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リチウムイオン電池が熱い!業界で働くことは可能か?
ハイブリッド車や電気自動車の動力源、太陽光や風力発電の蓄電器、家電製品のバッテリー……今ほどリチウムイオン電池が注目され、世界総出の開発が激化している時代はない。この専門性も技術レベルも極めて高い業界に、異業種から参入することができるのだろうか。
(取材・文・撮影/総研スタッフ 高橋マサシ)作成日:10.01.27
日立ビークルエナジー 工場新設!次世代・次々世代のHV用電池を開発中
 車載用リチウムイオン電池を世界で初めて開発・量産したことで知られる日立グループ。2000年に第1世代、2004年に月間4万セル(電池)の第2世代、2009年10月には月間30万セルの第3世代量産ラインを立ち上げ、その勢いは止まらない。同グループの期待を背負うのは、専業メーカーである日立ビークルエナジー株式会社だ。
今年はGMのハイブリッド車用二次電池の量産がスタート
 日立ビークルエナジーはこれまで主に、バスやトラックなどハイブリッド商用車向けリチウムイオン電池(Li-ion電池)を開発・販売してきた。それには「データを取る」という意図があったからだ。エンドユーザー向けの乗用車はある意味で売りっぱなしになるが、業務用の商用車であればメンテナンスなど納入後のサポートが必要になる。こうして地道に蓄積してきたデータが技術力と安全性を高め、昨年は今年から10万台以上生産すると言われる、米GMのハイブリッド乗用車向け二次電池を大量受注した。
「GMに納入するLi-ion電池は第3世代ですが、今後量産を目指す第4世代も開発を終え、現在は第5世代やその次の世代の材料を開発しています。正極、負極、電解質、セパレーターなどの素材です」
セルを並べて積んだ車載用パッケージ(上部の窓は展示用)
 こう語るのは、設計開発本部電池開発部の堀さん。2007年に同社に入社したが、以前は外資系材料メーカーでニッケル水素電池やLi-ion電池用の材料を開発。大型Li-ion電池を総合力のある会社で開発したいと同社に転職した。車載用Li-ion電池だとおおよそ開発に3年、システム、製品、車載の評価に2年と、製品化まで約5年が掛かると言うが、彼は川上の材料開発に携わっている。

堀浩文さん
大学院で高分子化学を専攻。
大手系列のソフト開発会社、
外資系材料メーカーを経て、
2007年に日立製作所に入社。
同年、日立ビークルエナジーに異動。
 Li-ion電池の材料では正極にコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムなどのリチウム金属酸化物、負極にはグラファイトなどのカーボンが多く使われてきたが、原材料の候補は非常に多様であり、どの材料でどう製造しているかは各社の秘中の秘となっている。
「どんなに優れた電極材料を正極や負極に使っても、組み合わせると思った効果が出ないことがとても多いのです。逆に言えば材料を使いこなしてマッチさせることが電池エンジニアの醍醐味。目標値は高く置くので、それに向けた方策を考え、ターゲットに手が届きそうな材料を集めて、組み合わせを何度も試していきます。いかによい『筋』を見つけるかがポイントです」
 一方、製品化までのマネジメント業務を行っているのが設計開発本部電池第一設計部の小河内さんだ。第3世代Li-ion電池も、彼女が所属するプロジェクトの努力により量産化がスタートする。
「以前は電池の特性把握などを担当していましたが、現在ではプロジェクト全体の進捗管理や部署間の調整をしており、自動車メーカーさんやサプライヤーさんとの折衝も多々あります。プロジェクトの節目ごとにモノづくりが一歩ずつ進む。それを肌で感じ取れるのがとても楽しいです。技術屋よりもこの仕事のほうが合っているかも(笑)」
電池をつくるのは「人」。異業界からでも活躍の場はある
 Li-ion電池開発では化学や材料の知識が大前提だ。では、電気・電子、機械・メカトロといった畑違いのハード系エンジニアに、参入する機会はないのだろうか。堀さんはそうではないと語る。
「Li-ion電池はハイテク製品と思われがちですが、現場では塗る、乾かす、巻き取る、切るといった基礎技術がベースになっています。例えば『混練』と呼びますが、原料を混ぜ合わせる技術者などがいなければ成り立たない業界なのです。業務内容にもよりますが、基礎的な電池の知識があれば済む職種もあります。実際に弊社でもさまざまな技術職種を募集しています」

