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発見!日本を刺激する成長業界19 ARで遊ぼう!これからもっと楽しくなる
現実空間に電子情報を付加し、空間情報の付加価値を高めるAR(拡張現実)。放送、教育、災害対策など実用分野のみならず、広告やアミューズメント分野でも利用例が続出。映像系、画像系、電気・電子系エンジニアからゲームアプリ開発者まで、人材ニーズも幅広い。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:11.08.29
多分野でAR利用始まる。2015年に1800億円市場に成長か
 現実世界をデジタルカメラなどで収集し、そこにデジタル情報を付加する技術、ARの市場が今、大きく伸び始めている。1990年代に登場後、長い間軍事や宇宙探査、医療、高級車の赤外線暗視装置など限られた分野で使われてきたが、デジタル光学やコンピューティングの発達によって、技術面の課題が一気に解決に向かっている。

 携帯電話、スマートフォン、カーナビなどGPSが搭載された電子機器の普及とあいまって、今後はアプリ、ゲーム、放送、モバイルコマースなど、幅広い分野で急速に普及が進む見通しだ。その魅力は利便性の高さはもちろん、ユーザーが楽しめること。技術系シンクタンクのシード・プランニング社は、ARの市場規模は4年後の2015年に約1800億円、2009年の約6倍に伸びると予想している。
AR活用サービス市場予測(2010年は見込み、2011年以降は予測)
タカラトミーアーツ/ARで釣り! 子供向けに買ったお父さんがハマりそう
 超小型のデジタルムービーカメラで目前の風景を撮影し、その空間に魚の情報を加えるというARを用いた釣りゲーム「バーチャルマスターズリアル」。風景によって出てくる魚が異なるなど、大人をも夢中にさせる豊かな娯楽性を、株式会社タカラトミーアーツが実現した。
目の前の光景に魚群が浮かぶ「バーチャルマスターズリアル」
SOFC型の「エネファーム」左が発電ユニット、右が貯湯ユニット
目の前の光景(紙コップ)の「色」を認識して、レーダーに魚群が浮かぶ
 携帯電話のディスプレイのような小型カラー液晶が備わった小さな釣竿。そのディスプレイに映し出されているのは、目の前の風景だ。コントロールボタンを操作してその風景をスキャン、魚群探知機が表示されると、風景に重なって魚の位置が浮かび上がる。
 そこに向かって竿を振ると、やがてビビビっと鋭いアタリが手に伝わって……獲物が食いついた! でかい! すかさず竿を大きく煽ってヒットさせ、リールを巻いてたぐり寄せる。引きが強すぎるときには少し糸を送ってやり、切れないようにするのも大事。そして釣り上げた魚は……うわっ、見たこともない架空の魚だ。
 ARの技術を使った体感型の釣りゲーム「バーチャルマスターズリアル」。取材少し前の7月後半に発売されたばかりとあって、とにかくモノを知らなければとプレイしたところ……ホントに子供向け? 大の大人が思わず夢中になるエキサイティングな玩具なのだ。
「ARが玩具やゲームにこれまでにない面白さをもたらすという思いは、最初にこの技術に触れたときから持っていました。その思いを込めたのがこの商品です。目の前の景色がどこでも釣り場になり、何が釣れるかはその景色(色調)によって変化し、魚の種類は40以上。メインターゲットは6歳以上の児童ですが、釣り好きの大人も楽しめることを目標に開発しました」
 開発を指揮したタカラトミーアーツの竹内オサム氏は語る。ARでのエンターテインメントと聞くとiPhoneアプリを思い浮かべる人も多いだろうが、今年から「AR玩具」が姿を見せ始めている。
「昔、仮想現実(VR)が流行りましたよね。メガネ型のディスプレイをかけるなどして映像を見せ、仮想空間をあたかも現実のように見せる技術でした。ARはVRと違い、ベースは目の前にある現実の空間で、そこにデジタルデータを付加する。VRが自分から仮想現実の世界に行く技術とすれば、ARは現実世界にバーチャルを呼び込んでくる技術で、玩具のエンジニアとしてはそこがとても刺激的なんです」
 5年ほど前はリサーチ段階の技術というイメージを持たれていたAR。戦闘機の電子照準器や高級車の夜間暗視装置、遠隔医療など、使われる分野もある程度限られていた。だが、ここ最近はモバイル端末向けのアプリやサービスなど、さまざまな分野で急速に普及が進んでいる。高価な部品やソフトウェアを使う必要がなくなり、シンプルかつ低価格が求められる玩具にも利用できるようになった。

