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発見!日本を刺激する成長業界9 電子デバイスを虜にするタッチパネルの秘密
ディスプレイに触れるだけで電子機器を操作できるタッチパネルが今、大ブレイク中だ。すでに標準装備化されている電子書籍やスマートフォンのみならず、ノートPCや家電、リモコン向けなど用途は拡大中。次世代UIの本命という地位はもはや不動か。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:10.05.28
全世界で8000億円超という巨大市場が2015年に形成
 スマートフォンや携帯ゲーム機など、タッチパネルを実装したガジェットが急速に増えている。しかし、今はまだ普及の初期段階で、その用途が今後大きく広がることが確実。
 ディスプレイ市場に関する調査会社であるディスプレイサーチ社は、タッチパネルの世界市場は今年2010年から急伸し、2015年には09年のおよそ2.5倍に当たる約90億ドル(およそ8500億円)に成長すると発表した。
 最大市場である携帯端末(携帯電話、スマートフォンなど)は2009年の約9億ドルから約32億ドルへと3倍以上に伸びる見通し。
全世界での用途別タッチパネルモジュール出荷金額
 同じく2億ドル弱にとどまるノートPCも、15年には7億ドル超に伸びると予想する。
 また、「その他」にはカジノゲーム機、デスクトップモニター、車載モニター・ナビ、プリンター・オフィス機器、券売機、デジタルフォトフレーム、家電・リモコンなどが含まれ、タッチパネルの多様な用途が実感される。
きもと/傷に強いタッチパネルを実現した驚異のコーティング技術
 タッチパネル・ユーザーの悩みは「傷」。外見だけでなく操作性にも影響する傷を付きにくくする表面材料を開発したのは、地図印刷から電子材料までを扱うフィルムコーティングのエキスパート、株式会社きもとだ。スチールウールでこすっても傷付かないという。
世界トップシェアを誇るタッチパネル用表面材料
様々な用途に使われるKBフィルム
様々な用途に使われるKBフィルム
 ディスプレイを手やスタイラスペンで触れることによってコマンド入力が可能なタッチパネルディスプレイは、ATM、自動券売機、POSといったオンラインシステム端末にと、すでに身近なものになっている。今日、そのタッチパネルに、さらなる大ブレイクの兆しが見えている。米国、欧州に続き日本でも普及が始まったスマートフォン、「iPad」や「kindle」に代表される電子書籍端末、携帯ゲーム機といったコンシューマー向け製品で続々と採用され、今後もこの傾向はますます加速するといわれているのだ。
 そのタッチパネルを構成する部品の中でも、格段に過酷な環境にさらされているのは、何といっても入力画面の表面部分だ。常に手や機器で触れられ、製品によっては強くこすられるストレスは、透明樹脂にとって相当なもの。そのタッチパネル表面に、スチールウールでこすっても傷が付かないくらい強固な皮膜を生成する企業がある。特殊フィルム製品やグラフィック技術を主力とするきもとである。

 タッチパネルには、表面に指や物体が触れた圧力で電極が接触する抵抗膜方式、触れた静電容量の変化を感知する静電容量方式、電磁誘導方式などさまざまな方式があるが、きもとは最も多く使われている抵抗膜方式の表面材で、世界トップシェアを誇っている。
「弊社は以前は、防水性があり伸び縮みの少ない地籍図や製図フィルム、印刷工程に使う製版用マスキングフィルムを開発し、その後は液晶のバックライトに使う光拡散用フィルムをはじめとする電子工業用材料などをつくってきました。それらに使うコーティング技術を高く評価してくれたお客様からあるとき、傷付きにくいタッチパネルの相談がありました。そこからPETの表面に硬い膜を生成する研究を始め、タッチパネル用表面材『KBフィルム』が生まれたのです」
 取締役技術本部長の下里桂司氏は、タッチパネルの事業背景をこう説明する。KBフィルムは、PETの薄膜の上に紫外線硬化樹脂をコーティングし、CHC(クリアハードコート)という層を生成することでつくられる。硬度が非常に高く、スチールウールでも傷が付かないという。
「液晶テレビをはじめ、工業製品はコモディティ化(一般化)が進むにつれて利幅は薄く、新興国メーカーとのコスト競争にさらされます。日本の企業は、彼らに容易にキャッチアップされない分野をどんどん開拓していくべきであり、KBフィルムを生み出したコーティング技術が弊社にとってカギを握る技術です」

 タッチパネル向けフィルム材料の世界では、今後、エンジニアニーズの増加が見込まれている。コーティング自体はまさに化学の分野で、化学や材料に関する素養が求められるところだが、実際に工業化する過程では案外多様なニーズがある。
「透明さが重要なタッチパネル向けシートのコーティングは、レベル100という高規格のクリーンルームで行いますが、クリーンルームを本当にクリーンに保つには、しっかりした管理技術者が必要です。また、弊社の製品は独特で、生産ラインの工程設計はすべて自前で行うのですが、その工学設計では機械や電気、工業化学などの経験が生かせます。コアスキルである有機化学、無機化学のエキスパートはもちろん大歓迎です」
 タッチパネルに使われる技術の中には、日本企業が強みを発揮できる特殊材料のジャンルに属するものがかなりある。きもとはその好例のひとつと言えるだろう。

