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“自前主義”を貫くエンジニア集団はこうして作られた
佐藤CTOが明かすサイバーエージェント内製化の裏側
アメーバ事業を中心にサイバーエージェントの巨大メディアを支え、新サービスを打ち出すエンジニア部隊を率いる最高技術責任者・佐藤真人氏に、その技術力の秘密を聞いた。あらゆる要素技術を内製化してきたのはなぜか。エンジニアが自由な開発ができる環境はどのように生まれたのか──。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:10.12.17
トラブルの渦中に飛び込んで、火消しするのが大好き
佐藤真人氏
執行役員
新規開発局 最高技術責任者
研究開発部長

佐藤 真人氏

 佐藤真人氏──サイバーエージェントの技術をリードする最高技術責任者(CTO)だ。子供のときからコンピュータに触れていて、新聞配達のアルバイトをしながらSF小説家をめざした時期もあるが、本格的なキャリアはIT業界。この業界の先駆的な企業を複数経験してきた。

 サイバーエージェントへの入社の動機はすでに多くのメディアに紹介されているが、「当時、外から見ていたアメーバブログのシステムが不安定だったので、それを直せるのは、エンジニアとしてやりがいがあると思った」というエピソードは印象的だ。
「もともとトラブルの渦の中で、火消しをするのが大好き。アメーバブログはこれから伸びるサービスだと思ったし、どうせだったら直しがいのあるところが面白い」

 入社してみると、案の定、アメーバのシステム基盤は崩壊の寸前にあった。当時はまだ月間1億ページビュー(PV)を下回るアクセス数。それでも「サーバーへのアクセスが大変混み合っています」というソーリー画面を頻繁に掲示し、サービスが中断されることが多かった。
「とても B to C のシステムとは思えない」という感想をもったという。原因は複数あったが、データベースサーバーが高負荷に耐えきれず、常に悲鳴を上げていたことは大きな問題。当時は構築を外部のベンダーに任せきり。そのスキルに不安があったし、社内のエンジニアも抜本的な改良まで手が回らない状態だったという。

 DBサーバーの全面改修による性能改善やWebサーバーやアプリケーションサーバーの負荷分散、基幹DBのアーキテクチャ刷新などに取り組んだ。サーバーマシンを価格の性能比の高いIAサーバーに切り替えたり、OSやアプリケーションも高価な商用版から、Linux、MySQLなどオープンソフト系に切り替えたことも重要な試みだった。

 システム基盤刷新プロジェクトのミッションが完遂し、月間180億PVを越える膨大な負荷をなんなく処理できる新しい基盤が動くようになるまで、ゆうに3年以上かかったという。ベンダー任せではなく、自前で開発し、自前でメンテナンスする、サイバーエージェントへの「内製主義」はこうした取り組みのなかで培われていった。

自己責任原則を貫くエンジニア集団はこうして生まれた

「あらゆる問題を自己責任で解決できる体制づくり」
 これが、佐藤氏がサイバーに入社してから一貫して社内に植え付けようとしてきた文化だ。商用ソフトといえどバグがある。海外製品の場合、国内代理店にバグの検証を依頼しても時間がかかるだけ。それよりは、オープンソースを活用し、自分たちで改善したほうが、コスト的にもスピード的にも大きなメリットがあるのだ。とりわけ、日に日にPVが増大するソーシャルメディアサービスではスピードとコストは死活問題でもある。

「商用ソフトや外部ベンダーの活用を一律に否定するわけではない。当社でもFXや金融など B to B to Cに近く、大量のユーザーが一斉にアクセスするというより、一ユーザーあたりの課金を上げる形で動くものは、負荷もある程度読めるので商用ソフトでも十分だと思います。ただ、アメーバブログやアメーバピグなど、ソーシャル系のサービスは、ユーザー数を増やし、その中で課金率と課金ユーザーあたりの課金単価、両方を上げることで、売り上げを伸ばして行く事業。そこで商用ソフトを使うとアクセス数に応じてソフトウェアライセンス費用も莫大になるため、コスト的なインパクトが大きい、という問題もあります」(佐藤氏)

 システムやサービスに応じてハード、ソフトウェアの最適戦略を選択していく。これがCTOの役割でもある。例えばアメーバブログに使われるサーバーは数千台規模に及ぶが、ほとんどが自前で組み立てられたものだ。かつては大手ベンダーのサーバーを購入してそのまま使っていたが、これがロット単位で故障し、それを直すために膨大な工数がかかったという経験が、同社にはある。
「ボードの交換のためだけに、エンジニアが心身共に疲弊してしまった。そんなストレスをためこむよりは、最初から自分たちで作っちゃった方が早いと思うようになったのです。もちろん今でも製品を購入する場合もあるが、買ってきた瞬間にエンジニアがバラしてしまう。部品取りして組み合わせるというのが我々の流儀ですね」(佐藤氏)

