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昨年の世界市場は3000億米ドル、なぜ日本は混迷が続くのか? 蘇れ日本の半導体!エンジニアの力で再び基幹産業に 昨年の世界市場は3000億米ドル、なぜ日本は混迷が続くのか? 蘇れ日本の半導体!エンジニアの力で再び基幹産業に
昨年の世界の半導体市場は過去最高額となる3000億米ドル弱。この影響を受けて回復基調にある日本市場だが、半導体関連企業の不安定要素は数多く、先行きの不透明感は相変わらずだ。今後の半導体市況の見通しと半導体系エンジニアについて、2人の識者に語ってもらう。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/関本陽介) 作成日:11.02.21
“ミスター半導体”が語る「多様化の新しい時代が来る」

 日立製作所で成長期の半導体事業を牽引し、日米半導体貿易摩擦では1996年に日本側団長として「世界半導体会議」の設立に貢献した牧本次生氏。2000年には同社の専務取締役からソニーに転職し、執行役員として腕を振るった。「ミスター半導体」と呼ばれる同氏が、日本の勝機とエンジニアについて熱く語る。

今年の成長率は7〜8%と予測、新しい時代が始まる

 2010年の世界半導体市場は、3000億米ドルにわずかに届かない額となりました。しかし、過去最高であり、対前年比で30%以上の伸びを記録しています。2008年のリーマンショックで2009年の世界市場は約10%のダウン。それまで約10%ずつ成長してきましたから、体感値では−20%ものショックでした。

 2010年の春から市場は回復してきましたが、企業が設備投資を絞ったために夏以降にニーズが急伸し、結果的に約30%の伸びになりました。今年の半導体市場は落ち着いて成長率は10%を少し下回るくらい、7〜8%の伸びになると見ています。

 今の半導体の主戦場はスマートフォン、デジカメ、ゲーム機などのデジタルコンシューマ製品ですが、今後は環境、健康、自動車、ロボットなどの新分野に移っていくと思います。


 例えばEV化が進む自動車ですが、私は以前、テスラモーターズに行って「ロードスター」に乗せてもらいました。シリコンバレーで自動車がつくれるのか半信半疑だったからです。「日本人で初めて」と乗せてもらい、自動車は水平構造型の産業になると体感しました。垂直型の一貫した開発・生産体制ではなく、分野や部品別に専業メーカーが生まれるということです。そしてEVは半導体の固まりになります。

 特徴的なのはこれまでの微細化の傾向が弱まることです。電力制御に用いられるパワー半導体はスマートグリッドやクリーンエネルギーなどの環境分野で不可欠ですが、特に微細化にこだわる必要はありません。注目製品であるLED、光センサー、MEMSなども同じで、微細化を求める製品と合わせて、多様化の新しい時代が始まるのです。

牧本次生氏

一般社団法人
半導体シニア協会
代表理事

牧本次生氏
東京大学工学部卒業後、日立製作所に入社。半導体設計開発センター長、専務取締役などを経て2000年に執行役員専務としてソニーに入社。2005年に退社し、テクノビジョンを設立。エルピーダメモリを初め海外企業の取締役などを兼務した。半導体産業で標準化とカスタム化を繰り返す「牧本ウェーブ」の提唱者としても著名。

日本の半導体産業が衰退を始めた理由

 90年代初めまで世界トップのシェアを誇っていた日本の半導体産業が、なぜ衰退していったのか。ひとつは、先端機器のベースとなる半導体技術が自国の死活問題だと気づいた米国が、企業と共に国策としてシェア奪還に取り組んだこと。逆に日本は国と産業界の連携がほとんどなく、国としても腰が引けていました。

 もうひとつは市場の変化とグローバル化に対応できなかったこと。従来の日本はテレビ、VTR、ウォークマンといった民生機器やメインフレーム用の半導体が強く、PC化の流れにうまく乗れませんでした。加えて、国内に十分な市場があったために世界戦略が弱かった。この2つは今日でも尾を引いていて、世界市場がこれだけ伸びても国内市場はさほど好転しない、いちばんの原因だと思います。