 加えて、材料開発だけが電池の開発ではない。例えば車載用のパッケージ(写真)なら筐体、内部に並べたセルを制御するコントロールユニット、セルで構成されるが、筐体の設計やコントロールユニットの電気制御は必要となるし、セルには材料開発、セル本体の構造設計、電極のデザイン、材料を塗布するためのプロセス開発、評価や検査といった幅広い職種に分かれる。小河内さんはこう語る。
「ハードルは低くはないと思いますが、特化した強みを持つエンジニアなら異業種からでも入れると思います。例えば自動車の制御系エンジニアなら電池の制御、家電の機械設計エンジニアならセルやパッケージの設計などです。逆に材料の知識があれば十分というわけではなく、扱う機械や設備の知識、人との交渉力も大切です。量産することの難しさをこの業界に入って知りました」

 各分野の仕事は関連部署の仕事と少しずつ重なっている。そのため、自分の仕事だけすればよいのではなく、関係する部署やメンバーの業務を理解することが求められてくるという。小河内さんは「仕事がうまくいっているときは、周囲の人たちとうまくコミュニケーションが取れているとき」と語る。
「電池もそうですが化学は料理みたいなもので、同じ材料でも人により違ったものができます。新しい技術や知識を学びながら、私は世の中に合った電池をつくっていきたいです」(小河内さん)
小河内裕子さん
大学院で無機化学を専攻。
2001年に日立製作所に入社、
自動車用触媒の研究・開発に携わる。
2005年に日立ビークルエナジーに異動。
「大げさに言えば電池技術は次の産業革命だと思っています。今後どうなっていくかを見届けたいですし、世界が驚くような電池を開発したいです。Li-ionに続く次世代電池も理論的にはあり得るのですが、『いい筋』を見つけるのは難しいですね(笑)」(堀さん)
敷地内にLi-ion電池の生産工場のある日立東海事業所 右から第2世代(出力密度2600W/kg)、GMに納入する第3世代(出力密度3000W/kg)、サンプル出荷中の第4世代(出力密度4500W/kg)のLi-ion電池
エナックス 多様な用途に対応する日本発ベンチャーが台風の目に
 1991年に世界で初めてリチウムイオン電池を商品化したソニー。そのときの担当部長だった小澤和典氏が起こしたベンチャーがエナックス株式会社だ。電動アシスト自転車、スターター用バッテリー、電動車いす、電子カルテ用充電器などの幅広い用途を提案する一方、国内外の大手メーカーへのOEM供給でも多くの実績がある。
世界各国から問い合わせが相次ぐ「シート型のセル」
 Li-ion電池のセルには正極、セパレーター、負極を挟んで巻いた円筒形が多いが、エナックスのものはそれぞれをシート状にして何層にも積み重ねたLSB(Laminated Sheet Battery)である。こうすることで放熱効果が高くなり、安全性が向上し、高出力にもなるという。また、1996年設立のベンチャー企業であっても、材料の調達から製品化までを一貫して行っていることも特徴だ。生産拠点は主に中国で、天津に電池のアセンブリ工場、山東省の安丘に電極の製造工場がある。
 同社では自社開発したLSBやLSBを内蔵したバッテリーを、顧客の細かな要望に合わせて販売している。一方では、大手メーカーへのOEM供給や技術提供も数多く、村田製作所、日産自動車、日野自動車、北陸電力……ドイツの大手自動車部品メーカーであるコンチネンタルからは出資も受けており、知名度は海外のほうが高いかもしれない。中堅企業や研究機関との協業もあり、小型電気自動車を独自開発するなど、その技術力は各所から高い評価を得ている。

