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発見!日本を刺激する成長業界7 Androidに集まる技術がAndroidを変える
携帯電話、情報家電からカーナビまで、さまざまな情報端末に組み込まれる組み込みOS。これまでクローズドを基本としてきたその業界に、無償・オープンソースで殴り込みをかけたGoogleのAndroid。果たして今後、どこまで勢力を拡大できるのか。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:10.01.04
家電・情報機器との連携でシェア大幅拡大が予測
 2008年にGoogleが無償提供を表明した、Linuxベースの次世代携帯端末向けOS(プラットフォーム)、「Android」。同年秋に第1号の搭載端末が発売されてから1年あまりが経過した今日、当面の主戦場と考えられるスマートフォンでのシェアはまだまだゼロに近い。が、マーケティング調査会社のH.I.ビジネスパートナーズは、10年以降Androidは年率換算で100%以上の伸びを示し、12年にはiPhoneを抜いて、BlackBerry向けRIM OSに並ぶ2位グループに浮上すると予測。また、別のシンクタンクによれば、携帯電話全体では既にWindows Mobileを抜き去り、Symbian 、iPhoneに続く3位への浮上が秒読みだという。
 このAndroid、実は携帯端末だけでなく、デジタル家電やカーナビに採用されるのではないかという予想が、デバイス開発の現場から出始めている。そうなれば、OSチューニング、ミドルウェアやアプリケーションなど、さまざまな分野で開発業務が急増するはずだ。
OS別グローバルスマートフォン市場規模推移
ユビキタス Androidが1秒で起動!OSの常識を覆す「Quick Boot」
 高機能化が果てしなく進む携帯電話。その起動時間は、電源を入れればすぐに使えるシンプルな携帯の時代と比べても格段に長くなっている。その高機能をスポイルしないまま、前世代の携帯をも超える「1秒起動」を実現させたAndroid向け技術が誕生した。
必要なモノから順番立ち上げで、待ち時間を限界まで削減
Quick Bootとハイバネーション方式の動作原理の差
Quick Bootとハイバネーション方式の動作原理の差
 ITベンチャーの株式会社ユビキタスが試作した幅10cm少々という小型の携帯端末。OSはGoogleが提供しているAndroidだ。DCソケットが抜かれ、完全OFF状態にあるその機器にプラグを接続すると、次の瞬間にはもうノートパソコンのような美しいGUIが起動している。重いOSが組み込まれた電子機器の起動の常識を、根本から覆すような高速ブートぶりである。
「現時点での起動時間はおよそ1秒。将来はさらにその半分の0.5秒くらいまで詰められるかなと思っています。スリープではなく、電源OFFからでも待たずに機器を使えるというレベルに、とりあえず到達できたと自負しています」
 Androidの起動を高速化させるプログラム「Ubiquitous Quick Boot(クイックブート)」の構想を、ほぼ一人で練り上げたという開発部長の橋本健一氏は語る。
 モバイル端末のクイック起動と聞いてまず連想されるのは、終了時の物理メモリ領域の内容をHDDなどのストレージに保存しておき、起動時に動作イメージを展開するハイバネーションだろう。だが、いくら高速展開が可能とはいっても、1秒で起動させるのは既存のハイバネーションでは到底無理だ。

 Quick Bootは、通常のハイバネーションにある工夫を施すことで1秒起動を可能にしている。その工夫とは、電子機器を立ち上げるときに機能をどういう順番で立ち上げていくかという、スケジュールの概念を取り入れることだった。
 電源を投入して、すべての動作イメージを展開するのでは時間がかかる。そこで、ユーザーが機器をONにした後、まずは起動に必要なイメージを展開する。Androidの動作イメージはおおむね110MBだが、そのうち起動に必要なのは10MB程度。それさえ展開すれば、ユーザーは最初の操作が可能になるというわけである。
 この原理、言うは易し行うは難しである。一括してメモリのショットを回復させる方法と異なり、何をどう立ち上げればいいかをショットの状態によらず動的に判断しなければならないからだ。
「同じような発想で高速化を試みたのではないかと思うような痕跡を、展示会などいろいろなところで見かけました。それがなぜ、私だけが成功にこぎ着けることができたか。理由として考えつくのは、私がハードとソフトの両方を知っていたということです。もともとFPGAなどハードウェア開発出身で、バス、メモリ、ハードウェアシーケンスからアプリまで、ハードをソフトでどう制御すればよいかを、総合的にイメージできたことが大きかった」
橋本健一氏
開発部長
橋本健一氏
組み込み系の性能向上には、ハードとソフト両方の知識が大切
ユビキタスが試作した携帯端末
ユビキタスが試作した携帯端末
プラグを接続するとQuick Bootで瞬時に起動
プラグを接続するとQuick Bootで瞬時に起動
 橋本氏がコンピュータをいじり始めたのは高校のころ。ちょうどZ80などのマイコンブーム全盛の時代だった。当時のマイコンは自分でプログラムを書かないとピクリとも動かない。ハードとソフトの区分けがなく、両方を知っていて当然という時代だった。そのころから培われた感覚が、32bitOSであるAndroidを1秒で立ち上げるアイデアをひねり出すのに、とても役立ったという。