 米国はもともと世界市場が標準ですし、韓国のサムスンや台湾のTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)などは、国内市場が狭いという理由はあるにせよ、グローバル化への取り組みは半端なものではありません。半導体市場はのこぎりの刃のようにアップとダウンを繰り返しながら成長します。

 つまり、一度落ち込んでも再び成長が始まるわけですが、これを知っていたサムスンなどの海外企業は大型投資に躊躇がなかった。一方の日本企業は赤字になると投資を絞ってしまった。規模の利益が顕著な半導体事業において、これでは勝てません。

 日本の半導体産業を振り返ると、技術先行型で一度は世界をリードするものの、その後に追いつかれてコスト競争で負けてきました。DRAMもそうですが、最近では液晶や太陽電池も同様で、その次はLEDではないかと危惧しています。ですから、国策としての支援と同時に、リスクを恐れない企業の投資戦略が欠かせないのです。

専業特化する水平モデルの時代に、対応を急ぐ日本企業

 2000年くらいまでの日本の半導体メーカーは「デパート商法」で、LSIやNANDやDRAMなど多品種をそろえていましたが、それぞれで海外の専業メーカーに撃破されてしまった。そこでエルピーダメモリがDRAMの専業メーカーを明言し、ソニーは光センサー事業に注力し、昨年は東芝がNAND型フラッシュメモリ事業への集中を始めました。ようやく日本で「専業化」が始まったわけです。

 ただ、90年代半ばから世界的に、垂直型から水平型に半導体の産業構造が変わり始めたのに対して、日本はまだまだ対応できていません。設計、製造、販売までをすべて自社で行う日本の垂直構造型に対して、世界では設計、前工程、後工程などの各分野に特化する企業が主流です。

 その成功例が世界中から注文を受けて半導体製品を製造している、ファウンドリのTSMCでしょう。半導体事業は規模のメリットがとても大きく、規模を拡大することでより大きな投資と利益が望めます。この影響から日本でも企業統合が進み、例えば日立製作所、三菱電機、NECの半導体部門が統合したルネサスエレクトロニクスが生まれました。よい方向だと思いますが、規模ではTSMCにかないません。


 一方、設計部門では米国のファブレスベンチャーが強いのですが、彼らは半導体屋だけで起業するのではなく、デバイス屋と回路屋に加えてシステム屋が入っています。日本の場合は半導体の設計技術者だけで、通信やコンピュータのわかるシステムのわかる人が入るケースはまれ。日本で成功しているファブレスベンチャーが何社あるでしょうか。

 製品戦略を含めたマーケティングができていないことも日本企業の課題で、この根幹には「言葉の壁」があると思います。本当のニーズをキャッチするには、相手の微妙な言い回しから意図を汲み取る必要がありますが、片言の英語や通訳を介した会話で、高度な情報は得られません。世界の標準語である英語が話せないデメリットがどれほど大きいのか、このことへの危機意識のなさもまた問題です。

エンジニアが「日本の半導体」を変えていく

 昨年7月に日産自動車の国内4工場で、生産ラインが3日間止まりました。供給元の日立製作所からのECUの納入が遅れたためで、理由は日立がECU用のICを海外メーカーから調達できなかったからです。先のように半導体需要がひっ迫していた時期であり、海外メーカーが出荷を遅らせたのです。

 こうした日本の主力産業が停止する事態は今後も考えられます。石油が輸入できなくなるのと同じようなものですが、国内で産出が難しい石油に対して、半導体はいくらでも成長させることができます。


 今後の半導体市場は成熟期に入り、長期的には7〜8%の成長率になると思います。一時の勢いはないにせよ、長期でこれだけ伸びていく産業がほかにどれだけあるでしょうか。半導体は間違いなく「成長産業」なのです。

