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「人材三国志」状態とも言えるほど、激しいエンジニア人材獲得競争を展開するソーシャルメディア・アプリ業界。そこにTwitterの著名人が参戦した。9月1日からDeNAのオフィシャルリクルーターに任命された、ITジャーナリストの津田大介さん。その真意とは──
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:10.10.28
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![]() メディアジャーナリスト
津田 大介氏 |
9月1日昼頃のTwitter。津田大介さんが突然、こんなことをつぶやいた。 「そうそうご報告。ツイッターがご縁で本日9月1日より株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のオフィシャルリクルーターに任命されました。期間中ツイッターを使ってDeNAが行っているエンジニア募集 http://bit.ly/DeNA-2010 をサポートします」 「なんで、津田さんが?」という素朴な疑問を投げかける人。著名人とTwitterを活用した採用活動の新しいスタイルに注目する人。今、DeNAやグリーなどソーシャルメディア業界が、エンジニア採用で激しいつばぜり合いを演じていることを知っていて、「ここまできたか」と驚く人。「津田さんの独断と偏見で社員選ぶんなら、面白い」ともてはやす人などなど、さまざまな反応を呼び起こしながら、つぶやきはまたたくまにコメント、リツイートされて広がっていく。
「僕が採用に関わるわけじゃないのでエージェントではないんですよ。とにかく今やってるエンジニア募集を成功させたいみたいなので、それを周知させるのに僕が協力するって感じですね」 |

津田さんは、学生時代から主にインターネットテクノロジーを取材分野にして、ネット企業への取材も精力的に行ってきたジャーナリスト。DeNAと接点があってもまったく不思議ではないが、このオフィシャルリクルーターを引き受けるにあたっては、多少の個人的理由もあった。
「僕は2005年から、株式会社ナターシャというコンテンツ制作会社にも関わっています。設立メンバーだし今も非常勤取締役。ナターシャは音楽、マンガ、お笑いに関するニュースサイト“natalie(ナタリー)”を運営していますが、こういう小さなWebメディアって、経営はいつも火の車。そんなとき、DeNAが僕らの発信するニュースを2007年5月から“モバゲータウン”で2次配信してくれることになった。つまり僕らのニュースを買ってくれるようになったんです」
ナターシャの経営がこれでなんとか一息つけた。DeNAは、小さなメディアのコンテンツにも、ニュースバリューがあればきちんと対価を払う企業、という認識が津田さんの中に生まれた。
その後、ナターシャはモバゲーの音楽コンテンツの編集も請け負うなど、今、両社はビジネス上の深いパートナー同士だ。その意味で、津田さんは一人のビジネスパーソンとしてDeNAには敬意と恩義を感じており、機会があれば何か恩返しをしたいと思っていた、というのだ。

そんなところに、オフィシャルリクルーター就任のオファー。ネット企業、とりわけソーシャルアプリの企業が今めざましい成長を遂げていることを、もちろん津田さんは知っていた。内情を聞くと、今後のさらなる成長を遂げるためにはWeb系、インフラ系のエンジニアが絶対に欠かせないため、さらに採用に注力するということだった。
「DeNAには、単なる客に言われてモノをつくるっていうタイプのエンジニアじゃなくて、企画とエンジニアリングを同時にこなすようなタイプのエンジニアが多い。やはりこういう人が頑張らないと、業界は面白くならない。いいエンジニアに集まってほしい。通常の採用活動ではなかなかメッセージが届かない層にも、Twitterならリーチできるかもしれない」(津田さん)
期間は11月末まで。エンジニア採用を応援するけれども、ジャーナリストとしての報道姿勢や客観的スタンスは変える必要はない。単に採用活動を告知するだけではなく、「エンジニアにとって理想の職場とは」といった議論を生み出すファシリテーターとして役割にも期待する──そういう条件の下で、今回のリクルーターとしての役目を引き受けることになったのだ。
「もう一つの理由としては、Twitterのメディアとしてのパワーを、お金に換えていく。つまりマネタイズの実験としても面白いんじゃないかと思いました」
このあたりは、『Twitter社会論』(洋泉社)を書き、自ら深くTwitterにかかわりながら、それがこれからの政治・社会・ビジネスそして人々のライフスタイルを変えていく様子を取材する、ジャーナリストならではの好奇心だ。

