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発見!日本を刺激する成長業界18 電力分散ニーズで脚光!燃料電池“エネファーム”
エネルギー安全保障の重要性が再認識されるなか、水素から電気を得る燃料電池が注目を浴びている。特に日本が強みを持っているのは、小規模な家庭用燃料電池コジェネレーションシステム。量産化でコストが下がれば、一家に一台の時代も夢じゃない。
(取材・文/井元康一郎 撮影/平山 諭 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:11.07.04
アジア市場がけん引し、2025年には1兆3300億円規模に
 次世代のエネルギー貯蔵技術、水素プラットホームの中核技術として研究されてきた燃料電池の世界で今、新たな動きが起こっている。燃料電池といえば、揚水発電所からの転換技術として大型燃料電池が注目されてきたが、東日本大震災をきっかけに、電力を巨大発電所だけに依存すべきでないという電力分散論が台頭しているからだ。
 それに伴って、発電と廃熱を利用したボイラー機能を併せ持つ家庭用燃料電池コジェネレーションシステムが脚光を浴びている。特に、政府からの手厚い援助がある日本や韓国をはじめ、アジア圏を主体に需要が見込まれている。富士経済研究所の試算によれば、2025年には2010年に比べて実に85倍に相当する、1兆3300億円規模への成長が期待できるという。
家庭用燃料電池システムの世界市場 (2010年は見込み、2011年以降は予測) 出典:富士経済「2011年版 燃料電池関連技術・市場の将来展望 上巻」
JX日鉱日石エネルギー/高効率なSOFC型燃料電池の商品化に成功
 JX日鉱日石エネルギー株式会社は、高純度水素や大量の貴金属が必要といったこれまでの弱点をクリアした、新しいSOFC型のコジェネレーションシステムの市販モデルをリリースする。巨大石油会社が本気でつくった、脱石油デバイスの中身を探る。
固体高分子型が主流の中で、次世代のSOFC型に挑戦
SOFC型の「エネファーム」左が発電ユニット、右が貯湯ユニット
SOFC型の「エネファーム」
左が発電ユニット、右が貯湯ユニット
 次世代のエネルギーソリューションとして期待されている技術のひとつに、燃料電池がある。水を電気分解して酸素と水素をつくるのと反対のプロセスで、水素と酸素を結合して水をつくり、余分な電子を電気エネルギーとして取り出すという装置だ。
 燃料電池を使ったシステムとして注目を集めているのが、家庭用燃料電池コジェネレーションシステム(FCコジェネ)だ。出力1kw以下の小さな燃料電池を使って発電し、家に電力を供給するというものだ。また、燃料電池が発する熱をムダに捨てるのではなく、お湯を沸かすボイラーの熱源として再利用することで、トータルのエネルギー効率を8割程度に高めるという製品である。
 2009年に都市ガスやLPガスをエネルギー源とするFCコジェネが、「エネファーム」の名で市販化されたばかり。そんな黎明期の今、石油元売り大手の日鉱日石エネルギーは今年3月、新型の市販予定モデルを国際技術展「FC EXPO2011」に出品した。その最大の特徴は、燃料電池に次世代技術として期待されていた、固体酸化物型燃料電池(SOFC)を早くも採用したことだ。
「今日販売されているエネファームは、固体高分子形燃料電池(PEFC:燃料電池車などと同形式)が使われています。特に小型装置に使う場合、製品化のしやすさや特性など、いろいろな面で優れていたからです。一方、燃料電池の世界では近年、もうひとつの流れができていました。化石燃料をより簡単、かつ効率的に電力に変換することはできないかという挑戦です。われわれがSOFCを開発した狙いはそこにありました」
 研究開発を指揮したFC開発研究所の浜田陽所長は、SOFC開発の目的をこう語る。小型燃料電池は今のところ、カシオが試作している角砂糖大の超小型機からFCコジェネ用、燃料電池車に搭載される出力100kwのものまで、PEFC型が圧倒多数である。
 技術的に成熟していてつくりやすいからだが、欠点もある。触媒材料にレアメタルである白金を大量に使用するうえ、水素も一酸化炭素(CO)を極力取り除いた高純度のものを使わなければ、すぐにダメになってしまうのだ。
「SOFCの特徴のひとつに、COも発電の材料として消費するということがあります。都市ガスやLPガスから水素を取り出す場合、まず付臭剤を除去してから水素燃料に改質します。ですが、この段階ではまだ5〜10%のCO、CO2が含まれています。PEFCの場合、その含有率を数ppmにまで落とす必要があるため、さらに機器を2個通過させる必要があるのですが、SOFCはそのまま燃料として使えてしまうため、効率は高く、装置が少ない分小型化、低価格化も可能です。ガス改質という使い方を前提とすると、SOFCに大きなアドバンテージがあるのです」

