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SNS、自社アプリ、プラットフォームを垂直統合させて対応
伊藤直也氏が語るグリーのスマートフォン向け開発シフト
日本でも本格的な普及期に入ったiPhone/Androidなどのスマートフォン。デバイスが変わることで、ソーシャルネットワーク・サービス(SNS)のプラットフォームや、アプリケーションも変わっていく。猛スピードでスマートフォン対応を進めるグリー。その開発現場で話を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.06.15
グリーのスマートフォンシフトはどのように進んだか
伊藤 直也氏
メディア開発本部
ソーシャルメディア統括部長
プロデューサー

伊藤 直也氏

 現在、国内で1000万台使われていると言われるスマートフォン。2年後には国内出荷台数は6000万台に達するとみられる。携帯電話を機種変更するつもりでショップを訪れると、スマートフォンしか並んでいないということが、まもなく起こるだろう。それに伴い、スマートフォンビジネスが本格化しつつある。そのビジネスは、海外市場へも広がる。フィーチャーフォンからスマートフォンへビジネスの軸足を大胆にシフトしつつあるのが、ソーシャルネットワーキング・サービス(SNS)業界。中でもグリーの動きは急ピッチだ。

 国内だけをみても、昨年8月にはスマートフォン端末向けにデザイン・画面構成を最適化したiPhone版「GREE」をβリリース。正式版リリースに向けた開発はその後も続き、今年1月の『モンプラ』を皮切りに、内製ソーシャルゲームのスマートフォン移植が始まり、6月末までに6タイトルがリリース予定となっている。

「SNS、自社アプリ、プラットフォームを垂直統合して、その全てをスマートフォンに対応させている。こうした垂直統合は海外の企業にも例を見ないグリー独自のもの」
 と言うのは、ソーシャルメディア統括部部長の伊藤直也氏だ。
 グリーにおけるスマートフォンシフトは技術的にどう進んでいるのか。まずはスマートフォン向けのアプリ開発だ。スマートフォンアプリのアーキテクチャは、大きくWebアプリとネイティブアプリの2つがある。

 iPhone/AndroidともにオープンソースのHTMLレンダリングエンジンWebKitを標準機能として搭載しているため、WebアプリはHTML5+CSS3+JavaScriptで書かれることが多い。一方のネイティブアプリは、iPhoneではObjective-C、AndroidはJavaでプログラムして、OS側のフレームワークにアクセスすることになる。

 両方のアーキテクチャにそれぞれメリット、デメリットがある。例えば、HTML5によるWebアプリ開発では、サーバーサイドのコンテンツを動的に更新することができるが、3G回線でのアクセススピードには限界があるので、コンテンツの一部を先読みするなどの工夫が必要だ。また、WebアプリのままではiPhone/Androidのデバイス側のカメラや電話帳などの内蔵された機能にはアクセスできない。

 一方、ネイティブアプリは起動が速く、UIの拡張も容易。ただし、動的更新や開発工数が増えるなどのデメリットを持つ。そのため、グリーではWebアプリとネイティブアプリの両方のメリットを合体し、デメリットを相殺する形でハイブリッド型アーキテクチャを用いて開発を行っている。

スマートフォン向けWebアプリ開発の条件とは

 Webアプリ開発では、HTML5+CSS3+JavaScriptが三種の神器のように語られ、それを習得しなければ開発ができないなどと語られることが多い。しかし伊藤氏は、「HTML5もCSS3も従来の規格を拡張したもので習得は難しくはない。JavaScriptもWebアプリ開発をしてきた人なら、すでに馴染みのあるもの。それぞれ学習コストを下げるためのライブラリも充実してきているので、先に勉強していた人が有利というような先行者メリットはさほどない。Webアプリに関しては、これまでのモバイル、PCでの開発とほぼ同じやり方でつくれる。もちろんこれらのスキルセットは重要だが、それがあるからといって、優れたスマートフォンゲームがつくれるわけではない」と、言う。

 それでは、優れたスマートフォンゲームをつくるためには何が新しい要件になるのだろうか。
「これまでのWebアプリの開発で重要とされたのは、Ruby、PHP、Perl、MySQL、Apacheなどのスキルセット。これは、フロントエンドでもバックエンドでも共通のもので、エンジニアの必修技術として定義することができた。ところが、スマートフォンになってそれが変わりつつある。アプリの表現力が豊かになったし、バックエンド側もシステムが高度化された。これからは共通のスキルセットから、少しずつ専門分化が進んでいくと思う。特にサービスをつくる側の人は、スマートフォンのUIを活かして、よりインタラクティブなサービスを実現するのはどうしたらいいのか。アプリケーションやサービス全体のデザインを考えないといけなくなる」(伊藤氏)

