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東京のごみは最終的には東京湾の埋立地に埋められる。その許容量はあと50年しかない。廃棄物処理の最前線で、プラント建設や運転のための技術支援を行う機械系エンジニアがいた。民間からの転職者。そのノウハウはどう活かされたのか。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.06.03
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環境局廃棄物対策部/財団法人
東京都環境整備公社 技術部技術課長(技術士) 松本 武志氏
大学機械工学部卒業後、建設会社に就職。原子力発電所などのプラント建設に従事。1995年、機械職として入都。清掃局、下水道局などを経て2009年より現職。
中防不燃ごみ処理施設
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東京・お台場のさらに沖合に広がる中央防波堤。通称「中防」と呼ばれるが、この周辺に巨大なごみ処理施設が集中立地されていることは、都民の間でも意外と知られていない。防波堤の北側には、以前可燃ごみも埋立てられていた「内側埋立地」がある。ここはすでに埋立が完了、現在は「外側埋立処分場」の314haが埋立中だ。さらに沖合に480haの「新海面処分場」が設置されている。 中防のごみ処理施設には、年間300万トンといわれる東京23区のごみが清掃工場で焼却灰となり集められる。家庭ごみや事業系のごみなど一般廃棄物のうち、燃えないごみは不燃ごみ処理施設で細かく破砕、分別した後に、外側埋立処分場に持ち込まれ、焼却灰は新海面処分場に埋め立てられる。 新海面処分場は東京湾につくることができる最後の埋立処分場だ。これ以外にもはや処分場を設置できる水面は東京湾にない。数年前までは、ここもあと30年で満杯になるといわれていたが、今は少子高齢化、日本経済の停滞、リサイクルの技術の進展、処分技術の進歩などで寿命は50年に延びた。それにしても、限られた寿命であることには変わりがない。 いずれ最終処分場が限界に達するという話に加え、大量に出るごみの処理をめぐっては、有害物質による汚染や、ごみの焼却により排出されるCO2による地球温暖化など、様々な問題が懸念されている。
「家庭や事業所から出るごみそのものの発生を抑え、都民の3R(リデュース、リユース、リサイクル)意識を高め、さらに適正な廃棄物処理を進めることが、欠かせない課題です」
中防内側にある不燃ごみ処理センター、大田区にある京浜島不燃ごみ処理センターや城南島エコプラント、お台場の有明清掃工場などの維持・管理もこの公社の仕事だ。城南島以外は、東京23区清掃一部事務組合というところからの委託で管理している。 |
廃棄物処理に限らず、東京都の技術職には人口1300万人の大都市で蓄積された知識やノウハウを、他の自治体に伝え、その業務を支援していく役割も課せられている。松本氏は前の部署が下水道局だった。
それは都職員としての、あるいは一人の機械系エンジニアとしての誇りを感じる瞬間でもあった。その誇りは、環境局に移り、環境整備公社に異動になってからも変わらない。現在は都下の市町村に対して廃棄物処理施設の建設・運用などについてアドバイスする立場。公社は公益法人であるため、民間のコンサルタント会社などと違って、より中立的な立場からコンサルテーションが行うことができるのだ。
具体的には、廃棄物処理施設における機能状況や耐用の度合をチェックするため、精密機能検査や設備診断を行う。さらに、診断結果をもとに適正な定期点検・補修工事などの仕様を決定し、施工監理を実施する。これによって、自治体の維持管理費の縮減も図れるようになる。 こうした技術支援は神奈川、沖縄など都外の市町村からも要請があり、今後は海外にも広がる可能性を秘めている。アジアの新興国では経済成長とともに、廃棄物処理が新たな都市行政の課題になりつつあるからだ。松本氏自身、廃棄物処理施設についてコンサルティングを行うため、中国から呼ばれたこともあるという。中国ではいまだ一般ごみの分別収集も行われていないが、それだけに今後のごみ処理事業の伸びしろは大きいのだ。 |
城南島エコプラント
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ごみ処理で重要な役割を果たすのが、産業廃棄物の処理事業者だ。とりわけ産廃中間処理業者は、大量の廃プラスチックや建築廃材などを資源としてリサイクルする役割を担っている。こうした事業者のうち、「適正処理」「資源化」「環境に与える負荷の少ない取り組み」などを率先して行っている優良な業者を評価・認定するのが、2009年から東京都で始まった「優良性基準適合認定制度」だ。環境整備公社は都から第三者評価機関としての指定を受け、優良事業者の認定評価業務を担当していて、松本氏には優良性認定評価室長の肩書きもある。
