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海外法規制対応、車載通信ネットワークなど安全分野の開発拡大へ
市場が拡がるテレマティクス分野でデンソーが採用強化
今、自動車技術のキーワードと言えば、環境・安全・快適・利便である。中でも安全、利便の点で重要な技術がテレマティクスだ。より安心で便利な運転が行えるようになる。その最前線で技術開発に取り組むデンソーの技術者たちの話を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:10.09.15
事故時の緊急通報や盗難車追跡システムが義務化されると……

 テレマティクス (Telematics) は、テレコミュニケーション(通信)とインフォマティクス(情報工学)の合成語。携帯電話や専用無線機器などの移動体通信システムを利用して、車と外部をつなぎ、ドライバーに対してさまざまなサービスを提供しながら、安全・安心機能の実現と、情報配信による利便性の向上をもたらす。

 安全・安心機能の代表的なものには、エアバッグ連動の自動緊急通報機能がある。車がぶつかったとき、エアバックの動作を自動的に感知し、車両情報や車両位置などを含む緊急信号がセンターに通報される。これらの情報とドライバーとの通話により、救急活動が必要な場合は即座にその手配が行われるという仕組みだ。日本でも2000年から導入が始まったが、搭載は全国の自動車の0.3%と、普及はこれからだ。

 また、盗難車両追跡システムも、テレマティクスの応用例の一つ。車が盗まれたことを検出し、車の位置をオーナーに通知する。要請があれば、警備員を現地に派遣するサービスもある。さらに、車両に不正に侵入した人物の写真を撮影し、その画像をオーナーに通報するシステムなどもすでに実用化されている。

石原 和明氏
ITS技術1部
部長 石原 和明氏

「現在こうしたサービスが、各国で法制化される動きがあります。例えば欧州では、“e-Call”と呼ばれる事故自動通報装置を、2013年までに新車すべてに搭載することを義務づける。導入すれば、年間の交通事故死を大幅に減らせることが期待されています。また、ブラジルでは車両盗難防止システムの搭載義務化が今年からスタートしました。他国に比べてもブラジルの車両盗難は多いとは聞いていますが、こうした安全・安心のための法制化の動きは、これから世界中に進んでいくと思います」
 と話すのは、デンソーでテレマティクス用無線機器の開発を指揮する石原和明・ITS技術1部部長だ。安全・安心にかかわるテレマティクス装置の義務化は、デンソーの技術力の発揮しどころであり、もちろんビジネスとしても追い風になることは間違いない。

 デンソーのテレマティクスやITS(高度道路交通システム)の技術蓄積が、世界有数のものであることは、誰もが認めるところだ。ETC(自動料金収受システム)については、1999年に道路システム高度化推進機構が車載器と路上アンテナの相互接続試験を開始した際、その規格に初めて合格したのはデンソー製の車載器だった。車の安全性向上に欠かせないセンシングシステムや、利便性を高めるカーナビゲーションシステムなどの情報通信機器の技術においても、グローバル規模で高い評価を得ている。それらの集大成は、2004年に名古屋で開催された第11回ITS世界会議で発表されたが、その後も、技術革新は続いている。

ユーザーは何を求めているのか。サービス企画の段階からかかわれる醍醐味

 テレマティクスは、外とつながって情報を受発信しながらさまざまなサービスを享受するシステム。技術のコアにあるのが、無線通信技術だ。車載のデータ通信モジュール(DCM)が、カーナビゲーションやエアバックなどのECUと連携しながら、データ通信を行う。

「DCM技術のベースは、携帯電話の無線技術です。デンソーも、かつては携帯電話や自動車電話をつくっていたことがあり、そのノウハウが活かされています。ただ、テレマティクスでは、一般の携帯電話以上に“つながる”ことへこだわりが強い。“話し中だからまたかけ直せばいい”というわけにはいかないし、車がクラッシュしたときにもこの装置だけは生きて通信をしなければなりません。耐衝撃性や温度変化への対応はもとより、何重ものフェールセーフ技術や、通信プロトコルの味つけなど、開発には苦労しています」と石原氏は言う。

 自動緊急通報機能の義務化など、テレマティクス技術の国際化に対応するためには、さらなる技術開発が必要になる。
「日本では携帯電話はつながるのは当たり前だが、海外では必ずしもそうではない。また、国境をまたいで異なる通信事業者をローミングしながらスムーズにつなげる技術も、海外ならでは。日本でつくりこんだものそのままは海外で使えないので、海外仕様に合わせたチューニングが欠かせない」(石原氏)

DCM概念図

 さらに、その消費電力にも気を遣う必要が出てくる。特に、エンジン停止中も稼働していなければならない盗難追跡装置などは、バッテリー消費量を極力抑える省エネ技術が重要になる。開発当初のモデルに比べ、現行機種の消費電力は約半分にまでなった。意外と地味なところで、日夜開発努力が続けられているのだ。

 テレマティクス技術のグローバル化や法制化は、単に技術的課題だけでなく、サービス内容の高度化も促す。せっかく導入した装置なのだから、緊急時だけでなく、平常時にもいろいろなサービスを提供して欲しいというのは、カーユーザーなら当然の要求だ。そうしたニーズを見越して、設計技術とサービス内容をどのように合致させていくのか、そこにもエンジニアの腕の見せ所がある。