 一例として伊藤氏が注目するスマートフォンの技術に、NFC(近距離無線通信)がある。NFCは非接触ICの次世代標準として、今後スマートフォン端末への搭載が見込まれている。単に「おサイフケータイ」のように使われるだけでなく、端末と端末をくっつけることで情報交換できるソーシャル機能もあり、それらを活用した新しいゲームの登場が期待できる。

 スマートフォンは、今後のOSの機能拡張、ネットワークやCPUのスピードアップで、現在のフィーチャーフォンはもとより、ノートPCさえをはるかに上回るモバイルデバイスに化ける可能性がある。そうした未来を見越した上での、アプリケーションデザインが重要になるというわけだ。
「これまでは少数のチームで開発できたゲームも、これからはより大規模な開発が必要になるかもしれない。コンソールゲームでも、ファミコンの初期には少人数で済んだ開発が、近年のゲーム機では開発規模や開発工数は膨大になった。スマートフォンへの対応で、ソーシャルゲームもそのように大規模化する可能性がある」と、伊藤氏は言う。

 とはいえ、いたずらに移植や新規開発にかかわる開発工数が膨らむのは避けるべきこと。グリー内製ゲームのスマートフォン移植にあたっては、フィーチャーフォンのソースをiPhone/Androidに容易に展開できるように中間の作業レイヤーを置き、そこにツール類やライブラリ群、さらには移植ノウハウといった共有知を整備してきたという。移植タイトルが増えるたびに、その「移行基盤」は拡充してきた。

「内製ゲームの移植で培ったこれらの基盤は、いずれはサードパーティのデベロッパーにも公開したい。そのことによって、デベロッパーの移植生産性を高めることができる」と伊藤氏。グローバルなスマートフォンビジネスの展開はまずはプラットフォーマーとしてのグリーがリードし、そこに国内外のデベロッパーを呼び込むという戦略は明確だ。

メディア開発本部 ソーシャルメディア統括部長 伊藤 直也氏

ニフティ、はてなを経て、2010年9月1日、グリーに入社。自身のブログでも精力的にプログラミング技術などの実装ノウハウを紹介。また雑誌や書籍の執筆を通じたエンジニアの技術力底上げについても高く評価されている。

本場のハイレベルなエンジニアと肩を並べて仕事。その刺激がスキルを磨く

 先に内製ゲームのスマートフォン移植がものすごいスピードで進んでいると述べたが、その指揮を取ったのがソーシャルアプリケーション統括部 第3プロダクションチームのグループリーダー伊野友紀氏だ。
「1月から始めて6月末までの半年間で、6タイトルを移植予定している。時間をかけてやれば決して難しいことではないが、これを1タイトルあたり2〜3週間という、グリーならではのスピードでやりきるのが難しかった。短期間で、ゲームのモデルやルール、ユーザーデータなど基盤を引き継ぎ、スマートフォンらしい表現力をもたせる。単に機械的にFlashのコードをHTML5に変換するというよりは、フィーチャーフォンのゲームを見ながら、スマートフォン用に新たに作り直している」(伊野氏)

 Flash部分の移植作業と同時に、スマートフォンならではのUIへの対応や、アクセスするデバイスごとにFlashを表示したり、HTML5でレンダリングしたりする仕組みづくりも重要だった。Flashチームと、それをサポートするエンジニアリングチームの共同作業だ。「HTML5+CSS3+JavaScript」のスキルセットを持つデザイナーやエンジニアが社内にたくさんいたわけではない。移植作業をしながら習熟していくというプロセス。ボタンの配置などスマートフォン独自のUIへの対応もOS側に絶対厳守のガイドラインがあるわけではないので、自分たちが試行錯誤しながら最終的に優れたインタフェースを見つけていくという過程があった。
「果たして一般ユーザーは、僕らが期待しているように、ボタンに触れてくれるだろうか。社内でスマートフォンがまだ苦手そうな人を見つけては、さり気なく使ってもらったりした」(伊野氏)

伊野 友紀氏
メディア開発本部
ソーシャルアプリケーション統括部
第3プロダクション
グループリーダー

伊野 友紀氏

 移行過程で気づいたことは、Wikiベースでナレッジを共有。デバイスの違いをシステム的に吸収する仕掛けも用意した。これらが先に伊藤氏の述べた「移行基盤」につながっていく。
「移植タイトルが増えるごとに、Wikiのノウハウも貯まってくる。最後のころは、僕らエンジニアリングチームが関わらなくとも、開発チームがWikiを読んだり、すでに移植したタイトルのソースコードを読んだりすることで、自分たちでやれるようになっていた」(伊野氏)