 日鉱日石エネルギーといえば、押しも押されもしない日本最大級の石油元売り会社だ。その企業が“脱石油”の先端技術であるFCコジェネに力を入れる背景にあるのは、石油エネルギーへの過度の依存に対する危機感だ。
「弊社は経営トップが自ら、水素エネルギーを含めた新エネルギー計画を推進すると公言しています。目指しているのは石油会社ではなく、総合的なエネルギーサプライヤー。燃料電池のような新しいエネルギーデバイスの開発は、イメージ向上のためではなく、近未来の重要なエネルギーソリューションを目指してのものです。現在、SOFCは発電効率で45%前後と、コジェネ部分を除いてもすでに火力発電の38%を超えていますが、まだまだ限界ではない。将来的には55〜60%の製品で打って出たいですね」
浜田 陽氏
研究開発本部
中央技術研究所
FC開発研究所長

浜田 陽氏
研究、商品開発、生産……それぞれに「適材適所」の人材
貯湯ユニット
貯湯ユニット
発電ユニット
発電ユニット
 FCコジェネは自動車や家電のように、すでに基本的な技術が確立された熟成分野ではない。新しい反応を見つけ出す先端研究、より低価格で高品質、高性能な製品をつくり出す商品開発、さらに高度なシステムを安定した品質で製造する生産体制と、モノづくりのあらゆるプロセスで、技術革新を図っていく必要がある。
 研究開発から商品開発、協力会社との連携と、FCコジェネづくりをトータルで管理してきた新エネルギーシステム事業本部の南條敦氏は、「全く新しいエネルギーシステムづくりは、ワクワクする楽しさと、無から有を生み出す緊張感が共存する世界」と語る。
「1998年から2年ほど、日本エネルギー経済研究所に出向して太陽光、風力などの再生可能エネルギーを研究した後、燃料電池開発の進捗管理を担当しました。当初は本当に大変で、PEFCを使った実験機が1カ月も動けばいいほうでした」

 プロジェクトが始まったころは、30人ほどのスタッフで行っていたという研究開発。リサーチ分野はもちろん電気化学やプロセス工学など、燃料電池の要素技術を知るプロフェッショナルが主体となって手がけていたのだが、実験室でうまく稼動していたものがフィールドでたちまちトラブルを起こすといったことも多かったという。
「屋外に設置すると、気温は季節や日較差によってバラバラで、直射日光の影響も受けます。連続運転しているうちに結露に藻が生えてきたこともあり、『想定外』の連続でした。徹夜で実験なども珍しくなかったです(笑)」
 SOFCを使ったFCコジェネをどうつくればいいか、技術の方向性を見出すと、今度はどのような商品に仕立てればいいのか、製造はどうすればいいのかといった計画も立てなければならない。セラミックを多用するSOFCのスタック用部品製造は京セラと、製品の生産は石油ファンヒーターで微量の流体をコントロールする、機器製造のノウハウを持つダイニチと手を組む。アライアンスを上手く回すためには、しっかりと意思疎通を図ることが重要だ。
「技術開発、商品開発、生産の各分野とも課題はありますが、スタッフのモチベーションは驚くほど高い。ポジティブでいられるのは、やはり世界にない技術をつくり出す仕事だからでしょうね」
 これから本格的な競争時代を迎えるFCコジェネ。必要とされるエンジニアも多彩だ。燃料電池そのものの技術革新を目指すグループは、高度な電気化学の知見や、スタック本体の中を通る流体や熱移動のシミュレーションなど、専門性に優れた人材でなければ務まらない。一方、FCコジェネは自動車などと同様、多くの部品によって構成されるシステマチックな製品だけに、商品開発や生産では異業界の経験を生かせる場が多数あるという。先の浜田氏はこう語る。

