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無電極電球で消費電力80%減、データセンター30%省エネへ

省エネ

電気が足りない!
省エネに賭けるエンジニアたち

原発事故の影響で電力不足が深刻化している。夏場に向けて危機感が強まる中で、注目されるのが省電力や省エネだ。日本の得意分野ではあったが、各分野のエンジニアはさらなる技術開発に取り組む。ここでは無電極電球を使った照明と、ビルやデータセンターを省エネするBEMSを紹介する。

(取材・文 総研スタッフ/高橋正志 撮影/平山諭、高橋マサシ) 作成日:11.06.01

消費電力を80%節約する無電極電球「エネブライト」を開発/TOSMO

起業後の20年で磨いた「長寿命化技術」が開発の基盤

TOSMO

株式会社TOSMO
代表取締役
小澤茂雄氏

エネブライト

右が笠型(広射用)エネブライト
(明るすぎて正面から撮影できない)

省電力化が期待される製品のひとつに「照明」がある。家庭用では白熱灯や蛍光灯からLED照明へのシフトが進んでいるが、屋外や大型施設内を照らす水銀灯の代替として注目されているのが、TOSMOの無電極電球「エネブライト」だ。一般の水銀灯と同等の明るさで電力消費量を約80%節約でき、寿命は約10倍に延びるという。ただ、無電極電球の技術は新しいものではない。

「安定器(コントローラー)から高周波電流を送ると、電球内のコイルの周囲に誘導電界を生じます。するとエネルギーが出るので、そこに蛍光体を持ってくると透過して可視光線になるわけです。蛍光灯を電子レンジに入れると点灯するのと原理は同じです」
 もともと大手電機メーカーでビデオデッキ開発に携わっていた小澤茂雄氏。当時の売れ筋商品だったが、訳あって20代半ばで仲間と起業。受注したのは火力や原子力発電所の制御システム開発で、大手企業と組んで開発の一部を請負う仕事だった。弱電から強電へと同じ電気でも畑は違ったが、「断れるはずもない」。ここから約20年を掛けて「長寿命化技術」に取り組んだことが、エネブライトの開発につながった。

「同じマイコンボードでも一般的な家電製品の期待寿命は6年ほどですが、発電所の機器では15年以上、30年などもある。また、米国国防総省が制定したMIL規格のレベルが求められる。一方で、長寿命化の技術開発は全くの手探り状態。部品を変えれば2〜3割は伸びても、2〜3倍に伸ばすにはデバイスの選定、使い方の工夫、品質の向上手法、電子回路の開発などノウハウの積み上げなのです。詳しくは話せませんが、ここが弊社の強みです」
 無電極電球は電極やフィラメントを使用しない単純構造なので、球切れ(断線)や蒸発などによる電極の消耗がなく、理論上は半永久的に使える。だからこそ、高周波電流を送る安定器の基板などに、長寿命を可能にする回路や設計、製造技術が必要となるのだ。

LED照明との比較でも高い優位性、消費電力75Wの新製品も

TOSMO

小澤氏と社員の人たち

TOSMO

「第3回エコオフィス/エコ工場EXPO」のTSOMOのブース

TOSMO

小澤氏を中心とする技術チームがエネブライトの開発を始めたのは2年ほど前。リーマンショックで業績が落ち、開発の請負いから自社製品の開発・販売へと事業の幅を広げたことがきっかけだ。それ以前にも7〜8年ほどLED照明を研究したが、ベンチャーには難しい「設備産業」であると見切りをつけて撤退。ビジネスの芽を探す中で無電極電球に注目した。
 無電極電球はパナソニックの「エバーライト」が有名だが、当時は参入企業が見当たらず、家庭用でないので大規模な量産設備がいらないメリットもあった。専業子会社としてTOSMOを設立する。

「家庭用機器の電気エンジニアなら、『DC15V以上は自分の領域ではない』と思う人もいるでしょうが、起業後は6000Vの電源で仕事をしてきました。ですから(エネブライトなどに使う)200Vは苦になりません。普通の電気エンジニアなら200Vは壁になるでしょうね。やはり勝手が違いますし、計測機器なども異なります。何より高電圧ですから、こわいんですよ(笑)」

 小澤氏らは休日もなく開発を続け、昨年6月に商品化に成功した。エネブライトの性能を水銀灯とLED照明とで比較すると、450Wの水銀灯に相当する消費電力では、LED照明が130W、エネブライトは85W。寿命は水銀灯の約6000時間に対して、LED照明が40000時間、エネブライトが60000時間という差になった。
 こうした優位性が評価され、ショッピングスポット「ららぽーと磐田」の駐車場用照明、大手総合メーカーの高天井倉庫用照明、大手工作機械製造工場の道路灯・駐車場灯など、すでに多くの導入実績を持つ。長寿命なので高所での電灯の入れ替え作業が少なくて済むことに加えて、省電力性、点滅やちらつきがない「ノーフリッカ」、まぶしさがない「ノーグレア」などでも好評を得ているという。

「LEDは点光源なので光が周囲に広がらないこと、まぶしすぎること、それ自体で熱を持つことなどが短所だと思いますが、無電極電球ではそれぞれが極めて低い。ただ、開発当初の2年前に比べるとその差は縮まっていますので、私たちも必死です」
 こう語るように昨年の商品化後も開発を続け、取材の場である「第3回エコオフィス/エコ工場EXPO」では、消費電力75Wの新商品を出展。韓国、台湾、ベトナム、欧州、米国などに向けた海外展開も準備中だそうだ。

