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ゲーム業界に押し寄せる「ソーシャル化」。大手ゲーム会社の開発者も、フィーチャーフォン・スマートフォンでのソーシャルゲームに、関心の矛先を変える動きがある。ゲーム業界からグリーに転職し、新たなイノベーションを起こしつつある開発者を取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.02.22
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大手製造業勤務を経て、ゲーム業界に入る。コーエーでオンラインゲームの基板開発を担当。2009年1月、グリーに転職。現在、ミドルウェア開発などインフラチームを率いるリーダーの一人。38歳。
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増山和幸氏は2年前まで、ゲーム業界大手のコーエーで、オンラインゲームの開発に従事していた。ゲーム自体はつくらないものの、サーバー上で動くプログラムやネットワークを通したデータのやりとりなど、基盤的な技術開発がメイン。その前のWindows用ゲーム開発の小企業での経験も含めると、ゲーム業界歴は7年以上におよぶ。 ネットワーク・インフラの基盤技術があれば、ソーシャルゲーム業界でも十分通用する。グリーはゲーム業界への参入という意味では新しい企業。開発と企画・マネジメントが業務として完全に分かれておらず、アタマと手を同時に動かせるエンジニアを求めていた。なにより、ソーシャルゲームの市場を広げる、その勢いに魅力を感じたという。
現在所属しているインフラチームは、PHPによるアプリケーションの基盤部分、独自ミドルウェアの開発やオープンソースソフトウェアの選択、各種負荷対策などを行う。Webベースという点こそ違うが、「前職でやっていたこととほとんど同じ」仕事ができている。
前職と最も違う点は、「スピード感」だ。
障害発生を最小限に抑えるため、人手とコストをかけずに、いかに負荷やデータを分散するかが目下の技術的テーマ。 |
7年間にわたりセガのゲーム・プログラマとして多くのソフトウェアを開発。国際的なヒットとなった「マリオ&ソニック」シリーズにもかかわる。2010年6月、グリーに転職。内製ゲームのスマートフォン対応を進める。30歳。
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増山さんはゲーム業界からグリーに転職した最初の人。それを皮切りに次第に転職組が増えてきた。メディア開発本部のエンジニア、岡田一起氏は、昨年(2010年)6月に、セガから移ってきた。 セガは新卒での入社。7年間在籍の間、プログラマとして家庭用ゲームソフト開発を担当。新しいところでは、セガと任天堂が協業してリリースした、2010年冬季オリンピックを舞台にしたゲーム「マリオ&ソニック ATバンクーバーオリンピック」を手がけている。ここでは主にネットワーク部分の実質的なリーダーを務めた。
セガの最後のころには、iPhone用ゲームのチームリーダーも経験。 フィーチャーフォン→スマートフォン向けソーシャルゲームには、家庭用ゲーム機とはまた違うユーザ層がいる。長時間どっぷりハマるというよりは、通勤の途中など空いた時間にちょこちょことゲームをチェックする、ライトユーザ層だ。ソーシャルゲームはこうした新しいユーザ層を拡大することで市場を広げつつある。
岡田さんも、これまで全くゲームをしたことがなかった友人が、携帯でソーシャルゲームをしているのを見て、「これは新しい波が来ている。家庭用ゲームはこのままではまずいのではないか?」と危機感を感じたことがあったのだ。そこで自ら iPhoneプロジェクトをスタートさせたのだったが、事業化判断のところでゴーサインが出なかった。
現在の仕事は、前職では実現できなかった夢のつづきだ。グリーの内製ゲームのスマートフォン対応チームで、携帯ゲームの共有基盤をスマートフォンへ移植するプロジェクトに取り組む。前職での経験は活きているが、開発スタイルの違いは大きかった。
ユーザとの距離感も変わった。 |
開発者の権限が広がった分、ゲームがヒットするかどうか、売上げが上がるかどうか、それらの責任も重くなった。 「これまではそれが曖昧でした。販売努力が足りなかったからだとか、プロモーションにお金をかけなかったからだとか、責任を人のせいにもできた。今はそんなこと言えません。全責任は私たちにある。当事者感覚は強くなりました」
家庭用ゲーム業界での経験を持ち込み、よりレベルの高いソーシャルゲーム開発につなげてほしいというのは、会社が転職者たちに期待するところでもある。
