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国内外プラットフォーム制覇、スマートフォン向けアプリ開発etc.
KLab真田社長が明かすソーシャルゲームのビジネス戦略
携帯電話関連ソリューション開発のKLab(クラブ)は、今期、社員数の約2割にあたる30名規模のエンジニア採用を予定している。それはどのような事業戦略に基づくものなのか。真田哲弥社長を直撃し、ソーシャルゲームのビジネス戦略と今後のグローバル展開などを聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.04.27
世界を視野に入れたソーシャルアプリ開発。10年目を迎えたKLabが次に目指すもの
KLab株式会社 代表取締役社長 CEO 真田 哲弥氏

 学生時代に起業して以来、数々のベンチャーを起ち上げてきた経験をもつKLab代表取締役社長・CEOの真田哲弥氏。ネットベンチャーの勝ち組の一人と言われるが、勝ち残ってきたのにはそれなりの理由がある。技術開発ベンチャーを10年にわたって経営し、その技術レベルを業界トップクラスにまで押し上げたのは、精緻なマーケット分析と確固とした経営哲学、そして技術者に対する熱い思いがあればこそだ。まずは今注力する、モバイル領域におけるソーシャルゲームのビジネス戦略について語ってもらおう。

なぜ、今ソーシャルゲームなのか

 今、日本のソーシャルゲームの市場は大きな盛り上がりを見せています。IT業界や、ゲーム業界ではすでに過熱気味という人もいますが、世の中一般の人からみたら「ソーシャルゲームって何?」の状態で、まだまだ潜在力はある。今後も成長を続けていくと考えています。もちろん、どんなヒットゲームもいずれ飽きられることは事実。3年もてばよいほう。とはいえ、ゲームがなくなることは絶対にありません。形を変えて続いていくんです。だから、必ず次から次へと波がやってきます。

 ゲーム人口を一つのピラミッドに喩えれば(図1)、頂点にはごく少数のハードコアなユーザーがいます。MMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)にのめり込むような人たちですね。その下に、最近「Webゲー」と呼ばれるようになったブラウザゲームに熱中する層がいて、さらにその下に広がっているのが、ソーシャルゲームのユーザーです。ソーシャルゲームの登場で、ゲーム人口のすそ野が広がったことは事実だと思います。ソーシャルのユーザーは、自分たちではゲームをしているという感覚が希薄。単に花に水をやったり、キャラクターを育てているだけ。それでも、他のユーザーとのコミュニケーションを十分に楽しんでいます。

 KLabがこれからどういう層を市場として狙うかといえば、ソーシャルゲームとWebゲーの間、その両方にまたがるゾーンです。ここがこれからの主戦場で、他社もどんどん参入してくるでしょう。そもそもオンラインゲームには、ゲームの遊戯性に加えて、コミュニティにおけるコミュニケーション性という2つの要素があります。私たちはゲーム会社ではないけれど、これまでモバイル・プラットフォームでコミュニティをつくってきた実績があり、それはこれからの競争におけるアドバンテージになるでしょう。また、今後、ゲームユーザーが増えていくと、ネットワークやシステムインフラの負荷が高くなる。これに対しても、ゲーム業界向けにインフラを提供してきた実績が強みを発揮すると思います。ゲームの主戦場で闘うだけの資格と優位性が私たちには十分あるということになります。

世界単一市場を意識し、国内外のプラットフォームを制覇する

 当面は、今訪れようとしているソーシャルゲームのビック・ウェーブに完全に乗り切るため、国内の主要SNSプラットフォーム向けにゲームを開発・提供することに事業を集中させるが、もちろん真田社長の事業の狙いはそこに止まるものではない。事業の発展とプロセスを、真田社長は次のように話す。

 私たちのソーシャルアプリ戦略を簡単に整理すると次の4つになるでしょう。

1) 国内のSNSプラットフォーム向けのソーシャルゲームの提供
これは昨年のmixiアプリのリリースを皮切りに始めています。今後は「mixi」「モバゲータウン」「GREE」の国内3つのプラットフォーム全てにゲームを提供していきます。しかし、KLabはゲーム開発だけに特化することはありません。ユーザー相互のコミュニケーションを促す仕掛けをもつ内容であれば、それらもアプリケーションとして開発していく。広くソーシャルアプリとしてマーケットを捉えているのです。

2) 海外向けのSNSビジネスの展開
こうして国内プラットフォームで十分な収益を確保しつつ、次に展開していくのが、Facebook など海外向けのSNSビジネスです。国内から海外へというベクトル。海外展開は英語圏だけでなく、中国、インドなども想定しています。

