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自社技術だからできる大胆・スピーディーなシステム改修
アメーバピグを支える2人のインフラエンジニアの実力
サイバーエージェントのアバターコミュニティ「アメーバピグ」が好調だ。経営トップも期待する次の事業の柱。そのインフラを支えるのはたった2人のエンジニアだ。自社技術だからこそできるシステム改修や自作サーバーなど、その技術力を徹底取材した。
(取材・文/広重隆樹 編集/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.01.05
拡大するアメーバピグ。社長も期待する有望な新規事業

「今後の事業展開の一つは、『アメーバピグ』の強化。これは他にないサービスだと思っているので、現在この中で提供している釣りやカジノのようなソーシャルゲームをこれからもどんどん投入していきます」
 ──Tech総研が行った2010年10月のインタビューに、サイバーエージェント・藤田晋社長はこう答えていた。

 2009年2月にサービスを開始した「アメーバピグ」は、自分そっくりなアバターを使って遊べるコミュニティサービス。オープン後、さまざまなゲームやエリア(ユーザーが訪れることができる領域)などが追加されてきた。11月には「ピグドーム」という仮想広場でAKB48のライブが行われた。またAndroid携帯で使うアプリも登場し、マルチデバイス対応への動きも急速だ。現時点でユーザー数は500万を超えている。トップが期待する今後の事業の柱の一つ。それを開発し、運用するエンジニアはどんな人たちなのだろう。

大胆・スピーディーなシステム改修。自社技術だからこそできたこと
桑野 章弘氏
桑野 章弘氏
33歳。社内システム構築、BtoCサービスのインフラ部門を経て、2007年1月サイバーエージェント入社。スタート直後からアメーバピグに関わり、現在に至る。

 新規開発局システムディベロップメントグループの桑野章弘氏は、2007年1月、社内システム構築、BtoCサービスのネット企業のインフラ構築などを経て、サイバーエージェントに入社した。現在は「アメーバピグ」のインフラ系の取りまとめを担当。サーバー設定の変更やインフラ改善なども任務の一つだ。

「アメーバピグ」は、立ちあがり早々から担当し、ピグを支える自作サーバーの構築にも関わった。インフラ面から見たアメーバピグの特徴をこう語る。
「「Ameba」のブログサービスなど当社の他のサービスは、サーバー構成が、Webサーバー、アプリケーション・サーバー、データベース・サーバーという通常のもので、ユーザーはWebクライアントでブラウズするという流れになります。ところが、ピグはAdobe Flashを多用するところが違う。WebサーバーがFlashを配信し、ピグとのリアルタイムのやりとりを行う。サーバー間の通信を行うため、自社でフルスクラッチを使って開発したTCPサーバーも加わっています。ユーザーの動作をほぼリアルタイムに処理しなければならないので、ブログとはまた違う難しさがあります」

 サービスのリリース以降で、最も難しかった時期と桑野氏が記憶しているのは、2009年4月下旬から5月上旬のゴールデンウィーク前後。Flashを保存しているストレージ系統に障害が発生し、継続して対応が必要な状態が続いた。たえず増え続けるファイルを保存するため、クラスター構成のファイルシステムを構築していたのだが、そこに問題があった。たまたま2GBしかメモリを積めないサーバーだったので、処理が追いつかず、システムがスローダウンしていた。

「これは、サーバーを取り替えるだけでなくシステムの刷新をする必要がある、ということになった。問題となった分散FSをやめて他の方法への置き換え。これは結構しんどかったです」
 障害の原因を突き止めると、細かい手直しで対応するのではなく、システムの刷新をするという決断は迅速だった。
「以前勤務していた会社でそんなことをやろうとしたら、報告書や稟議書を回し、何日もかかっていたはず。このスピード感は、サイバーエージェントという会社ならではのものだと思います」と桑野氏は言う。

 ネットサービスでは、サーバーやネットワークの障害は、つきものだ。あってはならないことだが、発生をゼロに抑えることは原理的に不可能に近い。いかにサービスがストップする時間を最小限に抑えるかこそが、重要な技術課題になる。

 最近もこんなシステム改修があった。 「ピグのデータベース・システムは、最近まで分散Key-Valueストアを使っていましたが、再起動時にデータを再構築するのに時間がかかるのが問題でした。そこでMySQLに全部移行することにしました。ただ、MySQLだけだとパフォーマンス的に課題があるので、Fusion-ioのioDriveなど新しいハードウェアも導入しました」(桑野氏)

 Fusion-ioはNANDフラッシュメモリをボードに実装したSSDデバイスで、いま大規模システムを開発するプロフェッショナル・エンジニアから、大きな注目を浴びているもの。国内のECサイトにも導入が進むが、「アメーバピグ」での採用は先進事例の一つといえる。

 データベースとハードウェアの刷新のためには、プロジェクトを立てて検証が行われた。インフラチームの集中ミーティングは2日間。ただ、その前に各自がしっかりと情報を集め、検証を重ねていた。アメリカ西海岸にオフィスを置くことで、ベンチャー系を含むITベンダーの情報が入り、製品がいちはやく調達できる同社の強みが、ここではうまく発揮されている。

若手エンジニアがアーキテクチャ採用に決定権を持つ

 同じくシステムディベロップメントグループの並河祐貴氏は、前職の大手SIerではR&D部門に在籍していた。オープンソース系ミドルウェアを中心としたインフラ技術情報については、以前からエンジニア・コミュニティで積極的に発言。クラウド・コンピューティングを活用したサービス構築については、著書もある。

