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Kindle勝手アプリ、超多忙でも応援、大規模・高負荷で実力を磨く
五十嵐洋介COOが語る─KLab開発舞台裏と世界挑戦
これまでも取材記事を通して、KLabの独特な社風とエンジニアの技術レベルの高さを伝えてきた。今回は、数々の難関プロジェクトの指揮をとってきた取締役COO五十嵐洋介氏に、世界市場へのチャレンジと、そこにおけるKLabの強みを語ってもらう。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.06.09
グローバル規模での勝負の場をエンジニアに提供したい
KLab株式会社 取締役  COO 五十嵐洋介氏

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。在学中からフリーランスとして大手企業のアプリケーション開発、ネットワーク設計・構築に従事。 00年ヴィジョンアーツ株式会社入社。コンテンツ配信システムのシステムアーキテクチャ設計、 プロジェクトマネジメントなどを担当。03年8月、顧客・エンドユーザにより近い立場で事業を推進している環境に魅かれ、KLab(ケイ・ラボラトリー、当時)に入社。 研究開発部マネージャー、研究開発部長として、実案件のプロジェクトマネジメントを行うとともに、汎用的なツールライブラリーの構築を推進。05年6月、取締役に就任。

 COO(最高執行責任者)というと肩書はいかめしいが、応接室に現れたのは、国内発売前のアップルiPadを小脇に抱え、ニット帽をかぶった青年だ。IT企業というよりは音楽業界あたりにいそうなタイプ。しかし、先進のITギアやトレンドに対する彼のセンスは、KLabという会社の雰囲気を象徴しているようにも思える。

「一般的にCOOというと、あらゆる業務の最高執行責任者ですが、僕の場合はそんなにカッコいいものじゃないですね。元々が技術者だったこともあり、プロジェクト進行上の問題に対して技術/ビジネスの両面からの判断・アドバイスをさせてもらったり、社内のリソースを適材適所に配分する判断をしたり、そういう小回りを利かせるための仕事です」
と、五十嵐洋介氏は、COOとしての自らの役割から話し始めた。

 そもそもKLabの組織は縦割り型ではない。「この案件は人の担当だから自分は関係ない」と、知らんぷりを決め込むエンジニアは少ない。それとは正反対に、自分が役に立てるのなら、どんどん首を突っ込む。それは現場のプロマネクラスでも役員でも変わらないのだという。

 五十嵐氏は、160万人のユーザに支持されているソーシャルゲーム「恋してキャバ嬢」のプロジェクトにも携わったが、そのときのエピソードをこう語る。
「KLabには7年前にエンジニアとして入社したため、大規模・高負荷なサービスの開発にも携わってきました。『恋してキャバ嬢』のときも性能評価の現場に立ち会っていたら、アプリが怪しい動きをしていた。アクセス集中時になると応答性能が極端に悪化していたんです。

 開発をお願いしていた協力会社によくよく話を聞いてみると、ボトルネックのプロファイリングがきちんとできていなかった。対応策についても、データの裏付けのない状態で手をつけてしまっており、気付いたところからトライ&エラー的に修正を重ねていた。アプリで解決すべき課題をインフラで何とかしようとしてしまったり、その逆をやろうとしてしまったりもする。そこで、これまでの自分の経験を活かしてアドバイスをさせてもらいました」

「自分が役に立つなら、何でも首を突っ込む」──それがKLabの風土

 例えば、利用しているフレームワークそのものがオーバーヘッドになっているのか、アプリケーションやDBの設計に問題があるのかを切り分けるために、機能ごとに分けて実行時間を測定することであったり、呼び出し回数の多い処理を洗い出すことであったり、実行中のシステムリソースの消費状況に関するデータを集めて分析するといったことだ 。
「言われてみれば当たり前のことですが、リリース直前になるとどうしても焦ってしまい、その当たり前を置き去りにしてしまいがちです。むしろプロジェクトの外から見ていたほうが冷静な判断ができることもあるんです」

 残された時間の中で出来るだけの対策は施し、いよいよリリース予定日を迎える。リスケジュールをするか、リリースするかについて、難しい判断を迫られた。
「そもそもユーザに支持してもらえるのか、どのくらいアクセスが集中するのかが分からない。目標とすべき性能指標を明確できないまま負荷対策をすることは、ゴールがないマラソンを走り続けるようなものです。ゴールを明確にするためにも、リリースを優先する決断をしました」

