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環境・エネルギー、スマートグリッド…大手メーカー復活の胎動 パナソニックとデンソーが狙う成長分野とエンジニア 環境・エネルギー、スマートグリッド…大手メーカー復活の胎動 パナソニックとデンソーが狙う成長分野とエンジニア
日本の景気が、少しずつだが回復を始めたようだ。大手メーカーの中でも、エンジニアの中途採用を行う企業が出てきており、採用復活の「胎動」が聞こえてきたように思われる。ただ、全体的に厳しい状態にあることもまた事実。各社は注力分野を絞っている。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/高橋正志 撮影/関本陽介、早川俊昭) 作成日:10.03.16
デンソーが「車とつながるスマートグリッド技術」の新領域強化
デンソー  世界的に話題を集める「スマートグリッド」はビッグビジネスへの発展が見込まれており、参入に意欲を見せる大手メーカーは数多い。しかし、家庭や地域での電力インフラにとどまらず、自動車との連携を明確に打ち出した企業は少ないはずだ。その1社がデンソーである。
自動車部品メーカーの強みを生かしてスマートグリッドに注力
金森淳一郎氏

株式会社デンソー
研究開発1部 特定開発室G
室長
金森淳一郎氏


 再生可能な電気エネルギーの利点を最大限に活かすためには、発電設備の高効率化や電気自動車(EV)、ヒートポンプなどの普及が重要だが、そうした単体での省エネに加えて、エネルギー、電力網、IT技術などを組み合わせた新しいインフラや社会システムの構築が課題になる。これが「スマートグリッド」と呼ばれるもの。先進国のみならず、今後は電力インフラ投資を本格的に進める途上国においても、大きな事業投資が見込まれる分野だ。

 スマートグリッドのビジネス適用領域については、エネルギー開発や発電所、電力網などサプライサイドからのアプローチと、一般需要家や、自動車、家電、住宅など需要サイドの利便性を向上させるという2つの領域があるが、デンソーは車載機器メーカーとして「車とつながるスマートグリッド技術」をテーマに掲げ、社内の技術シーズの再編成と人材の強化を図ろうとしている。
「今、自動車技術はリチウムイオン電池などの蓄電池技術の発展とともに、PHV(プラグインハイブリッド車)やEVの実用化のめどが立ってきました。しかし、せっかくの環境対応次世代車なのに、使われる電力が相変わらず化石燃料を燃やすものであったり、電送時に30%もロスをするような性質のものでは、社会全体として決してエネルギー効率が高まったといえないのです」


 こう語るのは、デンソー技術開発センター内に新設された「特定開発室G」の金森淳一郎室長。ちなみに「G」はグリッドの頭文字。スマートグリッドとPHV・EVの連携システムの開発、および事業企画を練る特任の部署だ。
「PHV・EVの普及のためにも、クリーンで安定的な電気を、必要な時に必要な場所で充電できる社会インフラの構築は必至です。同時に、車の側もせっかくの電気をムダに使わないために、エネルギー効率をもっと高める必要がある。ヒートポンプの技術を車に応用して、車のエアコンを制御することなどもこれからの課題のひとつです」

 デンソーは、こうしてスマートグリッドと連携したPHV・EVの車載器ビジネスをより拡大するとともに、電気エネルギーと熱エネルギーと情報通信の3つの技術分野を組み合わせた製品、サービス分野を新たに開発していこうとしている。世界の自動車メーカーとはもちろん、携帯電話や電力事業者との取引もあるデンソーならではのスタンスを生かし、独自のビジネスモデルを構築していく。
パワエレや電力機器の設計・制御技術に加えて企画マインド

「スマートグリッド側から見ると、PHV・EVは新たに加わる電力ユーザーであり、大型の蓄電機能をもったシステムです。交通・輸送システムを通信ネットワークで結合することで、地域内を走るEVの蓄電量がわかるようになれば、充電のタイミングを電力会社に余力がある時間帯に行えるようにスケジュール管理したり、あるいは、電力需要のピーク時には電気自動車の余った電力を集めて利用する、というようなことも可能になるでしょう」