「ゲーム機のハードウェア特性を活かしながら、面白いゲームをつくってきた経験は役に立つはず。今後は、スマートフォンで動くネイティブ・アプリケーションが増えてくる。そこではハードウェアを使いこなす技術が重要ですから、私の経験を活かす機会は、ますます増えてくると思います」
米国生まれ。学生時代に来日し、その後セガ、スクエア・エニックスなどでゲーム開発全般にかかわる。2010年6月、グリーに転職。「モンプラ」チームに所属。グリーの国際事業展開でも貴重な戦力として期待されている。31歳。
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ロバート・ジェイ・ゴールド氏はアメリカ生まれ。8歳のときからコンピュータ・ゲームをつくってきたギークだ。人工知能を学ぶために日本の大学に留学してから滞日歴9年。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の下請け会社でゲーム開発、セガではアーケードゲームのアニメーション開発やネットワーク周り、スクウェア・エニックスではオンラインゲームのサーバーエンジニアと、いわば日本のゲーム業界の本道でゲームにかかわるいくつかの技術を蓄積してきた。
昨年6月にグリーに転職したのは、ソーシャルゲームやSNSに興味があったから。転職後すぐに、モンスター育成バトルゲーム「モンプラ」の開発チームに配属され、インフラ構築からアプリケーションの開発までの全体に関わるようになった。 ロバート氏の話をもとに、従来のオンラインゲームと、グリーのソーシャルゲームの開発・運営手法の違いを表にまとめてみた(図1)。あくまでも個人的な感想に基づくものだが、業界経験が長いだけに、その比較には意味がある。 サーバー技術としては、ソーシャルゲームではスケーラビリティを重視した柔軟な構成がポイント。それに対して、オンラインゲームではワンサーバーで安定を重視して運用することが多い。グリーでは、企画と開発の間の分業がほとんどなく、開発チームもフロントエンドからデータベースなどのバックエンドに至るまで、総合的にかかわっていくのも違うところ。責任は重大だが、それだけ「エンジニアのストレスは少ない」という。 何より決定的な違いは、「イノベーションのチャンス」だ。従来型のオンラインゲームは開発サイクルが長く、開発コストも1ゲームタイトルあたり数10億円規模になることもまれではない。それだけに、作り直しがなかなか効かない。 それに対してソーシャルゲームは、短期間に何度もゲームを作り直す。「その分、イノベーションのチャンスが多い」と、ロバートさんは言う。ゲームの機能追加やアップデートにあたっては、膨大なユーザアクセスをデータマイニング手法で分析した科学的なデータが使われる。もともとは理系学科の学生だった彼にとっては、このあたりのデータ主義も気に入っているところだ。 「こうした違いはありますけれど、オンラインゲームでもソーシャルゲームでも、要はユーザにとって楽しいゲームであれば必ず売れると思う。これまでのゲーム業界での成功パターンは、ソーシャルゲーム業界も積極的に採り入れるべき。つまり、美味しいラーメンはどこでも美味しいってこと。その作り方のコツは、僕がグリーに提供できる経験の一つです」 |
【図1】 開発スタイルの違い
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ゲームユーザを火山の爆発にたとえれば、その溶岩の広がりは、いまソーシャルゲームにきていることはたしか。今は大きくなったゲーム会社も、かつては少人数でファミコンなどのゲームを作っていたところが大半。そのころは、企画者や開発者との間の分業がなく、スペシャリティをもつエンジニアが、より面白く、より楽しくをテーマにガンガン開発を進めていた。その雰囲気がいまグリーにはある。「熱い現場をもう一度」と考えるゲーム開発者にとっては、新しい魅力あるフィールドなのだ。
とはいえ、エンタテインメントとしてのゲームづくりにかけては、従来のゲーム業界に一日の長があることも否定できない。だからこそ、ソーシャルゲーム業界は、ゲームのプロフェッショナルを求める。ソーシャルゲームを「チャチなミニゲーム」と侮るエンジニアもまだゲーム業界にはいるはずだ。しかし、これから表現力豊かなスマートフォンが続々と登場することで、そうも言っていられなくなる。コンソール機に匹敵する、いやそれを上回るゲーム体験が、モバイルで可能になる日も近い。
コンシュマーゲーム業界は、長い間、コンソールというハードウェアにとらわれてきたが、そこでの対応力は、むしろこれからは強みとなる。また、これまで世界を席巻してきたグローバルな事業経験もまた、今こそリスペクトされるべきゲーム業界の資産の一つであるはずだ。そうしたノウハウを携えた経験者を巻き込むことで、ソーシャルゲーム業界はますますパワーアップしていくにちがいない。
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