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発見!日本を刺激する成長業界14 CMSを使ってみる、開発してみる、仕事にする?
高度な機能を盛り込んだWebサイトを、手軽に構築できるツールとして登場したCMS。今日では単なるデザインや機能実装だけでなく、ECへのフィッティングやイントラネットの構築など、エンタープライズ向けのニーズも増加中。新たな拡大期を迎えている。
(取材・文/井元康一郎 撮影/伊藤 誠 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:10.11.22
2014年には市場規模2.7倍!今後はコンサルビジネスにも期待
 ホームページやブログの作成支援からスタートしたCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)。当初は個人ユーザー向けが主体だったが、今日では企業サイトや社内SNSなど、エンタープライズのニーズも急増するなど、第2の市場拡大期を迎えている。市場調査会社、富士キメラ総研はCMSの国内市場規模について、伸び率は年平均20%を上回り、2014年度には09年度の2.74倍となる52億円に達すると予測している。
 この数字は一見小さいようにも見えるが、既に巨大市場に成長しているブログやSNS、そのほかのプラットフォームを束ねる役割も担っており、波及効果による成長可能性も大。企業内システムやECサイト構築を巡るコンサルティングビジネスの活性化も期待されるなど、影響力はきわめて大きい。
CMSの国内市場推移(2010年度以降は予測)
シックス・アパート/「Movable Type 5」のアップデートは終わらない
 CMSには多種多様なソフトウェアが存在する。その中でシェアがトップクラスなのは、シックス・アパート株式会社がリリースしている「Movable Type」(MT)だ。現行のバージョン5では大規模サイトも簡単に構築できるようになるなど、CMSのさらなる高度化を目指す。
エンタープライズ向けの機能強化でトップ級のシェアを固める
Movable Typeの記事編集画面
Movable Typeの記事編集画面
「ここ2〜3年で、CMSを使ったWeb構築は着実に進化しています。今年、当社のMTを使ったWebサイトのコンテストを実施したのですが、見ただけではもうMTを使っているかどうかわからないサイトが目白押しでした」
 MTの開発を手がけるシックス・アパートの執行役員である金子順氏は、CMSの浸透ぶりをこう語る。MTといえば、かつてはブログや個人HPの作成支援といったパーソナルユースがまず思い浮かぶところだったが、今やその世界はすっかり様変わりしている。グラフィック性に富んだ企業サイトの中には、MTで構築されているものも数多く存在している。中には、表はFLASHだが、そのベースはMTというケースもあるほどだ。
 そんな企業サイトのひとつ、マチのほっとステーションLAWSONを開くと、JavaScriptをふんだんに使った動的で美しい仕立てとなっているばかりでなく、コンテンツの多くがTwitter、Facebook、ソーシャルブックマークなど、ほかのWebサービスと連動するようになっている。

「MTの大きなメリットに、Webのコア技術を知らないユーザーでも高度な機能の実装や、HPの管理ができることがあります。その特性をより強化するため、ほかのWebサービスと連動できるプラグインの開発は、最近特に重要になってきています。単に別のサービスへの転載ではなく、企業関係者が情報を管理するときの利便性を考えて、情報の掲載時間を任意に設定可能にするなど、企業が必要な機能をサポートすることが重要です」
 企業がCMS導入に関心を示すようになった理由のひとつに、Webと社内システムの一体化がある。今日、企業サイトは単にユーザーに見てもらうだけの広告看板にとどまらない。例えば、ネットユーザーがECを利用した場合、その情報が販売担当へ、クレームならばお客さま相談室へと、情報を自動的に担当部署に振り分けて業務を効率化する手法も珍しくない。だが、そういったシステムは意外に高度な設計が必要で、サイト構築のたびに個別に作っていては、費用も時間も馬鹿にならないほどかかってしまう。
 エンタープライズCMSは単なるコンテンツ管理だけでなく、法人のイントラネットと簡単にフィッティングできるように開発されている。MTは、顧客が要望すれば企業内システムとWebサイトを丸ごと構築でき、さらにデータベースとも連係させられる仕様となっている。

