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DeNA技術戦略部長・人材マーケット業界カリスマ・海老原氏対談
閉塞するITエンジニアたち。次の希望はどこにある?
SIerとネット業界。同じIT業界でも構造的に何が違うのか。ITエンジニアの仕事環境として魅力的なのはどちらなのか。自らの閉塞感を打破するためには、何が必要なのか。DeNA技術戦略部の能登信晴部長と、人材マーケット業界のカリスマ・海老原嗣生氏が、ITエンジニアにとって、より夢のある未来を語る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.07.16
同じITでも、受託開発型SIerとネット業界ではこうも違う
株式会社ニッチモ 代表取締役 海老原 嗣生氏
上智大学卒業後、大手メーカーを経てリクルートエイブリック(現リクルートエージェント)に入社。現在は人材育成学会理事、リクルートエージェント ソーシャルエグゼクティブとして勤務する傍ら、HRコンサルティング事業を手掛ける(株)ニッチモを立ち上げ、人事雑誌『HRmics』の創刊、および事業コンサルティングに携わっている。また週刊モーニング連載『エンゼルバンク』でカリスマ転職エージェントのモデルとして登場中。近著『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社)が好評発売中。
株式会社ディー・エヌ・エー システム統括本部 技術戦略部 部長 能登 信晴氏
1996年、慶応義塾大学環境情報学部 (SFC)卒業後、日本電信電話(NTT)入社。情報通信研究所、サイバースペース研究所にて検索エンジンの研究開発に従事。2004年、ディー・エヌ・エーに入社し、以来「ポケットビッダーズ」「ポケットアフィリエイト」「ペイジェント」「モバオク」「モバコレ」などのサービス開発・運用に関わる。現在は技術戦略部で、技術戦略策定のほか、エンジニアの採用や育成、環境整備などに携わっている。

 IT業界の中で、エンジニアのほとんどは、システム・インテグレーター(SIer)とその関連企業に所属する。ただ、リーマンショック以降の不況で企業のIT投資が減ると、それに伴ってSIerも元気を失ってきた。反面、顧客ニーズは高度化する一方で、現場の仕事は忙しい。エンジニアにとっても利益なき繁忙が続いている。先に編集部が行ったSIer勤務者を中心とするITエンジニア1000人調査でも、その疲弊感は色濃く伝わっていた。
 一方で成長著しいのがネット業界。eコマース、SNS、ソーシャルアプリが iPhone 、Android 携帯など新たなモバイル・プラットフォームの登場を受け、急速に市場が広がっている。

能  登 

Tech総研が、SIer関連企業に勤めているエンジニア1000人にとったアンケートの結果を拝見しました。調査対象者のほとんどの人が、企業システムの受託開発に従事していますね。同じIT業界といっても、例えば金融機関のシステムを受託して、数千人規模で何年もかけて開発する例と、私たちのモバゲータウンのように、エンジニアと企画担当が1人ずつ組んで、3カ月でひとつのソーシャルアプリを作ってしまうのとでは、仕事の構造がまるで違うのだということがあらためてわかります。

前者はいわばゼネコンを頂点とする建築業界と似ている。システム開発に階層構造があって、細かい分業があって、進捗管理はドキュメント重視。何千人ものエンジニアを管理する専門の担当まであります。受託開発はクライアントの要望を実現するためのものですが、人月単位で売上が決まります。つまり、人が多く、開発期間が長ければ長いほど儲かるという仕組みです。

ところが、当社の場合だと、そのような意味での管理はほとんどないに等しい。ドキュメント管理以上に、顧客に新しいサービスを提供したり、何を作ったら便利になるかという視点が重要。要は、アプリの中にこれまでにはないクリエイティビティが出せるかどうかが、エンジニアの価値ということになります。

受託開発では、開発の流れがプライマリーのコンサルファームやSIerから、二次請け三次請けに流れる。だから、二次請け以下にいる人たちには、いつかはプライマリーに移りたいという、いわゆる“上流志向”が顕著です。そのためか、ネット企業にはあまり関心がない。今後の転職の選択肢のなかにもなかなか入れてもらえていないというのが現状じゃないかと思います。

[グラフ]リーマンショック前後の仕事のモチベーション変化[グラフ]職場環境が悪化したと感じる理由
海老原 

アンケート結果をみると、「残業が多い」「忙しい」「給与が低い」「環境が悪くなった」という不満の声が圧倒的に多いですよね。ただ、これはリーマンショックがあったからというより、それ以前の好景気の時代も同じような不満が多かったような気がします。そういう意味で、SIerとして働く人はなかなか報われていないんだなという印象を持ちました。

そこであらためて、SIerからネット企業への転職ということを考えてみたいんです。エンジニアは誰もが何かのスペシャリティを持っているわけですが、受託開発型の企業からDeNAさんのような自社のプラットフォームをもつネット企業に転職する場合、どういうスペシャリティが求められるか、という問題です。

[グラフ]3年後も今と同じ仕事を続けていたいか?[グラフ]インターネット企業への転職意向度
DeNAのエンジニアは、ポップミュージックのアーティストのようなもの
能  登 

