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発見!日本を刺激する成長業界17 電力不足への有望株、エネルギーハーベスティング
原子力発電所の停止などからエネルギーのありようが盛んに論じられている今日、エネルギーハーべスティングという分野が注目を集めている。普段は気にもとめない微小な運動や熱から電力を得るこのテクノロジーは、今後どんな展開を見せるか。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:11.05.23
市場規模は5年で10倍以上、既に実用化技術も
 「エネルギーハーべスティング」とは、これまで利用されなかったエネルギーを収穫(ハーべスト)して利用するという新エネルギーの先端分野で、「環境発電」とも呼ばれるテクノロジーだ。人やクルマが通ったときの振動・騒音で発電して照明を点灯させる、受信した電波を情報通信だけでなく電気エネルギーとしても使うといった、いくつもの技術が既に実用段階に到達。今後も新技術が続々出てくると思われる。
  マーケティング会社のESP総研は市場規模について、2013年度には09年実績の10倍以上という約21億円に達すると予測。しかも、この数字はコアとなるテクノロジー単体のもので、例えば電池不要の時計といった、システムがインストールされた製品の市場規模では巨大なものとなるという。
パワー半導体デバイス世界市場 (2010年は見込み、2011年以降は予測)
音力発電/電気エネルギーの地産地消、「ユビキタス発電」目指す
 クルマが通過するときの振動や騒音、人がリモコンキーを押す力など、捨てられているエネルギーを電力として回収するエネルギーハーべスティングのパイオニア、株式会社音力発電。目指すのは「電力が必要なところで電力を得る」というユビキタス発電の実現だ。
「スピーカーの逆利用」を発想して「発電床」の開発へ
人やクルマがその上を動くことで発電する「発電床」
 少しだけ弾力のある黒いタイルカーペット。側面からは数十個のLEDがつながったコードが出ている。タイルを足で踏むと、そのLEDが緑色にピカピカと光る。もちろん外部から電力は供給されていない。足で踏んだ時にかかる荷重を受け止めるときのごく僅かな変形分を電力に変え、LEDを点灯させているのだ。
  人間が歩くときに地面にかかるエネルギーは、普段は動くためだけに使われる。だが、0コンマ数ミリと、ほとんど意識しない程度にタイルカーペットをたわませ、圧電素子でその変形分のエネルギーを回収することで、歩行のためのエネルギーの一部を照明に回すことができる。地面を踏むエネルギーを収穫して再利用するこの「発電床」、近年注目度が高まりつつある「エネルギーハーべスティング」の一種である。
 「雑踏で電気を発生させる技術は、2006年に音力発電を設立して以降、渋谷駅のハチ公前、神奈川県藤沢市役所の入口、新江ノ島水族館など、いろいろなところで実証実験を行っています。大きいところでは首都高速道路中央環状線の五色桜大橋のイルミネーション。これはクルマが通過するときの振動から電力を得るものです。好評をいただいており、消費者がエコイメージの高いものを積極的に選ぶようになったことも大きいと思います」
  エネルギーハーべスティングの研究開発からコンサルティングまでを手がけるベンチャー企業、音力発電の代表取締役である速水浩平氏は語る。社名の“音力”は子供のころ、スピーカーが電力でコーンを振動させて音が鳴るのなら、反対にスピーカーのコーンを物理的に振動させれば発電できるのではと考えたことにちなんだもの。エネルギーハーべスティングという言葉はまだない時代だったが、アイデアはまさにそのものだった。

 大学ベンチャーを志して慶應義塾大学環境情報学部に入学し、以降、音を利用した発電をはじめ、エネルギーハーべスティングの研究開発を手がけてきた。発電床はその産物のひとつだが、開発は一筋縄ではいかなかったという。
  「発電床の原理は、床に埋め込まれたピエゾ素子が重さで変形し、そこで電気が起こるというものです。ピエゾ素子は通常セラミック製で、電気を通すと変形する素子です。通電して変形するならば、逆に変形させれば電気が起こると考えたわけです」
  ところが実際につくってみたら、最初は発電量があまりにも小さすぎて話にならなかったという。また、床にとって耐久性は絶対なのに、素子のセラミックが重さで割れたりもしたそうだ。
「絶対材料や構造を工夫してセラミックが割れないようなつくりを考え、小さい電力でも損失の少ない回路や素子を試し、ようやく使えるレベルになりました。最初の発電床に比べて現在の効率は約100倍。これからもさらに高効率化できると考えています」
  エネルギーハーべスティングに限らず、萌芽的な技術分野では、もっぱら発想力が重要だと思われやすい。だが速水氏は、必ずしも着想だけで発電床を実用化できたわけではない。モノを言ったのは、いざやってみて難しいと感じたことをコツコツと解決していく執念だった。
  「エネルギーハーべスティングはもともと、得られるエネルギーがとても小さいものが多く、それだけにモノを開発するのも難しい。私の場合、他人がやっていないこと、難しいことをやることに価値があると考える傾向がありました。そういう人がエネルギーハーべスティング開発に向いていると思いますね」
速水浩平氏
代表取締役
速水浩平氏
世の中に広く薄く存在する小エネルギーをどんどん電力に
歩行に合わせて下駄の裏面が光る「発電下駄」
歩行に合わせて下駄の裏面が光る「発電下駄」
杖を使って歩くと握りの部分が光る「発電杖」
杖を使って歩くと握りの部分が光る「発電杖」
 音力発電が手がけるエネルギーハーべスティングは、発電床だけではない。速水氏はこの技術が世の中を便利にする例として、電子メーカーと共同で開発したテレビ用リモコンを見せてくれた。リモコンは通常は駆動用の電池を入れる必要があるが、そのリモコンには電池は必要ない。リモコンのボタンを指押しする力から電力を得て、作動させているのだという。
  「投入される電力がごく小さくても、きちんと作動するエネルギーデバイスが次々に登場しています。今の電子機器の多くは電池や電力線を使うものが多いのですが、エネルギーデバイスのイノベーションによって、電池レス、コードレスになるものがどんどん増えていくでしょう。配電やバッテリーを利用せず、電力をその場で必要なだけ発生させることが今後のトレンドになる可能性は高い。言うなればユビキタス発電です」
  速水氏は今後、エネルギーハーべスティングの対象とするエネルギー源についても、より多様な研究を行いたいと考えている。
  「エネルギーハーべスティングは未利用の、あるいは捨てられているエネルギーを有効に活用するというものの総称。その観点では、太陽光や風力といった再生可能エネルギーも対象になりますし、今はまだ芽が出たばかりの潮汐発電、温度差発電なども関連技術が進歩すれば実用化されるでしょう。昔のダイオードラジオのように、電池を使わず、受信した電波が持っているエネルギーで作動できる機器も有望です。それらを含め、可能性のあるものは何でも研究していきたいですね」

