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シリコン半導体の限界を突破し、世界を制覇せよ!
10年先の要素技術に投資!東京エレクトロンの採用戦略
半導体メーカーの世界的再編を勝機と捉え、市場戦略を強める東京エレクトロングループ。中でも東京エレクトロンの次世代材料や構造を含めた要素技術研究への先行投資は目立つ。グループで総計150名にも及ぶ技術者中途採用と、その背景にあるビジネス戦略を探る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/関本陽介)作成日:10.03.31
コーポレート開発本部長 執行役員 保坂 重敏氏

応用物理学科卒後、自動車メーカーで小型車を開発。自らテストコースを走行し、耐久性や運動性能を実測した経験もある。実家のある山梨県への帰郷を機に、1985年東京エレクトロン入社。機械設計、ソフトウェア開発、半導体プロセス開発、システム開発など多様な技術とプロジェクト経験を経て、2004年より現職。

10年先の半導体デバイスを見越した事業化調査が始まる

 半導体デバイスの性能向上のためには、単なる微細化のみならず、革新的技術の導入が不可欠だ。最先端の科学的知見を活かしながら、トランジスタや配線を構成する材料、それらの材料の成膜・成長・加工などの技術を確立するための次世代研究が進む。日本でもそのための国家プロジェクトが動いているが、世界各国の半導体メーカー、製造装置メーカーもこの戦列に並ぶ。

 その1つが半導体製造装置で世界有数のシェアを誇る東京エレクトロンだ。
「現在のシリコン半導体の限界を突破するために、デバイスの材料や構造はこれから大きく変わらざるをえない。たとえば、カーボンナノチューブなどカーボン系材料や、ゲルマニウム、ガリウムヒ素などの化合物半導体の研究は重要だ。また構造で言えば、半導体を3次元に積み重ねて性能向上を図る3次元デバイスや、ReRAM(抵抗変化メモリ)、MRAM(磁気抵抗メモリ)などの新しいメモリ構造が出てくるので、我々も全方位的にさまざまな要素技術を蓄積しなければならない」
 というのは、東京エレクトロングループ全体に及ぶR&Dを指揮する、東京エレクトロン開発本部コーポレート開発担当の保坂重敏執行役員だ。

 同グループでは東京エレクトロンATなど事業寄りのグループ各社でも研究開発が進められているが、事業部サイドがつねに2〜3年先の実用化や技術の改良をめざすのに対して、コーポレート開発は、10年先の技術動向を見通した、フィージビリティスタディ(FS、事業化調査)を主な任務としている。
「カーボン系は、半導体デバイスとして使われるだけでなく、将来は太陽電池、二次電池などに使われるかもしれない。その基礎にあたる技術をきちんと自分たちのものにしておきたい」

 もう一つコーポレート開発の任務は、これまで東京エレクトロンが参入してこなかった新規分野に関するFSだ。保坂氏が挙げるのは、「LED照明、有機EL、プリンタブル・エレクトロニクスなど」だが、これ以外にも参入目標は数多くあるようだ。
「まずは我々が培ってきた技術に近いところから始める。いずれも10年後の世界にイノベーションを起こすような技術だ。そのために今、人を採用する」

世界トップの座を奪うため、今こそが投資の時期

 グループ全体としては技術者の中途採用予定人数は150人規模にのぼる。エレクトロニクス、IT企業等を含めた技術者の中途採用マーケットでは、近年まれにみる大量採用。今、なぜ東京エレクトロンは、大量採用に踏み切るのだろうか?
「半導体業界はこの数年、世界レベルでの厳しい淘汰が進んできたし、これからも進む。単に規模の優位性だけでは不十分。研究開発を続けない限り、トップグループで生き残ることはできないというのが我々の認識だ。積極的な研究開発投資により数年内に製品シェアで世界のトップに立つことが我々の目標。幸いにも当社には豊富な内部資金があり、いまそれを研究開発に大胆に投資すべき時期だと捉えている」

 淘汰の時期をチャンスとみなし、現在の高収益分野を順調に伸ばすと共に、10年後の“キャッシュカウ”(稼ぎ頭のビジネス)の芽にも積極的な投資を惜しまない、同社のバランスの取れたビジネス戦略が見えてくる。とはいえ、まだ誰も事業化に成功していない次世代技術への投資では、膨大なコスト負担とリスクは避けられない。
「基礎研究から事業化までのすべてを自社で行えばリターンは大きいがリスクも大きい。そのため、海外装置メーカーでは、大学やベンチャー企業に資金をばらまき、事業化の目鼻が立ったらそれを企業ごと買収するというM&A戦略を取るところもある。当社の研究開発スタイルは両者の良いところ取りだ。自社で基礎研究を進めると同時に、内外の大学・研究施設との共同研究を広く行う。どんな研究者と提携するかは重要で、まさに“目利き”としての能力が問われてくる」
 今東京エレクトロンのコーポレート開発部門が求めるのは、その“目利き”役としての人材だ。