「まだまだ消費電力は削減できると思います。秘策もありますしね(笑)。休みがなくて大変は大変ですが、モノづくりには山登りのような達成感がある。だからやめられません」
 エネブライトがテレビ番組で紹介されたとき、その明るさに驚いた照明クルーが「このライトを使って撮影しましょうよ」と提案し、そのとおりに録画・放送されたという。取材時の写真撮影でも、あまりの明るさに横からのアングルでしか撮れなかった。

超高層ビル、国際空港ビル…現在はデータセンターをBEMSで省エネ/山武

日本全国を回り、大型施設の省エネ化を次々と成功

山武

株式会社山武
ビルシステムカンパニー
マーケティング本部
環境マーケティング部
環境制御グループ 兼
開発本部 開発3部
EMアプリケーショングループ
係長
吉田公彦氏

AdaptivCOOL

データセンター向け環境ソリューション製品「AdaptivCOOL」

BEMS(Building Energy Management System)とは、ビル内の電気、照明、空調などの機器や設備を統合管理して、室内環境とエネルギー性能の最適化を図るシステムのこと。国内トップクラスの技術力を誇る山武に勤める吉田公彦氏は、入社して10年、一貫してこの分野に取り組んできた。これまでに西新宿の超高層ビル、国際空港ターミナルビル、大規模ショッピングセンターなどの大型施設を手掛けている。

「電力デマンドコントローラーなどの省エネ制御システムや、省エネ診断システムなどの建物の省エネルギーに関わる制御アプリケーションの企画・設計から製品開発が主な仕事です。現場のニーズ調査に始まり、要件定義、詳細設計、実装、その後の運用フォローや省エネ評価まで、製品全般に携わります。現地調査やアイディアを出すために現場に足を運ぶのが基本ですから、あまり会社にはいないんですよ(笑)」

 超高層ビルを例にすれば、各階の基準階フロアにある空調機をローカルコントローラーで制御し、これらを中央監視システムでは統合制御する。省エネ制御の対象は、空調の搬送動力や熱源機器、照明などで、そのエネルギー源は電気とガスが中心となる。M&V(計測計量計画)により省エネ量を定量的に評価し、季節ごとの最適化、経年変化への対応など、ライフサイクルでの性能検証が重要となる。
「温熱環境を犠牲にした省エネはいくらでもできます。一方の目的である『快適性』とどうバランスを取るかが重要なのです。省エネと快適性の両立こそがわれわれの使命であり、目指すところです。」

ビルの設備は一般的に10〜15年で更新されるので、この時期に合わせて関係各社が提案を行う。中央監視システムやローカルコントローラー、センサーやバルブなどのエンジニアリング製品、施工、総合的なソリューションなど幅広いが、これらを一括受注できるのが山武の強みだ。

 吉田氏は制御導入前の現地調査から導入後の評価までを行うが、季節ごとの調査も必要なので、プロジェクトは最低で1年、長ければ2〜3年が掛かるという。これまで北海道から沖縄まで、全国各地の物件の省エネに取り組んでいる。
「空調設備の効率改善のために必要な計量器、センサーなどを設置するとともに、弊社のBEMSを導入することで5〜20%の省エネができます。ただ、省エネ法改正によりこの10年でかなり省エネ施策が浸透しましたから、今後は小さな技術の積み重ねが大切になると思います」

夏に向けたデータセンターの省エネ化が急務

BEMS

BEMSの画面

BEMS

山武のショールームに置かれたBEMSの機器

温湿度センサー

温湿度センサー

2年間ほど前から吉田氏は、データセンターの省エネ化ソリューション「AdaptivCOOL」を担当している。データセンターはそれ自体で電力を大量に消費するだけでなく、センター内を一定温度に保つ空調設備の電力消費量も多い。東日本大震災の影響もあって引き合いが殺到しており、彼を含めたメンバーはフル稼働の状態だという。

「これまで多くのデータセンターを調査してきましたが、省エネの余地はまだあり、30%くらいいけるかもしれません。特に有用なのがエアフローマネジメントと呼ばれる気流の制御です。必要な場所に必要な分だけ必要な気流を送って、熱だまりや冷やしすぎを解消します。熱気流シミュレーションによりさまざまなシナリオ分析を行い、床冷却ファンや天井還気ファンを設置し、データセンターの省エネと熱問題解決を実現します」

吉田氏はこの2年間、業務提携している熱気流解析の特化企業、米デグリーコントロール社に何度も訪れて技術やノウハウを習得してきた。ただ、データセンターは「絶対に機能を落とせない」ので、その制御にはリスクが伴うという。例えば、データセンター用の大型精密空調機はCRAC(クラック:Computer Room Air Conditioners)と呼ばれるが、5台あるCRACの1台を止めたらどうなるかのトライアルができない。そこを綿密な調査とシミュレーション解析で方策を探っていくわけだ。

顧客は気温が高くなる夏前に向けた省エネソリューションの導入を望んでおり、吉田氏らは6月末までを目標に忙しい毎日を送っている。彼は複数の導入現場のコミッショニングを担当しているが、同時にクラウドを想定した省エネの方法も検討している。
「データセンターのサーバーの負荷は、一日の中でCRACの運転台数が変わるほどの変化はありませんが、例えば、仮想化技術でCPUやハードウェアが完全に止まるなどの影響が出た場合は、その分の空調負荷がなくなります。これに伴う空調設備の自動制御が必要になるので、ビジネスチャンスでもあります」

自らを「省電力アプリケーションエンジニア」と語る吉田氏。この仕事の面白みを、省エネの結果が出て顧客が喜んでくれること、環境への貢献を身近に感じられることだと語る。同時に、仲間とのつながりを挙げた。
「エンジニアだけでなく営業マン、サービスマン、施工担当者など関わりますので、喜びを彼らと分かち合えますし、次回へのアイディアなども出てきます。もっと省エネの技術を極めたいですし、世の中にもっと広めたいですね」

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