純粋?異常?○○すぎるエンジニア vol.5 |
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企画決定までコードを1行も書かない! |
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何かに対して深いこだわりを持つエンジニア、つまり“○○すぎるエンジニア”を探すこの企画。今回はある新サービス開発の舞台裏で繰り広げられた、2人の企画エンジニアたちの、サービスの質に対するこだわりについてクローズアップしてみたい。 (総研スタッフ/山田モーキン) 作成日:11.03.18
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4カ月間に及ぶ徹底した議論で、上質なサービスを生み出すプロジェクトチームとは?
今回はいつもと違い、ある新しいサービス立ち上げプロジェクトに取り組んだ、チームの事例を紹介したい。2000年の創立以来、携帯電話(フィーチャーフォン)などのモバイルコンテンツや広告事業を展開している株式会社シーエー・モバイルが昨年末、全く新しいソーシャルメディアサービス「ally(アリー)」をリリースした。allyは、位置情報機能(GPS)を活用した「位置共有 実名ソーシャルネットワーキングサービス」。iPhoneやAndroid搭載スマートフォン上の電話帳に登録されている友人を招待し、友人が今どこにいて何をしているのか、より深いコミュニケーションを可能にしたサービスだ。 |
今回の○○すぎるエンジニア |
苦難の末、全会一致で決めた機能はすべて実装。エンジニアが企画にこだわる意味
(久保氏)私がシーエー・モバイルに転職してきたのが、ちょうどallyの企画がほぼ固まった段階の昨年8月。チームに加わることで、これまで経験しなかったことをわずか半年余りの期間で数多く経験することになったのです。
例えばallyの1機能について、2日間、15時間もかけて全メンバーが徹底的に議論したことは特に印象に残っています。私自身がこれまで「エンジニアは上から言われたことを形にしていく」スタイルの中で仕事をしてきました。しかし内心では、もっと企画段階から自分の意見を遠慮なく言いつつ、しっかり納得・理解した上で開発に取り組みたいという思いを強く持っていましたから、非常に刺激的で理想の開発スタイルでできたことがうれしかった。
もちろん、全会一致するためにはかなりの時間と労力を要しますから、正直大変です(笑)。でもその苦労を乗り越えて全員の中に「腹落ち感」を実感できた瞬間は、大きな充実感を得ることができる。
その結果、8月の段階で決まった機能はほぼすべてそのままリリースされたんです。これって通常ではありえないこと。つまりそれだけ中身の完成度にこだわり抜いて議論し尽くしたからこそできたことだし、結果的にはこのやり方が一番効率的だということが証明されたと言えるでしょう。
ほかにもAndroid端末を8機種持って山手線をぐるぐる回りつつ、GPS機能がしっかり働いているかチェックしてこまめにチューニング。またこれまでJava経験しかありませんでしたが、新たにPerlにも挑戦して開発する等、すべてが自分にとって新しい挑戦でした。しかし企画やサービスの中身に対して自分なりに妥協せずこだわることができたからこそ、どんなに厄介なことに対しても主体的に動くことができたと思っています。
今後さらに新しい端末が続々と世の中に出てくると思いますが、そうしたものにも挑戦しつつ、質を徹底的に重視した開発を目指したいですね。
これが電話帳の友達と“繋がる”位置共有実名SNS「ally(アリー)」画面。背景のグラデーション表示や、友達との距離の表示など、細かな点に2人のこだわりが
2.3年先を見据えた壮大なコンセプトを創るために費やした4カ月間の議論
グループの山村マネージャーと川中さんも含め、4カ月間で集中的に議論しつくしたことで、allyの世界観が確立した
(秋田氏)これまで、フィーチャーフォン向けのアプリケーション開発事業のプロデューサーやディレクター、またシステム設計も含めて担当してきました。そして昨年、日本でもiPhoneやAndroid端末を含めたスマートフォンの急速な普及に伴って、弊社でもスマートフォン向けの全く新しいサービスを展開していくことになり、4月から正式に「ally」開発プロジェクトが立ち上がりました。
