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家電メーカーでの経験を活かし、最新鋭装置の省スペース化に貢献
シスメックスが挑む、医療機器のモノづくり現場に潜入
血液や尿を検査する検体検査機器で国内1位、血球計数分野では世界1位のシェアを持つシスメックス。異業界でのキャリアを活かし、現場最先端で活躍するエンジニアにフォーカス。同社の成長性、医療機器の最先端技術を支えるモノづくりの醍醐味を探る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/有本ヒデヲ)作成日:11.07.13
高度な検査、診断技術の創出で世界の医療ニーズに応える
高井 啓氏
システム開発部第一グループ リーダー
高井 啓氏

 近年、先進国においては高齢化の進展による医療の高度化、新興国においては人口増加や経済発展に伴う医療インフラの整備が進む。このような医療環境のもと、医療の質や効率を左右する「検査」の果たす役割が重要になってきている。シスメックスは、創業以来40年以上にわたり、血液や尿、細胞などの検査に必要な機器や試薬、検査情報システムとサービス&サポートを総合的に提供。欧米企業が牽引する検体検査領域で、アジア企業として唯一グローバルトップ10に入る。海外に41のグループ会社を構え、世界170カ国以上の国々に製品を届けている。

 検体検査の中でも血球計数分野では世界シェアナンバーワンのシスメックス。その世界シェアを支える技術力とはどのようなものなのか。一人のエンジニアの話を聞こう。高井啓氏は、シスメックスの最新鋭ヘマトロジーアナライザー(血液分析装置)「XNシリーズ」の開発に携わる機械系エンジニアだ。

 高井氏が担当する「XNシリーズ」は、血球や血小板の数を測定する多項目自動血球分析装置。分析装置単体としての利用も可能だが、検体搬送装置、塗抹標本作製装置などを自由に組み合わせることで、より検査効率を高めることができる。

 近年、ある一定規模以上の病院及び検査センターであれば、検体検査のプロセスはほぼ自動化されている。検体(血液)が入った採血管を最大10本セットすることが可能なラック。これを一度セットすれば、後は自動的にベルトコンベアで運ばれ、分析装置にかけられ、データが収集されるというイメージだ。血液分析では検出精度を高めるために専用の試薬が用いられるが、この試薬もシスメックス製。各種分析に用いられるアルゴリズムもすべて社内で開発されている。この分析装置は1台当たり毎時100検体を処理する能力があり、最大5台まで連結可能である。

最新鋭装置で搬送ユニットの省スペース化を実現

 このうち高井氏が担当するのは搬送装置の部分だ。ステッピングモーターでベルトコンベアラインを駆動させてラックを搬送する。「XNシリーズ」はコンパクトデザインが特徴の一つで、搬送システムの設置面積はシステム全体の処理能力を保ったまま、従来に比べ約20%縮小している。また、搬送速度も従来機と比べ、約2倍に高速化させている。
「設置スペースあたりの処理能力を高めることは、検体検査の現場からの強いニーズ。これに応えるために、分析装置は横幅を従来機の半分にするなどの大幅な省スペース化を実現しました。それに伴い、搬送装置側も省スペース化を実現する必要がありました。そのため、例えばこれまで2つのユニットである機能を実現していたのが、これを1つのユニットで行えるようにしました。これで1ユニット分のスペースを削減できることになります。加えて搬送装置内部のレイアウトをゼロベースで見直し、無駄なスペースを徹底的に削減しました。また、コスト削減のために、駆動源に社内で多く使われて、安くなっている汎用的なモーターを採用するなどの工夫も重ねています」(高井氏)

 今回のプロジェクトは、高井氏が入社後かかわるものでは最大規模のもの。
「従来は、分析装置と搬送装置の開発は、時系列的に前後して行われることが多かった。すでにある分析装置を前提に搬送装置を開発する方が簡単といえば簡単です。しかし、今回は製品ラインアップを一新するために両方同時に開発をすることになりました。それだけに、分析装置や、そこで使う試薬の開発チームと緊密なコミュニケーションを取る必要がありました」

 そもそも検体検査装置は、様々な異種技術の組み合わせだ。電気、機械、制御系ソフトウェアの連携までは一般の機器開発でも当たり前だが、ここではさらに試薬開発というバイオ、メディカル分野の技術者、分析装置に試薬を流す部分では、流体設計の技術者とも話をしなくてはならない。
「最初の頃は、使う用語が違うので戸惑いましたが、これはすぐに慣れました。もともと、試薬・装置の一体開発というのが当社の開発風土。この風土に慣れれば、自分たちの強みをあらためて実感することができます」

家電メーカーからの転職。よりユーザーに近いところで仕事がしたかった

 高井氏は、2006年4月に家電メーカーから転職してきた。前職では家庭用掃除機の筐体設計を行っていた。コンシュマー製品を開発したいという思いから選んだ家電メーカーではあったが、5〜6年経って、ふと立ち止まって考えることがあった。
「果たして自分はコンシュマーのニーズにダイレクトに対応した製品を作れているのだろうか。毎年のように新製品を売り出すけれど、ユーザーが本当は必要としていない機能を、バイヤーに受けがいいからとゴテゴテと加えているだけではないのか」

 一度そうした不毛感にとらわれると、それを頭から追いやることがなかなかできなかった。「売れればいい。言われた通りに作ればよい」という“割り切り”ができなくなってしまったのだ。しかも設計開発といっても、成熟製品であるため要素開発のウェイトは低く、既存製品の目先を変えるだけの設計が主な仕事。新しい製品をコンセプトから最終形態まで考える醍醐味を味わうことは、次第に少なくなっていた。