 だから、エンジニアにはグローバルなセンスを磨いてほしい。というより既に不可欠なことで、そのためには英語をまずマスターしてください。また、半導体は技術の幅が広いので、関連分野の知識を幅広く積むことです。材料が専門の半導体エンジニアなら、回路設計やソフトウェアを学ぶなどです。3番目にはやはりチームワークでしょう。

 エンジニアのみなさん、新しい多様化の時代に向けて、日本の半導体産業を再スタートさせましょう。

国際技術ジャーナリストが語る「日本はまだ勝負できる」

 日本の半導体はどこに向かうのか。日本電気で半導体開発に従事した後、「日経エレクトロニクス」や英文誌「Nikkei Electronics Asia」などで編集記者から国際部長まで幅広く活躍した津田建二氏。長年半導体産業をウオッチしてきた国際技術ジャーナリストが、日本の現状を語る。

タブレット端末の成長期が始まり、医療機器も進化

 2001年、(ノートパソコンの提案者・預言者である)アラン・ケイ氏が来日したときに取材をしました。30年後のPCについて尋ねたところ「教育ツール」と返ってきました。今のPCは本来の姿ではなく、悪く言えば「グーテンベルグの時代から進歩していない」というのです。

 彼の考えは教師と子供が情報を自由に書き込め、アイデアを共有できる「白板」で、A4サイズほどの画面があるワイヤレス機器。子供が持ち歩ける重さで、音声認識、文字認識、音声合成などができるというものでした。iPadを初めて見たとき、私はこの話を思い出しました。

 昨年はスマートフォンやiPadのようなタブレット端末が半導体市場を引っ張りましたが、この傾向は再来年までは続くと思います。ケイ氏の理想に今のiPadは追いついていませんが、だからこそ今後は姿を変えていき、本格的な成長期に伴って専用の半導体が求められるからです。


 数年先までの牽引役がこうしたデバイスとすれば、中長期的にはEV、クリーンエネルギー、高齢者向けの機器などが見込まれます。クリーンエネルギーは太陽光発電や風力発電のほかにスマートグリッドなど、高齢者向けではヘルスケア用の医療機器などです。

 例えば、絆創膏の中にチップとアンテナと薄型バッテリーを組込み、それを体に張って、血圧、心拍数、体温、血糖値などをセンサーで測定するもの。24時間モニターしたこれらの情報を携帯電話に送信し、そこから医療機関へと送るシステムです。携帯電話を使うのは直接飛ばすと大きな送信電力が必要になるので、消費電力を抑えるため。この製品は実用化寸前まできています。

 また、DRAMは現在価格が下落し、NAND型フラッシュメモリが人気ですが、大きな理由はPCからスマートフォンへのシフトだと思います。しかし、中国、インド、ベトナムなどの新興国ではPCの購入者もいるでしょうから、DRAMが全く勢いを失うことはないと思います。また、スマートフォンやタブレット端末が普及するとクラウドを使った処理が増加するので、サーバ用のDRAMも必要になるのではないでしょうか。

津田建二氏

株式会社セミコンダクタポータル
編集長
国際技術ジャーナリスト
津田建二氏
東京工業大学理学部卒業後、日本電気に入社。半導体デバイスの開発などに携わる。1977年に現・日経BP社に入社、「日経エレクトロニクス」「Nikkei Electronics Asia」などの編集記者、アジア部長、国際部長など歴任。2002年にリード・ビジネス・インフォメーション社に入社し、「Electronic Business Japan」「Semiconductor International日本版」などを創刊。2007年より現職。

