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自分の技術を世界のユーザーにダイレクトに伝える
アメーバピグ、AmebaPicoで活躍するFlashディベロッパー
サイバーエージェントが提供するアバターコミュニティ「アメーバピグ」が、2011年1月時点で利用者が600万人を突破した。その成長の舞台裏には数多くのエンジニアがいる。今回はAdobe Flash技術にかかわるエンジニアにスポットを当ててみた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.02.25
「釣りゲーム」をプロデュースするFlashエンジニア
高岡 哲也氏
アメーバ事業本部
ピグディビジョン
クリエイティブディレクター

高岡 哲也氏

 「アメーバピグ」のクライアントアプリケーションの多くはFlashで開発されている。「しろくろ(オセロゲーム)」「えあわせ」「海賊じゃんけん」「大富豪」などのミニゲームもFlashでオーサリングされている。2010年6月、「アメーバピグ」で遊べる大型ゲームの第一弾として「釣りゲーム」がリリースされた。周りのユーザーと釣り上げた魚の大きさや種類、量などを競い合えるなど、これまでのユーザー対戦型のミニゲームと比較してもよりゲーム性が高い。釣り具やエサなど、ユーザーの競争心をくすぐるアイテムも豊富に提供されている。

 この「釣りゲーム」のプロデューサー兼Flashディベロッパーが、高岡哲也氏だ。サイバーエージェント入社後2年間は、インターネット広告事業本部で、キャンペーンページを制作するFlashディベロッパーだった。2006年、サービス開発の部署に異動し、「Ameba」から派生するさまざまなサービスに関わるようになる。「アメーバピグ」についても、立ち上げ直後の2009年4月から参加。いくつかのミニゲームの開発の後、2010年2月から「釣りゲーム」を担当するようになった。

 Flash技術については、学生時代、Flash5の頃からの関わりだ。Flashはこのバージョンで初めてActionScriptが搭載され、プログラミング機能が大幅に強化された。
「私はちょうどそのころから使い始めました。プログラミングは全然苦になりませんでしたね」と、高岡氏は言う。

大規模開発、ソケット通信、柔軟なサーバー構成

 以来、Flash一筋。その良さも限界も知り尽くしている高岡氏に、「アメーバピグ」におけるFlash開発の一端を語ってもらおう。
「アメーバピグでは、一つの機能を作成するにしても、機能ごとにモジュールを切り分け、それぞれを作り込みながら最終的に連動させるという、大規模な開発をしています。Flashでこれだけの規模の開発をしている企業はそう多くはないと思います」

 モジュールの切り分けによって「他のモジュールに影響を与えることなく、自由に開発を進められること」が最大の利点だ。もちろん各ゲームで共通の要素は最大限、共有化を図り開発スピードを高めていく。「アメーバピグ」のバックエンド部分にも特色がある。クライアントFlashアプリケーションとサーバー群は「ソケット通信」と呼ばれる方法で情報をやりとりしている。ソケット通信は、アドレスとポートの組であるソケットを指定して回線を開くだけで、データの送受信を行うことができる通信形式である。複数のユーザーが情報を送受信しながら動くピグには向いている。
「ソケット通信をこれだけの規模で使う事例はまだ珍しいと思う。この方法を使うことで、ピグのゲームの軽快性が高まっている」(高岡氏)

 また、「アメーバピグ」を支えるサーバー群にも独自の工夫が凝らされている。詳しくは、同社の公式エンジニアブログ「アメーバピグのソケットサーバーたち」(http://ameblo.jp/principia-ca/entry-10705380599.html)を参照していただくとして、「釣りゲーム」は、エリア全体がゲームフィールドであること、他の機能と頻繁なデータのやりとりが必要であること、最低限3000人程度の同時プレイを可能にしなければならないことなどから、それを実現するために、サーバー構成を一新している。サービスに応じて柔軟にサーバー構成を変化させることができるのも、サイバーエージェントならではの技術力といえる。