 佐藤氏自身が自らを子供のころからの“アキバ人間”だと断言し、ほかにもそういうナードというかオタクというか、サーバー技術のエキスパートが社内にゴロゴロいるのだという。秋葉原を中心に通好みの店舗を展開し、パーツ単位でのきめ細やかなサービスも提供する国際産業技術株式会社とも業務提携を結び、そこでの生きた情報をサーバー購入や構築に活かしている。

 現在、佐藤氏はアメリカ西海岸と日本を往復する日々だ。年間の6〜7割がアメリカという生活。佐藤氏が常駐するパロアルト・オフィスの他に、今年(2010年)春からはサンフランシスコにもオフィスが開かれた。アメリカ進出は、今後のグローバルな事業展開のための布石という意味もあるが、もう一つは内製主義を突き詰めた結果でもある。
「ハードにしてもソフトにしても国内代理店のサポートはあてにできない。だったら、アメリカのベンダーと直接交渉した方が、価格も安く、かつ最新の情報が取れる」というわけだ。

 佐藤氏はマウンテンビューの自宅からパロアルト・オフィスに通勤し、そこから毎日のように周辺のハード・ソフトベンチャーを訪ねては、最新製品の情報を仕入れ、ときには機器の検証も行う。朝採りの野菜や魚ではないが、そうした西海岸直接仕入の新鮮な情報は、もちろん東京オフィスにも絶えず環流してくる。

フラットな組織でエンジニアのポテンシャルを引き出す

 CTOには社内のエンジニア集団をどのような方向で、どのような水準にまで育て上げるかという、もう一つのミッションがある。エンジニアのスキル向上は、けっして手取り足取り教えれば実現するというものではない。自ら課題を設定し、そこに自発性をもって取り組む風土が欠かせない。

「その前提として組織をフラットにすることが重要ですね。年齢や経験で人を縛らない。逆に、若手でもやる気のある人間にはチャンスを与える。例えばアメーバなうというミニブログサービスがありますが、これなどは新卒2年目のエンジニアが作ったもの。局長の長瀬や社長の藤田が“ちょっとツィッターみたいなもの、作れないか”と声をかけたら、その若手がやる気になった。すぐに事業化がGOになってしまって、彼女は責任の大きさに驚いちゃったみたいですけど(笑)」(佐藤氏)

 中途採用についても経験者に限れば即戦力として使えるが、そればかりだと将来の可能性(ポテンシャル)を見失うことにもなる。
 同社がこの秋からスタートさせた「エンジニアアカデミー」は、他社で仕事をするエンジニアに対して、無料で開く講習会だ。2カ月にわたる土日の講習会では、主にJavaによるWebアプリケーションの開発を学ぶが、「サービスを開発するエンジニアにとって、開発言語はたんなる道具にすぎない。狭い意味でのJavaエンジニア育成ではなく、幅広いポテンシャルを引き出すという狙いがあります」(佐藤氏)

 エンジニアを単にシステム開発の人月単位の一つとしてではなく、その志向性やマインドも含めて理解し、未知のスキルを引き上げるためのさまざまな工夫を凝らしていることが、ここからもわかる。

エンジニアブログ「プリンキピア」が熱い

 社内のエンジニアの自発性や創造性、自社に止まらない市場価値を高めるために、佐藤氏が8月から社内に呼びかけて始めたのはエンジニアブログだ。「プリンキピア」と題されたエンジニア公式ブログでは、エンジニアが順番に、自分の研究課題や日々の思いを綴る。
「もともと当社には、『研究開発レポート』という、大学の卒研や卒論のような制度がありました。社内のプログラムコンテストなども定期的に行われていて、外部の方に紹介できるコンテンツは無数にあります。ただ、そういう膨大な蓄積を、ブログやWebの数ページで発表できるとはとうてい思えなかったので、他社さんのエンジニアブログを見ながらも、開設にはちょっと躊躇していたんです」(佐藤氏)

 しかし、中途採用戦略という観点からも、サイバーの社内にはどんなエンジニアが活躍していて、日々どんなことを考えているかを率直に紹介する意義があると考えるようになった。毎週1回更新される内容は、自社のサービスや技術の紹介や研究開発レポートの抜粋などお堅いものだけでなく、会社の知られざるヒストリー、職場組織の実態、その雰囲気など柔らかいエピソードも含まれている。

