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SNS企業各社が競合する中、グリーが打ち出す次の戦略とはどのようなものか。この夏、はてなのCTOから転職して話題となった伊藤直也氏に、iPhoneなどマルチデバイスに向けたサービス開発の展望、それに伴う必要な人材像を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:10.09.29
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伊藤直也氏といえばソーシャルメディア業界では知らない人はいないリーディングエンジニアの一人。ニフティでブログサービス「ココログ」の開発に携わり、2004年にはてなに転職後は、「はてなブックマーク」を開発。執行役員最高技術責任者(CTO)として、はてなの技術戦略の中枢を担った人物だ。今年8月末、自身のブログで、グリーに転職することを発表すると、即座にTwitterやブログを通してニュースが広まった。
思えば、伊藤氏がニフティという大企業から、当時社員10名のはてなに転職したときも、ニュースになった。これからのソーシャルメディアについての確かな展望を描きながら、自分が仕事しやすい環境を自由に選んでいく姿は、エンジニアにとって憧れの的なのだ。今回の転職では、伊藤氏がグリーのどこに魅力を感じたのか、彼を迎え入れたグリーが、今後どのような戦略を強めるのかに注目が集まる。グリー入社から3週間目の伊藤氏を直撃インタビューした。
──グリーに移られて、前職のはてなとは違うなと思ったことは何ですか。
ソーシャルメディア業界は今、競争がきわめて激しい。群雄割拠、まるで「三国志」の世界です。どういうサービスを、どの順番で出していくか、高い戦略性が要求される。はてなの頃はある程度じっくり物を作るやり方でやっていた感があって、競争によって外部からプレッシャーがかかるということはそんなに多くなかった。一方のグリーは開発拠点が東京だということもあり、すぐ近隣にライバル企業があって、いろんな情報がダイレクトに入ってくる。ここが一番違うなと感じました。これまで以上に大きなプレッシャーを感じていますが、だからこそ、競争の中心にいようという自分のモチベーションもかき立てられます。
PCやフィーチャーフォンのWebサービスと違って、スマートフォンではいろんな技術を試して、キャッチアップして、どれがスタンダードになるかを読まないといけない時期。自分自身がもっと情報をインプットしなければならない。そのインプットの量は、これまでの自分の仕事に比べて大きいものです。
──「GREE」のスマートフォン版開発が、当面のお仕事ですね。
今は「GREE」のスマートフォン版が立ちあがったばかりなので、それを次の確固としたプラットフォームにしていくべく、開発を強化します。現在は、スマートフォン上のブラウザでグリーの基本機能が使えるというところまでしか提供できていない。グリーのゲームをどうやってスマートフォンに展開していくかは大きな課題。同時にコミュニケーション機能の充実も急がなくてはなりません。今後は、iPhoneアプリやAndroidアプリをリリースして、スマートフォンでグリーの全機能を使えるようにしていくのが、私の仕事になります。
スマートフォンへの関心は以前からありました。PC自体はインターネットの世界で影響力が頭打ちになっていて、トラフィックは下がる一方。フィーチャーフォンのインターネットも日本で広まったけれども、これからどうなるかわからない。そこにスマートフォンが出てきたわけです。最初は様子見だったけれど、この流れはもはや押し留めようもない。PCにもフィーチャーフォンにも替わりうるデバイス。たくさんの人にリーチでき、かつ表現力豊かなデバイスということで、これからはスマートフォンがソーシャルメディアの主戦場になることは間違いないと思います。
──どのような iPhoneアプリができそうですか。
これまでのグリーのコンテンツをそのまま iPhoneに移植すればよいのか、それともブラウザの表現力を活かしてブラウザ内でカジュアルに動かせるような形にすればいいのか、これはけっこう見極めが必要。そのあたりの技術要件も含めて検討しているところです。
今のスマートフォンでは HTML5/CSS3など新しい仕様に対応したブラウザが標準だし、位置情報などもよりカジュアルに利用できるので、既存のフィーチャーフォン向けゲームよりも多彩な表現が可能です。ただ、現在登場しているゲームを見る限り、既存のものを iPhoneの大きさで動かしただけというものが多くて、まだまだスマートフォンならではのゲームというのは少ないという気がしています。
そもそもゲームというのは、プレイステーションにしてもWiiにしても、家庭の中でどういう人がどういうタイミングでどんなゲームをしたいのかというシチュエーションみたいなのを想定して、それに応じたゲーム体験を提供してきた。ニンテンドーDSのようなポータブル機でも、そうですよね。きっと、ユーザーはちょっと時間が空いたときに、ゲーム機を取りだすだろう。だから、こういうコンセプトのゲームを作ればきっと楽しんでもらえるはず、というユーザーの体験を考え抜いたゲームになっているわけです。
そこのところが、スマートフォンではまだあまり見えていない。しかしこれから先、世の中の多くの人がスマートフォンを持つようになり、どこでもWi-Fiに繋がるようになる時代がきっとやってきます。そのとき、人々はスマートフォンを日々どのように使っているのか、どういうタイミングでゲームなりコミュニケーションなりをしたいと思うのかということをしっかり見極めながら、僕らはそれにふさわしい体験を提供していきたいと考えています。
── iPhoneとAndroid 、どちらにより重点的にリソースを振り向けますか。
そこはすごく難しいところ。最終的には両方に応分に力を注がざるをえないでしょうね。両方をやらなくてはならないからこそ、HTML5/CSS3とJavaScriptを使ってブラウザ上で動くアプリケーションにフォーカスするということのほうが、長い目でみると正解かもしれません。どちらのデバイスにも対応が可能というだけでなく、よりカジュアルにソフトウェアを展開できますし。