ally開発プロジェクトでは、これまでの開発スタイルを大きく変更して、数々の新しいチャレンジをしようと取り組んできたのですが、その最たるものが「企画がまとまるまで、コードを一切書かない」という決めごと。まずはallyという世界観をチーム内のすべてのメンバーが共有することを何より重視したのです。つまり単純なトレンドに乗って安易に開発してリリースするのではなく、2・3年先も、世界中のユーザーに利用してもらえるサービスを創るという壮大なテーマを持って、チーム全員が取り組みました。
例えば画面設計は1カ月半かけて作りこみましたが、こだわりが表れているのが、例えば「背景の写真やグラデーション」。今、友達がどんな所で、何に対して興味を持ち、どんなことをしているのかを瞬時に把握できるようにしたかったんです。そこで顔写真の横にそれぞれの方が撮影した風景や食べ物などの画像を映しつつ、文字とのバランスを考慮しながらより見やすくなるようにグラデーションの見せ方を数十パターンも試してから、現在の仕様を採用しました。
また友達との距離の表示機能も、少しでも友達との距離を実感できるようなデザインにこだわりつつ、「距離によるコミュニケーション」を実現させようと努力しました。
こうした試行錯誤を経て、プロジェクト開始4カ月後にようやく開発をスタートし、昨年末にリリースしました。リリース後もユーザーからの意見が数多く寄せられていますが、クレーム対応を除き、すべての要望に対して応えるのではなく「いかに自分たちの作り上げた世界観にマッチしているか」を常に照らし合わせた上で対応しています。これもすべて「あいまいなサービスにはしたくない!」という、サービスの質に対するこだわりを私や久保も含めた、チーム全員が持っているから。
今後もこの姿勢を貫くことで、さらにネットとリアルの敷居を取り払い、いつでもどこでもつながっている究極のコミュニケーションツールにallyをブラッシュアップしていきたいと考えています。
秋田さん&久保さんが勤務する企業:株式会社シーエー・モバイルの事業方針
株式会社シーエー・モバイル
人事ディヴィジョン 統括
袴田 圭氏
当社は創業してから10年、モバイル広告事業、モバイルコンテンツ事業、モバイルコマース事業、モバイルゲーム事業などモバイル市場の拡大と
共に、多岐に渡る事業を率先して展開し収益化することで大きく成長してきました。今後、新たな収益源を生むために、積極的に有望市場であるスマートフォン向けのサービス開発に力を入れていく方針の中で、今回紹介した「ally」も生みだされました。
当社が求めているエンジニアは、先ほど紹介した久保のような技術力だけではなく、企画力も持っている方。なおかつ、楽しみながら仕事をしつつ、思いを込めたサービスを生み出していけることです。
当社にはフィーチャーフォン向けの開発で培った、「小さい画面でも使いやすいコンテンツ作りのノウハウ」があります。それが今回のally開発でも活用されています。しかし、それだけではもちろん不十分です。スマートフォンのサービス開発では、エンジニア自身が従来の価値観にとらわれないアイデアを生み出すことが、成功への絶対条件。自らのアイデアを自ら形にできるエンジニアだからこそ、企画にこだわりを持っているメリットは大きいと思いますし、今後もそうした方が活躍しやすい環境を提供していきたいですね。
【今回の○○】エンジニアが徹底的に企画にこだわることで、新たな価値を生み出す
上から言われたままの通りに設計して、リリースしていくようなワークスタイルを持つ企業が依然として多いのも事実であるが、今回紹介した企業のように、エンジニアもゼロベースで企画に入り込んで、徹底的に議論する環境もある。
特に豊富なアイデアを駆使して、新しいサービスを生み出したいという志向をもつ方であれば、今回のような職場で働くことは魅力的に映るだろう。少しでもユーザー視点で使いやすいサービスをとことん追求する。そうした志向を持つエンジニアを受け入れ、活躍できる環境があることこそ、企画にこだわるエンジニアにとっての理想の職場ではないだろうか。
このレポートの連載バックナンバー
純粋?異常?○○すぎるエンジニア
仕事や技術を愛するあまり、ときにはやや異常(?)にすら映ってしまうエンジニアのプロフェッショナリズム。“○○すぎる”人々を通じてエンジニアらしさを解明します。
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