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限られた条件の中で、どこまで顧客に向き合えるか?

住宅

ベテラン建築士が語る
        家づくりの“本質”

「人生で一番の買い物」と言われる戸建て住宅。その作り手である住宅メーカーには個社ならではの特徴があり、個人の設計事務所で腕を振るう建築家もいる。建築設計エンジニアはどのようにして顧客が望む住宅を設計し、完成させているのか。そのスキルもさることながら、彼らには顧客と住宅への熱い思いがあった。

(取材・文 総研スタッフ/高橋正志 撮影/関本陽介、高橋マサシ) 作成日:11.06.29

住む人に緊張のない、くつろげる場を設計したい/西島正樹氏

いい家を建てるための「期待感」を引き出すのも仕事

建築事務所

株式会社プライム一級建築士事務所
代表
一級建築士、専攻建築士(設計)
日本建築学会会員
日本建築家協会会員
全日本建築士会会員
西島正樹氏

設計図

基本設計図の例

「『設計』には機械設計、電気設計、ソフトウェアの設計などもありますが、建築の設計は極めて異質でしょう。他の設計は与えられた条件に対して無駄なく、安価で、合理的な回答を出すのに対して、建築には目に見えない条件が多い。建て主さんは本当に望む条件をなかなか口にできないし、意識すらしていない場合もあるからです」

こう語るのは、東京建築士会設計競技銀賞、神戸建築文化賞、沖縄タウン・デザイン賞など数多くの受賞歴を持つ西島正樹氏。大学院で建築学の修士課程修了後、個人の建築事務所に勤務し、1989年に現在の事務所を設立した。22年間で個人住宅のほか、教会、会館、ビル、保育園や幼稚園など約70件を設計してきた。その建築物はどれも個性的で、顧客の要望が多岐にわたることが察せられる。

「そのために最初に何でも聞きます。また、大抵の建て主さんは家族など複数人がいて、それぞれの要望は必ずしも一致しません。関係者で気持ちを共有するのも大事です」
話を聞き、敷地を見たりして、「悶々と」アイディアを考える。そして、いくつものアイディアの中からベストな1案を出す。図面や模型で説明するのだが、この段階で納得してもらえるケースがほとんどだと語る。

こうした基本設計が3カ月。間取り図、縦の断面図、外観の立面図、外壁のタイル張りや内部のフローリングといった仕上げの状態も決める。次が寸法などの数字を細かく書き込んだ実設計図の作成で、やはり3カ月。すべての部屋を正面から見た内観図なども含まれる。施工会社の選定で1カ月。何社かに見積もりを依頼して決める。着工に入って半年ほどで建つ場合が多いが、ここでは施工会社の仕事を現場でチェックする「管理」が仕事になる。

「建て主さんには期待と不安の両方がありますが、期待のほうが少しでも大きいとプロジェクトはいい方向に進みます。その期待感を引き出す+αを、ときどきの設計図などで見せるのも私たちの仕事であり、その発見をしてもらうことも大切だと思っています」

完成の瞬間に「予測の結果」が立ち上がる


住宅

西島氏が設計した個人宅

顧客の要望は多いものの、基本的には「プライバシーを守りたい」と「広がりが欲しい」があると言う。間取りについて顧客は「何平米」や「何畳」と数字で言うが、実は感覚的な「広がり」であり、プライバシーとは必ずしも矛盾しないとのことだ。西島氏が常に考えているのが、「緊張のないくつろげる場」だ。

「建築士の仕事は100%と言っていいくらい『予測』をしていくこと。『こうできると素敵になる』を敷地面積、予算、法律、構造などの制限の中で調停し、実現していく。すべてに必要なのは経験ですが、中でも予算が一番大変ですね。建て主さんは大抵、予算を超える要望を言いますから(笑)」

そして完成を迎えるが、完成の直前とその瞬間では全く雰囲気が異なるという。直前では内装が紙などで覆われており、それを取った瞬間に「予測の結果」が立ち上がってくると語る。
「これも建築の醍醐味ですね。ただ、そこから人が住み始めるのですから、引き渡しのときが仕事の終わりであり、新たな評価の始まりなのです」

西島氏が独立したころは、個人宅の設計を建築士に依頼するのは極めてまれで、1990年代後半くらいから急激に増えてきたという。インターネットの発達も要因だろうが、建築に対するイメージが変わってきたと西島氏は考えている。それまで主流だった「郊外の庭付き一戸建て」から、「狭くても、庭がなくても、都会で建てたい」などへの変化だ。

「納得する家に住みたいと思う人が増え、それを実現できる環境が整ってきたのでしょう。また、既製服とオーダーメイドの服なら10倍の価格差があっても、ハウスメーカーと個人事務所に依頼する住宅の値段は、建築士への手数料を含めても同程度。価格も理由のひとつだと思います」

建築を当たり前に受け入れなければ、社会は変わる


住宅

個人宅の模型

個人事務所の特性を西島氏はこう語る。
「基本的には納得されても、建て主さんの住宅のイメージはプロセスを経て変わっていくもの。未知数の部分を一緒に探していくのも建築士の仕事です。そのため、『最低限の機能でいいので4カ月で建てたい』といったスピード優先の方は、私を含めて個人事務所には不向きでしょう。逆に『納得できないと気がすまない』という方に向いていますね」

普段は意識しないが、建築物はどんなものであれ誰かが設計している。私たちはそれを受け入れざるを得ないのだが、西島氏は「この窓は低い」「天井が高すぎる」「なぜここに室外機を置くのか」などと行く先々で気になるという。
「既存の建築を当たり前に受け入れなくていいのです。意見を言ってもいい。多くの人がこうしたことを始めれば、社会はガラッと変わると思います」

