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工作機械、工業用ミシン、ガーメントプリンターの開発を強化
新興国の需要で急成長!ブラザー工業の独自技術を探る
ブラザー工業の産業機器が好調だ。タッピングセンターと呼ばれる工作機械、工業用ミシン、ガーメントプリンターが、新興国需要などで急激に売上を伸ばしている。これを好機として、次期製品の開発を見すえたエンジニア採用を強めている。その狙いを探った。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/早川俊昭)作成日:10.12.15
新興国需要で急成長するブラザーの産業機器
野ア 剛寿氏
マシナリー・アンド・ソリューション カンパニー
開発部 部長

野ア 剛寿氏

 リーマン・ショック後の低迷を脱し、国内製造業、わけても中部地区の製造業が息を吹き返している。その一つがブラザー工業。主力のプリンターや複合機の販売が順調なほか、中国を中心とする新興国需要で産業機器の販売が大幅に伸びており、経営も好調だ。

 ブラザー工業の製品といえば、一般には家庭用ミシンや複合機、電子文具が知られているが、産業財の分野でも優れた技術をもっている。タッピングセンターなどの工作機械、工業用ミシン、ガーメントプリンターなどを開発するマシナリー・アンド・ソリューション(M&S)事業である。

 工作機械は、「CNC(コンピュータ数値制御)タッピングセンター」で定評がある。タッピングは狭義には、タップ加工(ネジ加工)のことだが、「タッピングセンター」という名称は同社の登録商標であり、実質的にはタップ加工のみならず、ミーリング加工やファインボーリング加工も行える小型のマシニングセンター(MC)だ。1985年の第1号機からすでに四半世紀の歴史を持つが、生産性・加工能力・信頼性を高める方向で技術を蓄積してきた。「30番」サイズの主軸径の領域で市場での存在感を高め、累計の生産台数は6万台を誇る。

 一方、工業用ミシンは世界有数ブランドのひとつ。2003年以降は選択と集中を強め、カテゴリーNo.1の商品を次々と世に送り出し、技術で業界をリードしている。

 ガーメントプリンターは、同社に蓄積されたオフィス用プリンターの技術を核にして、2005年に開発された業務用のプリンター。Tシャツやトレーナーなど布地へのプリントに特化した製品だ。高品質のプリントが低コストで行えるため、小ロットのオンデマンド型ビジネスに向いている。まだ新しい製品だが、今後は、工作機械、工業用ミシンについでM&S事業部門を支える第3の柱に成長させていく考えだ。

本縫いダイレクトドライブ自動糸切りミシンCNCタッピングセンターガーメントプリンター
生産性、信頼性、環境性への徹底したこだわり

 このように産業機器の製品は、産業用途という共通項はあるものの、それぞれに特徴があり、導入先企業の業種も異なる。しかし、いずれにも通底しているのはブラザー工業ならではの開発思想だ。
「私たちがこだわっているのは、生産性、信頼性、環境性の3つ。この点はどこの企業にも負けないという自負がある」  というのは、野ア剛寿・M&S開発部長だ。

 生産性とは、つまるところスピードのこと。同社のタッピングセンターは、主軸テーパーの番手を30番に絞ることで、コンパクト化を図り、主軸、送り軸などの俊敏な動作を実現した。工具を自在に切り替えるオートツールチェンジャー(ATC)をいかに速くするか、動作と動作のつなぎのロス時間をいかになくしていくかも、現場での生産性に直結する。100分の1秒単位のスピードのこだわりは徹底をきわめる。

 例えば、オートツールチャンジャー(ATC)においては、送り軸(Z軸)とATC機構が連動して、カム機構により工具の受け渡しが行われるが、30番の俊敏な主軸の加減速により、送り軸が移動中にATCに必要な主軸の割り出し動作は完了し、工具交換位置で送り軸が停止することなく、工具の受け渡しが行われる(ノンストップATC)。タッピングセンターの随所にこうした工夫がみられる。