 これまで10秒以上かかっていたAndroidが1秒で起動すれば、Androidには本来のターゲットである、携帯端末以外の分野への導入という可能性も出てくる。デジタルテレビ、Blu-rayレコーダー、ハイテク調理器、カーナビなどである。取締役で最高財務責任者の家朋之氏は、そうした用途開拓に期待感をにじませる。
「デジタル家電は起動に意外に時間がかかるものですが、AndroidとQuick Bootを組み合わせれば、即起動させることができます。ウェイクアップの方法次第では、今日問題になっている待機電力をほぼゼロにすることも可能です。AndroidのGUIはかなりしっかりしたものなので、液晶パネル表示の設計も問題ありません。家電にAndroidとQuick Bootが使われれば、需要が飛躍的に増える可能性もあります」

 まだ生まれたてのOSであるAndroid。その起動を限りなく高速化させるQuick Bootは、組み込み用途を大きく多様化させる、日本発のキラーコンテンツとなる資質がある。
「ユーザーの不満があるところに、技術革新のタネがあると思う。これだけ物事が高度化している世の中で、いまだに解決されないまま残っている問題は、相当な難問なんです。その難問を解決することは、もうそれ自体がイノベーションだと思う。Androidのような新しい技術分野には、そういうタネがいっぱい残っているから楽しい」(橋本氏)

 Androidはまだ始まったばかりの技術だが、既に多くの開発者がこの市場に熱い視線を投げかけている。Linuxベースのオープンソースというだけでも魅力的だが、世界の携帯端末メーカーがスマートフォンなどAndroid搭載端末の開発に続々と参入しており、市場拡大への期待も高まるばかりだ。Androidの提供元であるGoogle自身が、携帯端末を開発中なのだ。
 腕に覚えのあるエンジニアにとっては、まさにアーキテクチャをつくる楽しみにあふれた分野であることを、ユビキタスの事例は示している。
家朋之氏
取締役 最高財務責任者
家朋之氏
Android関連の開発は、敷居が低い今からチャレンジしよう!
無料OSが生み出す膨大なミドル〜アプリケーション市場
 Androidの開発ニーズは多様だ。無料のOSであり、コスト競争の厳しい携帯端末の世界ではシェア拡大は必至。それに伴い、機器に合わせたチューニングのニーズが急増するものと予想されている。汎用性を売りにしていたJavaアプリも、機種の仕様がまちまちであった初期においては動かなかったりフリーズしたりといった不具合が多発し、ハード、ソフト双方で対応に迫られたことがあった。OSの場合、さらに緻密な機種別チューニングが必要とされるため、開発需要は上がるだろう。
 ユビキタスの高速起動ツールのような『発明級』のプログラム開発は簡単でないが、例えば携帯電話をスリープではなく電源OFFの状態からでもウェイクアップさせる、カーナビの電源供給が突然止まっても再起動を高速で行うといった、Androidの新たな用途開発に直結する技術を生み出せば、そのまま事業化が可能。そのこともあって、水面下でさまざまなアイデアを駆使したプログラム開発が行われているようだ。

 エンドユーザー向けアプリケーション市場では、商用アプリやシェアウェアの割合はまだ低く、フリーウェアが中心。しかし、Android携帯が普及するにつれ、高品位のビジネスソフトの需要は急速に高まるとみられており、ビジネスチャンスは大いにある。ゲームアプリは今のところ、シェアウェアの配信が既に始まっている米国でも低調。見方を変えれば、この分野も今後の伸びどころになる公算は大いにある。
幅広い技術知識と新しい発想を持ったエンジニアにチャンス
 さて、このAndroid端末やソフトウェアの開発には、どのような人材が求められているのだろうか。エンドユーザー向けのアプリケーション開発は、PCや携帯電話のアプリ開発経験者であれば、スキル的には問題ない。Googleは無料で開発キットの「Android SDK」を配布しており、とりあえずOS上で走るプログラムを開発することは難しいことではない。商用アプリのプロマネなどをやり、有償ソフトの品質管理の基本を知っているエンジニアにとっては、ライバルが少ない今はチャンスと言える。
 OSチューニングでは、Linuxをカーネルレベルで理解しているエンジニアの引き合いが増すだろう。特にAndroid以前の組み込みLinuxの実務経験者は、OSそのもののカスタマイズや機能強化のためのミドルウェア開発も含め、キャリアアップのための転職機会も増えるはずだ。

 求められるスキルはLinuxのほか、OS開発、ハードウェアへの実装など上流ではC++、アプリケーションやランタイムの開発ではJava関連がメインとなる。前者の場合、ソフトウェア制御だけでなく、通信やFPGA周りなど、ハード全般についてなるべく幅広く知っていることが望ましく、勉強を進めておくといい。
 また、現時点ではAndroid開発は携帯電話に集中しているが、今後はi.MXプロセッサを使ったカーナビや、デジタル家電などに拡大採用される可能性も高いため、他分野の製品の仕様、設計などの情報に触れる機会を増やしておきたいところだ。
「Androidはプラットフォームとしてまだ未成熟だと思います。今後の数年を掛けて拡大を続ける、これからの分野ではないでしょうか」(橋本氏)
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
「起動時間なんて少し遅くても構わないよ」とおっしゃる方、ぜひ体感してみてください。このスピード感は素晴らしい。スイッチを入れてすぐに動き出さないのはPCと携帯電話くらいなものですし、特に日本人は「待ち時間」に敏感な国民。ここに目をつけたユビキタスさんの着眼点に脱帽です。

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