 そんなエキスパートが2010年9月、転職を決意した。サイバーエージェントに魅せられた理由をこう語る。
「EC企業のインフラ技術に関心があり、なかでもサイバーエージェントには注目していた。新規事業に積極的にチャレンジする姿勢も魅力的だった」(並河氏)

 入社してあらためて驚いたのは、そのスピード感。さらに「エンジニアの、日頃の検証能力、実際の実装能力の高さ」には感心した。なにより「現場のエンジニアがアーキテクチャであったり、採用技術について決定権をもっていること」が驚きだった。「ふつうの会社では、そのレベルの決定に、若手エンジニアが口を出すことは、なかなかできないこと。ここでは、入社2年目、3年目の若手が技術の最前線を引っ張っている。もちろん、決めたからには責任を持たなければならないんですけれどね」

 サイバーエージェントの技術プロジェクトでは、タスクの詳細を最初から完璧には決めず、方法論はメンバーに任せている。もちろん、その方法をなぜ選んだかについては議論するが、最終的には担当エンジニアの判断が優先される。

 それだけの技量をもつエンジニアが集まっているといえばそれまでだが、信頼して任せるという風土は、エンジニアの能力を引き出し、向上させるためには欠かせないものだ。
「家で勉強する人も多いと思いますが、なにより勉強になるのは大規模サービスでこそ起こりうる数々の課題に接すること。中には、大規模サービスならではの、次々と起こる問題に対して、若手がスキルや経験値は関係なしに奮闘する姿も見られます。最初はすごい会社だなと思ったけれど、これだけの環境だからこそ、若手がぐんぐん伸びていけるんだなと、今では納得しています」(並河氏)

並河 祐貴氏
並河 祐貴氏
31歳。新卒でSIerに入り、基礎技術の研究開発や社内システムの運営企画、社内ベンチャー起業に携わる。前職時代の共著書に『クラウド Amazon EC2/S3 のすべて』(日経BP社)がある。2010年9月入社。
ユーザー視点でサービスを検討。コスト感覚も自然に身につく

 サイバーエージェントという会社の、技術者にとっての魅力について、話を続けよう。
「サイバーエージェントのエンジニアはみな、コンシュマー向けのサービス事業に近いところで仕事をしています。チームとして事業責任を担っている。だからこそ“これは自分たちのサービスだ”という事業に対する愛情も深い。インフラのエンジニアがプロデューサー担当に、“このサービスじゃ、ユーザーがついてこないんじゃないの”などとどんどん意見をぶつけることも日常茶飯事」というのは、桑野氏だ。

「作っている人もヘビーユーザーじゃないと、やはりいいサービスはできないですよね」と並河氏も同意する。「毎日家に帰ったら、欠かさずピグにアクセスしますよ。夜はアクセスするユーザーが多く、サービスの状態も肌で掴み取りやすい。また、そんな多人数の方達とコミュニケーションが取れるのは、ユーザーの一人として面白い。」という。たえずユーザー視点に立って、快適なサービスのあり方を考え続けることが、エンジニアにも欠かせないのだ。

 もちろん、自社サービスで利益を挙げるためには、エンジニア1人ひとりのコスト感覚も重要になる。並河さんは、前職の社内ベンチャー時代には、新しい事業の企画・運営にも携わり、その中のある事業では1人で営業やマーケティングなどにも手を染めた。だからこそコスト感覚という言葉が理解できるのだが、サイバーエージェントのエンジニアもまた、一つの事業をエンジニアとして支えるという意識が強く、コスト感覚は自然に身についているという。

「ユーザー数の拡大は右肩上がりですが、だからといってサーバー運用のためにむやみに人は増やさない。サーバー設定を極力自動化したり、これまで自作で作ってきたサーバーも、外で組み立てられる部分は外に出していくというように効率化も考えなくてはなりません。コスト・効率の観点からは、プライベートクラウドの活用などもこれからの課題です」と、桑野氏も語っている。

エンジニア仲間の技術力に驚き、互いに啓発される関係

 サイバーエージェントの“中の人”の声が、最近、オープンな技術セミナーや自社のエンジニア・ブログ「プリンキピア」などを通して、徐々に外にも見えるようになってきた。両人ともブログへの執筆はこれからだが、「専門技術の話だけではなく、自社で行われているアプリ・コンテストや勉強会や技術レポートなど、ふだん私たちが取り組んでいることを、現場目線で語っていくこともできます。いい人材をサイバーエージェントに呼び込むためにも、私たちもこれからもっと外を意識して発言していかなくちゃと思っています」(桑野氏)。

 実際、当時SIerにいた並河氏がサイバーエージェントの技術力の一端を知るきっかけになったのは、2009年11月に開かれた「自作サーバーカンファレンス」(サイバーエージェント、はてな、pixiv、cerevo、チームラボの5社のエンジニアが共催)における桑野氏のスピーチだったという。このイベントでは、サイバーエージェントのスタッフが実際にサーバー組立を実演。当時200台のサーバーで運用していたそのインフラ技術をつぶさに披露した。

「それまでサイバーエージェントの技術は外から想像するしかなかった。実際に話を聞いてみて、けっこうスゴイことやっているんだな」と、並河氏は思ったという。
「それがきっかけで、並河のような人がサイバーエージェントに入社してくれたので周りからは“桑野のあのときのスピーチは、会社に対する最大の功績だ”なんて言われたんですよ」と笑う。

 現状の技術レベルに甘んじることなく、たえず深くて広い探求心をもつ人たちだからこそ、つながることができるエンジニアの輪。こうしたエンジニア同士のつながりが、人を吸引し、さらに人を育てていくのだ。

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