高機能なガラケー技術を持ちながら、スマートフォンで

 日本の半導体メーカーの問題点はいくつかあるでしょうが、ひとつは経営トップの決断の遅さです。ある外国の半導体メーカーが日本企業の経営者に製品を売り込んだところ、同席していた技術部長が「弊社でもできます」と答えたそうです。実際にそうでしょうし、エンジニアの誇りもあったでしょう。しかし、経営者なら「何カ月でできるのか」と聞くべきです。仮に2カ月ならOK、半年必要なら他社から製品を融通するなどの判断をするためです。日本にはこうした「タイム・トゥ・マーケット」の認識が少ないと思います。


 もうひとつは自社で需要がつくれないこと。ある海外のファブレスメーカーを取材したとき、50歳前後のアナログもデジタルもわかるシニアエンジニアが、日本のメーカーを回ってヒアリングしていました。仮に電池の性能にばらつきがあって不具合が出ると聞けば、自社に持ち帰って解決方法を考え、開発した製品を再度提案するというのです。すぐに購入してくれるという話でした。日本企業は顧客に言われてモノをつくるスタイルが多く、こうした方法はあまり見かけません。

 製品をタイムリーに出していけるかが重要なのです。ガラパゴスと呼ばれながらも高機能な携帯電話の技術があったのに、なぜスマートフォンではアップル、サムスン、HTCなどに先行されたのか。上記のような問題が原因ではないでしょうか。自社ですべてに対応できなければ、コラボレーションという手もあるはずです。

日本にファウンドリの新産業を興すことも可能

 設計から製造までのすべてを自社で抱えるのではなく、例えばシステムLSIメーカーはファブレスとして設計に集中し、製造はファウンドリに任せるといった水平分業が世界的に進んでいます。日本でも最近始まりましたが、まだなじんでいません。

 例えば、NANDは月産何百万個も出るので設計から製造まで一貫しても利益が出ますが、システムLSIは月産数万個のはず。ならば工場を持たずにファウンドリに委託し、LSI部門は設計、ソフトウェア、アルゴリズムなどの人材に資本を投下したほうがよい。東芝の判断は正しいと思います。


 また、ファブレスもいいでしょうが、ファウンドリで日本が勝負できる余地があると思います。日本は人件費が高いと言いますが、製造工場は自動化が進んでいるので、前工程での人件費率は5%程度と聞きます。これだけ低ければ中国でも日本でも生産コストは変わりません。ただ、技術力は高くても、安くつくる技術を持っていないことが問題です。

 例えば、少しでも安くするために微細化に頼らずチップを小さくし、マスクの枚数を減らし、プロセスを短縮する。以前の日本なら得意な分野でしたが、現在ではできる限りの技術を積み込んで、後でコストを削るようになった。設計段階のアーキテクチャからLCT(Low Cost Technology)を考えるべきで、海外では既に主流です。

断られても断られても、エンジニアなら提案すべき

 初めに述べましたが、半導体産業は今後も成長が続くでしょう。それを支えるのはエンジニアです。みなさんに伝えたいのは、まずキャリアを積んでほしい。そして、「こうしたら製品が変わる」「こうすれば性能が上がる」といったアイデアを考え、それを上司に直訴しいてほしい。もちろん簡単に許可しないでしょうが、実用化まで何度でもねばればいいのです。


 私もエンジニア出身ですが、昔の人は皆そうでした。説得して断られ、再度説得しても断られ、それでも説得しました。大切なのは上が理解しないのは仕方ないと考えて、だめでも投げやりにならないこと。こうした経験でプレゼンの手法やプロジェクトの作り方なども覚えるので、勉強になったと後でわかるものです。

 それと、上から目線で物事を見ないこと。営業が聞いてきたとおりに開発するのではなく、顧客のところに行ってヒアリングすべきです。そうでなければニーズは先取りできません。

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
半導体は長年「産業の米」と呼ばれてきましたが、今ほどその意味を考える時期はないように思います。ここ数年、特に転職市場では不遇な目に遭ってきた半導体関連のエンジニアに、本当に頑張ってほしい。あなたたちの努力が、日本の産業と未来を発展させる礎だからです。

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