ポスドク・助手層もターゲット。科学とビジネスを結合できる人材に期待

「企業側にいて、大学や研究所との共同開発をリードできる人材。現在、大学・研究機関に残っているポスドクや助手層なども採用対象になる。もちろんポスドクならどんな人でもいいというわけにはいかない。採用基準は、研究室にいながらもビジネス的視点を持っている人、我々のターゲット分野──LED、カーボン、量子化学などに近いところで研究をしている人。さらに、サイエンスに基づいた研究開発ができる人だ」
と、保坂氏は採用基準を述べる。これは、大学に限らず、現在半導体メーカーなどにいる研究者・技術者にも当てはまる条件だ。
「これまでの半導体研究は、さまざまな条件を組み合わせて手当たり次第につぶしていく、どちらかといえば“力仕事”だった。しかし、これではムダがあるし、時間もかかる。最適・最短の条件を論理的に考えなければならない。まさに頭を使う仕事だ。だからこそ、ポスドクの人も十分活躍できる余地がある」

 半導体における新規技術の探索・調査、その具体的な研究の他に、コーポレート開発では、基礎的なモジュール開発も行われる。めざすべき新規半導体を製造する装置全体にわたって、最適条件を煮詰める仕事だ。
「こちらは、半導体業界にいた経験が役に立つ。ただ、大学等の出身学部にはまったくこだわりがありません。基本的に、建築土木以外の工学部と理学部系はすべて対象。物理、化学の人はプロセス開発に向いているが、電気・電子系の人は電気設計で役に立ってもらえる。最近も醸造学科卒の人を採用したが、こうしたバイオ系の人材も、これからの有機デバイスなど有機材料関係の研究では必要です」

 まさに採用対象も全方位的。専門分野がフィットし、意欲さえあれば、異業種で働く技術者にも門戸は開かれている。保坂氏自身が、自動車メーカーで小型車開発を行っていたという異色の経歴をもつ。入社後はまったく畑違いのソフトウェア開発やプロセス開発にチャレンジし、それぞれの技術を自分のものにしてきた経験がある。
「重要なのは、“会社から言われるテーマを研究します”という受け身の姿勢ではなく、“私はこの研究をここでやりたい”という自己主張です。さらに、自分が発掘した研究シーズを、事業化までもっていく、その醍醐味を味わいたい人にとっては、当社の環境は最適だと思います」と、保坂氏は語る。

成功に報い、失敗を許す風土。事業化の醍醐味をここで味わう

 保坂氏によれば、東京エレクトロンは「営業力と技術力が共に高いレベルでバランスのとれた会社」だという。技術主導の会社は、たしかに研究開発者にとっては居心地がよいかもしれないが、その自由はときとして会社の存続を危機にさらすこともある。採算の合わない研究を続けたあまり事業が崩壊する会社の事例は少なくない。
「当社はもともと半導体商社からスタートしたということもあり、ビジネスの仕組みができている。そこから生まれた資金を研究開発に大きく投入していく。研究開発項目といえど完全な自由というわけではなく、事業部門とのすり合わせは必要だ。しかし、ひとたび事業化に成功すれば、研究規模もさらに大きくなる。ボーナスも完全に業績に連動している。努力次第で自分の仕事のサイズが大きくなる面白さがここにはある」

 実際に、要素研究が軌道に乗ると、そのままプロジェクトリーダーへ移行し、事業を推進する立場になる開発者も多い。最近も、新規事業を担う技術開発センターで、当初たった2人で始まった新規装置の研究が、30人規模のプロジェクトに成長した例もある。
 むろんこうした成功の裏には数知れない失敗もあったはずだ。
「当社のいいところは、成功に向けて研究開発者のモチベーションを促す風土がある一方で、失敗を恐れずチャレンジすることを非常に大切にするという文化があるところ。私もこれまで事業部門、コーポレート開発部門でたくさんの失敗をしてきた。損失額は百数十億円にのぼるかもしれない。自慢じゃないが、社内で最も数多く失敗した男かもしれない。それでもまだ会社に残っていられる」と、保坂氏はその失敗歴を笑いながら語る。

 優れた企業が共通にもつ、技術者の成功と失敗を共に認める風土がここにもあった。
 半導体メーカーの寡占化が進むなか、半導体製造装置業界をめぐるビジネス環境も大きく変わりつつある。極端にいえば、世界のトップスリーに入っていなければ、誰も生き残れない。そうした状況認識が、東京エレクトロンの人材戦略に拍車をかける。「世界トップをめざす」という日本企業の掛け声がこれほど自信に満ちているのは、久しぶりのような気がする。

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