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電気モーター、制御回路、バッテリー、材料工学、IT通信…etc.
百年に一度の変革!過熱する電気自動車の開発競争とは
世界で盛り上がる電気自動車(EV)ブーム。究極のエコカーと言われる一方、高価、性能不足といった弱点も抱えるEVの開発に世界が総力を上げる背景にあるのは脱石油だ。長期トレンドでみても、電気・電子技術者にとって格好の新天地と言えそうだ。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/宮みゆき)作成日:10.11.26
EV開発本格化で広がる電気技術者の新天地とは
EV開発は、脱石油の本命技術

 リーマンショックを境に“百年に一度の変革”と言われるほどにトレンドが一変した世界の自動車業界。エコカーの主役として脚光を浴びているのは、バッテリーに蓄えた電力で走る電気自動車、いわゆるEVだ。EVが注目されるのには、確固たる理由がある。今日、世界各国は環境問題、エネルギー問題の両面から、石油依存をやめて他のエネルギーへの転換を図る“脱石油”の必要性に迫られている。大量の石油エネルギーを消費する自動車の非石油化は、脱石油の中でも最重要テーマとなっている。

 EVは脱石油のソリューションの一つとして有力視されている。エンジン車を石油以外のエネルギーで走らせる場合、アルコールやガスなど、選択肢は限られてしまう。それに対してEVは電力という形でエネルギーを利用するため、太陽電池や風車、水車などの再生可能エネルギー発電、あるいは原子力発電と、何でも利用可能。この柔軟性がEVの技術的な魅力なのだ。

 そればかりではない。EVは大容量のバッテリーを搭載しているため、現在開発が進められている次世代送電網、スマートグリッドの中で、電力の一時保管場所として活用できる。その点でも期待を集めている。このように、今日の“EVブーム”は一時的なものではなく、社会的なニーズを背景とした確固たるものだ。世界の政府や自動車メーカーがEV開発に巨額の資金を投じはじめているのはそのためだ。

EVの技術開発競争は始まったばかり

 が、その技術開発競争はまだ口火を切ったばかり。EVを進化させ、さらにそれを社会にインストールしていくための研究開発はすぐに完結できるほど簡単なものではない。少なくとも数十年、エネルギー分野まで含めると100年単位の時間をかける必要がある。これがまさに、多くのエンジニアにとってEV分野が新天地となりうる分野と言われる理由である。EVは様々な分野の技術革新を必要としている。

電気モーターや制御回路などの電気工学系、バッテリーやキャパシタなどの電気化学系、クルマを軽く作ったり機構を進化させたりするための材料工学、クルマと社会をつなぐ情報通信――と、さまざまな電気・電子分野のエンジニアが必要とされているのだ。エンジン車の場合、自動車開発に関するノウハウを最も多く持っていたのは完成車メーカーだった。が、電気エネルギーを利用するEV時代の到来にともなって、その構図にも変化が生じることは確実だ。

 デンソー、ケーヒンなど、電気エネルギーのマネジメント技術を得意とする自動車部品メーカーは、開発のコア部分にこれまで以上に深々と関与するようになる。また、電機・電子、材料、情報通信など幅広い分野で、これまで自動車メーカーとの取り引きが限定的だった企業の技術が注目を集めるケースも増えている。パナソニックや日立製作所のように、EVを組み込む側のスマートグリッド技術を手がける企業も重要な役割を担う。EV開発を志望するエンジニアが活躍の場を探す場合、これまでの自動車技術の常識にとらわれず、より広い視野を持つ必要があろう。

車とつながるスマートグリッド技術

 EVに求められる技術革新の中身をもう少し詳しく見ていこう。まずはEV本体だ。今日、EVはすでに市販が始まっている。三菱自動車『i MiEV(アイミーブ)』は量産体制に入っており、日産自動車『リーフ』も年末には発売される見通し。GMの『シボレー・ボルト』のように、電池のほかに発電用エンジンを持つ航続距離延長型EV、外部からの充電が可能なトヨタ自動車の『プリウス・プラグインハイブリッド』も登場している。