「エンタープライズCMSで重要なのは、サイト構築の便利さばかりではありません。リリース後にWebの専門知識を持たない担当者が扱ってもデザインや構造が崩れない強固さ、高度なセキュリティ管理など、運用時に求められるニーズに対応しているのもMTのアドバンテージだと思います。また法人サイトの場合、普段はアクセスが少なくても、テレビCMなどの影響で一度に大量のアクセスが集中することがあります。その大きな負荷に耐えられるような、静的なHTMLを出せるといった強固さもあります。これからもトップレベルの競争力を維持できると考えています」
 MTはオープンソースをコアにするCMS。シックス・アパートはコア部分の開発、サポート、プラグイン開発支援を主体とし、ソリューションやプラグインの開発、実際のウェブ制作など、個々のユーザー向けビジネスは約340社のパートナー企業が担当している。今日、MTの有償ライセンス販売は1000件を超える月も出るなど、好調に推移しているという。
金子 順氏
執行役員
Movable Type事業担当

金子 順氏
Webが進化する限り、MTの開発も進化し続ける
Movable Typeのニュース画面(コメントを表示)
Movable Typeのニュース画面(コメントを表示)
以前にMTで作成したTech総研の記事「北京モーターショー!EVとハイブリッド車が百花繚乱」
以前にMTで作成したTech総研の記事
「北京モーターショー!EVとハイブリッド車が百花繚乱」
 MTは2001年に米国で生まれたCMSの先達だが、日本語版を公式にサポートする段階に入った2004年ごろを境に、日本支社のエンジニアのアイデアが開発に強く反映されるようになったという。コアテクノロジーの開発を手がけるシニアエンジニアの高山裕司氏はそのころ、SI企業からシックス・アパートに転職してきた。
「ちょうど、本国のシックス・アパートがMTを商用製品としてリリースする段階で、日本では日本語化をするくらいかなと思っていました。しかし、開発が加速するにつれて開発チームは日米の枠を越え、合同化が進みましたね。毎日頻繁にメールをやり取りし、さらに週に一度は本格的なビデオ会議でコミュニケーションを取りました」
 高山氏は以前の会社で、業務系からWeb系までの受託開発を幅広く経験してきた。Perl、PHP、C言語、HTMLなどを普通に使っていた幅広いスキルと経験が、MTの日本語化や多機能化の過程で生きたという。

「ITの世界では日本語と欧州言語が根本的に違うことはよく知られていますが、実際にやってみると、バグフィクスは結構大変なんです。MTは完全に国際化されたソフトウェアですが、開発途中では国際化をするためのタグを、海外のエンジニアが入れ忘れることもありました。管理画面の日本語が正しく表示されなくて、『あれ?どこへ消えちゃったんだ?』などと面食らうこともしばしばでした」
 バグに直面したときには、どのようなスキルや言語がMTには有用なのだろうか。
「基本的にはPerlを使えて、APIをある程度深く理解できればOKだと思います。ダイナミックパブリッシングを使う場合はPHP、プログラムを深く見ることができるという点では、C言語ができるとさらにいいですね」
 日本語化、さらにMTのバージョンアップと開発を進めるにつれ、日本のエンジニアの役割はどんどん大きくなっていった。エンタープライズ向けの機能実装の段階では日本が開発を主導し、現在の開発の中心は高山氏など日本人エンジニアだ。