私たちがイメージする技術者というのは、一つにはWebやネットワーク系のスペシャリティをもつエンジニア。高トラフィックに耐える分散処理技術とか、システムのパフォーマンス最適化やセキュリティ、データマイニング技術といった分野の専門家です。実際、IPA(情報処理推進機構)の「未踏プロジェクト」に採択されたエンジニアも当社には何人かいます。社内以上に、オープンソース・ソフトウェアの業界で有名で、そのコミュニティに貢献している人も少なくありません。

もう一つのタイプは、これまでのスペシャリティにこだわらず、柔軟に活躍の場を変えていけるフレキシビリティの高いエンジニア。DeNAの主力事業も今はソーシャルゲームですが、1年半前はゲームを内製するなど誰も考えていなかった。これからもどんどん主力事業は変わっていく可能性があります。それまでeコマースやSNSの開発をやっていた人がソーシャルゲームの専門家に変わっていくことで、この事業変化に対応できました。いま世の中で何が流行っている、どこが面白い、どうすれば収益が上がるかということについて、柔軟に発想ができる、そういうスーパー・ジェネラリストみたいな人も必要なんです。

海老原 

セキュリティやトラフィックのスペシャリティをもっている人は見えやすい。ただ、おっしゃるような優れた変換能力や対応能力をもつスーパー・ジェネラリストはなかなか転職市場では見えにくいですね。

能  登 

ほんと、そういう人はいったいどこにいるんでしょうかね(笑)。

海老原 

DeNAさんが求めるエンジニアの能力を一口に「クリエイティビティ」だとすれば、プライムで仕事を受けているSIerには、必ずクリエイティビティが高い人はいると思いますよ。

能  登 

クリエイティビティが高い人には優先的にお会いしたい。しかし、そういう人であればあるほど、現状に満足しているし、プライドも持っている。IT業界ではコンサルファームやプライマリーのSIerが上位で、ネット企業は給与も安くてあくせく働いているというイメージがあって、なかなかこちらを振り向いてくれない。実際には状況も変わってきていますし、DeNAも大手SIerのトップエンジニアにも負けない待遇条件を出せるようになりました。

単に待遇面だけではなく、私たちはコンシューマーにダイレクトに訴求するアプリを開発するわけですから、そのダイレクト感は、クライアント企業の意向にどうしても左右されてしまう受託開発型企業にはないものです。例えていえば、受託開発型企業がクライアントのコマーシャルソングを依頼されて書くプロの作曲家だとすれば、私たちは広く大衆に受け入れられるポップミュージックのアーティストのようなものだと思うんです。

海老原 

その曲が突然にブレイクして、ものすごいセールスを記録したりする。システム案件を人月単位でしか考えられなかった人にすれば、これは面白いでしょうね。

能  登 

人月仕事だとこの人に100万円の人件費がかかるとすれば、それに数%〜20%くらいを乗せてお客さまに請求するのが普通です。ところが、私たちがやっているようなデジタル・アイテムだと、資本はアイデア一つ。ヒットすればエンジニア1人で月1億円規模の売上貢献ができる。ビジネスのケタが違う。エンジニアがもたらす価値が変わるんです。

海老原 

そうしたプロジェクトを、プロデュースしたりマネジメントしたりする経験を何度か積めば、新たなビジネスを立ち上げるステージのプロになれますね。

能  登 

実際、グループ会社の社長に転身したエンジニアもいます。私たちはアプリやシステムを自前できちんと作っているので、システムづくりのためにはどういうコストがかかるか、競合に勝つためにはどういうシステムづくりをすればいいかがわかっている。そういう人が、ビジネス・リーダーになったほうが成功する、というのは社内の経験知でもあります。

「頭」と「手」の両立。体力、知力、スピードの三位一体がパワーに
海老原 

業界の階層構造の下の方にいて、2次請け3次請けで毎日納期に追われて、疲弊感を持ってしまっているエンジニアにだって、決してクリエイティビティがないわけではない。

能  登 

そう思いますね。私たちは、考えたことをすぐコードの形で実現できるエンジニアの資質を大切にしています。IT業界でもプライマリーにいる人は、新卒でコーディングを1〜2年やるとすぐ現場を離れて、後は2次請けに出してしまうことが多い。むしろ2次請け3次請けの人のほうがコーディング能力は高いというのが私の印象です。もちろん「客先に言われるままにコードを書いていました」というのではダメで、「自分で考えて、同時に作れる」というセットのスキルが絶対に必要です。

海老原 

2次請け3次請けにいて、体力=コーディング能力もあって、かつ頭=ビジネスセンスもある人って、応募者の何割ぐらいいますか?