 実は、これらのEVはクルマのエンジンと燃料タンクをモーター、バッテリーに置き換えただけの、いわば“第一世代”の商品。モーターの動力をわざわざシャフトでタイヤに伝えるというやり方はスペースを食ううえに構造も複雑で非効率的だ。次世代のEVは、前2輪、後2輪、あるいは4輪すべてと、車輪ごとにモーターをつける「インホイールモーター方式」へと進化していくと考えられる。モーターを2つ、ないし4つに増やすとインバーターなどの制御装置もその数の分だけ必要になるため、今日では価格面で不利な立場に置かれている。が、パワー半導体やモーターのコストダウンが進めば、インホイールモーターのメリットが際立っていくと考えられている。

i MiEV(アイミーブ)
三菱自動車「i MiEV(アイミーブ)」

 実際、インホイールモーター車の試作は広く行われているが、それらはボンネットなどにスペースを食われないため、車体は小さいのに室内は広大。タイヤの動きも自由度が高いため、縦列駐車のときに真横に動けたりするなど、これまでのクルマにない特性を有している。モーターを車輪ごとに独立配置した場合、それらをカーブ、滑りやすい路面でどのように駆動させたら良いのかといった動態研究も含め、今後の技術進化が大いに期待されるところだ。

 車両のエネルギー効率アップも求められる。今日のEVやハイブリッドカーの大半は、技術、コストの制約から交流システムを使っている。が、エネルギー面では少なからず損失を招いている。理由は、バッテリーが直流であること。充電時に交流から直流へ、その電力を使うときには直流から交流へと変換するたびに結構なエネルギーが失われてしまい、もったいないこと甚だしい。

 安全性と耐久性を確保しながら直流化したり、あるいは交流-直流変換の効率を大幅に高めて損失を無視できるレベルにするといった、エレクトロニクス面の技術革新もまだまだこれからが本番なのだ。長期的には超電導技術まで視野に入る。

電力インフラからIT分野まで幅広い技術ニーズ

 電力を蓄える部分であるバッテリーの技術革新もニーズが高い。現在の技術レベルでは、高価なバッテリーを何百kgも搭載する必要があり、それでもなお航続距離は不足気味だ。バッテリーが小型高性能、かつ安価になれば、EVは価格面でも性能面でも大幅にレベルアップすることは確実だ。組み立てを行う電池メーカーばかりでなく、電解質、セパレーター、電極などを作る化学、金属系の材料メーカーも含め、多くの分野の企業の開発力が必要とされるところだ。

 クルマはインフラがなければ走ることはできない。EVにおいても、社会にEVを導入していくための設備の研究開発は、見方によってはクルマ本体の開発以上に重要な分野である。インフラの中でプライオリティが高いのは、充電システムだ。日本では「チャデモ」と名付けられた200V・50Aをベース電源としたプラグイン方式の急速充電規格の普及が進められているが、これもクルマと同様“第一世代”の技術でしかない。

 当面はこのチャデモ充電器に、より使いやすく便利なインターフェースを組み合わせるといったユーザビリティ設計が進化の中心となる見通しだが、10年単位で見れば、早くも次世代の充電システムが視野に入る。それは、クルマにプラグを挿さないでも充電できる「インダクティブ(非接触給電)」。信号待ち、あるいは充電スポットと、クルマを停めることでこまめに充電することができるようになれば、手間いらずであるばかりでなく、EVの弱点である高価で重いバッテリーの搭載量を減らせる。まさに期待の将来技術である。

 もちろんプラグインもインフラ整備の簡便さやコストの安さで、相当長い間使われるものと考えられており、技術開発ニーズは高い。欧州では車載型充電器、北米では大容量型、日本では高効率型と、地域によって異なる方式が検討されているため、それらに合わせた開発が求められている。家電のパワーエレクトロニクスなどをやったことがあれば、十分に入り込める世界だ。

 インフラで忘れてはならないのがIT技術だ。もともとEVは、充電の際にクルマの状況を急速充電器に知らせたりといった通信プロトコルを必要とする乗り物。今後、スマートグリッド内でのEVの活用を進めるにあたっては、その機能を大幅に拡大する必要が生じてくる。今、どのエリアにどのくらいのEVが電力ネットワークに接続されているか、それらの電池残量はそれぞれどのくらいかといった情報を取得し、その膨大な情報をデータベースサーバーなどでリアルタイムに解析していく技術が必要となるのだ。

 もちろんサービス面でも情報通信のニーズは確実に高まる。すでに日産が行政や他社と共同で行なっている社会実験では、今、どの充電スタンドが空いているか、埋まっている場合、待ち時間はどのくらいかといった情報をカーナビを通じて簡単に知ることができるという。これらを作り上げるうえでは、クラウド、基幹系といったプラットホーム分野からWebサービス開発などエンドユーザー向け分野まで、様々なITエンジニアが必要とされている。

 ほかにも、EVが社会に浸透するにつれて、新しいEVの活用法が考案される可能性は少なくない。自動車と縁遠いエンジニアにとっても、EV分野はまさに“チャンスの宝庫”というべきフロンティアなのだ。

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