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世界の最先端技術、エッチング装置に触れるチャンス
東京エレクトロン宮城が宮城新工場設立で世界シェア拡大
半導体製造装置大手の東京エレクトロングループは宮城県大和町に大規模な新工場を建設中だ。 東京エレクトロンATの山梨事業所のエッチング部門と宮城事業所を集約し、エッチング装置の世界シェア拡大を狙う。 2011年4月から稼働する新工場での展望と採用ニーズを取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/川島紀良)作成日:11.01.19
エッチング装置でも世界ナンバーワンをめざすための開発・生産基盤づくり
鄭 基市氏
東京エレクトロン株式会社
常務執行役員 SPEプロセス開発本部長
東京エレクトロン宮城 株式会社
専務執行役員 工学博士

鄭 基市氏

 東京エレクトロングループの宮城新工場は、29万平方mの広大な土地に、延べ床面積6万8千平方mの3棟の建屋を擁する。 東京エレクトロンATの事業のうち、エッチングシステム部門を分社化。 新たに「東京エレクトロン宮城株式会社」を設立し、そこに東京エレクトロンATの山梨事業所(穂坂地区、藤井地区)および宮城事業所(松島)の設備と人材を移管する。

「当社のエッチング装置の世界市場シェアは、30%を切るというのが現状。 これを引き上げ、エッチング装置でも世界ナンバーワンをめざしたい」と、新工場建設の背景を語るのは、東京エレクトロン宮城の鄭 基市常務(ES事業担当)だ。

 生産拡大のためには、現在の山梨事業所ではスペースが足りない。 宮城事業所の組み立て工場も手一杯。 それらを集約して、生産効率を高めるのが最大の目的だ。 新工場の延べ床面積は、現在の山梨・藤井地区の工場にほぼ匹敵し、エッチング装置の製造ラインだけでこれだけの規模をもつ工場は、国内では他にない。 世界的にみても、1箇所で設計から組立に至るまでの全工程を一貫して行う工場は、ほとんど例がない。 これにより、現状の売上規模が2倍に高まっても十分対応可能となる。

開発と製造を1カ所に集約。


生産方式の改善も進む

 単にスペースを拡大するだけでなく、新工場移転にともない、生産方式の革新も行われる。
「これまでは顧客の要望に合わせたカスタム仕様のため1人の作業員で各工程を担当する“セル生産方式”を取ってきましたが、今後は流れ作業に切り替えて、製造工期を大幅に短縮します」(鄭氏)

 半導体製造装置に限らず、装置製造業界では、1台の装置に数名の熟練工がつき、最初から最後まで製造を担当する「セル生産方式」が主流。 しかし技術者の熟練技術に頼る部分が大きく、人件費や残業時間が膨らむ傾向も指摘されていた。 そこを大きく改善するのだ。

 同時に、各事業所に分散していた設計、プロセス評価、試作、フィールドサポートなどの開発工程を1箇所に集約する効果も大きい。 「これによって、世界のお客様のニーズへの対応やサポートが迅速に行われることを期待しています」(鄭氏)
 シェア拡大のためには、もちろん製品の性能を高めることが必須だ。

 エッチング装置は大きくオキサイド・エッチングとシリコン・エッチングに分けられるが、オキサイドについては東京エレクトロン宮城の装置が過半数のシェアを取っている。 「しかし、シリコンについてはやや弱い。 ここに集中的に技術を投入し、日本・韓国の顧客を足がかりに世界展開を図っていく」(鄭氏)というのが戦略だ。

 具体的には、シリコン・エッチング工程におけるSTI(Shallow Trench Isolation)、ゲートなどハイエンドでクリティカルな工程にも、装置の性能を高めて参入していく。 プラズマ生成方式が、他社がICP(誘導結合型)であるのに対して、東京エレクトロン宮城はCCP(平行平板型)であるのが特徴だが、近年増えてきたシリコンの深穴切削工程にはCCPの特徴が活かせる。 「CCPという強みに特化し、そこに他の技術を盛りこむことで、オキサイドだけでなくシリコンにも使えるようにしていく」と、鄭氏は今後の技術革新を展望する。

意外と都会な「大和町」最新鋭工場にはソーラーパネルがきらめく
宮城新工場
2011年春に稼働開始の宮城新工場

 新工場には現在の山梨、仙台の事業所からエッチング装置開発にかかわるエンジニアが一斉に異動する。 また今後採用を強化するエッチング装置関連の中途採用技術者も、しばらくは山梨の事業所で研修を受けたあと、4月以降は順次、宮城の新工場に転勤になる。 最終的には、新工場は稼動時で1000名規模になる予定だ。