顧客の目の前で設計図を描くことで、ベストな提案を/一条工務店

先輩の言葉がきっかけで、設計スタイルを変更

一条工務店

株式会社一条工務店
加古川展示場 設計課 副長
一級建築士
佐和祥行氏

モデルルーム

佐和氏が設計したモデルルーム
(兵庫県姫路市「キャスティ21住宅展示場」内)

大学の建築学科を卒業した佐和祥行氏が就職したのは、プレハブを得意とする住宅メーカーの兵庫支店。入社したのは阪神・淡路大震災が発生した1995年。入社3カ月後、彼は希望して淡路島に、倒壊した建物の建替え工事の現場監督として赴任する。
「大工さんの工程管理が主な仕事でしたが、ベテランの職人さん相手に、知識も経験もない若造が指示するわけです。想像してもらえればわかりますが、それはもう大変でした(笑)」

淡路島で半年ほど働いた後に兵庫に戻って施工管理を続け、入社2年後に退職。専門学校に通いながら一級建築士を目指した。受験は2次試験で不合格。就職を考え、一条工務店に営業職として入社した。
「実は、お客様と接する経験を積みたかったということもありました。1年弱後に一級建築士の試験に合格し、設計部に配属となったのですが、もう少し営業を続けたいというのが当時の本音でした。」
それから12年、佐和氏は現在まで約350件の戸建て住宅を設計してきた。平均すると年間約30件。もうベテラン建築士だ。そんな彼にも転換期があった。7〜8年前、顧客に納得してもらうまで何度も設計図を描き直していた彼に、営業部の先輩から厳しい言葉が飛んだ。

「自分に自信がないから何度もやり直しているんじゃないか? プロならば、お客様を一発で納得させるくらいのベストな設計を考えろ」
「ガツン」ときた佐和氏はそれからスタイルを変えた。顧客の話を聞きながら、その場で図面を起こすという手法だ。打ち合わせの初回から方眼紙を広げ、目の前で平面図を描いていく。1〜2時間を掛けて修正を繰り返しながら打合せを行い、完成させるというものだ。こうして出来上がった設計図を後に変更する顧客は、ほとんどいないという。

100%の要望を引き出せないといい家は建たない


図面

佐和氏が顧客の前で描いた図面

しかしその前提には、「顧客の本当の気持ちを聞き出すためなら労をいとわない」という熱意と、「そのニーズに対峙するためのスキル」が不可欠となる。佐和氏は「お客様のご要望を引き出せなければ、一流ではない」と語る。
ほぼすべての顧客にとって家を建てるのは初体験だ。だから例えば、「キッチンはどうお考えですか?」と質問しても、黙ってしまう主婦もいる。もちろん、キッチンに興味がないはずはない。

「私なら『ご主人はキッチンに立たれますか?』と尋ねます。すると、『ウチのは料理なんてしませんよ。それに、毎日仕事で帰りが遅いんです』などと答えてくれます」
実はこれで同時に、2つの貴重な情報を入手している。ひとつは夫が料理をしないこと。2人一緒に料理をしないなら、キッチンは広いスペースにする必要はないかもしれない。もうひとつは帰宅が遅いこと。夫が夜遅くまで書斎で過ごすことが多いと考えれば、寝室の近くにしないという配慮も働く。このような情報を多方向から引き出し、頭の中で整理して図面を描いていくわけだ。

「敷地面積、道路の位置、家族構成、必要な部屋数など、建築地の条件がわかれば、頭のなかに自分なりのベストな設計図が浮かびます。ただ、あくまでも『私ならこうする』という案ですので、そこからお客様と会話をしながら図面を完成させていくことが本当に重要なのです。以前、提案した図面に対して、全く修正がなかったお客様がいました。私があまりにも楽しそうに描いているので、『それだけで満足しました』と言ってくださったのです。そう、私はお客様の前で図面を描くのが、うれしくて仕方ないんです(笑)」
一条工務店では、設計士にCADを使わせることはしない。設計図を起こすことや実施設計は海外の事業部に委託している。CADを使う時間があれば顧客と接して、「100%の要望を引き出す」ことが同社の方針だからである。

建築士とは幸せをもらう幸せな仕事

個人宅

佐和氏が設計した個人宅

個人宅

個人宅のキッチン

一条工務店は「性能」を売るハウスメーカーだ。超気密・超断熱を誇る省エネ性能、全館床暖房システム、耐震・耐久性能、国内シェア86%を上回る免震技術、初期投資ゼロの太陽光発電システムなど、これらはすべて同社のグループ内にて開発・生産されたものだ。
住宅の設備や技術をここまで内製化している会社はほかにはないだろう。そうしたハイスペックな商品力に引っ張られ、当然、建築士に求められるレベルはますます高まっている。

「お客様の情報量も2〜3年前と全く違います。インターネットなどで相当調べているのだと思いますが、驚くほど住宅に詳しいです。常にお客様のご要望にお応えできる建築士として、日々研鑽が求められますが、それは当たり前のこと。『本当にいい家に住んでほしい』と考えると苦にはなりません」
佐和氏は語る。
「一条の設計の仕事は、将来の夢を思い描くご家族のために、その将来像を描かせてもらえる仕事です。『幸せをもらう幸せな仕事』だと感じています」
では、彼の夢とは何だろうか。
「今は二世帯住宅に住んでいます。子供が2人いるのですが、彼らが巣立った後に、自分で設計して終の棲家を建てるつもりです。まだ少し先になりますけど(笑)」

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