 移植ノウハウが半年の間に社内に急速に蓄積されていったことがわかる。内製アプリの移植サポートは6月末までに完成予定。伊野氏のチームは、スマートフォン・ネイティブアプリの開発フェーズに進んでいる。
「これからはソーシャルゲームのマーケットが海外にも広がる。エンジニアの活躍フィールドは、僕が2009年にグリーに入ったときには想像もしなかったようなスピードと規模で広がっている」と、伊野氏は“武者震い”を感じている。

 移植過程でも力を発揮したグリーのエンジニアのスピーディな学習能力、Wikiに情報を集積し、互いのソースコードをオープンにしてレビューし合う共有のスタイルは、ネイティブアプリ開発でもいかんなく発揮されるに違いない。

メディア開発本部 ソーシャルアプリケーション統括部 第3プロダクション グループリーダー 伊野 友紀氏

ヤフーでヤフーメールの開発に従事した後、2009年5月入社。グリーで『ハコニワ』『踊り子クリノッペ』『海賊王国コロンブス』などの開発に当たり、現在は内製ゲームのスマートフォン展開を担当している。

SNS「GREE」もスマートフォン対応。世界に向けたサービスを生み出せ

 SNS「GREE」のスマートフォン対応は、ゲーム移植より先行した。昨年8月リリースのiPhone用β版をベースに、その開発を引き継いでいるのが、今年1月に入社したばかりのエンジニア、大日田貴司氏だ。ソーシャルメディア統括部で、スマートフォン向けSNS本体を開発するチームに所属している。

「スマートフォンでは表現できることが幅広く、処理速度も速い。HTML5やCSS3などの新しいWebテクノロジーも使える。そうした特性を活かしながら、フィーチャーフォンやPC向け「GREE」で培ったエンターテインメント性豊かな独自サービスも盛りこみ、よりリッチなインタフェースを実現することが私の役目。スマートフォン版開発にあたっては、PCや携帯でこうだったからそれを踏襲しなければならないという制約は少なく、比較的自由に設計できている。エンジニアにとっては楽しい仕事」
 と、大日田氏は言う。大日田の所属するチームは、大日田氏を含め入社1年前後のフレッシュな社員ばかり5人で構成される。いわば会社の事業の顔であるSNS開発を、新人たちにそっくり任せてしまうというあたりは、グリーらしさというべきかもしれない。

 そもそも、大日田氏は文系学部出身。グリーの田中良和社長も文系出身と聞き、「それでもプログラム開発ができるんだ」と勇気づけられてWebサービス開発の世界に入った一人だ。感じたこと、好き嫌いなどを○×で共有する新感覚のコミュニティサービス「コトノハ」を一人で作り上げ、現在も個人的にそのサイトを運営している。

大日田 貴司氏
メディア開発本部
ソーシャルメディア統括部

大日田 貴司氏

 グリーとの縁はそれだけではない。グリーがまだ社員3人ぐらいだった2005年頃、一度、田中氏に入社を誘われたことがあった。 「そのとき断ったのはまだ自分に自信がなかったから。その後、技術的にも精進を重ね、複数のWebサービス企業を経て、最終的には独立もしたんですが、グリーのビジネスが拡大し、世界にも進出するという話を聞いて、改めてそこに参加したくなった。田中社長にメールしたらすぐに返事があって……」(大日田氏)
 そして、とんとん拍子に入社が決まった。グリーの勢いは、こうしてかつて縁がありながら、別の道を進んでいたエンジニアをも巻き込んでいく。

「Webサービスのアイデアを出してそれを実装できるのが自分の強み。その部分を期待されての入社ということもわかっている。自分らしさを出しながら、「GREE」の機能を高めて、世界で勝負していきたい。世界のユーザーに支持されているSNSとしては、やはりFacebookがライバル。実名ベースのFacebookと「GREE」では方向性は違うけれど、これからは「GREE」を世界で競争できるようなSNSに育てていく」
 と、大日田氏は大きな目標を語るのだった。OpenFeintの買収によって、すでに1億人規模のユーザー基盤を獲得した「GREE」。世界中のユーザーに向けて、これからSNS、アプリ開発、サーバー基盤がそれぞれどう展開するか。エンジニアの注目は高まる一方だ。

メディア開発本部 ソーシャルメディア統括部 大日田 貴司氏

ベクター、paperboy&coを経て、2007年エスカフラーチェLLCを起業。2011年1月グリーに入社。これまで「Socialtunes」「コトノハ」など、新感覚のソーシャル系サービスを世に送り出してきた。

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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る

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