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自作プログラムを自慢する、手を動かし続けて思考停止しない
ニコニコ動画を動かすドワンゴエンジニアの技術屋魂
ドワンゴが系列会社のニワンゴとともに、企画・開発・運営する動画コミュニティサイト「ニコニコ動画」。登録会員数は約2000万人。いまや、日本のインターネット総トラフィックの1割を占めるといわれる。それを支えているエンジニアの実像に迫った。
(取材・文/広重隆樹 編集/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.02.24
たった5日間で「ニコニコ動画」を作った男たち
鈴木 慎之介氏
ニコニコ事業本部 企画開発部
担当部長
ニコニコチャンネルプロデューサー

鈴木 慎之介氏

 いまや「日本でも屈指の動画視聴サイト」と言われるまでに成長し続ける「ニコニコ動画」だが、2006年12月に「(仮)版」がリリースされたときは、小さな実験サービスにすぎなかった。企画したのはドワンゴの創業者、現・代表取締役会長の川上量生氏。その前年にドワンゴは携帯向けのストリーミング放送サービス「パケットラジオ(パケラジ)」を開始しており、インターネット上の新しいメディアの形を探っていた。
「パケラジの後は、PCで動画を見ながらネット・ライブのようなものができたらいいね」という川上氏の提案に、さくっとわずか3日間でプロトタイプを作ってしまったのが、戀塚昭彦氏(現・研究開発本部研究開発部技術支援セクション)。

 プロト開発が3日。そして実装はわずか5日間。信じがたいスピードである。戀塚と氏と共にニコニコ動画の実装を担ったのが、今回話を聞いたニコニコ事業本部企画開発部担当部長の鈴木慎之介氏だ。
「戀塚と一緒のチーム──といっても2人しかいないのですが──に入ったのが2006年11月下旬。でもその翌月の12月12日には実験サービススタートということになっていて、こりゃ急いで作んなきゃ、という感じでした」(鈴木氏)

 最初からこれほどヒットするという予感があったわけではない。ただ、「ニコニコ動画」には「ほかにはないサービスの形」があったのはたしかだ。
「動画の上にコメントを重ねるサービスは、その当時なかった。そのコメント機能があるからこそ、あたかも同時にその場に人がいるような感覚が成り立つ。作りながらサービスを使いましたけど、これは楽しかったですね。流行るかどうかっていわれると、そこまでは考えてなかったですけれど(笑)」(鈴木氏)

 その後の「ニコニコ動画」のメディアとしての成長ぶりは、あらためて言うまでもない。「ニコニコ動画モバイル」「ニコニコ市場」「ニコニコ生放送」などの派生サービスも続々と生まれた。2010年9月期決算で事業は初の通期黒字化を達成。2011年1月には有料プレミアム会員が110万人を突破した。

大量トラフィックをさばくのはエンジニアの使命

 サービス初期の頃、DoS攻撃でサービスを一時停止したこともあるが、それにもめけず逞しく成長できたのは、堅牢なインフラがあったればこそだ。
「大量のユーザーのアクセス負荷をどうさばくかというのは、当初からの最重要課題でした。ダウンしてはいけない。たとえダウンしてもすぐに復旧しなければならない。ネットユーザーは待たせるとすぐに離れていってしまいますから。サーバーをどんどん増やせばいいが、それではコストがかかる。いかにサーバー台数を増やさずに負荷を乗り越えるか。そのためには、OSのカーネルをいじって、パラメーターをチューニングするとか、そういった細かい職人芸が不可欠でした」(鈴木氏)

 鈴木氏は高校卒業前からドワンゴに入社し、卒業式には有休を取って出席したという早熟のエンジニア。「ニコニコ動画」を担当する前は、着うたなどの携帯向けサイト「dwango.jp」に関わり、テレビCMを打った直後にユーザーが殺到するサイトの負荷分散対策の経験があった。また、ネットワークゲーム用のサーバー開発を通しても、ネット事業を支えるのがインフラであることを十分理解していた。

 いま競争優位に立つネットサービス会社の多くがそうであるように、ドワンゴにもまた、ないものは自分たちで作ってしまう「自社開発」の技術風土がある。
「たとえば、ニコ動ではコメントを処理するサーバーがボトルネックになりそうだという予感はありました。だからサーバーソフトは自分たちでC++を書いて自作しました。大量のトラフィックを高速にさばくのはドワンゴの強みだという自覚が僕らにはありましたし、それをもっとアピールしたかった。だから、自社開発するのは当然という感覚です」(鈴木氏)