 特徴的なのは、一つひとつのエントリー(記事)に対して、佐藤氏が丁寧な解説やコメントを、しかもそれを英語にも翻訳して掲載していることだ。個々のエンジニアの研究テーマが業界内でどのように意味があるのかがわかるし、社内のエンジニア向け施策の狙いも伝わってくる。英語もつけているのは、「英語を理解するエンジニアの採用に少しは役に立つかも」という思いからのようだが、そこにはエンジニア人材のグローバル化を進める同社の方向性もかいま見えたりする。

プリンキピア サイバーエージェント〜日常と非日常の境〜
プリンキピア サイバーエージェント〜日常と非日常の境〜
http://ameblo.jp/principia-ca/
通信キャリアレベルのルーティング技術まで自前で用意
「Mysqlによるタフなサイトの作り方」
「Mysqlによるタフなサイトの作り方」
佐藤真人氏、桑野章弘氏、岡田達典氏、大黒圭祐氏(著)

 これまでサイバーエージェントについては、「インターネット広告代理店」「営業力の強い会社」というイメージをもつエンジニアも少なくなかったはずだ。しかし、その先入観は改める必要があるようだ。CTOの佐藤氏に代表される、同社のエンジニア集団のITスキルのたしかさは、業界内でも広く認められつつある。

 同じネット・サービス企業の中でも、独自の競争優位性をもつことも徐々に知られるようになってきた。その一つの例が、通信キャリアやISPレベルと同様のルーティング技術を、自社内にもっていることだ。
「インターネットでは自律システム(autonomous system:AS)が世界に散らばっていて、それぞれユニークなAS番号をもって、ルーティングをしています。通常のネット・サービス会社のネットワークなら、ISPがもつルーティング技術に依存していて、まあそれでも十分なのですが、私たちはASとASをつなぐエッジルーターの領域にまで自社技術を持っています。元々はISP事業者に任せていた部分を、自前主義を貫いてそこまで自分たちのものにしてしまいました。ネットワーク技術者ならば、そのすごさをきっとわかっていただけるのではないかと思いますよ」(佐藤氏)

新しいことに取り組まないのは、エンジニアにとって悪である

 ほかにも、サーバーやアプリケーションの開発にあたって、自分たちのフレームワークや手順をあえて定めていない、というところも同社の技術の特色だ。
「短期的開発ならばルールを定めたほうが効率的ですが、優れたエンジニアであればあるほど、そうした最大公約数的な技術では物足りないと思うもの。最新のAPIが公開されたら、それをいちはやく試して、サービスに導入してみたいと思うはず。一見、非効率のように見えて、長い目でみたらエンジニアの生産性はこっちのほうが上がります。なにより枷に縛られて、やりたいことが試せないというストレスは限りなく低減されます」と、佐藤氏は言う。

<新しいことに取り組まないのは、エンジニアにとって悪である>
 というのは、サイバーのエンジニアが全体ミーティングの度に確認する行動規範の一つ。その規範をたんなる条文ではなく、エンジニア一人ひとりが内面化できる環境がここにはあるようだ。

 もちろん、エンジニアがみんな勝手にやりたいこと、好きなことばかりやったら、チームは統制とまとまりを失い、ユーザーのためのサービスは実現できなくなってしまうだろう。そこで、こんなルールが登場した。

<自分がやりたいことは自分でやろう。やりたくないけれど必要なことは、みんなで取り組もう>
「部屋の空気清浄器のフィルターの取り替えなんて、誰もがやりたくないものの代表ですよね。業者に頼んでしまえば簡単ですけれど、こういうのは運営委員会をつくって、自分たちで持ち回りでやろうと決めました」

 自分たちがエンジニア組織をつくる。その組織を運営する大変さを一人ひとりが実感しながら、組織の発展のために貢献する。誰かに強制されたからではない。自分たちのよりよい環境と自由のためなのだ。個と組織を柔軟につなぐ、自立型組織の萌芽がここには生まれている。

株式会社サイバーエージェント 執行役員 新規開発局 最高技術責任者 研究開発部長 佐藤 真人氏

大手IT系出版社の技術部門でコンテンツ管理、大手ブロードバンド配信会社で大規模インフラの構築、大手インターネットメディア会社でBtoCサイトのリニューアルなどに携わり、2006年にシステムアーキテクトとしてサイバーエージェントに転職。現在、シリコンバレーに席を置きながら、新規開発局エンジニアグループのシステムアーキテクトとして、システムインフラの構築戦略の推進、メンバーのマネジメントに携わっている。

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