下里桂司氏
取締役 技術本部長
下里桂司氏
革新的な化学製品を生み出すヒントは日常生活にあり
きもとの抵抗膜方式タッチパネルの構造図
きもとの抵抗膜方式タッチパネルの構造図(一例)
KBフィルムのサンプル
KBフィルムのサンプル
 3Hの鉛筆の硬度に耐え、スチールウールでも擦り傷が付かないというタッチパネル向け表面材料、KBフィルム。そのつくり方は、厚さ188ミクロンのPET樹脂フィルムの上に紫外線硬化樹脂を特殊コーティング装置にて硬化させ、前出のCHC層を生成するというもの。その層の厚さは、わずか5ミクロン程度にすぎないという。その薄さで高硬度を確保するための組成は企業秘密だ。
 また、CHCほどの強さは必要ないが、グレア(外部光の反射)を低減するマットHCという層を生成させた製品もある。
「材料の設計から製造工程、テストまで、開発過程ではいろいろと難しいことがありました。例えば、ゲーム機などでは子供がスタイラスペンでパネルをものすごい勢いでこすったりしますが、これには同じ部分をペンで10万回以上褶動させる機械的なテストをしています」
 KBフィルムの開発に携わった研究部研究第一グループの齋藤正登氏は、開発の様子をこう語る。

「コーティング技術は、材料を考えさえすれば上手くできるというものではないんですね。もちろん材料も、いろいろな性能の組み合わせを試すわけですが、それだけでなく材料のコーティングの仕方から固め方まで、とにかく実験の繰り返しです」
 例えば、均質に塗布するためには、液体のときに材料が対流したりしないような塗料の配合にする必要があり、コーティング装置もそれぞれに選ぶことになる。また、硬化の前の塗料が風に吹かれても、その塗面が乱れないようにレオロジー調整するなどにも気を配るという。特殊コーティング技術には「一般の工学グレードからちょっとかけ離れたところがある」のだそうだ。
 実際、KBフィルムは硬度や薄さといったスペック自体は非常に高いものだが、原料のPET層とCHC層は全く溶解せず、それぞれの層が明確に保たれて界面が保持される構造になっているなど、化学的にもハイレベルだ。
「異なる層を持つシートに熱が加わったとき、膨張率や収縮率の違いなどから層間が剥離したり変形したりするようではダメなんですね。膨張率や収縮率自体を変えることはできないですから、膨張・収縮しても大丈夫なようにつくるわけです。そこもまた企業秘密なのですが」

 一方で、カスタマーである部品メーカーやセットメーカーのニーズにどれだけ迅速に応えられるかも、ナンバーワン企業でいられるかどうかのカギとなる。
「日ごろから化学に関するイメージの引き出しをできるだけ多くつくり、いざというときに使えるよう準備しておくことが大事。そのイメージは机の上ばかりでなく、案外、日常生活の中にあったりするんですね」
 その最たるものが、齋藤氏が開発した防指紋タッチパネルだ。指紋が見えにくく、かつ拭き取りやすいコーティングなのだが、これまでの防指紋では白い跡が残っていた。齋藤氏は「これは防指紋とは呼べない」と感じて開発に取り組んだという。
「街の中で指紋が見えにくい素材を集めて共通点を探したり、何を食べたら指紋の成分がどう変わるかを調べたりと、とにかくトライを続けました。アイデアの源泉は日常生活にあって、それを明らかにするのは実験。これを日ごろから繰り返すことは、ユーザーからの要求に迅速に応えるためにとても大切なんです」
 化学の世界は、理系であっても専門外の人材には敷居が高く感じられるものだが、齋藤氏はこう語る。
「弊社が持っているような技術が好きだという場合、アレルギーを持たず、継続して勉強さえすれば、結構何とかなってしまうものですよ。化学の世界は面白いので、ぜひいろいろと知ってほしい」
齋藤正登氏
研究部 研究第一グループ
齋藤正登氏
多彩な機器に拡大するタッチパネルには、多様なエンジニアが必要
UIを変えるタッチパネルの動力源は「人は便利が好き」
 タッチパネルは、装備されていれば絶対的に便利なデバイス。ディスプレイ部とキーに分かれている携帯電話も、タッチパネルが本格普及すれば全面をディスプレイにし、必要に応じて情報表示とキーなどのUI表示をアクティブに変化させられるようになる。今日、アップルのiPhoneが世界でメガヒット商品となっているが、スマートフォンと携帯電話の区別がしだいになくなっていく可能性すらある。

 携帯端末やゲーム機ばかりでなく、PCにおいてもタッチパネルは有望なインターフェースとなり得る。これまでもタッチパネル型のディスプレイは存在したものの、高価、汚れやすいといった理由で普及しなかった。今後、価格低下や耐久性の向上が進めば、PCの世界でもタッチパネルが一般的になると考えられている。
 家電の操作系もしかりで、ボタン類を動的に表示することのメリットが大きい製品では今後、タッチパネル普及の余地が大きい。キーを主体とした現在のUIはそう遠くない将来、バーチャルキーボードのような新しいスタイルに変化していくだろう。
化学・材料系が中心だが、それ以外にもエンジニアニーズあり
 タッチパネルディスプレイ市場が拡大するにつれ、エンジニア需要が増加する可能性はきわめて高い。タッチパネルは小さな製品だが、関連する技術の幅は意外に広いのが特徴で、人材ニーズも多様だからだ。
 まずLCD関係では、液晶や高分子膜を開発する化学系の人材が必要とされるが、そればかりでなく加工における研磨、洗浄などの化学工学、生産工程を考えるプロセスエンジニアなどにもチャンスがある。

 LCDを制御する電気系は、機器に実装するマイクロデバイス系などについては、携帯電話や家庭用テレビの開発経験が生かせる。キーなどのUI情報をタッチパネルに素早く表示させたり、タッチ操作のやりやすさを改良したりといった部分では、組み込みソフトエンジニアなどにもチャンスがあるだろう。
 エンドユーザー向け商品の開発では、タッチパネルによるUIの改善がそのまま新製品開発の強化につながることもあり、コア技術だけでなくアイデアの豊富さも必要とされる。その点では商品企画系エンジニアも、この技術でできること、また将来できるようになるであろうことを知っておくことはとても有用である。
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