能  登 

100人に1人ぐらいでしょうか。指示に基づいてコーディングするという仕事であれば、協力会社の方にお願いすることもできます。社員として採用するのなら、「頭」「手」「スピード」の3つは外せない。私たちはけっして「頭」と「手」を分けては考えていない。発想とコーディングを一体のものとして考えている。だからこそ、自分がつくったものを動かしてみながら、もっと面白く変えていくことができる。ただ、IT業界では今それらの能力を分業化する方向に流れているのも事実。だから「頭」「手」「スピード」を兼ね備えた人となると100人に1人になってしまう。

それでも、今までの業務で人にこれをやってくれと依頼されたとき、自分のアイデアや提案を出した経験がある人が中にはいる。そういう話を聞いていくと、自分で考えて仕事をやってきたのか、やらされていただけなのかはわかります。

海老原 

ものづくり企業の人材採用を考えるとき、僕はよく「セットアッパー」か「パーツ型」かという分け方をするんです。日本の製造業の多くはテクノロジーに興味があって、部品やモジュールを一から積み上げていく。これが「パーツ型」企業。それに対して、部品やモジュールは外から買ってくればいい。しかし、 iPhone やiPadのような新しい世界観を提示するのが自分たちだ、という会社が「セットアッパー型」。ソニーやアップルのような会社ですね。DeNAはどちらかといえばセットアッパーだと思う。そのためには、ビジネスのコンセプトワークの部分が欠かせない。そのあたりはどうしているんですか。

能  登 

コンセプトづくりを意識して鍛えているわけではないのですが、ただ、何人かに裁量を与えてどんどん任せると、面白いコンセプトが生まれてくるということはあります。

海老原 

一度、誰かに任せたら、そのコンセプトをまずは否定しないわけですね。

全部任せるが、ツッコミも半端ない。否定されてもヘコまないカルチャー
能  登 

とやかく言うよりはまずは任せて、結果を信じる。ただ、カルチャーとしてどんどんツッコミはする。特にビジネスとして成功するかどうかは、きっちり検証しますね。そこが弱いと、私たちもスモールビジネスのままに終わっていたと思います。さらに、偉い人の考えだからそれを聞かなければならないということもない。うちの社長の南場自身が自分の意見にダメだしされるのが好きですし(笑)。そうやって否定されてもヘコまないというのが、社内のカルチャーですね。

海老原 

京セラの稲盛和夫さんが、「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に行動せよ」と言っています。妄想は自由に、計画段階になったらどんどん問題点を指摘し、一度決まったら前向きに行動する。そういう会社は、エンジニアにとってはものすごく楽しいんじゃないですか。

能  登 

DeNAでは他の仕事に口だしするのも全然OK(笑)。「あなたの仕事の範囲はここまでだから、それ以上のことを考えてはだめ」というようなことを言う人は一人もいません。自分の所属や職種を超えて、関心を伸ばしていく。まさにボーダーレスなんです。大手有名企業に多いんですが、ビジネス全体の規模は大きいけれど、縦割り組織がしっかりしていて、結局、自分が何をやっているかわからずに、閉塞感を感じている人が多いと思うんです。そういう人から見れば、こんなにオープンで、伸び伸びしている会社はないと思いますよ。

自分がつくりたいものをコンシューマーに届ける。ネット企業の成長力は未知数
海老原 

これからのネット企業の成長力についてはどういうイメージを持っていますか。

能  登 

受託開発型のSIerは景気に左右される要因が多くて、今はあまり伸びていませんね。少なくともかつてのように、放っておいても伸びる業界ではなくなりました。一方で、ネット業界は e コマースもエンタテインメント系もどんどん伸びている。余暇の時間をテレビではなくウェブやケータイとともに過ごす人もどんどん増えてきていますし、その成長力は高いと思います。

これまでのIT業界は、クライアントや景気変動など外部要因にコントロールされる部分が非常に大きかったと思います。だから、先のアンケートなどを見ても、自分がいま苦しいのは環境のせいだという声が多いですね。でも、いつまでも外部環境のせいにしていたら、先がないですよね。その点、ネット系であれば、自分が何をつくるべきかは自分が決められる。エンジニアであればこそ、そういう方向をめざすべきなんじゃないかと思います。

海老原 

今、ネットの世界で発生している新しいビジネスのうねりというのは、かつての、私が入社したころのリクルートを思い出させます。誰も耕していない市場で、住宅や求人といった情報の交通整理をするだけでも、大きな収益を挙げられた時代です。同じ雑誌をつくるにしても、旧来型の出版社とは全く別の手法でやったら成功した。そのリクルートでさえ、いまはWebにごっそりお客さんをもっていかれているわけですけれど(笑)、僕は御社のようなネット系企業、実はうらやましく思っているんですよ。

今、仕事がつまらないと思っている若者たちに、こんな面白い世界があるということを提示してあげて、うちの会社に入れば発想は自由だよと、ただ大人の世界だから責任は取らなくちゃいけないよ、と。そういう環境を実現してあげれば、若者の潜在的なクリエイティビティはどんどん伸びていきますよね。

能  登 

クリエイティブな仕事をしたいのなら、できるだけ若いうちに移ったほうがいいとは思います。旧来型の業界に長くいると、発想がなかなか転換できなくなりますから。今どんな業界にいようが、自分はこういうものを作り出したいんだというエンジニアの情熱を持ち続けている人がきっといるに違いない。そういう人にたくさん出会いたいですね。

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