 スマートグリッドは「電力版のインターネット」ともいわれ、小型・分散型のシステムがネットワークを組むことで、供給側と需要側が双方向で情報通信を行いながら、さまざまなサービスを生み出すことが期待される。
「電力消費量を表示したり、遠隔的に運転を制御する『家庭内エネルギー管理システム(HEMS)』や『スマートメーター』と呼ばれる通信機能を備えた電力メーターが導入されれば、事業所や家庭内のエアコン、照明、セキュリティ機器などの制御までを、走行中の自動車から管理できるようになるかもしれません。PHV・EVの時代には従来のガソリンスタンドは、充電やバッテリー交換を行う充電ステーションに変わるはず。充電時に車の走行距離をリアルタイムに把握したディーラーから、タイヤ交換のメッセージを車に送るなどの使い方も想定できます」


 こうした近未来産業の創出に当たっては、PHV・EVの専門領域で、例えばパワーエレクトロニクスや熱機器、電力機器の設計・制御技術を持ち、それらをシステム製品として開発できる専門エンジニアが必要だ。同時に「それらを新しい事業として企画できるマインド」(金森氏)も重要となる。
「これまでのデンソーは、要素技術を製品化するに当たって、出口は車がメインでした。しかしこれからはその先、スマートグリッドという広い領域を対象にしていく必要があります。つまり車をいかに外に世界につないでいくかという視点が欠かせない。エネルギー業界、通信業界、交通業界、住宅業界などさまざまなコミュニケーションが取れることと、ユーザーの立場で商品、サービスを考えていける人が求められています」
 スマートグリッドは欧米でも、国を挙げての研究開発と事業化が進む。日本版スマートグリッドをアジアに展開していくことは、日本政府の期待でもある。競争はいきなりグローバルに展開されるわけだ。
「スマートグリッド関連のエンジニアは、海外での実証プロジェクトに参加する機会も増えると思います。世界の環境ビジネスの構造変化を肌身で感じ、それをこれからの糧にしていけるチャンスだと思います」

小沢徹也氏
スマートグリッドにおける“注力分野”と“エンジニアニーズ”
「車とつながるスマートグリッド技術」をテーマに新領域を強化。
採用する主たる職種は、パワエレ、熱・電力制御、情報通信の専門技術。
事業企画のマインドが不可欠で、他業界での経験が生かせる。
創業100周年、パナソニックは2018年に世界No.1の「環境革新企業」を目指す
パナソニック  創業100周年を迎える8年後の2018年に、エレクトロニクス業界での世界ナンバーワンを目指すパナソニック。「環境革新企業」となるべく同社が注力するのは「環境・エネルギー分野」である。これまで培ってきた家電全般の高い技術力で、新領域にチャレンジする。
グループ全体で取り組む「環境・エネルギー分野」への情熱
蔭山陽洋氏

パナソニック株式会社
キャリアリクルーティング室
室長
蔭山陽洋氏


 世界同時不況の波から次第に業績を持ち直してきた日本の大手メーカー。ただ、ほとんどの企業ではいまだに厳しい経営状態にあり、製造業全般で「本格復活」と呼べる状況ではない。それは技術職の中途採用が低調であることに、如実に現れている。
 しかし、メーカー復活への胎動は表面化しつつあり、企業間での動きの差も顕著になってきた。決して数は多くないが、成長戦略を具体的に描き、特定の分野にリソースを投入する企業が増え始めたのだ。これまで以上に自社の専門領域に特化する企業もあれば、培ってきた技術力から新しい事業領域に乗り出す企業もある。後者の好例がパナソニックだ。創業以来の「家電」の技術で、「環境・エネルギー分野」に挑んでいる。