 エネルギー源の開発が進めば用途開発も広がる。今後のエネルギーハーべスティング関連の市場規模が、急速に成長すると見込まれているゆえんだ。時計はその好例で、既に振動発電や体温発電などが登場している。
  「いろいろと面白いところに使えると思うんですよね。現在試しているものとしては、発電床を使って人が通ったときに『いらっしゃいませ』など音声を出すシステム、無線電波で電力をまかない、不審者が通過したときにメールですぐに知らせてくれる防犯装置、デジタルサイネージもあります。用途開発は本当にアイデア次第です」
  今後はエンジニアが活躍する場も増えていくと予想されるが、研究開発にはどのような人材が向いているのだろうか。スキルについては、とりあえずエレクトロニクスの原理の知識があれば大丈夫という。
 「実験の経験があればなおよいです。モノづくりの中では、ピエゾ素子など発電に使えるデバイスの知識があると役立つと思います」

  こう見ると参入のハードルは高くないようにも思えるが、大事なのはスキルセットだけではないという。スキルに増して大事なのは、新しいことを生み出すのが好きだというマインドと、広い分野についての知識。
  「知識とは技術に限りません。例えばスポーツに詳しければ、そこでどのようなモノがより役立ちそうかなど発想を得られやすくなりますし、そもそも話題が豊富だと他分野の人たちとコミュニケーションが取れる。構想を実現させる際の、協力を得られる可能性が高まる。そういう資質も大切なんです」
  自分の専門に凝り固まらない柔軟性、いろいろな分野への関心と知識、そして優れたコミュニケーション力――甘くない世界だが、世の中にないものを作り出していく喜びはまさにエンジニア冥利。チャンスは広がっている。
仲野久利氏
代表取締役
速水浩平氏
本格的な市場形成はこれから、目指せファーストタッチ
エネルギーハーべスティングの潜在需要は膨大なもの
 未利用のエネルギーから電力を得るというエネルギーハーべスティングは、環境技術ととらえられることも多いが、実は単なるエコ技術ではない。微小な電気エネルギーで機器を動作することで電池が不要になるため、利便性向上の技術としても注目されているのだ。事例研究の項目で紹介した家電製品のリモコンや腕時計、またクルマのインテリジェントキーなど、電池レス化のニーズが強い機器は枚挙にいとまがない。

  また、大いに活用が期待されているもののひとつに、身の周りにあふれる電波エネルギーの回収利用がある。携帯端末メーカーの世界大手ノキアが、携帯電話の充電を補助する電波エネルギーを集める実験を行っているように、方法によってはまとまった電力を回収できる潜在能力がある。
  こうした潜在需要の高さを背景に、エネルギーハーべスティングに関する企業の研究開発意欲も旺盛だ。現在はエネルギーハーべスティング専業の音力発電と共同研究を行うケースが多いが、今後はメーカー側の開発部門でも独自研究のためのエンジニア人材需要が増える可能性がある。
求められるのは電子、エネルギー関連のスキルと豊かな発想力
 研究開発のエンジニアに求められるスキルとしてまず挙げられるのは、電気・電子関連の技術力だ。得られる電力量が小さいため、ロスを極力抑える省電力回路の設計、微小電力向けのパワーデバイス、電力を蓄えておくためのキャパシタの実装などを理解できていると強い。
  また、電波を無線電力送信に見立てて、電力として回生するというニーズが出てきている。無線ルータや携帯電話、ラジオや無線機など、無線を理解しているエンジニアにもスキルを生かすチャンスが出てくるだろう。エネルギーサプライ側で生かせるスキルはまず、サーモスタットや圧電素子など、電力を発生させられるエネルギー素子関連。太陽電池、風車、水車など既存の再生可能エネルギーのデバイス経験も生かせるだろう。

  ただ、スキルがあればすぐに活躍できるというわけもない。何しろこれからの技術だけに、技術開発や商品づくりのセオリーが出来上がっているわけではないからだ。身の周りにあるエネルギーで回収可能なものには何があるのか、どのようにすれば効率を高められるのか、応用製品をヒットさせるにはどうしたらいいかなど、発想力の豊かさも問われるジャンルなのだ。
  決して簡単ではないが、技術自体がまだ立ち上がり段階。有望分野にファーストタッチすることで得られる楽しみ、やり甲斐はひとしおだろう。

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
こういう技術、好きなんですよね。イメージだけだと「無から有を生み出す」感じでしょう。速水社長の「スピーカーから逆に発電させる」もそうですが、よく考えるなあと思いませんか? 世界中のそんな発想が詰まったエネルギーハーべスティング、電力不足の将来的な救世主かも。

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