“エンジニア採用大使”のような役割を買って出て1カ月半。津田さんのエンジニアを見る目は変わっただろうか。
「エンジニアの転職を考えたとき、彼らはまずお金だけでは動かないですよね。お金以外で何を求めているのか。議論を仕掛けたらいろんな意見が出ました。みんなアーティストであり、職人なんですよ。その両方を兼ね備えているのがエンジニアなのかな。価値判断の基準が事務系・営業系のビジネスパーソンとは違うことがよくわかりました」
お金だけで動かないとすれば、何か別のモチベーションが必要だ。
「ナタリーの採用でも、“給料は高くないけど、行きたいライブがある時は行けるよ”と言ったら、それが決め手になって入った子もいた」自分の関心と仕事の充実を両立させるのは、全然悪いことじゃないですよね。中には給料より、自分が腕を競えるライバルのような同僚がいることを重視する人だっている。社外にコミュニケーションを広げて、オープンソース、ソフトウェアの世界で存在感を発揮する人もいる。そういう意味での働きやすい職場をみんな重視している。会社を自分の自己実現の場として利用する。それでいいんじゃないかなあ」
エンジニア独自の発想が刺激的だったとも、津田さんは言う。
「それはこれまでも感じていたことなんですけどね。Webメディアをつくっていると、僕らジャーナリストはやはり、記事の内容や面白さを重視する。ところがWebメディアのテクノロジーを知っているエンジニアは、記事の順番を決めるとき、それこそGoogle AnalyticsのようなWeb解析のデータを重視する。今、紙からWebへメディアが変わっていくとき、こうした技術者の発想を交えながら、オープンに議論することから、新しいメディアの形が生まれてくると思うんですよ。その議論は刺激的ですよ」
これまではともすると、文系は文系だけで、技術系は技術系だけで閉じた議論をするというパターンが多かった。そこには限界がある。これからは、職種の壁を越えて新しいイノベーションやサービスを生み出す必要がある。Twitterでの議論がそのきっかけになることを、あらためて実感する日々だったという。

津田さん自身が、ソーシャルゲームにハマったことがあるユーザーの一人。リクルーターとしてDeNAの事業に一歩踏み込んでかかわることで見えてきたものもある。これからのソーシャルメディア業界についてこう提言する。
「活発な競争が行われていることはよいこと。ただ、ソーシャルゲームのユーザー層が拡大したことで、幅広い年齢が利用することとなり、未成年もこの世界に入ってくるようになる。面白くてハマるゲームが多いですからね。アイテムが欲しいあまり、ものすごい課金を支払うことになる人も出てくると思うんですよ。ほかにもネット上のトラブルを誘発する危険性だってある。こうしたモラルの問題にもネット業界はしっかり取り組んでほしい。業界のリーダーはもはや小さなベンチャー企業じゃない。ゲームやアプリのヒット数を競うだけじゃなくて、CSR(企業の社会的責任)の面でも、先を争っていい仕事をしてほしいですね」
DeNAと密接に協力しながらも、言いたいことはピシッという。ジャーナリストとしての津田大介は健在だ。オフィシャルリクルーター任務の中間総括として、津田さんは、「いまエンジニアは、他の職種に比べても恵まれている存在」という感想をもつ。自分の仕事や人生にそれぞれが自信をもち、自由に発言できている。やりたくもない仕事に縛られて、鬱屈して下を向いている技術者なんて、エンジニアじゃないんだ、と。これは明るい希望の発見だ。
「こういう恵まれた状況だからこそ、転職の自由っていうのもあると思うんですね。より高いレベルの自己実現をめざして、会社を選んでいく。それができる自由を、エンジニアのみなさんには存分に謳歌してほしいなあ」

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大学在学中からITやネットに関する文章を多くの媒体で執筆。
2006年から文部科学省の文化審議会著作権分科会の専門委員。
2007年に「インターネット先進ユーザーの会」を設立。
Twitter活用の先駆者として知られ、『Twitter社会論』(洋泉社)など著書多数。
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