「テレマティクスのサービス企画と装置の設計開発は、チームとしても一緒になって動いています。国内だけでなく海外のメンバーとの協業も盛んです。単に仕様通りにモノをつくるよりも、ITS社会に人々が求めるニーズをあれこれ考え、サービス内容を詰めながらモノをつくる。そうしたユーザー視点に立てるからこそ、この技術は面白いんじゃないかと思いますよ」
 と、石原氏は仕事の醍醐味を語るのだった。

次世代DCMで、テレマティクスはもっと面白くなる

 テレマティクスの未来に、エンジニアとしてのキャリアを賭けた男がもう一人いる。ITS技術1部の菅沼亮氏だ。1998年にデンソーに入社。ボデー機器技術2部で、ボルボ向けセキュリティECUのソフト設計や、トヨタ車向けのセキュリティシステムや関連ECUの開発を担当してきた。冒頭に挙げた、車両への不正侵入を検知すると、車室内を撮影し、車両位置や時間情報とともに情報センターに撮影画像を送信するシステムは、菅沼氏が手がけたものだ。このシステムは現在トヨタのG-BOOKサービスのオプションとして、レクサスGSなどに搭載されている。

 その意味ではこれまでもテレマティクスに関わってきたのだが、「ボデー制御技術だけでなく、無線通信技術の知識も深め、それらを総合的に捉える視点をもちたい」と自ら手を挙げ、今年7月にITS技術1部に移ってきた。こうしたエンジニアの意志による異動が実現するのもデンソーの風土だ。

菅沼 亮氏
ITS技術1部
担当部員 菅沼 亮氏

 菅沼氏が今関わっているのが、次世代DCMの開発。テレマティクス・サービスの次世代版において、技術的なコアになる領域だという。

「詳細はあまり話せないんですが、車を遠隔操作する対象をもっと広げ、さらに車がユーザーに伝える情報の種類も増やしていきます。現在はドアロックの有無の通知ぐらいですが、この情報をよりリッチにするということですね。事故や盗難に遭ったときだけでなく、普段のドライビングに有用な情報をユーザーも求めていると思うんです。もちろん、車のユーザーは、若者からお年寄りまでさまざま。日本人と海外の人の乗り方もちょっと違う。そうした多様なユーザーの使い方や行動のロジックを踏まえながら、より使いやすくて役に立つテレマティクスを目指しています」

 テレマティクスにおける車載DCMは、外部との通信だけでなく、他の車載ECUと連動して、さまざまな車両情報を収集し、判断するという役割も担う。車の各部品の動作を総合的に把握する必要があり、DCM設計者にもその知識が求められる。
「幸いにもデンソーには、ボデーからエンジンまでさまざまな部品のエンジニアがいます。そこに聞きに行けばなんでも気軽に教えてくれる。中には、テレマティクスの話をすると、嫌がるどころか“面白いねえ、一枚かませてよ”と乗ってくる人もいるんですよ」。  エンジニアの開かれた好奇心。その坩堝の中で、テレマティクスの未来が開かれていく。

次の自動車社会の鍵を握る、システムサプライヤーとしての提案力

 テレマティクスは、現在はカーメーカーごとにサービスが展開されていて、それがユーザー囲い込みのセールスポイントにもなっているのだが、いずれは汎用的かつオープンな技術を使ったITS技術に組み込まれていくことが予想されている。デンソーのテレマティクス技術もまた、そうした時代を見すえたものだ。

「自動車メーカーは、車のことには詳しいが、無線技術やインターネット、車内LAN などそれ以外の技術領域では必ずしも強くない。それをカバーするのが私たち。求められているのは、システムサプライヤーとしての総合的な提案力です。ユーザー視点に立ちながら、技術者としての創造性を発揮して、新しいサービス価値を提供するのが私たちの役割」と、石原氏は語る。

 一見、縁の下に隠れているようでいて、実は次の自動車社会を先取りし、システムをまるごと提案し、主導力を発揮できるサプライヤーの存在。その影響力あるポジションが、近年、車に興味をもつエンジニアの間にも、少しずつ見えるようになってきた。

 そのポジションを強化するためには、提案力の向上がますますの課題。これは日頃のエンジニアのビヘイビア(行動様式)にもかかわることだ。
「私の部では、自主的な勉強会が今盛んに開かれています。例えば、既存のDCMを改造して、何か面白いオモチャを作ってみようというもの。すぐに製品に実装するわけではないので、仕様や品質は度外視して発想できる。車のいろんな信号を取りだしたり、車両の状態を携帯電話に送って燃費を表示したり、なかなか面白いですよ」(石原氏)
 こうした“遊び”の時間が、エンジニアのモチベーションを高め、創造力と提案力を鍛える。クルマとユーザー、クルマと道路、そしてクルマとクルマ同士がつながることで、より豊かなカーライフが生まれる。新しいテレマティクスの時代を提案するエンジニアたちの表情は明るかった。

ITS技術1部 部長 石原 和明氏

1985年入社以来、自動車用ハンズフリー電話システム設計、携帯電話設計を携わり、2002年からテレマティクス用無線機器設計を担当。テレマティクス用無線機器設計の総括を行う。

ITS技術1部 担当部員 菅沼 亮氏

1998年に入社。ボデー機器技術2部配属され、2001年までボルボ向けセキュリティECUソフト設計に携わる。その後、テレマティクスを活用したセキュリティシステムをはじめとした先行開発を歴任し、現在は次世代DCMシステム設計を担当する。

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