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“鉄道人”としての誇りをかけて、列車の安全・安定輸送を支える JR東日本が“柔軟な発想”を求め、エンジニア積極採用
JR東日本が技術者採用を開始する。土木、車両、列車制御システム・電力設備・情報通信、機械設備、建設工事など職種は多岐に渡るが、今回は線路や土木構造物などの設備保守の業務にスポットを当て、その仕事の奥深さを紹介しよう。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.08.04
Part1 JR東日本が今、エンジニアを中途採用する理由──外部のノウハウを鉄道技術に積極的に活かす
JR東日本のエンジニア社会人採用。14年の実績
 エンジニアには鉄道ファンが多い。論理的思考の積み重ねの上に、独自の自律系システムを構想するエンジニアの特性と、鉄道とは、どこかに共通項があるようだ。そうでなくとも関心が高い鉄道会社の技術系の仕事。普段、乗客の目に触れることは少ないが、車両整備工場の中で、線路の枕木の際で、文字通りに昼夜を問わず、鉄道の運行を支える人々である。社会インフラを支える責任と誇りはエンジニアの心をくすぐる。チャンスがあれば転職してみたいと考える人も少なくないはずだ。

 人材の多様化戦略や高齢化の進む人員構成を是正するために、鉄道各社は、近年、中途採用を積極的に行っている。中でも注目されるのが東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の社会人採用で、すでに14年の実績がある。主な募集対象は「土木」「車両」「列車制御システム・電力設備・情報通信」「機械設備」「建設工事」「建築」など。土木、機械、電気、情報工学などのバックグラウンドをもつ社会人エンジニアから毎年多数の応募がある。2011年度は総数170人程度の採用を予定している。今回はその中から「土木」の仕事について紹介しよう。
120年前のトンネルと最新設備が混在する環境の中で
 下山貴史氏(45歳)は、JR東日本本社の設備部の課長。橋梁、トンネル、駅のプラットフォーム、盛土など、レール以外の土木構造物を管理するグループのリーダーだ。取材の数日前も、未明に突発的なゲリラ豪雨が発生、現場の復旧を指示するため徹夜したという。
「そういう呼び出しはいつもありますから、枕元には携帯電話が欠かせません」と笑う。

 日本の鉄道設備技術には長年の蓄積があり、そのレベルは世界的だ。しかしそれは言い替えると、古い設備を大切に使ってきた歴史とも言える。
「JR東日本の線路営業キロは7,500kmあり、その8割が戦前に整備されています。さらにエリア内に、橋梁が1万5,000箇所[3万1,000連(橋桁一つを一連と数える)]、トンネルが1,300坑ありますが、平均経年数は橋梁、トンネルともに60年、なかには120年も使われ続けているものもあります。こうした古いものと、今年完成したばかりの設備まで、新旧設備が混在しているのが特徴。メンテナンス・エンジニアには、最新と最古の両方の知識が求められるのです」(下山氏)

 地震国ゆえの悩みも尽きない。大きな地震が発生するたびに、高架橋やトンネルの耐震基準が見直される。それに応じて耐震補強工事が永続的に続く。これも、日本の鉄道に特有の現象と言える。ただ、新旧の設備を同じ基準で点検することの不合理もある。最近は、構造物ごとにカルテをつくり、点検の重要度にプライオリティをつけるアセット・マネジメントの考え方を導入しつつある。こうして維持管理費を抑えることは、民営企業としては当然の取り組みである。
下山貴史氏
東日本旅客鉄道株式会社
本社
設備部 構造物管理グループ