 宮城県に地の利のない人には、新工場のある大和町(たいわちょう)がどんなところなのか気になるところ。 町のホームページによれば、町の東部には日本を代表する宮城の米「ひとめぼれ」の圃場が広がり、ゴルフ場も多い。 一方で県内最大の工業団地である仙台北部中核工業団地には多くの企業が進出している。 自然や文化遺産に恵まれつつも、仙台市と隣接しているため、急速に都市化が進む新興タウンといえる。

 新工場があるテクノヒルズは、東北自動車道のICや地下鉄「泉中央」駅にも近く、都市圏交通網が整備された利便性の高い工業団地だ。 周辺にはアウトレットショップやサッカー「ベガルタ仙台」のホームスタジアムがある。

 最新鋭の工場設備も注目だ。 製造棟には免震構造が施されている。 開発棟と製造棟には屋上に太陽電池パネルを設置し、1000キロワット級の出力を賄う。 東北6県でも有数のソーラーバッテリー駆動工場になる。 また開発棟ではガス設備を一新し、工業ガスのリサイクルも充実させる。 他にも、フッ化物の完全駆除設備など、環境配慮には万全の態勢をとる。
「測定装置なども最新のものを導入。 フットサルやテニスコートなど従業員の福利厚生施設も充実させます。 これまでやりたいと思っていたことをすべて新工場で実現します」(鄭氏)

グローバル市場で自分の技術力を試すチャンス

 ピカピカの工場で働くエンジニアたちにはどんな資質を求めるのか。 同社が求めるのは、まずは半導体プロセスの経験者だ。 プロセスエンジニアは半導体デバイスメーカーや半導体製造装置メーカーで最低でも2年以上の経験が望ましい。 プラズマエッチングの技術は、微細化が進む中で、均一性やディメンジョンの制御性能が高く求められている。 そのために、プラズマソースやノブ(プラズマ・温度などのコントロール)の技術革新が必要になる。 そうしたイノベーションをリードする人材が求められている。

 加えて必要なのが、機械設計、電気制御、ソフトウェア開発のエンジニア。 こちらはこれまでの業種や製品は問わない。 機械設計では真空装置や駆動部分をもつ装置の設計開発経験がもっとも近接した領域になるが、「もともと設計能力がある人は半年から1年の訓練を経れば、エッチング装置の開発にも十分対応できる」と鄭氏はみている。

 技術経験と共に重視されるのは、仕事に取り組む姿勢。
「基本は転職にあたって自分の意思が明確で、率先して自ら取り組む姿勢のある人。 他人がやっていないことだからこそ、自分がやってやるという、チャレンジする気持ちを最大限尊重したい」と鄭氏。

 同社のエッチング装置の顧客の7割が海外だ。 台湾のファウンドリメーカー、韓国のメモリメーカー、米国のMPUメーカーなど、世界の半導体業界をリードする企業の名前が顧客リストにずらりと並ぶ。
「顧客はグローバルに広がっていますから、エッチングの事業部からもかなりの数の社員が顧客先常駐や出張ベースで海外に展開しています。 今後この数は増えていくでしょう。 そのための語学研修には最も力を入れているところ。 エンジニアにとっては、自分の価値を世界で通用するレベルに高めていくためのチャンスといえます」と鄭氏は、エンジニアにとっての宮城工場の魅力を語るのだ。

東京エレクトロン株式会社 常務執行役員 SPEプロセス開発本部長 東京エレクトロン宮城 株式会社 専務執行役員 工学博士 鄭 基市氏

九州大学卒。 博士号取得後、大手半導体メーカーに就職。 技術者としてプロセスインテグレーションを担当。 欧米・アジア諸国における海外工場の立ち上げにも携わる。 その後、東京エレクトロンATに入社。 1998年より技術開発センターにて枚葉CVD装置の開発・プロセス開発に従事。 2009年よりエッチング装置ビジネスに携わる。 エッチングシステム部門の分社化のため、東京エレクトロン宮城の所属となる。

「世界征服」の野心を持つエンジニアよ、新工場へ来たれ!
半導体製造装置側のプロセス開発者として、世界の最先端技術に触れる喜び

──現在の仕事内容は?