単体のアプリケーションはなんだかんだといっても、デバイスにインストールが必要。フィーチャーフォンのゲームでもPCのゲームでもインストール型のアプリというのは徐々にブラウザの手軽さにそのアドバンテージを奪われていったという過去の例もある。ちょっとした違いですが、長い目で見るとその差は大きいかもしれない。
むろん、これはユーザー層の広がりとも関係していて、スマートフォン市場でもまずは iPhoneやAndroidのアプリを普通に作っていきながら、数年後の市場動向やハードウェアやネットワーク性能の向上を見ながら、どこかの段階でブラウザ型に切り替えていくというような判断が必要になってくる、と思います。
──スマートフォンは確かに新しい市場ではありますが、反面、グリーなどの既存プラットフォーマーにとっては、新たなライバルの登場、しかもいきなりグローバル規模の企業が競争相手になるということでもありますね。例えばアップルの Game Center を想定した質問ですが……。
これはもう、食うか食われるかのガチンコ勝負ですよ(笑)。もちろん私たちにはアドバンテージがあります。モバイル向けインターネットの世界で、ソーシャルコミュニケーションをデザインしてきた、そのノウハウは誰にも負けないし、そもそも2000万というユーザーを抱えていることは最大の強み。これをスマートフォンのプラットフォームにもそのまま誘導できる。ただ、この勝負は単にシステム的にどうこうというよりは、プロモーションやマーケティングを含め、会社全体の総力を挙げて挑まないといけない、という思いはありますね。
ハードウェアやOSを握っている大きな会社が、垂直統合的にプラットフォームやアプリまで握ってくるとなると、確かにみんな怖いと思うんですよ。ただ、歴史を見る限り、それによってベンチャーの先行した動きが完全に駆逐されたことって、実はないんですよね。
大きな企業が市場に参入してくるといっても、彼らは大きな事業なりに合わせた成長戦略で動かざるをえない。最前線で闘うのは、つねに少数の部隊同士です。巨人のように見えて一瞬ビビるけど、勝負の相手は実は自分たちと同じサイズぐらいでしかない。何も恐れることなんてないんです。
グリーもこれからますます人も増えていきますが、いわゆる大企業病みたいになってはいけない。絶えず小さな組織、小さなチームに機能を集約し、最強の武器を備え、スピード感を維持したまま、それを会社全体としてバックアップしていくという体制は今後とも必要ですね。
──伊藤さんが入社する前から、すでにスマートフォン対応チームはあったわけですが、すんなり溶け込めましたか。
初日からチームに入って、横でこれまでの話をいろいろ聞きながら、手を動かしてコードを書いていました。この1年ぐらい仕事ではマネジメントが中心だったので、プログラムとマネジメントの同時並行というのは久しぶりな感じ。でも、グリーぐらいの規模になっても、そういう手と頭を同時に動かすみたいなことが、日常的に行われているというのは驚きでしたね。もう少し組織立っていて、分担が明確で、それに従って動いているのか思っていましたから。会社全体がなにか、オープンソースプロジェクトみたいな感じ。それぞれが課題をもち、一見すると勝手にやっているようでいながら、全体としてはうまく動いている。
その一方で、会議は明確なアジェンダを立てて時間通りにきっちり終わる、売上の数字などファクトを重視して戦略を練るというような、カチッとした面もありますね。月次の締めの会議では、1億人ユーザー獲得という目標に向けて、今月は何%まで達成したというような、具体的な数字が出てくるんですよ。「1億人」ってものすごく漠然とした数字だと思っていたんだけど、ここでは本気でそれに近づこうとしている。それも驚きでしたね。やはり、創業者の田中のやり方が文化として根づいているという感じもします。
──これから一緒に働きたいエンジニア像について、最後に伺います。
ありきたりなところでは、チャレンジ好き、コミュニケーション好き、自分を伸ばせる人、ということになるんでしょうが、もっとつっ込んで言うとですね……インターネットの未来、とりわけソーシャルメディアの将来を信じられるかどうかが、ものすごく重要だと思うんです。
インターネットってスタートのところから、旧来のテレビや電話、新聞、雑誌、本などのメディアに比べると、どこかカウンターカルチャー的な色彩がありました。今はかなり影響力が強くなったけれど、まだまだです。でも、10〜20年後には間違いなく、メディアとしてもビジネスとしても、日常のコミュニケーションツールとしても、誰にとっても不可欠の社会インフラになっていくはず。それを信じて仕事をしてほしい。もしそこでアプリを作っている人が、「所詮インターネットだからさ」と軽い気持ちでいようものなら、周りの志気が落ちてしまいます。
僕は学生時代にインターネットに触れて、これこそが未来だと思ったんです。だからこそ、そこで仕事をしようと思った。それは一種の革命だったけれど、その革命はいまだ進行中で、成し遂げられてはいません。だからこそ、ベンチャー的なマインドが必要。インターネットの未来を信じて変化を楽しんでいける人たちですね、僕が一緒に仕事をしたいのは──。
1977年秋田県まれ。青山学院大学大学院博士課程前期修了(物理学)。ニフティ、はてなを経て、2010年9月1日付けで、グリーに入社。自身のブログでも精力的にプログラミング技術などの実装ノウハウを紹介。また雑誌や書籍の執筆を通じたエンジニアの技術力底上げについても高く評価されている。
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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る
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