3) iPhone 、Andoroidをはじめとしたスマートフォン向けサービス
同時に、 iPhone 、Andoroid 携帯などのいわゆるスマートフォン、新しいモバイルデバイス向けのアプリ開発も進めます。

4) プラットフォーム事業の検討
より長期的には、プラットフォームにアプリを提供する側から、プラットフォーム自体を生み出す側に回ることがあるかもしれません。ただ、これは3年内という短いものではなく、より長いスパンでの事業戦略です。

 中長期的に重要なのは、2)3)のフェイズ。つまりグローバル展開です。これまでは国内ビジネスが中心でしたが、これからは海外に注力していく。将来的には、売上の過半を海外が占めるというようなことになるかもしれません。

 最近、真田社長は、海外のモバイル・ソーシャルアプリ関連の商談イベントや国際会議などに招かれ、そこで発言することが増えてきた。モバイル・エンタテインメント市場に、世界の通信事業者、ソフトウェア・コンテンツ開発者、ビジネスプランナーらの熱い視線を集まっているのだ。この分野で先行した日本企業の経験を、世界が必死で取り込もうとしている。ネット産業にとってのグローバル市場の重要性を、真田氏はあらためて強く意識するようになった。

 私たちのネット産業は、軽々と国境を越えていきます。企業としてこれほど世界戦略がやりやすい時代はない。かつてソニーやHondaが世界に進出するときは、海外に人を送り、現地に工場を建てるなど多大な苦労をしました。ところが、今の私たちは 「AppStore」にアプリをアップロードするだけで世界中の4000万人のユーザーの目に触れることができる。広告宣伝から集金まですべてストアがやってくれる。現地に会社を作る必要なんて一つもない。「Facebook」ならば4億5千万のユーザーが相手です。

 それでも少し前なら、海外で事業を展開しようとしたら、現地に自前でサーバー・インフラを持たなくちゃならなかった。それが今は、「AmazonEC2」や 「Google App Engine」を使えば、現地に行く必要もない。まさに世界単一マーケットが誕生している。これがネット産業の特徴でもあり、利点でもある。それを最大限に活かさない手はないんです。そうした時代に、日本国内向けのビジネスだけを考えるというのは、あまりも後ろ向き。もちろん一気には海外にシフトできない。まずは日本のSNSで腕試しをして、そこで得た経験と収益を世界市場に投資する。それが私たちの戦略です。

エンジニアは泥んこ遊びに興じる自由人

 もともと真田社長自身は理工系出身ではないが、エンジニアへの信頼は根強いものがある。「エンジニアって、泥んこ遊びに興じながらトンでもないものを作り出す子供のような存在」と、技術者の本質を鋭く見抜く人だ。2000年にサイバードのR&D部門としてケイ・ラボラトリーを設立したころから、エンジニアにとって魅力的な会社とはどのようなものであるかを、ずっと考え続けてきた。結局、技術は個人に属するもの。それを組織知として蓄えるためには、優れたエンジニアを採用し、育て、辞めさせないことしかないということに行き着いた。今、彼が求めるエンジニアはどのような人たちだろうか。

 アプリケーション・レイヤーで企画を考えながら開発のできる人、私たちが“ハイブリッド型エンジニア”と呼ぶ人たちがまず必要です。同時に、要素技術に強みを発揮する、エキスパート型のエンジニアも求めています。どちらかに偏るというのではなく、双方を同時に求めていくのが私たちの求人戦略です。今後の海外展開を考えた場合、海外マーケットにおける情報収集などをするためには、語学力は必要でしょう。常日頃、日本よりは海外の技術情報に接しているような人が向いています。ただ、そうしたエンジニアは必ずしも日本で募集する必要はないかもしれませんね。将来は、中国やインドでエンジニアを採用することもあると思います。

 もちろん海外からの帰国子女がいてもいいし、ラーメンとお茶漬けがないと生きていけないような、まったくドメスティックな人がいてもいい。その両方が欲しいんです。国籍、年齢、性別、背景などいろんな人が混在しながら仕事をする。そういう環境こそ、これからは大切だと思います。そういうグローバルな職場になっても、私たちはエンジニアにとって最善の環境づくりを止めることはないでしょう。技術者たちが自分たちで勝手に勉強会を開いたり、業務外の時間に好きな開発をやってみたりする。そういう意味で技術者にとって刺激のある会社って、日本にはそんなに多くはない。そういう風土、伝統をつくることについては、意識的にやってきたつもりです。