 実際にリリースをしてみると、想像をはるかに超えるスピードで利用者が増えていく。ユーザからの感想や期待の声も続々と集まってくる。あまりの反響にシステムが追いつかなくなっていく。直近のアクセス状況を元に性能目標を試算してみると、近い将来、数千PV/secをさばかなくてはならないであろうことを示す結果が出てきた。リリース前には内心、「1000PV/secを越えることはさすがにないだろう」と思っていたが、実際にはケタが違った。

 最初のメンテナンスを機に、COOとして重大な判断を下すことになったのだ。
「これ、このままじゃだめだ。作り直そうよ」

「やってやろうぜ!」──総力戦で立ち向かうエンジニアに男気を感じる瞬間

 ユーザからの反響はきわめて大きく、KLabにとっての大チャンスがそこにある。しかし、ユーザの期待に応え、そのチャンスを活かすためには、数千PV/secを乗り越え、なおかつ運用しながらも、スピーディな機能追加をできる体制が必要だった。そこで、五十嵐氏は開発・運用を完全内製できる体制へと一新し、アーキテクチャから見直しをすることを決断する。この状況を打破できる人材を社内から集めるためには、多数のプロジェクトを横断しての大調整が必要だった。しかし、それ以上に大きな心配事として「果たしてメンバーは前向きにこの難題に取り組んでくれるだろうか……」ということだった。

「エンジニアなら誰だって人の書いたプログラムに手を入れるだけなんて仕事、嫌なものですよ。できたら既存のソースコードをすべて捨てて、一から書き直したいはず。付け焼刃的な改修に留めるのではなく、じっくり腰を据えてアーキテクチャから見直しをかけ、飛躍的に限界性能を向上させることを目標にするべきだと考えました。高負荷対応アーキテクチャを一から構築する経験を積めるほうが、エンジニアにとっても嬉しいはずだし、会社的にも他社との差別化要素になるノウハウを貯められると考えたんです」
 五十嵐氏は、まずはプロマネクラスのメンバーに相談をし、このプロジェクトに込める想い、意義や目標を語りかけた。すると、「やるからには新しい技術へのチャレンジ要素も積極的に盛り込み、メンバーのスキルアップの機会を提供しましょうよ」「二度と負荷で苦労しなくてすむような、高負荷対応フレームワークを作りましょうよ」といった、さらに前向きな声があがった。そして五十嵐氏も即座にそれに同意する。

 その後のプロマネを通じたエンジニア陣への参加の呼びかけに対しても、方々から手が挙がった。インフラからアプリ開発まで、課題解決として結集したエンジニアは総勢13名。集中した総力戦で、ボトルネックはたちまちのうちに解消されていった。
「今、会社として何が必要かを、上の立場の人が熱意をもって説明すること。それに応じてボトムアップ的に“やってやろうぜ”と声が挙がること。自社の社員のことでなんですが、そのときのみんなの“男気”には惚れましたね。その双方向の雰囲気がKLabの良さだなと、改めて思いました」

「Kindleの勝手アプリを作っちゃいました」──誰もが止めようのないその自発性

 自分の職務を果たすのは会社員として当然だが、ただ上から言われたことを黙々とこなすだけでは、「やらされ感」ばかりが募って、エンジニアのスキルは必ずしも向上しない。自分が「できること」を拡大するためには、「できない」ことにチャレンジするしかないのだ。アンテナを巡らせていれば、そのチャンスは必ず降ってくる。

 米Amazon.comが製造・販売する電子ブックリーダー「Amazon Kindle」のときもそうだった。Kindle 用アプリ開発キットKindle Development Kit (KDK)の配布に先駆けて、2010年4月、Kindle用“勝手アプリ”を世界で初めて開発したのは、KLabのエンジニアだ。
「会社が指示したんじゃないんです。KDKの配布を待ちきれなかった一人のエンジニアが、その仕様書を読み取って、自発的にエミュレーターを自作し、KDKを使わずにアプリを書いて、オープンソースとして公開してしまった。『テトリスやロードランナーのようなゲームが、Kindle上で動きます』って、Twitterでそのことをつぶやいたら、反響がすごくて。いろんな国の人にどんどんリツィートされ、海外メディアでも紹介されました」
 新しそうだし、面白そうだしというノリが、エンジニアに“できない壁”を飛び越えさせ、未知の荒野における“できる領域”を広げていく。その繰り返しを通して、KLabのエンジニアリングは強くなってきた。

「大規模」「高負荷」「モバイル」の試練で力をつけたエンジニアたち

 今、オリジナルゲームタイトルでソーシャルアプリ市場に乗り出すKLab。ソーシャルアプリそのものは新規事業だが、「大規模」「高負荷」「モバイル」という技術要素を組み合わせたサイト構築にはたしかな実績がある。例えば エイベックス社の音楽配信サイト「mu-mo(ミューモ)」をはじめ、誰もが名前を知っているようなサイトや、そのジャンルのトップクラスのアクセスを誇るサイトを縁の下で構築してきた。