「玩具の場合、もともと最先端の技術はあまり使われません。大事なのはスペックの高い技術を使うことではなく、例えば、ARが玩具をどう面白くするかという着想の部分なんですよ。それはバーチャルマスターズリアルのような釣りゲームに限りません。今はまだ多くは言えないのですが、今までにない楽しみが感じられる玩具について、いろいろな構想を練っているところです」
 バーチャルマスターズリアルは、ARを効果的に使って「玩具の楽しさ」の創出に成功。2011年夏季の玩具の中では断然トップの注目度だ。しかし、不確実な「楽しさ」をどう見極めるのか。
「設計図どおりに完成させても、期待した機能が実現できても、『あれ、面白くないよね?』と感じる試作品があります。それは失敗作なんです。僕らが楽しくなければ、お客さんに満足してもらえるはずはありません。それが玩具開発だと思います」
 ARの応用分野の中にはハイテク製品も少なくないが、一方でローエンドなARを使うだけで別の価値観を演出できるケースもある。玩具もそれが期待される分野のひとつと言える。
竹内オサム氏
トイ事業本部 第一企画部
部長

竹内オサム氏
モーターはひとつ、加速度センサーなし、メモリにも工夫
魚が食らいついた! リールを回して引き上げる
魚が食らいついた! リールを回して引き上げる
引き上げるタイミングも重要。糸を切らないように
引き上げるタイミングも重要。糸を切らないように
「大人から子供まで、いろいろな人がプレイして面白くなければ玩具じゃない。バーチャルマスターズリアルは、玩具の中では比較的技術重視の商品でその分大変でしたが、その生みの苦しみが面白い部分でもあるんです」
 こう語るのは、開発部隊の中でソフトウェアのデバッグ、チューニングを主体に手がけた袖島啓氏。ARはデジタルデータを現実世界に統合する高度な技術だが、玩具の開発では技術のブラッシュアップよりは、どのようなデジタルデータが求められるか、さらにはどのように現実世界と統合すると楽しめるかなどの工夫が大事なのだという。

「バーチャルマスターズリアルは、メカニカルな構成自体はシンプルです。魚が竿にかかるのを再現するための、糸を引っ張ったり振動させたりするためのモーターが1つ。魚がかかった時のフッキング(合わせ)や竿送り、たぐり寄せを感知する振り子センサー1つ。ほかには2.4インチカラー液晶ディスプレイ、30万画素カメラ、GPU統合の小型組み込みプロセッサ、あとは筐体です」
 本当は加速度センサーも使う予定だったという。これを組み入れることで横の動きにも意味を持たせられるからだ。実際、試作段階まではそうした機能もついていたという。

「もったいないとは思いましたが、コスト面の問題で中止しました。子供さんを対象とした商品ですから、機能と価格は常にトレードオフ。ただ、加速度センサーがなくとも十分に楽しめるよう、アイデアを盛り込むことができたと思います」
 アイデアは多岐にわたる。例えば釣れる魚の種類。眼前の風景にただアトランダムにデジタルデータを乗せるのでは、ワンパターンで飽きられてしまう。カメラに入った風景を色分解することで釣れるものに違いを設け、子供たちが「ここで釣ってみたらこんな魚がヒットしたよ」などと、友達同士で情報交換できるような仕立てにしたという。
「そういった開発ポリシーだけでなく、チューニングには最後まで腐心しました。ゲームに奥深さを持たせるには、こうすればこういう結果が得られるというワンパターン化が出ないランダム性を確保することが肝心。魚のフッキングのタイミング、暴れ方など、パラメーターも豊富にしました。でも、子供たちに『釣れた』という喜びをある程度味わわせてあげるのも必要。このゲームプログラムから魚の動画イラストまでを全部、プロセッサのフラッシュメモリの余裕分28MBに収めるには、結構知恵も必要なんです」
 開発チームは社内のエンジニアがソフトとハード合わせて8人ほど、開発委託先も含めると15人ほどになったという。開発期間は1年半。通常の玩具開発は1〜3人のエンジニアで作ることが多いというから、人手も時間も桁違いのプロジェクトだった。完成前には開発担当者のみならず、他の社員もテストプレイを行い、リールを巻く音が社内に響いていたという。袖島氏も「手が腱鞘炎になりそうだった」と笑う。
 今後もARを取り入れた玩具開発は、同社を初めとして拡大していくだろう。それとともに、人材需要も確実に増えていくと袖島氏は予測する。では、どのような人材が求められているのだろうか。