「必要なのは経験、それとセンスです。例えば、気体を通すパイピングひとつとっても、ちょっとした曲がり方の違いが長期使用において機器にどんな影響を及ぼすか。こういった勘が働く人材は、燃料電池の世界でも大いに活躍できると思います。パイピングだけでなく、お客さまに買っていただく商品づくり、よりよい製造法の工夫など、さまざまな部分で異業種の知見が生かせると思います」
 燃料電池は同社をはじめ、システム機器づくりを得意とする日本企業が圧倒的に強みを発揮しており、今後もアドバンテージを維持できるとみられる貴重な成長分野だ。エンジニアにとって、きわめて魅力的と言えるだろう。
南條 敦氏
新エネルギーシステム事業本部
システムインテグレート推進事業部
副部長

南條 敦氏
これから始まる本格開発期を前に、得意分野で参入する
市場拡大のカギはコストダウン、今後の普及に期待大
 FCコジェネはメーカーの開発力、市場成長の両面で、日本が主体という内需型の商品だ。コストの優位性からもっぱら巨大発電所頼みの集中電源型電力網が構築されてきたが、東日本大震災でその弱点が露呈。分散電源の重要性が認識されたことは、ガスをエネルギー源とするFCコジェネの市場成長を、強力にバックアップするものと考えられている。
 実際、パナソニックが異業種8社とジョイントベンチャーでつくる次世代都市の家には、FCコジェネのエネファームが標準装備されるという。量産効果が出ていない今日ではまだまだ高価だが、単なる発電機ではなくボイラーの兼用を考慮すると、コストが下がるにつれて飛躍的に競争力が高まると見る向きは多い

 ライバルとなるのは、都市ガスを燃料とするレシプロエンジン式のコジェネレーションシステムだ。最新の製品の中には燃料電池とさほど変わらないエネルギー効率を実現しているものもある。
 一方、FCコジェネの優位性はメンテナンスフリー性と圧倒的な静粛性だが、それだけで戦えるほど市場は甘くない。価格の引き下げは当面、最大の重要課題となる。そのために必要となる商品開発や製造の経験を持つエンジニアにとって、チャンス到来と言われるゆえんである。
商品開発、生産技術分野の職種に特に大きなチャンス
 JX日鉱日石エネルギーの事例でも書いたが、燃料電池のセル内部部品やスタックなどの研究開発については電気化学の専門家、できれば燃料電池開発を直接経験した人材が求められている。
 自動車、鉄道車両、重電などで燃料電池の開発経験を持つエンジニアは転職機会に大いに恵まれるだろうが、未経験の場合、そのものズバリでの中途採用は厳しい。エネルギー機器の開発というテーマで転職し、経験を積みながら燃料電池開発チームへの転属を希望するというのが最短距離か。

 ただ、開発全体に目を移すと、異業種エンジニアにも門戸は広く開かれている。FCコジェネは自動車などと同様、多数の部品を組み合わせてつくるシステム商品だからだ。例えば、液体や気体を通す配管をどうすれば効率がよくなるか、パッキンにはどういう材質のものを使えば長期間使用でも劣化が少なくなるかといった、実装の分野だ。
 また、試作機をつくる前の段階でシミュレーション、あるいは経験である程度評価を予測できるような「モノづくりの達人」は、FCコジェネ開発においてはキーマンになり得る。具体的には自動車のエンジン設計(燃料系統、吸排気、冷却水系統など)、エアコン、冷蔵庫など高圧ガスを使用する商品の、機構部分の設計経験は転職に有利だろう。
 生産技術、生産管理のノウハウを持つエンジニアにも転職可能性がある。燃料電池を組み立てる際に必須となるクリーン生産の方法、コスト低減につながる製造公差の管理などは、異業種のアイデアが生かされやすいところだからだ。探し方次第、見つけ方次第で、燃料電池開発にかかわることは可能なのだ。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
FC開発研究所長の浜田氏は実に明るい方。南條氏もそうですが、実に楽しく燃料電池開発を語っていただきました。まだまだ始まったばかりの製品ですから大変は大変。だからこそ、その試行錯誤を楽しんでいるような印象を受けました。戸建て住宅だったら、私もエネファームの導入を考えてしまいます。

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