「mu-mo」にはテレビCMと連動したコンテンツがあり、CMが終わった瞬間にユーザが殺到する。その高負荷にサーバが耐えきれなければ、ユーザにストレスを感じさせるネガティブ・キャンペーンになってしまう。もしサイトがダウンしていれば、企業のプロモーションがすべて裏目に出ることさえある。常に新しい機能をリリースし続けながら、高負荷耐性も確保し続けるのは極めて難しい。KLabはそうした日々を闘ってきた。

「常に難しいことを要求してくれるお客様やパートナー企業と協業することで、僕ら自身が鍛えられてきたんです。やるからには難しいことにチャレンジしたい。『KLabでなければできない仕事』と言われることを目指したいと思っています。エンジニア対しても、常に本人にとって未知の経験ができるような環境を提供したいですね。同じことの繰り返しや、最初からできると分かりきっていることは、やらせたくないです」
そうした環境だからこそ、短期間でスキルを伸ばせるのだろう。

 しかも、KLabではエンジニアが企画の初期段階からプロジェクトにかかわり、自らがオーナーシップとスピード感をもって技術開発を進めていく風土がある。すでに仕様が固まり、細かいパーツに細分化されたシステムを、言われるままにコツコツと開発していくというのとは大きく異なるところだ。
「KLabのエンジニアは、“このサイトの立ち上げを担当した”ではなく、“このサイトは自分が立ち上げた”と言い切れるだけの経験を重ねています。人がやったことがない、人が尻込みするような難しいプロジェクトをやりきったという自信を持っている。常にそうした経験ができる舞台をエンジニアに提供することが、COOとしての自分の務めだと思っています」

「井の中の蛙になるな」──世界を相手にするエンジニアの“自己革命”

 国内で100万人を裕に超える規模のユーザがアクセスするメガサイトは両手で数えきれるほど。国内では十分大規模といえるが、世界的にみればもっと巨大なサイトは珍しくない。世界的なSNSサイト「Facebook」のユーザ数はこの1年で幾何級数的に膨れあがり、年内にも6億人を越えるといわれる。いずれはGoogleと共に10億人のユーザを相手にすることになるだろう。
「僕らが今、国内で管理しているサーバが、台数レベルで800台ぐらいですね。ところが、「Facebook」は2万台、Googleに至っては100万台ともいわれる。そんなレベルで闘っているエンジニアが実際にいるんですから、僕らもそういうフィールドで勝負していかないと、世界との差は縮まらないはずです」

 KLabは今期、国内SNS向けのソーシャルゲーム提供を通して収益を拡大する予定だが、その先には、海外SNS向けのビジネスを想定している。同時にiPhone、Androidなどスマートフォン向けのアプリ開発も進める。単なるコンテンツ提供だけでなく、独自のプラットフォームを運営することも視野に入れ、中長期的には収益面でも海外ビジネスの割合を高めていくのだという。「収益を常に自分たちの技術の未来に再投資する」技術開発ベンチャーとしての戦略は、設立後10年経っても変わらない。

「世界を目指すというと、話がでかすぎると思うかもしれません。でも、決してそんなことはないんですよ。今はまだ小さな会社で、世界との差はありすぎるけれど、一つひとつ課題をクリアしていけば、その距離は必ず埋められる。世界で通用する技術者になるという夢を信じて、毎日少しずつできることを増やしていく、そういう“自己革命”みたいなものが、エンジニアを成長させるし、会社を成長させるんです。そうした動きを加速させるために、新しいマーケットやパートナーを見つけてくるのが経営陣の仕事。新たな市場参入や事業提携を実現するためにはどんな技術力やプランが必要か、どう人材を育てていくかも、判断しなくてはなりません」
 五十嵐氏の世界市場へ向けた思いは、KLabのエンジニア一人ひとりに十分伝わっているはずだ。

 KLabには、ビジネスのことはまったくわからないけれど、この技術にかけては他人に口出しをさせないというぐらいの自信に溢れたギーク(geek)が何人もいる。また、入社時のスキルは人並みだったが、常に向上心をもって日々のスキルアップを怠らない真面目な努力家も多い。さらには、ビジネスと技術の両方に目配りの効いた“ハイブリッド型”の人材も増えてきた。いろいろなタイプのエンジニアが、相互に刺激をしあっているという。

 こうしたエンジニアたちに「グローバル規模のエクスペリエンスを提供していく」──KLabの夢は今、世界へと広がる。

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