 むろん、戀塚氏や鈴木氏といったスーパーエンジニアだけが、ドワンゴにいるわけではない。たった2人のスーパーエンジニアの奮闘だけで、ここまでのサービスを運営できるわけもない。人数としては多い普通のエンジニアを、どのようにチームとして組織し、全体としての力を発揮させるのか。このあたりは、いまニコニコ動画開発を行うエンジニアを束ねる鈴木氏の課題でもある。
「エンジニアって得意分野、不得意分野ってあると思うんですよね。まずは自分でこれが得意だと思ったものを、どんどん伸ばしていくことが大切。そして、リーダー役がそれぞれの得意技を組み合わせながらビジネスのニーズに沿ってチームをつくっていく。こうした補い合い成果を最大限に発揮する体制が、いまニコニコ動画を支えているんです」(鈴木氏)

趣味で iPhoneアプリ開発。どうせやるならそういう会社へ
松前 健太郎氏
研究開発本部 研究開発部
第四開発セクション
ソフトウェアエンジニア

松前 健太郎氏

 ユーザーの投稿動画から自社がプロデュースするイベントの生放送、さらに日々のニュースから政治家の単独会見まで、ネットユーザーの関心に応えるフレキシブルなメディアとして発展しつづける「ニコニコ動画」。アクセスするデバイスはいま、PC、携帯からスマートフォンへと広がる。「ニコニコ動画」や「ニコニコ生放送」視聴用のiPhoneアプリ開発を担当するのが、松前健太郎氏だ。

 大手製造業系SIerの、背広にネクタイのSE時代から、趣味でiPhoneアプリを書いていた。例えば2008年10月にAppStoreに登録された「Drummer」。画面上に表示される、キック、スネア、ハイハットなどのアイコンを指でタッチしてドラムを演奏するアプリだ。世界中からトータルで10万回以上ダウンロードされた。
「その後にも、パラパラマンガを作るアプリを書きました。前職はB to Bの会社なんですが、iPhoneアプリでB to Cの面白さに目覚めたのが、転職のきっかけといえばいえるかもしれません」(松前氏)

「ニコニコ動画」のヘビーユーザーではなかったが、そのサービスや技術の仕組みには面白さは感じていたし、ネットの記事でドワンゴの職場の雰囲気などを知るにつれ、転職先としての魅力が高まっていった。むろん、昼間はお堅いSE、裏では趣味のプログラマというエンジニアは世の中に少なくない。二足のワラジを履き続けることも不可能ではなかったのでは? 「前の会社にいたときも、平日の夜とか土日とかはずっとiPhoneアプリを書いていて、次の日が辛いみないなことがありました。これだけやってるんだから、いっそのこと、そういう会社に移った方が自分としても自然なんじゃないかなと。前職でiPhoneアプリやB to Cを事業化しようと思っても、なかなかできる環境じゃなかったですからねえ」(松前氏)

自作のプログラムを自慢するエンジニアの周りに人垣ができる

 ドワンゴ入社直後に配属されたのは、「ニコニコ動画」モバイルのバックエンド技術。入社後も空いた時間を iPhoneアプリ開発に充て、勝手に「ニコニコ生放送」アプリのプロトタイプを作っていた。それを社内のエンジニアに見せたところ、いけるんじゃないかとなって、プロジェクトがスタート。

 このように自発的な趣味のアイデアやプログラムが、その後の事業に結びつくことは、ドワンゴでは珍しいことではないらしい。
「自分のプログラムを自慢するのが好きな人は多いですね。こういうの作ったよって誰かがいうと、自然に人が寄ってくる。新しいものを使ってみんなでイエイ!みたいな文化」と前出・鈴木氏も言う。

 私的なプログラムであれ、仕事で書くプログラムであれ、それを周囲のエンジニアがレビューしてくれるという関係は重要だ。同じレビューでも、自分よりもスキルが上のエンジニアにされたほうが成長の糧になるのはもちろんだ。エンジニアを成長させる要因の一つは、このように、周りに助言してくれるエキスパートがいるかどうかという意味での“開発環境”である。
「例えば、“しんの(※註:鈴木慎之介のハンドル名)の部屋”というのがあって、それは何かっていうと、鈴木さんがこの時間はそこ開けておくから何でも好きに話に来ていいよという時間帯のことなんです。けっこうみんな、そういう時間を使って、俺、こんなの作ったぜと持ち込んで、そこでレビューしてもらっていますね」(松前氏)