「機電一体開発」も重要なポイントだ。本体は自社開発するもののNC装置は専門企業から購入することが多い工作機械メーカーのなかで、ブラザー工業は一貫してNC装置の自社開発にこだわっている。そのことで、きめの細かい制御が可能になるのだ。
「生産性へのこだわりは、顧客企業の現場での使われ方を熟知するところから生まれる。いかに痒いところに手が届く設計ができるかが鍵になる。操作パネル一つとっても、パネルの見やすさやキーの配置などに、他社とは違うブラザー製品ならではのきめ細かい使いやすさが表れている」
 と野ア部長は自負する。

 産業機械としては当然のことながら、製品の信頼性も重要。もし故障してしまえば、顧客の工場のラインはそこでストップしてしまい、ダウンタイムが長引けば長引くほど、損害が増える。
「私たちの製品は工場でほぼ24時間連続して使われる。機械的な耐久性を担保するためには、解析モデルを使って丹念に検証することが欠かせない。技術合理性に基づく、理にかなった設計姿勢を貫くことが、製品の信頼性確保の基本だ」(野ア氏)

 3点目の環境性は、近年強く求められるようになっている。消費電力はもとより、梱包材の簡素化、クーランド使用量の低減、エアパージ(エアによる粉塵等の機構部への侵入防止)の効率化など、多数の項目について改善が進められ、現在はタッピングセンター、工業用ミシン、ガーメントプリンターのいずれも、それぞれのカテゴリーで業界ナンバーワンの省エネ性能を確保している。

産業機器部門の成長基盤を固めるためのエンジニア採用

 タッピングセンターは昨年から中国の機械加工工場からの需要が急速に高まっている。ハードディスク駆動装置(HDD)や携帯電話向けに加え、ノートパソコンやiPhoneなどスマートフォンの世界的需要が背景にあるとみられる。台湾や東南アジアの電子機器受託製造サービス(EMS)各社が、中国での設備投資を活発化していることも、受注拡大の要因の一つだ。

 工作機械の主力生産拠点は刈谷工場(愛知県刈谷市)で、中国では2カ所で現地企業に委託生産していたが、急速な需要に応えるため、今年(2010年)からは中国での自社生産に乗り出している。一方で、国内自動車産業向けの需要も、リーマン・ショック前の4割程度に戻ってきている。これらによって、工作機械部門の売上高は2011年3月期予想では倍増する見込みだ。

 海外市場からの引き合いが強いのは、工業用ミシンも同様だ。またガーメントプリンターは、オンデマンド型のプリントショップという新しい市場を開拓することで、成長軌道に乗りつつある。M&Sカンパニー全体としても急速なV字回復を遂げる。利益率の伸びは他の事業部門に比べても顕著だ。
「新興国需要に乗ったという面があるが、ここで得た利益を次期製品の開発に投入できるというよい状況が生まれている」(野ア氏)

 こうした産業機器の需要拡大に対応し、今後の成長基盤をつくるため、M&S事業部門では、機械、メカトロニクス、電気、制御、ソフトウェア開発など広い分野で技術者の採用を拡大しようとしている。
「今後、アジアでの現地生産は拡大していくが、それと共に、マザー工場としての国内工場の位置づけもますます重要になる。新製品の商品企画や装置全体の構想・設計は日本で行うし、機械・電気・ソフトの要素技術の集積も日本がリードしなければならない」と、野ア氏はこれからのエンジニアの活躍に期待をかける。

丸い技術者は要らない。何かに特化した先鋭な技術を

 メカ機構設計、デジタル回路設計、パワー・エレクトロニクス、ソフトウェア制御などそれぞれの要素技術のエキスパートが求められている。その経験は工作機械やNC装置に特化していることが理想的だが、そうではない場合も、なんらかの生産装置や産業機器の開発に携わった経験者へのニーズは高い。

