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アプリ開発、サーバー構築で開発パートナー全面支援
2人で始めた「GREE Platform」開発の舞台裏
グリーが「GREE Platform」を利用したソーシャルアプリの募集をゲーム以外の分野でも開始した。2000万人を超える会員数を持つ「GREE」を圧倒的な技術力で支える藤本CTO、現場リーダー山家氏、渡部氏に、プラットフォーム開発の舞台裏と今後の戦略を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.10.29
「GREE Platform」──OpenSocial ベースだがモバイルは独自拡張

 グリーが「GREE Platform」を利用したパートナー企業のタイトルを公開したのは、2010年6月。当初は携帯電話向けゲームで始め、まずは数十社のパートナー企業を選定。その後、ゲーム以外のアプリにも門戸を開いていくという戦略が示された。その戦略通り、パートナーは着実に増え続け、10月段階では100社を超える。同月にはゲーム以外のアプリ開発でもパートナー募集を開始した。

取締役 執行役員CTO プラットフォーム開発本部長 藤本 真樹氏

2001年、上智大学文学部卒。株式会社アストラザスタジオを経て、2003年、有限会社テューンビズに入社。PHP等のオープンソースプロジェクトに参画しており、オープンソースソフトウェアシステムのコンサルティング等を担当。2005年、グリー入社、取締役に就任。

メディア開発本部 リーダー 山家 匠氏

1998年、筑波大学 第三学群 国際関係学類卒。証券系SIerで証券会社向けのシステム開発に10年間従事し、基幹系システムのアーキテクトとして大規模システムの設計に従事。オープンソース系の仕事に興味を持ち、2008年12月転職。SNSチームのリーダーとして、大規模Webアプリケーションの設計・開発を担当。

メディア開発本部 エンジニア 渡部 拓也氏

2004年、一橋大学商学部卒。大手通信会社、ITベンチャー、大手インターネット・サービス・プロバイダを経て、「いま盛り上がっている業界で自分を試したい」と、2010年8月グリーに転職。Webテクノロジー実装からWindowsアプリケーション開発まで「何でも屋」を自称。

「GREE Platform」は、「GREE」をプラットフォームとして、サードバーティのデベロッパーがアプリケーションサービスを提供する仕組みだ。デベロッパーが、サービス提供をスムーズに行えるように、ソーシャルグラフの取得、課金システムなどの機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)としてグリーが提供する。

「GREE Platform」はGoogleが2007年に開発した、WebベースのソーシャルアプリのためのAPI群OpenSocialに準拠している。OpenSocial APIを実装しているアプリケーション群は、それらをサポートするソーシャルネットワークシステムと相互運用性を持つことになっている。世界的には2億人以上のユーザーアカウントを有する「MySpace」がこれに対応したことで広く知られるようになった。日本でも2009年に「mixi」がPC版のmixiアプリで導入したのを皮切りに、mixiモバイル版、DeNAのモバゲーAPI、gooのgooホームなど、次々と採用が広がった。

「GREE Platform」のOpenSocial対応はやや後発ではあるが、変化のスピードの速いソーシャルWebの世界では、数ヶ月の差は決定的とは言えない。
「OpenSocialは規格としては文字通りオープンなもの。ただ、モバイル版は日本独自の拡張が加えられていて、各社ごとに少しずつ違いもある。とはいえ、極端にいえば、mixiモバイルで動くゲームを「GREE」で動かすのは難しいことではない。ゲームやアプリを開発するデベロッパー企業が、複数のSNSへの対応で苦労する手間を省き、アプリケーション開発に専念してもらうためには、私たちも積極的にオープンなプラットフォームを採用することに迷いはなかった」
 と語るのは、グリー取締役執行役員CTOの藤本真樹氏だ。「GREE」でプラットフォーム開発の総指揮をとる。

アプリ開発、サーバー構築で開発パートナーを全面支援

「GREE Platform」がデベロッパーに提供するのは、単に標準的なAPIだけではない。より便利に使える「GREE」ならではの独自のAPIも提供する。それ以上に重要なのは、2007年以来積み上げてきた「GREE」の SNS運営やソーシャルゲーム開発、さらにサーバー運用のノウハウが惜しみなく提供されるという点だ。

「パートナーによっては、初めてソーシャルアプリを開発するところもある。私たちはパートナーごとに担当者をつけて、アプリの企画・開発からマネタイズの工夫、サーバーの調達・運用まで、さまざまなアドバイスをさせていただいています」(藤本氏)
 例えば「どういうアプリを開発したらユーザーを呼び込めるか」に悩むデベロッパーには、「場合によっては企画書を見せてもらって、そこからアドバイスすることもある。他にも定期的なパートナー向けのセミナーや個別の相談も随時行っている」(藤本氏)

 ソーシャルアプリを開発する企業にとって一番の悩みの種がサーバーの運用だ。アプリのリリース後にどのぐらいトラフィックが上がるかの予測は難しい。急激なトラフィックの上昇にサーバー側が追いつかず、サービスが一時停止してしまえば、これはデベロッパーにとってはもちろん、グリー側にとっても大きな損失だ。
「GREE Platform」ではユーザーのアクセスは、いったん「GREE」のサーバーを経由してから、デベロッパーのサーバーにつながる仕組みになっている。この段階で、「GREE」側はデータのチェックや整形以外に、トラフィックの負荷分散対策などを技術的に行う。その部分に関与しているため、トラフィックの推移を見ながら、デベロッパー側のサーバー対応を事前に進言することができる。

