件ほどで、機械単品はもっと多いが、いずれにせよ1品ごとの設計・製造になる。機械系の技術者は常に3〜4物件を並行して担当しているという。

テストは不可能、現地での「一発勝負」に臨む設計者たち

製麹装置

醤油製造用の回転式製麹装置

製麹装置

回転式製麹装置内に入るターンテーブル

圧搾装置

藤川氏が設計を担当している諸味圧搾装置

プラントなど機械設備の新設には、当然ながら工場の建築、電気工事、配管工事などが伴う。あくまで設備がメインなので、これらのレイアウトが決まって建設などがスタートする。設計の仕事も図面を書いて終りではなく、顧客との折衝や製造部門が製品を完成させた後の微調整などもある。そして、設計者にとって「鬼門」なのは、実質的なテストができないことだ。
「モノが大きいですから、完成してお客様の工場に設置されたのと同じ条件を、弊社の工場内では作り出せません。多少の製品テストはできても参考数値程度。試運転が実質的なテストでもあり、いわば一発勝負なんです。それは毎回恐ろしいのですが(笑)、私たちには経験も実績もあり、それゆえに何より胆が座っています」

だから、プラントが完成して、試運転で思い通りに装置が動いたときの喜びはひとしおだ。特に気をもんだ案件の記憶としては、エンジニアリンググループでの経験でいえば、原料を水や空気で送る輸送装置が、うまく稼働したときだったと振り返る。1〜2メートル先に送るなら自社内でテストもできるが、何百メートル先になる場合もあるという。
「計画通りにモノが流れて初めて、そのほかのプラントの性能が評価できることになりますので、モノが計算通りに流れるのが大前提。輸送装置は地味で、設計も簡単なようですが、実は奥が深い製品です」

最近の大きな仕事は、中国に納入した醤油製造用の製麹装置。その規模は藤川氏が経験した中で一番大きな物件だったという。
「お客様のたっての希望で短納期で完成させました。さすがに死に物狂いでした。時に社内で言い合いもしましたけど、どの部署の仲間も同じ方向を向いて頑張っているのはお互いわかっています。ウチはそういうノリなんです(笑)」
藤川氏は入社して約20年。今までは設計したのは醤油のプラントが多く、逆に経験がないのが焼酎用プラントだという。

「醤油用も焼酎用も一見似たようなプラントですが、実は全く違う。そこが奥深いところ。どちらが難しいということもないのですが、自分の知らない新しいことを始めるのは正直つらいところもあります。ですが、そうしないとレベルアップができないですし、レベルアップできたと実感が持てたときの喜びは、それは大きいですからね」
現在は係長という立場にあり、機械設計は今の仕事ではないと語る藤川氏だが、よく聞けば「諸味圧搾装置」を設計しているそうだ。
「機械設計グループが忙しいっていうので、私が設計しているんです(笑)」

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