 私の所属するプロセス第7グループは、配線工程であるバックエンド工程にかかわる装置およびプロセスの開発を担当しています。 台湾のファウンドリメーカー向けのカスタマイズや、2006年から受注を開始した新型プラズマエッチングシステム「Vigus」の機能差別化のための改善・改良も当グループの担当になります。

 プロセス開発とハードの機能開発は分けることができません。 顧客の求めるエッチング特性、生産性、安定性はとても厳しいものがあります。 そうした顧客の条件を聞いて、プロセスとハードの改善・改良を同時に進める必要があります。

 デバイスメーカーにもプロセスエンジニアはおり、私もかつてはその一人でした。 以前はプロセス開発はデバイスメーカーの仕事でしたが、近年はその部分の多くを装置メーカーが担当するようになりました。 そこで、デバイスメーカーのプロセスエンジニアは、特定の工程だけでなくデバイス全体の設計や、大量生産時における装置の運用、歩留まり向上に注力するようになりました。

 一方で装置側のプロセス開発者は、世界のお客様が相手ですから、その最先端の技術に触れながら、プロセス技術を高めることができます。 自社の最先端でなく、世の中の最先端の現場にいることができる。 これが装置サイド、とりわけ東京エレクトロン宮城で仕事をするエンジニアの喜びだと思います。

 もちろん、私の場合は、エッチング工程だけに特化しているのですが、東京エレクトロン宮城には配線や成膜など他の工程のエンジニアもいますので、事業部間で情報を共有することができれば、視野はさらに広がります。 バックエンドの各工程を分担して開発していますので、それを一つのユニットとして顧客に提供できるようになると、東京エレクトロン宮城の強みになると思います。

前田 清司氏
東京エレクトロン宮城 株式会社
開発部門 プロセス技術部
プロセス第7グループ
グループ・リーダー

前田 清司氏
工場移転を機に仕事のやり方をさらにレベルアップし、顧客のニーズに応えたい

──前田さんも4月以降は宮城新工場に異動になるわけですね。 どんな期待がありますか。

 エッチング部門が1カ所に統合されることは大きいですね。 これまでは開発と製造の部隊がわかれていたので、情報共有という面でうまく進まないこともありました。 これからはそれが一緒になるので、無駄の削除、スピードアップにつながります。

 さらに、新工場では生産方式の革新なども行われますが、同時に開発現場においても仕事の進め方を革新するチャンスだと個人的には思っています。 クリーンルームの使い方一つとっても、かつては意味があったが、今は時代にそぐわなくなったルールがある。 工場移転を機に、こうした部分を改め、顧客の要請に応えられるだけの、スピーディーな工程改善を進めることができればよいなと思います。

──2010年7月からグループ・リーダー(GL)に就任されたそうですが、GLとしても新しい挑戦が始まりますね。

「楽しく、熱く」が私たちのグループのスローガン。 メンバーをいかに「その気にさせるか」がGLとしてのミッションです。 楽しさの定義は人それぞれで、どんな小さなことでも構わない。 ただ、メンバーの仕事が全体のビジネスの中でどういう位置づけにあるのか、ということはたえず意識してもらうようにしています。 全体の中の位置づけがわかれば、どのように自分を伸ばせばいいのかも、自ずと見えてきますから。

世界トップをめざす高いモチベーションが不可欠

──これからはどういうエンジニアと一緒に仕事をしたいですか。

 なんといっても「野心のある人」ですね。 私は常々メンバーの前で「世界を征服するぞっ!」と号令をかけているんです。 エッチング装置でもコンペティターを駆逐して、世界トップのメーカーになるんだという決意ですね。 それを可能にする組織をつくるんだということです。

「世界征服」と私がいうと、なかにはニヤニヤ笑う人もいるけれど、真剣に聞いてくれる人もいる。 会社が世界トップをめざすのなら、一人ひとりのエンジニアがそれを本気で意識しないといけません。 そういう意味での野心を求めたいですね。 特に転職者にはそれが不可欠。 そのぐらいの高いモチベーションがないと、やっていけないのは事実です。

 その上で、エッチング工程だけでなく、前後の工程にも目配りができる人がいいですね。 デバイス全体のインテグレーションの話をしても、ついてきてくれるような人と共に頑張りたいです。

──転職経験者の一人として見た東京エレクトロン宮城のよさとは何ですか。

 望めばチャンスをくれる会社です。 トップとの距離が近いのにも驚きました。 喫煙室などで会うと気軽に話をしてくれます。 ベテラン技術者と話をすると、変えてはいけない会社のDNAのようなものを強く感じますね。

東京エレクトロン宮城 SPE開発部門 ESプロセス技術部 プロセス第7グループ グループ・リーダー 前田 清司氏

1968年生まれ。 大卒後、92年に国内半導体デバイスメーカー入社。 酸化膜エッチングなどの工程を担当。 2006年9月、東京エレクトロンATに入社。 エッチングシステム部門の分社化のため、東京エレクトロン宮城の所属となる。


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