 何曜日何時と決まった定例レビューではない。「空いた時間ならいつでもノックしろ」というわけだ。エンジニアの成長に不可欠の技術評価体制が、こうした緩やかな形で保証されている。そこで展開されるエンジニアののびのびとした自主性こそが、ドワンゴの技術と事業の基盤を強くしているのだ。

 iPhoneアプリのバージョンアップを繰り返しながら、いま松前氏は新たなスマートフォン向けアプリ開発のプロジェクトメンバーとしても動き出している。詳細は語ってもらえなかったが、「全く新しい、大人数で楽しめるコミュニケーション・ツール」なのだそうだ。年内にはリリース予定というが、そのためには「いま、人が全然足りないんですよ」と松前氏はぼやくのだった。

「思考停止したら終わりだ」──ドワンゴが求めるエンジニアーズ・ハイ

 さて、これからドワンゴが求めるエンジニア像とはどのようなものか。
「自慢できる技術」「好奇心旺盛」「新しいものへのアンテナ」「情報力」「言われたことをやるのではなく、自主的に手を動せる人」「自らもネットユーザーで、ユーザーの気持ちが分かる人」など、いくつか要件が上がるなかで、面白いと思ったのは、鈴木氏が挙げた「思考停止しない人」という言葉だった。
「何か問題にぶつかったときに、簡単に挫けず、あきらめない。なぜ解決できないのかをずっと考え続けて、どこかに突破口を見いだせる人ですね」

 かつて「ニコニコ動画」のスタート時には、サーバー負荷を監視するために、会社に寝泊まりするようなこともあった鈴木氏。しかし単に監視要員としてそこにいたわけではない。会社のソファに横になりながらも、「サーバーを増やさずに負荷を削減する仕組み」をずっと考え続けてきた。おそらく脳内にアドレナリンがあふれ続け、“エンジニアーズ・ハイ”とも言われるハイテンションの状態だったと想像できる。そんな状態を辛いと思ったら、たぶん技術者としては失格だ。エンジニアとは、昼夜を分かたず考え続けること、手を動かし続けることから、イノベーションを見いだす人のことを言うのだから。

 こうした資質をバックグラウンドにもちながら、スマートフォンアプリの開発では、「iPhoneやAndroidアプリの開発経験者ならベターですが、それがなくても、HTML5やCSS、JavaScriptなどWebまわりの技術があれば、ものすごく助かります」と松前氏は言う。

 ドワンゴにおけるエンジニアのキャリアパスは単一ではない。特定技術のスペシャリストとしてアプリやインフラ開発を飽きるまで続けるというのも、もちろんある。かたや事業のオーナーシップを握って、企画・開発からマネタイジングまでにかかわるプロデューサーへの転身も十分に可能だ。

「どちらにも行ける多様性がドワンゴにはあります。ただ、どっちに向かうにしても、そのベースにエンジニアリングがあるというのは大切。自分で考えたことを自分でつくれるというのは、サービス内容を磨き、事業を大きくする上で、最短の道だと考えています」と鈴木氏。
 ドワンゴは、ネットサービスにかかわるエンジニアの可能性を、大きくかつ猛スピードで開いていく企業なのだ。

研究開発本部 研究開発部 第四開発セクション ソフトウェアエンジニア 松前 健太郎氏
2003年大学卒業後、大手SIerに就職。主に、Web開発、フレームワーク、ツール開発など後方支援的な立場で仕事をする。在職中から趣味でiPhoneアプリを開発。2009年6月、ドワンゴに転職。「ニコニコ動画」モバイルのバックエンド・システムに関わったあと、ニコニコ動画・生放送視聴用のiPhoneアプリ開発を担当。
ニコニコ事業本部 企画開発部 担当部長 ニコニコチャンネルプロデューサー 鈴木 慎之介氏
小学生時代からプログラミングを始め、中高時代にはプログラムを公開する個人サイトを運営していた。高校卒業直前の、2000年2月ドワンゴ入社。携帯コンテンツプログラマ、ネットワーク・エンジニア、システム・エンジニアなどを経て、2006年12月から「ニコニコ動画」の開発に携わり、本番サービスに適したインフラ設計、アプリケーション詳細設計、実装を担当。2010年10月よりニコニコチャンネルプロデューサ兼任。
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