娯楽性と収益性──ゲームバランスの調整に試行錯誤

 最近は、Web技術の一つの標準としてHTML5が注目されている。アップルのiOSのようにFlashの動作を制限するプラットフォームもあり、Flashの将来性を危惧する声もある。
「FlashとHTML5は似て非なるものです。最近はWeb広告以外でも、HTML5で構築する例をよく見かけるようになりましたが、アニメーションの動きをみるとFlashに比べやはりぎこちない。あえてHTML5を使う必要がないところにも無理に使っている感じ。FlashとHTML5の特性を使い分けて共存させていくというほうが、現実的だと思います」と、高岡氏は言う。

「釣りゲーム」の開発で、高岡氏がFlash以上に苦労したのが、ゲームの条件バランスをどうするかという問題だった。
「魚を釣り上げるとポイントが得られ高いランクの釣り具を購入できます。購入した釣り具を使いさらに珍しい魚を釣り上げることができる。そうして長い時間遊んでもらえるようなゲームに仕立てなければなりません。非課金ユーザーが楽しめるゲームバランスを作り、そして課金ユーザーになればもっと速くランクが上がりますよ、と訴求する。これがなかなか難しいんです」

 ゲームとしての娯楽性と、サービスの収益性を両立させるために、どのようにパラメーターを設計すればよいのか。試行錯誤は今もなお続いている。

開発を加速化させるピグ・フレームワークの存在

 「アメーバピグ」におけるFlashによる大規模開発を、別の言葉で語るのは、2009年10月入社の志内幸彦氏。前職のWeb広告会社では、FlashでキャンペーンサイトやECサイトの構築を担当していた。

 サイバーエージェントに入社し、「アメーバピグ」のチームに参加してみて驚いたのは、
「通常はFlashディベロッパーと呼ばれる人たちがコツコツと一人で、手作業でつくるところを、ピグ・フレームワークと呼ばれるフレームワークがそろっていて、それを利用してスピーディに新機能の開発を行うことができること。途中からそのプロジェクトに参加した人が短時間で戦力になれるのも、このフレームワークがしっかりできているためです。また専用のAirアプリを使用することでデザイナーでも簡単にアクションやアイテムをつくれてしまうんです。」

 広告クライアントのためでなく、よりエンドユーザーに近いところで万人に向けて自分のFlash開発力を試したい。そう思っていた志内氏にとっては、ピグの大規模開発システムは、より戦略的なものに映ったようだ。職人芸でクライアントを喜ばせるというより、システム力でより多くのユーザーを興奮させる。サイバーエージェントの技術力の源泉がそこにはあった。「アメーバピグ」で培った志内氏の開発力は、海外版のサービス「AmebaPico」で、その真価が試されようとしている。

 「AmebaPico」は2010年3月にスタートしたが、わずか10カ月足らずで300万人にまでユーザーを広げた。日本とは違って、Facebook経由で利用するユーザーが多く、米国、欧州、東南アジアなど様々な国でユーザーを会得し、日本発信のアバターコミュニケーションが世界でも通用することを実証しつつある。

 ただ、インドネシアなど東南アジア圏にユーザーが広がったことは、志内氏にとっても意外だった。「AmebaPico」では各国語でコミュニケーションできる専用のエリアを用意しており、例えばインドネシア語エリアではインドネシア語が飛び交う。
「見ても全然判らないですけどね(笑)。Facebookの英語のファンページもあって、そこには英語で書き込んでもらえるので、現地のユーザーの反応はそこで推し量れます。日本のアバターのセンスというのは、ちゃんとわかってもらえているようです」

志内 幸彦氏
AmebaPico事業部
インタラクションデザイナー

志内 幸彦氏
「ピグが最大のライバル」──海外市場は僕らが開く

 「AmebaPico」には「アメーバピグ」にはない独自の新機能がいくつか盛りこまれている。例えば「Quest機能」は、ユーザーが海賊エリアに出かけていって、システムが用意した海賊アバターと会話しながら、海賊になるための勉強をするというようなストーリー仕立て。サービスに飽きがこないように、システム側が適宜ユーザーに働きかける積極性をもたせた。