「インフラ投資は、最初は小さく始めたいというのがパートナーのみなさんに共通する思い。『GREE』も最初はたった1台のサーバーで事業を始め、次第に拡張していった。サーバーホスティングにもいくつかの方法があり、私たちの経験からパートナーごとに最適解を提案できるし、サーバー事業者を紹介することも可能だ。さらにサービスをリリースしてみて、サーバーのパフォーマンスが上がらないといった相談にも随時乗る。だからパートナー企業は、サーバーのことはあまり心配せずに、アプリ制作やサービス開発に専念し、遠慮なくトラフィックを増やしていってほしい」と、藤本氏は、万全の構えでパートナー支援を行うことを宣言する。

GREE Platformの仕組み
たった2人でプラットフォームをスピード開発

「GREE Platform」を構築し、これを広くデベロッパーに公開していくという方針は、2009年12月には固まった。その構築を担当したのは、当初はたった2人のエンジニアだ。

 担当の一人、メディア開発本部リーダーの山家匠氏は、2008年にグリーに入社。前職では証券系システム開発が中心だったが、オープンソースでの開発に興味があったという。
「最初はOpenSocialと言われても、正直よくわからなかった。しかも、もともとOpenSocialはPC向けの仕様。『GREE』はモバイルサイトでそれを導入しようというわけですから、そのために有用な情報を探すのが大変でした」  と振り返る。

 翌年2月までは2人でプロトタイプづくりを進めた。4月にパートナー企業にサンドボックス(保護された領域内でプログラムを動作させること)を公開。その時点でチームは8名まで増えたが、なかには4月入社の転職者もいて、山家氏は自らシステム開発を進めると同時に、混成部隊のチームマネジメントも面倒みなくてはならなくなった。
「サンドボックスの構築も私たちの仕事。課金システムもスクラッチで開発しました。毎日、家には帰っていましたが、超多忙でしたね。前職だったら、たぶん3カ月以上かかるところを、1〜2週間でやってしまったという感じでしたから」(山家氏)

毎日が合宿のようなもの。食らいつくうちに自分の力も上がる

 2010年8月にグリーに転職した渡部拓也氏もこの開発現場に参加した一人だ。転職後すぐにプラットフォーム開発チームに配属され、プラットフォームの機能拡張を担当するようになった。
「10月にゲーム以外のプロバイダーにもプラットフォームを開いたことで、動画や着メロなど、さまざまなコンテンツがこれから増えていく。パートナー企業が、動画フォーマットなどを意識せずに『GREE Platform』を使えるように環境を最適に整えるというのが私の仕事です。前職ではWindowsアプリの開発。何千台ものサーバーを運用する会社で、Webの機能開発をするのは初めて。わからないことばかりだったが、聞けばすぐに教えてくれる人ばかりで、なんとかついていけています」と語る。

 渡部氏がグリーで強く感じたのは、スピード感。「まだ入社して3カ月足らずだというのに、入社当時のことを覚えていない」というぐらい、毎日が変化とスピードの連続だったという。周りには、SNS業界で名の知られた、実力のある同僚や先輩エンジニアがずらり。彼らの技術に食らいつくように、全力疾走しているうちに、自分も成長していくという実感が得られているのだ。あたかもそれは毎日が“集中合宿”しているような気分だという。
「しかも、今Webの世界が大きく変わり、自分たちがその変化を生み出す中心にいるという自覚があります。そういう刺激的な場に身を置けているのは、怖いぐらいに楽しい」と渡部氏は言う。

 グリーでは、「転職者を新人扱いするのは、せいぜい1カ月ぐらい」という話がある。新しい環境にゆっくりと慣れながら、徐々に頭角を現すというのでは間に合わないし、力のあるエンジニアなら、黙っていても2カ月目には、もう何年もいるかのようにチームを引っ張っていったりするのだ。

世界でいちばん使いやすいソーシャル・プラットフォームを目指して

 今後、「GREE Platform」はどのように発展していくのだろうか。一つ目にはiPhone、Androidなどのスマートフォンを含めたマルチデバイス対応があげられる。
「これまでの日本の携帯電話とは違って、スマートフォンではできることが格段に多い。Androidではアプリケーション間の連携もできるようになっている。マルチデバイスの対応では、あらためてどういう仕様やAPIが必要なのかを、考えなくてはいけないけれど、それは、プラットフォーム開発者としてはやりがいのあるところだ」(藤本氏)

 スマートフォン対応は、すなわちプラットフォームの国際化も意味する。海外のパートナーがメガヒットのゲームを持ち込んでくることもあるだろうし、逆に日本のSAP(ソーシャル・アプリケーション・プロバイダ)業界から、世界を席巻するサービスが生まれる可能性だってある。

「スマートフォンで国内外の垣根が取り払われていけば、グリーの事業も、ますます面白いことになっていく」と藤本氏は目を輝かせる。国際的なオープン化をいっそう進めながらも、同時にパートナー支援体制も強めることで、「ソーシャルではやはり『GREE』がいちばん開発しやすいよね」とデベロッパーに言ってもらえること。それは、プラットフォーム開発メンバー全員に共通する願いだ。

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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る

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