課長 下山貴史氏

 機械化・システム化を進めることで、メンテナンスをより容易にする動きもある。ただすべてを機械任せにできないのが辛いところ。やはり最後の判断は人が行うので、技術者の判断力を高めることが欠かせない。社内の古い技術を継承する一方で、新しい知見も導入する。そのための社会人技術者採用なのだ。
「設備に使われる素材や施工法についても、100年後を見据えた長期的な視点に立ちながら、たえず新しい技術にチャレンジしていかなければなりません。その意味でも、私たちは外部のエンジニアの経験を活かしたいし、中途採用者にとっては活躍の場が広がっていると言えます」(下山氏)
トンネル・橋梁だけでなくマンション・ビルの施工管理経験も活きる
 今、JR東日本の設備部門には土木構造物担当だけで約1,000人の技術者がいるが、民営化以降の採用が約半分、約2割が転職組だという。想像していた以上に、転職者が活躍しているのだ。今後も社会人採用は積極的に行っていくが、むやみに数だけを増やすことはできない。少子高齢化に伴う利用客の減少、修繕費予算の削減など経営的な事情もあるからだ。ただ、利用客の安全・安心への要求は高まる一方。この狭間に立ったとき、求めるのはやはり技術者の高度なスキルである。

「鉄道設備の経験者というのはもともと少ない。したがって鉄道に限らず、広く道路やビルの建設・保守の経験者にも採用の枠を広げています」と、下山氏。そこで重要なのは、実際の施工経験。JRは基本的には発注者の立場に立つが、請負側での経験が豊富なエンジニアが採用できれば、そのノウハウをより効果的な施工管理、工事発注や発注ルールの改善などに活かすことができるという。
「トンネルや橋梁の経験があればベターですが、それがなくても大丈夫。マンションやビルしか建てたことのない人でも、そこにおける工事管理の技術力は、JR東日本でも大いに活かせます」(下山氏)

 どの会社にも共通のテーマだが、一口に技術者といっても、スペシャリストとゼネラリストのどちらを育てていくかという課題。これについては、「両方が必要」というのが答えだ。
「例えば、トンネルや橋梁の検査技術を極めて、その道の専門家をめざしたいという人も歓迎。同時に、設備保守は、社内の電力、信号、運転などの部署、さらに河川・道路管理の自治体などとの調整も必要になる。そのためには、総合的な知見をもつゼネラリストが欠かせない。そのためのキャリアパスも用意しています」(下山氏)

 そして何より転職者に求めたいのは、“鉄道人”としてのモラルと情熱だという。かつて仙台土木技術センター所長を勤めていたときのことをこう語る。
「宮城県で大地震が起こったときに、所員60人総出で対応しましたが、そのうち40人は携帯電話の連絡網も途絶する中、1時間以内に事務所に自主的に集合しました。すでにJR東日本を退職し、関連企業に再就職していたOBまでが駆けつけてくれたのには感激しました。災害時には自分の体をかけても設備を守り、お客さまの安全を最優先する。これはJRマン、鉄道人としてのDNAであり、プライドなんだろうと思いました」(下山氏)

 鉄道以外の技術領域でも、こうしたプライドをかけて仕事をしてきたエンジニアは多いはず。その誇りを、今度は鉄道に賭けてみる。そのチャンスが今訪れている。
Part2 転職者の柔軟な発想で、軌道の曲線修繕手法を革新
常識・慣行を疑うことで、乗り心地改良につなげる
 JR東日本千葉支社設備部保線課に勤務する前澤彰氏(39歳)は、ゼネコンでの山岳トンネル建設の仕事などを経て2002年にJR東日本へ入社。6年間は、保線の現場を担当していた。保線とはつまり軌道のメンテナンス。つるはしでバラスト(砂利)を突き固めるイメージがあるが、今は機械化が進み、かつてのような作業形態ではない。とはいえ、「昔も今もメンテナンスの基本的な考え方は変わらない」と言う。

 鉄道の線路は、重量のある列車が走行するうちに寸法の狂い、磨耗が生じる。これを放置しておくと乗り心地が悪くなり、さらにそれが高じると脱線の原因になる。また、夏のレール温度は60度ほどの高温に達する。これだけ熱くなるとレールが伸び座屈する恐れがあるので、安定していたバラストを緩めることはできない。このようなさまざまな条件を認識し、定期的に検査・修繕を行い、安全性を保つとともに乗り心地を維持する必要がある。この一連の流れが保線だ。基本的に列車の営業運転のない夜間の仕事で、夜勤も多い。定期検査のほか、大雨、地震などの自然災害の直後は必ず点検を行う。