 アメリカはもともと大規模Webパブリッシング系に強く、そのパワーがMTの基盤技術を生み出す源となった。それに対して日本はビジネスソリューションの提案力が豊か。日本のシックス・アパートでは市場のニーズを把握し、それに応えるプラグインやソリューションを、パートナーと共同で次々と開発した。最近では海外の開発者に、「この日本のプラグイン、英語で使えないの?」など尋ねられることも多いとか。常に市場のフィードバックに答えて、進化を続けたことが、今日のMTの定評につながったと言える。
 完成度がここ数年で相当に高まったとはいえ、MTの開発はまだまだ続く。Webサービスは新しいものが続々と生み出されており、それらをWebサイトに簡単に取り込めるようなフレームワークを提供したり、より強力なパートナーソリューションを開発できるようにプラットフォームを改良していく必要があるからだ。当面終わりは見えない。
「私は5年前に参戦しましたが、CMSの世界は新しい流れにあわせて常に変化していくので、興味があるというエンジニアはこの世界にどんどん入ってきてほしいですね。コミュニティで著名な開発者でも、2〜3年前にMTを始めて、すっかりハマったという人をよく見かけます。こうした人たちは総じて技術力がとても高く、『こうしたほうが便利かも』などの厳しい指摘もしばしば受けます。私たちも負けていられません」
高山裕司氏
Movable Type開発
シニアエンジニア

高山裕司氏
CMS市場はパーソナル、エンタープライズとも成長余力十分
今後はスマートフォンや周辺産業への拡大も期待
 Webの世界から登場したCMSは今日、Webコンテンツ管理のみならず、インターネット上のドキュメント管理、基幹系システムでのデータ管理など、さまざまな形で利用されるメジャーなツールへと進化している。ユーザーのニーズへの柔軟な対応や、システムへの依存度の削減などを可能にするCMSは、SaaS、PaaS、IaaSといったクラウドに連なるサービス群と重なる部分も大きい。
 今後の伸びが期待できるのは携帯電話、とりわけスマートフォン向けサイトのWeb制作支援だろう。スマートフォンのグラフィック機能は携帯電話とPCの中間的なもので、グラフィカルな表示の少ない既存の携帯サイトではユーザーの満足度を上げられないと考えたクライアントが、制作をオーダーするケースが増えると予想されるからだ。もちろん単なる広告媒体ではなく、企業戦略としての活用が望まれる。

 今後はシックス・アパートのようなCMS自体の開発企業だけでなく、同社のパートナー企業のような顧客を支援するソリューション型企業、プラグインの開発企業などの拡大も予想される。また、Web構築、基幹系システム開発、Webサーバー、DB設計などといったすそ野の広がりも期待大だ。ビジネスコンサルティング機能も持つ上流SI業界でも、CMS技術の重要性が増していく可能性が高い。
 これら関連分野を含むと、CMSの市場規模はソフト単体に比べてかなり大きなもので、かつ成長余力も十分と見ることができるだろう。
一般的なプログラマ、SEのスキルで参入も可能
 Webの高機能化や効率的なドキュメント管理など、IT分野の効率化のキーテクノロジーのひとつに挙げられているCMSだが、その中身はサービス開発であり、特殊なテクノロジーを使っているわけではない。上流では負荷分散やデータ圧縮を行うアルゴリズム開発、一般的なスキルレベルではソフトウェアやプラグインのプログラミング、パッケージソフト化まで、さまざまなジョブがある。

 開発で求められるスキルはPerl、PHPなどの開発系言語は必須。HTMLやXMLなどのマークアップ言語やOracle、SQL Server、MySQLなどのWeb系スキルも必要だろう。キャリアとしてプラスになるのはアプリケーション、基幹システム、サーバー、DBなどの開発経験。プログラミングだけでなく論理的なシステム構築の経験があればなお可だ。
 Perlと並ぶオブジェクト指向プログラミング言語であるJava、JavaScript、C#などの経験も、より高度な発想を得るのに役立つ。また、これらのスキルに加え、クライアントとの高度なコミュニケーションスキルが要求されることは特筆に値しよう。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
CMSの当初のイメージは「初心者向けWebサイト制作ツール」。それが取材して驚きました。極端に言えば、BIにまで足を踏み入れているような拡張性と柔軟性があったからです。一般性を高めているので限定される機能はあるけれど、これは導入が進むはずだと思いました。

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