 もちろん、技術の内容はどんどん変わります。KLabも10年前にはエンベデッドと、携帯電話向けのJavaの会社でした。それが今はJavaなんてやっていない。10年後もおそらく今やっていることとはまったく違うことをやっているに違いない。それでもつねに業界で最高の水準の会社でありたいと思っている。優秀なエンジニアに最適の環境を提供すること、これは今後もやり続けていきます。

 私がエンジニアに望むのは、常に好奇心をもってチャレンジして欲しいということ。それと手を動かしてみることの大切さですね。新しいソフトウェア技術やハードウェアに興味をもって、それが出てきたらまずは自分の手で触ってみる。子どもの泥んこ遊びと似てますよね。その上でそれを分析し、活用方法を考えていく。それが誰に命令されたわけでもないのに、できちゃう人こそがエンジニア。当社のエンジニアは、みんな勝手にどんどんやっている。それを止める上司はいません。ただ、気づいたらバラバラにみんなが同じことをやっていたりするから、その非効率を避けるために、しっかり情報共有と「報・連・相」はしてもらわないといけませんけれど。

 今はモバイルに注力しているけれど、うちの技術者はけっしてモバイルだけを意識して開発しているわけではないんです。モバイルだろうがPCだろうが、スマートフォンだろうが技術の本質は変わらない。後はデバイス向けの特徴をとらえればいいだけですから。その技術の本質をどう見抜くかというところが、ツボなんです。

 仕事のスタイルも、基本は裁量労働制。一定の成果を挙げた人は、勤務時間もフレキシブルだし、自宅にいたまま仕事ができたりします。ただ、勤務時間や勤務地の自由というのは、技術者にとっては本質的ではないと、私は思っているんです。高い成果を挙げる人は結局、自己マネジメントがしっかりしているから、どこにいても開発ができるということだけなんです。

どんな会社でありたいか──KLabビジョンが示す3つの約束

 KLabは当面は、ソーシャルアプリに注力して、その分野で世界を席巻することを目論んでいる。しかし、それは3年先までの事業計画。技術革新とマーケットの革新が絶え間ないネット世界に足場をもつ企業にとって、3年より先の予測など、あってなきがごとしなのだから。そのことを前提にしつつも、ただ、「どういう会社でありたいか」というビジョンだけは明確だ。社内イントラネットに常に掲示している3箇条のビジョンを紹介してもらった。

 1番目は、「IT業界で、一番ワクワクでき、一番成長し、一番利益を出す会社」──ワクワクできるためには、利益がでていないといけないけれど、必ずしも売上規模や従業員数が大きければいいとは思っていません。

 2番目が、「社会にインパクトを与える新しいビジネス、サービス、技術を創造し続ける会社」。例えばね、この4月に、「Amazon」の「Kindle」用の勝手アプリを世界で初めてリリースしたんです。それを知った人に、「Twitter」でKLabって、どうでもいいことにガンバル会社だな」と書かれたんだけれど、それは誉め言葉だと思っています。新しいこと、初めてのことに、価値を見いだしていくのが当社の哲学ですから。社会にインパクトを与え、我々が生み出した技術をみんなが使ってくれるようになってこそ、社会貢献ができると思っています。本業と離れた社会貢献よりもそのほうが重要です。

 3番目は「利益を新規事業と研究開発に再投資することにより、新陳代謝し続け、成長し続ける会社」──新規事業への再投資を止めたら会社はそこでストップ。研究開発投資を削ったら、技術開発型企業ではもはやなくなります。儲かったお金でさらに自分たちの力を高めていく。自分たちで生み出す過程こそが一番オイシイし、楽しいし、技術者も一番成長する。たしかに失敗もあるかもしれないけれど、安易にすでに出来上がった会社を買うのではなく、できるだけ自分たちの事業や研究開発を再投資していきたいですね。

 新陳代謝を続けるということも大切なテーマ。新しい事業を生み出すだけでなく、古い事業を止めるということも常に考えています。先月、自社SNS事業から撤退しました。トータルでは黒字だったけれど、この先の収益性、成長性を考えての決定です。利益が出ている事業を利益が出ているうちに撤退するというのは、当社ならではですね。その事業に30人ぐらい関わっていたけれど、部署ごと解散。先がない事業にエンジニアを縛りつけるより、彼らを新しい事業に振り向けたほうが、モチベーションもずっと高まるんです。

 真田社長の経営哲学をまとめた3箇条のビジョンは、創業以来、少しもぶれることはなかった。そのコアの部分だけは、他の役員に聞いても同じことを言う。ワクワクしながら、世の中にインパクトを与え、絶えず成長する会社を目指し、舵を切るのが経営陣。そして船を前に進める推進力はといえば、もちろん、エンジニアが握っているに決まっている。

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