 悶々とする日々が続いた。「ここではない別の場所で、改めてエンジニアとしての手応えを得たい」──医療関係の分野に特にこだわりがあったわけではないが、グローバルな成長力を秘めた会社ならと、シスメックスに飛び込んだ。

 健康診断は身近なものだが、検体を検査する装置などはめったに目にするものではない。高井氏も、入社して初めてその装置を見た。病院や検査センターで検査技師たちが実際に操作する現場を見学した。
「特注製品では、開発エンジニアが営業と同行して納品現場に赴くことはよくあります。検査・分析系のフローだけでなく、病院内の情報システム全体を知る機会もあります。検査技師や医師たちが、どういう装置を必要としているのか、ダイレクトにニーズを聞くことができるし、自分の仕事がそのなかでどんな意味をもつのかを実感としてつかむことができました」

 コンシュマー製品だからといって、エンジニアがユーザーに近いところで仕事をしているとは限らない。むしろ、限られた特定業務の機器開発こそ、ユーザーとの接触点は多い。そのことに高井氏はあらためて気づくのだった。

周辺技術との融合。エンジニアとしてのすそ野を広げる

 家電と検査機器の開発サイクルも、前職と今では大きな違いだ。家電は実質半年未満。ところが、検査機器では数年にわたることもある。エンジニアの志向性にもよるが、流行に惑わされず、じっくりと一つの製品に取り組みたいという人には、向いている職場といえる。

 一方で家電技術者としての経験が活かせた部分もある。
「成形品を組み合わせるような設計は場数を踏んでいました。それはシスメックスでも活かされています。また、前職では自分で図面を書いていましたが、シスメックスでは図面が膨大になるので、開発者自らが図面を自分で書くことは多くありません。しかし、他人に図面を書いてもらうにしても、自らの経験があった方が的確な指示ができると思います」

 先ほども触れたように、検体検査機器の開発は、異種技術との融合が不可欠。それぞれ専門技術はもつものの、異なる分野の技術についても一定の知識を持たないと、スムーズなコミュニケーションはできない。機械エンジニアである高井氏は、入社後どのようにしてその知見を深めていったのだろうか。
「まずは搬送装置の機構設計を最適化するために、モーターやセンサーを電気的にどうやって動かしているか把握する必要がありました。家電に比べてこの装置は基板がたくさん組み込まれており、システム制御はもとより、。配線もそれなりに複雑です。これを一つひとつ読み解くことから始めました。ソフトウェアも、機構部の制御系では社内独自のシーケンス言語が使われていますし、ユーザーインターフェイスの部分ではWindowsアプリが使われていて、機械エンジニアもそれらとの連携を考えなくてはいけません。社内の研修会やそれぞれの専門家に教えを乞うという形で、知識を広げていきました」

 今は搬送装置の開発だが、いつかは分析装置そのものの設計を担当することもあるだろう。
「そのときは、それこそ血液検査で不可欠のCBC8項目(白血球数、赤血球数、Hb、Ht、MCV、MCH、MCHC、血小板数)のデータがどんな意味を持つのかなども、きちんと勉強しなければなりません。研修で一度教わったのですが、自分の担当でないとなかなか頭に入りませんから(笑)。こうやって、どんどん自分の技術のすそ野を広げていって、将来は全体を見ながら最適なシステムを設計できるエンジニアに成長したいと思っています」

 シスメックスの海外進出は創業まもない1960年代半ばからだが、装置自体の開発・生産は原則として国内拠点から移動していない。イノベイティブな技術力を強みに、常に売上の1割以上をR&Dに注ぎ込む研究開発志向の企業でもある。その技術力を頼りに、アライアンスを申し出る海外大手企業も少なくない。メイドインジャパンのものづくりの強みが、検体検査装置市場で活かされる。電気、機械、ソフトウェア、流体、光学、試薬開発など、広範な分野のエンジニアの力を、今シスメックスは吸引しようとしている。

システム開発部第一グループ リーダー 高井 啓氏

1979年生まれ。工業高専で機械工学を専攻。1999年、家電メーカー入社。主に家庭用掃除機の開発に従事。2006年4月、シスメックスに転職。

「“知”の創造と継承」をめざすシスメックスの研究開発拠点「テクノパーク」

 高井氏が勤務するのは、兵庫県神戸市にあるシスメックスの研究開発拠点「テクノパーク」。総敷地面積7.2万m2という広大な敷地の約60%を占める緑地に、7棟の建物が点在する。核となるのが10階建ての「R&Dタワー」だ。2〜9階の研究・開発フロアは吹き抜けでつながり、その空間にコラボレーションエリアを配置。平面だけでなく立体的にも風通しよくコミュニケーションがとれるように設計されている。屋外は、研究者の新たな閃きに必要な“ゆとり”の空間。広々とした芝生の庭に遊歩道とマラソンコースが続く。緑の庭に囲まれた一角にある日本庭園と茶室は、海外からのお客様を日本の伝統文化を通してもてなし、交流を深めようというもの。樹木の散水、池やビオトープの水は、屋上に降る雨を地下の雨水貯水槽に溜めて循環させ利用するなど、様々な環境への配慮もなされている。

調和と融合を表すシンボルモニュメント
調和と融合を表すシンボルモニュメント
開放的な吹き抜け空間のR&Dタワー内
開放的な吹き抜け空間のR&Dタワー内

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