 最初は7人で始まった開発チームも今や20人の所帯。名目上はアイテム制作チーム、Questチーム、開発チームとわかれているが、20人全員が総力を結集していく雰囲気がある。
「Facebookで展開している他のアプリはもちろん最大のライバルですが、僕にとってアメーバピグもライバルだと思っています。国内で成功したアメーバピグの実績はすごいし、AmebaPicoはまだアメーバピグの成功には及ばないけれど、海外の市場性という意味でのポテンシャルはAmebaPicoの方がはるかに大きい。一刻も早く、追いつき、追い越したいと思っています。」

 渋谷のオフィスで背中合わせに仕事をしながら、互いがよきライバル心を抱き、相互に切磋琢磨する。たんに企業の持続的な発展のためというだけでなく、エンジニアの成長を促すという意味でも、サイバーエージェントが海外事業に乗り出したことは大きな意味があったのだ。

Flashにこだわり、しかしそこにしがみつかない

 技術とビジネスの持続可能性を高めるために、エンジニアが果たす役割はきわめて大きい。サイバーエージェントに転職してくるエンジニアたちに向けて、現場の開発者たちはこう期待を語る。
「これからは世界が全部、我々の市場だというぐらいの気持ちがある人にぜひ来て欲しいですね。これまで、Flashエンジニアというと広告業界にしか仕事先がなかった。今はアメーバピグやAmebaPicoのように、何百万というユーザーをダイレクトに相手にするコミュニケーション・サービスがあって、それが文字通り世界に広がっている。」
 と、志内氏は言う。自らも活躍フィールドの広がりを感じ、サイバーに転職してきた人だから、その言葉には実感がこもる。

「もちろん、今はFlash技術が大切だけれど、僕らはそこだけにしがみついているわけじゃありません。僕自身、サイバーエージェントに入ってから、JavaやoFの勉強を重ね、技術領域がぐんと広がりました。社内にはしょっちゅう勉強会が開かれているし、それぞれの分野の専門技術者も多い。誰に言われたわけでもなく、自発的に新しいものをどんどん開発しちゃう人が多い。自分だけそこに取り残されたくないという、いい意味での“焦り”をいつも感じています」

 何よりそこには、自分の技術で会社の成長に寄与できているという、強い当事者感覚があるようだ。
「マネジャーや経営幹部と社員の距離感も近いし、エンジニアの発言力がこんなに強い会社は珍しいかもしれません。前職では、クリエイターと言うと経営陣との距離も遠く、自分の声が経営幹部に届くのに距離があり、空しさがつきまとっていたけれど、今はもうそんなのないですね」
 こうした感覚は、高岡氏も共有している。
「Flashでの開発経験があり、AS3が書ける人というのが、技術的スペックになると思いますが、それ以上に、自主性、主体性というマインド部分を大事にしたいですね」

 サイバーエージェントは、自らやりたいと思ったことを、やりぬける人にこそ、称賛が与えられる会社なのだ。
「アメーバピグに限らず、ソーシャルゲームのユーザー体験はあったほうがいい。ユーザーの一人としてここをこうしたらもっと面白くなるのにというアイデアを、ダイレクトに開発に反映させてもらいたいからです。新しいサービスをリリースしたら、いいものも、悪いものも、ユーザーの反応はダイレクト。ユーザーの反応がすぐに返ってくる緊張感と面白さを、ぜひここで体感して欲しいと思います」
 と高岡氏は、600万人相手のアバターコミュニティをつくりあげる醍醐味を語るのだった。

AmebaPico事業部 インタラクションデザイナー 志内 幸彦氏
Web広告デザイン会社を経て、2009年10月サイバーエージェントへ転職。アメーバピグの新機能実装などの経験を経て、現在は「AmebaPico」の開発チームに所属。29歳。
アメーバ事業本部 ピグディビジョン クリエイティブディレクター 高岡 哲也氏
Web、Flashの派遣技術者としての経験を経て、2004年7月サイバーエージェントへ転職。広告デザイン、「Ameba」などを経て、2009年4月から「アメーバピグ」の開発に携わり、現在は「釣りゲーム」などを開発。31歳。
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