「これまでのように全分野でエンジニアを採用しようとは考えていませんが、これから成長が見込まれる重点分野には積極的にリソースを投入していきたいと考えています。それが『環境・エネルギー』なのです。各部署からエンジニアの増員を求める要望が上がってきていますが、この分野は2009年度の約3倍以上の人数となっています」
 キーワードは「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」。「省エネ」はエネルギーを効率よく使う技術でパナソニックのお家芸と言えるが、それ以外にも「創エネ」では太陽光発電や燃料電池のようにエネルギーを創り出す技術、「蓄エネ」ではリチウムイオン電池のようにエネルギーを蓄える技術がある。これら3つの技術を組み合わせて「エナジーソリューション」としてお客様に提供していくのがパナソニックの目指す方向性だ。その代表例となるのが「家・ビルまるごと『CO2±0(ゼロ)』のくらし」だ。

 「家まるごと」では東京の有明に「エコアイディアハウス」というモデルハウスがある。パナソニックグループ全体での取り組みを結集したものだが、新戦力となる三洋電機は太陽電池や二次電池に高い技術力を持つため、今後のグループ全体の総合力は格段に向上する。特にリチウムイオン電池はパナソニックと三洋電機を合わせて世界シェアが約35%となり、ダントツNo.1となる。家庭用の二次電池などとともに、電気自動車用バッテリーの開発も本格化しそうだ。

「電気自動車の課題のひとつとして連続走行距離があります。例えば、ヒーターを使うと電気が大量に使われてしまうため、特に冬場の走行距離は短くなります。これに対して当社が持つ環境対応技術を自動車にいかに展開していくかが鍵になります。具体的には『EV用電池の高性能・低価格化』『ヒートポンプ技術を使った冷暖房の省電力化』などの取り組みが柱になります」
パワエレと熱流体解析を中心に異業種転職も歓迎

 このような環境・エネルギー分野にはどのようなエンジニアが求められるのか。ひとつは、パワーエレクトロニクス分野における電源設計や回路設計などの分野。もうひとつは、上記のヒートポンプを開発するような熱流体解析や蓄熱、制御システムなどの分野だ。全般的には電気、機械・メカトロ系の職種が多くなるという。

「以前であれば、電機メーカーを中心とした同業他社からの転職者も多かったのですが、こうしたエンジニアは特定の業種というより幅広く多くの業界でご活躍されており、本年度ご入社いただいた方の出身企業も、これまで採用実績がないところが目立ちます。また、企業規模も大手から中堅、ベンチャーまでさまざまです」
 例えば、これまでは家電製品ということで弱電技術者が中心だが、これから強化する「環境・エネルギー分野」では強電技術者が求められる。具体的には強電を扱う重工業、大型機械設備などのエンジニアもターゲットになるが、まさに異業種転職者が中心となる。これはパナソニックが新しい事業領域に挑戦することの証明でもあり、だからこそ社内になかった技術力を欲しているわけだ。


「もちろん社内での育成も行いますが、それだけでは事業のスピードに追いつかず、積極的な成長戦略が描けなくなってしまいます。異業種・異業界からの転職者は大歓迎です。当社の強みである生活に密着した技術力とグループ各社を併せた総合力は、環境・エネルギー分野に高いポテンシャルがあると自負しています」
 現在はグループ全体でのシナジー効果の高め方を考案中とのこと。そして、創業100周年を迎える2018年までの8年間は、新しいパナソニックが誕生するとてもワクワクする8年でもあるという。

「これから始まるグリーン革命の時代に、パナソニックが環境革新企業として社会に貢献できることはたくさんあると確信しています。私たちといっしょに世界bPを目指しませんか」
蔭山陽洋氏
環境・エネルギー分野における“注力分野”と“エンジニアニーズ”
「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」で環境・エネルギー分野に挑む。
採用する主たる職種はパワーエレクトロニクス系と熱流体系。
出身業界を問わず、異業種からの転職エンジニアを歓迎。
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