 事故を未然に防ぐための補修や老朽化したレール交換以外にも、保線には、列車の乗り心地を改善するという、より積極的な役目もある。
 新小岩保線技術センターに勤務していた頃、総武線の乗り心地対策が問題になった。江戸川橋梁の直前の緩やかなカーブで、列車が揺れる。その原因究明に取り組んだのだ。

「軌道保守作業における線路計測には“正矢(せいや)量管理”という独特の方法が用いられます。“正矢量管理”とは、カーブでの線路の曲がり幅を把握する手法で、線路を10m単位で区切り、その端と端を糸で結んで、まん中部分での線路と糸との離隔を管理する方法です。運転上の安全管理のためには合理的なのですが、ときとして線路線形の微小な変位までは把握できないことがあるんです。それを是正するためには、一般の土木建築で用いられる〔X,Y,Z〕の座標管理も併せて用いることが必要だと私は考えました」
前澤彰氏
東日本旅客鉄道株式会社
千葉支社
設備部保線課 保線計画グループ

前澤彰氏
 正矢量管理は、いわば日本の鉄道140年の歴史の中で、誰もがその合理性を疑わなかった技術。そこに前澤氏は異を唱え、新たな提案を持ち込んだのだ。
トランシット測量(座標データ) 施工前、施工後の列車動揺値比較
「これまで長年にわたって積み上げてきたメンテナンス手法を覆すことになります。座標管理といっても、ピンと来る人は多くはなかった。結果が出るのか、という疑問の声も部署内にはありました。でも、私は“やらせてくれ”と押し通しました。実際に座標をプロットして、これまでのデータとつき合わせると、微小な変位が明確になりました。ふたつの計測方法を組み合わせることで、より精密な修繕計画が可能になることがわかったのです」
 新しい計測データに基づいて修繕計画を練った。レールの移動量は90mm足らずのものだが、それによって列車はほとんど揺れなくなった。「通勤で毎日乗っている人でも、気づく人しか気づかないという程度」というが、それでも改善効果は大きい。

 鉄道の線路保守には高度なノウハウの蓄積と専門性があるとは言うものの、他の土木技術の標準を持ち込むことで、つまり外からの視線を通すことで、見えなかった問題が見えてくることがある。JR東日本が外部のエンジニアを積極的に中途採用する狙いもそこにある。
メンテナンスこそが難しい。エンジニアの本領が発揮される場
 前澤氏は現在、千葉支社保線化保線計画グループで毎年の新規建設の工事予算を策定する担当だ。千葉支社内で上がる予算要求を精査し、それらを取りまとめて本社に訴え、工事予算を獲得するわけである。今、積極的に取り組んでいるのが、木製枕木を合成枕木(ガラス長繊維強化硬質ウレタン樹脂製)に置き換えるという課題。とりわけ橋の上や分岐器内では、より耐久性と施工性の高い合成枕木の必要度は高い。
「よりメンテナンスフリー化を進めるというのが線路保守の流れ。合成枕木の他にも、枕木と一体となった踏切(連接軌道)など付帯設備の導入にも取り組みたい。そのための予算獲得が私の最重要の仕事になります。もともとゼネコンに勤めていたころから、これからは建物をどんどん新規に建てる時代ではない。メンテナンス技術をより高度化して、構造物を長持ちさせることが重要だと思っていました」(前澤氏)

 山岳トンネルから鉄道の軌道と対象は変わり、メンテナンスの重要性についての認識は、むしろJR東日本に移ってからのほうが高まった。
「ゼネコンはモノをつくる。土木コンサルタントはモノを調べる。JRの線路保守は、その両方の技術を知らないといけないのです。例えばレールを調べるにも、超音波探傷検査でどこに傷があるかを調べる技術が必要。JRではそれらの検査データを元に実際にどう直すかという施工計画を立てなければならない。むしろ新設よりも保守が難しい。保守をしながら、乗り心地を改善していくことなどは、さらに困難さがつきまとう課題です。その難しいところを一つひとつクリアしていくところが、技術者冥利に尽きますね」(前澤氏)
 鉄道メンテナンス技術者としての誇りが、垣間見えた瞬間だった。
木枕木(橋)
▲木枕木(橋)
合成枕木(橋)
▲合成枕木(橋)
連接軌道施工前 連接軌道施工後
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