 とはいえ、今回の技術者募集には、現行製品群の拡大や改善のためだけではなく、5〜10年後を見越した新技術の開拓という狙いもある。穴を開ける、切削するという工程は永遠に残るにしても、対象となる素材はたえず変化するし、それにともなって機械の概念も変わることは十分に予測される。そうした新しい時代への対応力が求められているのだ。

 その意味では「丸い技術者は要らない。何かの専門技術や経験に尖ったものが欲しい」と野ア氏は言う。「それなりの経験のある技術者であれば、ブラザーの既存の技術者と技術ベースはすぐに共有できるはず。ただ、製品開発のプロセスやアクションが異なるだけ。むしろ、その違った部分を提示してもらうことで、お互いの新しい気づきやシナジーが生まれることを期待したい」という。

 一方で、ブラザーが転職者に提供できる新しい経験や環境も重要だ。同社は、企画・開発から販売・廃棄にいたる製品ライフサイクルの全フェイズに関連する部門が、製品の企画や開発、設計などの段階に参加・協働する「コンカレント・エンジニアリング」を徹底している企業としても知られている。

 さらに、このコンカレント開発は、顧客を起点・終点にしたスピーディーなデマンドチェーン、サプライチェーンと一体化することで、顧客の要望や期待を第一に考えて、新しい価値を生み出す独自のマネジメントシステム「BVCM=ブラザー・ヴァリュー・チェーン・マネジメント」へと高められている。

「営業、企画、開発が別々に動くのではなく、それぞれの垣根がまったくない。商品企画段階から製造部門が口をだし、試作段階から品質保証の担当者がかかわっていくことはしょっちゅうある。開発におけるフロント・ローディングが徹底され、その手法も詳細に定義され、たえず見直しが図られている」(野ア氏)
 こうしたエンジニアリングやマネジメントの先進的な成果を享受し、その発展に寄与することで、エンジニアとしての経験もまた大きな進化を遂げるはずだ。

状況に変化を起こすことのできる自律型人材への期待

「私も、まだ右も左もわからない23歳のときに、当時担当していた工業用ミシンの新製品を展示会でアピールし、現地のお客様に導入してこいと言われて、単身ヨーロッパに派遣されたことがあります。お客様の工場にブラザー製品が溢れているのを目の当たりにして感激すると同時に、お客様の信頼を失ってはならないと肝に銘じたものです」
 と、野ア氏は自らの新人時代の経験をかたる。若い時から仕事を任せ、たとえ失敗してもその経験のなかから自覚と責任を醸成しようというのは、ブラザーの社風でもある。

 失敗談も数知れずだ。ある製品の担当を任され、試作品の検討を終え、いざ量産過程に入る直前というときに、製品そのものが潰れたという痛い経験も野ア氏にはある。
「市場性検討のツメが甘かったんですね。会社にとっては大きな損失でしたが、私個人はその失敗を通して学んだことが多かった」と振り返る。

 求める人材像の基本は、「チャレンジを恐れず、自ら状況に変化を起こすことのできる自律型社員」だ。 「私が何をするかは私が決めたい。私の目的は私が決めたい。どのようにやるかも私が決めたい。私が行う方法・手段も私が決めたい。若いうちから仕事を任せられて、自主・自立性を発揮したい」
 という言葉が求める人材像として採用ホームページに掲げられているが、これだけ自主性・自立性にこだわる会社も、製造業の中では珍しいかもしれない。それは、かつての家庭用ミシンにしてもタイプライターにしても、そして現在の工作機械やガーメントプリンターにしても、けっして他社のモノマネではない、画期的な製品を開発し、新しい市場を築いてきたブラザーならではのDNAと言えるものかもしれない。

マシナリー・アンド・ソリューション カンパニー 開発部 部長 野ア 剛寿氏

茨城大学工学部精密工学科卒業 専門はメカトロニクス技術。工業用ミシン開発部では、システム開発のほか省力機や特殊機の開発など幅広い分野を担当。前部署の戦略技術部部長時代には、カンパニーの製造部門におけるデジタル化を強力に推進した。2009年10月より現職。

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