「ARと言っても内容はいろいろでしょうが、玩具の世界で大事なのは、とことん技術を極めることではなく、そこそこ理解した時点で素早く製品に応用していくこと。そういう意味では、『これを知らないと絶対無理』というスキルや知識の縛りはないと言ってもいい。実際、バーチャルマスターズリアルの開発陣を見ても、スキルは半導体、機械工学、プログラミング系などとバラバラ。私はというとデザイン系出身。営業をやっていたという人もいたくらいです。知識を得ることそのものより、その知識から新しい楽しみをどんどんクリエイトする感性や意欲のほうが大事だと思います」
 今日、玩具は他の業界と同様、グローバル市場に向けた取り組みが迫られている。バーチャルマスターズリアルのようにARを応用した面白玩具などを生み出す力という点では、日本企業は世界の中でもよい立ち位置にいる。ARといえば最先端研究というイメージが強いかもしれないが、これからが本当の普及期。すそ野の広い成長業界に育ちそうだ。
袖島 啓氏
トイ事業本部 第一企画部
担当課長

袖島 啓氏
参入のチャンスあり!始まったばかりのフィールド「AR」
製品とサービスの両面で、参入企業増は確実な情勢
 AR技術の応用範囲は今後、ますます広がっていく。ARの技術パッケージの中で先端分野と言われるのは画像認識や情報解析などであり、基本的な機能、すなわち空間に電子情報を付加する技術自体は、かなり熟成されたものになっている。前者については自動車、宇宙航空、医療、セキュリティなどの分野を中心に、今後も世界で開発競争が繰り広げられるものと思われる。

 後者はタカラトミーアーツの例のように、技術力というよりは応用例や新サービスのアイデアが重視されそうだ。スマートフォンのカメラで周囲を見ると、そこに情報やクーポンが表示されるというアプリが登場して話題となっているが、こういったサイネージ(広告)分野はARが一気に増える潜在可能性を持っている。

 また、玩具やアミューズメント分野でも、iPhone4のジャイロセンサーとWi-Fiを利用してラジコンヘリを実際に飛ばし、2機以上で空中戦を行うといった驚異的なものがすでに廉価に販売されている。これらの業界を横断的にカバーするのは、モバイルキャリアなどの通信系企業や、アプリ開発などのIT系企業。ここもAR応用でのサービス開発の加速が確実な分野と言える。もちろん、現時点で最もメジャーなAR適用業界である放送でも、引き続き需要は高水準に推移しそうだ。
先端研究以外の分野でも増えるエンジニアニーズ
 ARのエンジニアといえば、遠くの物体が何であるかを分析する機能や、空間の3D情報を正確かつ高速に把握する機能といった、アルゴリズムや画像解析などかなりの上流を手がけるというイメージを持たれがちだ。もちろんそういう仕事は今でも多数あり、研究開発競争もむしろこれからが本番。身近なものでは車載カメラで得た情報を素早くスキャンして、デジタルデータを加えてAR化したり、内視鏡で自動的に病巣を発見して、映像に情報を表示したりといった例が挙げられる。
 端的に言えば最もニーズが高いのは、映像取得→解析→情報表示という流れをどう設計すればいいかという、認識論やシステム開発に通じた人材だ。

 ただ、それぞれの段階でスペシャリストも求められている。デジカメの画像処理エンジン開発、パターン認識の研究、世界の規制を踏まえた表示ルール作りなどの経験があるエンジニアや研究者は、ARの世界に移ることは十分可能と思われる。
 一方、完成したARを製品に応用したり、AR自体にどのような使い道があるかを考えるコンシューマー製品分野では、エンジニアの人材ニーズはより多様だ。自動車や医療、軍事のように厳格なポリシーづくりが必要ない分野が多く、求められる技術力が必ずしもハイレベルではないからだ。

 どういう部品で製品を構成すれば要求される機能が実現できるのかを考える製品企画、スマートフォンアプリなどのソフトウェア開発、ハードウェアの組み込みソフト開発、ユーザーの属性に応じて適切な情報を抽出・表示させるデータベース設計、Web関連でスキルを持つ人材など、ニーズは多岐に渡る。
 また、これらの技術スキルを持っていない場合でも、「ARの生かし方」のアイデアを持ち合わせている人材ならば、業界入りのチャンスもありそうだ。例えば、「バーチャルマスターズリアル」のリールのハンドルは右側にあるが、左側に付け替えることも可能。左利き向けだけでなく、「釣りの時は左で回す」人が意外に多いことが理由だとか。技術力だけでないこうした気配りも大切な要素だ。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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