 コンチネンタル社をはじめ、主に欧州企業との折衝を担当する海外営業部の小澤さんは次のように語る。
「大量生産用にスペックが標準化されるOEMより、かなりのカスタマイズを求められる少量多品種の自社製品のほうが、事業規模としては大きいです。お客様のご要望で正極や負極などの材料、電池のサイズ、充放電時間などを変えます。例を挙げると、電動アシスト自転車用、展示会や博覧会のロボット用、長時間の使用が求められる電子カルテ用などです」
 最近では、自動車のスターター用バッテリーも提案している。通常は鉛電池だが、これをLi-ion電池に置き換えることで約15kgから2kgへと軽量化が進み、燃費効率や長寿命などが期待できる。レース用自動車には既に採用されており、特に欧州で広がっているという。
 また、LSBにはEVや蓄電装置などの使われる大容量の「エネルギータイプ」と、高出力で充放電の時間が短い「ハイパワータイプ」があるが、現在は極端なハイパワータイプを開発中とのこと。3分ほどで充電ができるので携帯電話の急速充電装置や、容量を上げれば電動アシスト自転車にも活用できるという。
LSBエネルギータイプのラージサイズ LSBエネルギータイプのシングルサイズ、とそれを重ねて内蔵したバッテリー、手前は開発中のハイパワータイプ
必要なのは「好奇心」。多くの職種でエンジニアが活躍中
 エナックスの社員は約70人でそのうちエンジニアは50人ほど。本社は東京だが米沢に電池生産も行う研究所があり、八戸工場では生産設備や製造装置の開発と生産、埼玉の技術センターでは電池に乗せる場合の回路設計を行っている。電池開発エンジニアは多いものの、機械系や電気系のエンジニアも幅広くおり、一貫したLi-ion電池開発の様子がわかる。小澤さんも以前は材料開発や、路面電車をLi-ion電池で走行させるプロジェクトなどに携わっていたエンジニアだ。
「電池開発には広範囲にわたる豊富な知識が必要ですし、弊社は小さな会社ですからその傾向が強いです。逆に学校でまとめて学べるものではないですから、仕事の中で覚えていくしかありません。大学で電池を勉強した人であっても、工場の生産設備や生産技術を実地で学ぶことになります。乱暴な言い方をすれば、高校卒業者でも優秀な電池開発者になれる可能性はあります」

 簡単なことではないが、「専門職」へのこだわりがなく、「下積み」を厭わずに、「好奇心」を持って幅広い知識が吸収できればということだ。それに高校卒業レベルの学力とは決して低くはない。もちろん、機械設計者がいきなり電解液の開発職に転身するなどは非常に難しい。しかし、別業界で機械や回路の設計をしていたエンジニアが、電池の現場で同様の仕事に就くことは十分に可能とのことだ。
「Li-ion電池が普及して性能も上がるにつれて、『こんなことができたらいいな』が実現できているのだと思います。例えば弊社で試作した電動6輪車いすです。従来は鉛電池で100kgくらいあった車いすがLi-ion電池で軽量化でき、フレームの強度が低くなることで素材をアルミに変えた結果、ひとりで持ち上げられる重量になりました。車いすとしての性能が変わってくるのです。こうしたことが実現できるのもエンジニアの喜びだと思います」
 生産技術においては、ベンチャーよりも長年のノウハウを培ってきた大手メーカーが強い。同社では将来、日本でも欧州でも最終製品の生産工場を建設したいという。
小澤浩典さん
大学院修了後にエナックスに入社。材料開発などに携わるが、現在は欧州の自動車、自転車、蓄電装置などのメーカーとの折衝を担当している。
エナックスのLi-ion電池を積んだ電動アシスト自転車 中央が自動車のスターター用バッテリー、両脇が電子カルテやノートPC用バッテリー
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
ユーザーとして思うのですが、毎日充電しなければいけない携帯電話や、160qしか走れない電気自動車って、やっぱり不満なのです。逆に言えば、この不満を埋める電池が今後の課題ということ。まだまだ成長の余地があるリチウムイオン電池に大注目です。

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