「不法投棄などのない健全な産廃処理ビジネスを発展させ、優良な処理業者を育て、廃棄物の適正処理を進めるうえで、これは重要な制度です。小さな事業者でも真面目に仕事に取り組んでいればきちんと評価され、産廃プロフェッショナル、産廃エキスパートといった認定を受け、ロゴマークを冠することができるようになりました。企業などが産廃処理を依頼する場合の一つの目安になります」(松本氏)
単なる許認可業務ではなく、それを越えて、「静脈産業」と呼ばれる新しい産業領域の創成にも関わることができる。技術系公務員の新しい像とも言える。
いま東京都では、「10年後の東京」が経済活動と環境を両立させ、誰もが安心して健康に暮らすことができ、日本のダイナモ、アジアのリーダーとしての地位を堅持することができるように、様々な事業ビジョンが策定され、そのための実行プログラムが動き出している。「世界最先端の低炭素都市の実現」「世界に誇るクリーンな都市環境の実現」などもそのプログラムの一つだ。
そうした計画の中枢にいるのが技術系職員たちだ。
「東京都には上下水道、交通、港湾、廃棄物処理などのインフラ施設の建設や維持管理を通して長い間に培われてきたエンジニアリングのノウハウがあります。こうしたインフラ技術は一見目立たないのですが、その実、事業規模は大きく、施設の数も多い。技術者としてこんなに幅広い経験を積める職場も、他にはないんじゃないかと思いますよ」と、松本氏は言う。
とりわけ近年は団塊の世代が退職期を迎えており、これまで都が培ってきた技術をいかに継承していくかが大きな課題とされている。
「逆に言えば、若い技術者にとっては、それだけ多くの経験が積めるチャンスということもいえますね」
松本氏の前職は建設会社に勤務する機械系のプラントエンジニア。北海道・泊の原子力発電所、東海村の原子力研究施設、兵庫・播磨の大型加速器施設「Spring-8」の建設に関わったこともある。
「面白い仕事でしたが、民間企業ですからやはり利益追求が最優先。今ほど企業コンプライアンスが厳しく問われる時代ではなく、建設過程で出る廃棄物が山積みされているという情景もよく見ました。こうしたごみを適正に処理する仕事というのも、エンジニアとしてはやりがいがあるのではと思った」のが、都の技術職募集に応じたきっかけだ。
希望通り、最初の配属は清掃局の工場建設部門。まだ23区が各区で清掃工場を持つことが求められていた時代で、次々に工場が建った。前職でのプラント建設のノウハウがずいぶん役に立った。
その後は、下水道局や築地の中央卸売市場などの仕事にかかわった。築地市場には冷凍・冷蔵庫はもちろんのこと、芝浦市場には食肉をコンベアで衛生的に処理する設備もあって、メカのエンジニアとしては腕の発揮しどころ。
「他にも機械屋さんが多い職場だと、私はまだ行ったことがないですが、港湾局や交通局がありますね。私の同僚の中には、交通局時代に日暮里・舎人ライナーの車両開発などを担当した職員もいます」(松本氏)
たしかに異動を重ねるたびに新しい技術領域に接することができる醍醐味が、ここにはあるようだ。その一方で、一つの分野を掘り下げて、最終的には工学博士号を取得するようなエキスパートも存在する。
「想像以上にいろんな技術や経験をもつ技術者が揃っているというのが、東京都で仕事を始めるようになって最初にもった印象でした」と、松本氏は振り返る。
こうしたスペシャリストとしてのキャリア以外にも、ゼネラリストとしての道もある。そこでは、プロジェクトのマネジメント能力が問われる。
「都の仕事では一般競争入札による契約という局面にタッチすることがよくあります。手続きの透明性を保つことは公務員としては最低限の義務。それとともに、安かろう、悪かろうではなく、業者さんの技術品質を確保しながら事業を進めることが重要なポイントになります」
限られたコストで品質を高め、外部も含めたプロジェクトチームの力を最大限に引き出す──このあたりは民間企業のエンジニアにも同じように求められる課題と言える。
「だからこそ、民間での経験は十分役立つと思うんです。さらにいま都が求めているのは、民間で培ったエンジニアの発想力。それを大胆に持ち込んで、都の事業を大きく変えていってくれるような人材が欲しいですね」
と松本氏。「地方公務員は想像以上に忙しい」と言うその表情からは、個別の技術課題に取り組みながら、大都市のインフラをしっかりと支えている、エンジニアとしての自負がうかがえた。
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