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CO2の発生を抑えた電気自動車やハイブリッドカー。これらの普及で、電気がクルマを制御する流れはますます強まる。この機をとらえ、環境自動車領域の技術開発を急ぐパナソニック。その最先端にいる2人のエンジニアに、彼らが担うエコカーの未来を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.03.17
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環境や新エネルギー分野に集中投資し、需要回復と雇用拡大をめざす──。日本企業の環境シフトが鮮明になってきた。パナソニックもまた、年初の経営方針発表会で、リチウムイオン電池や太陽電池、エコカーなどエナジーシステム事業に積極投資する戦略を示した。そこで注目されるのが、車載機器を担当するオートモーティブシステムズ社(以下、オートモーティブ社)の動きだ。
2008年11月から事業開発センターの中に横断事業開発グループを設置し、グループ内に蓄積された環境対応技術をクルマに活かす仕組みづくりに着手している。 今回はこの横断事業開発グループの主任技師2人に登場してもらい、クルマの未来を創るうえで、パナソニックの技術は何が貢献できるのか、そのためにはいまどんな課題があり、どんな技術者が求められているのかなどを、語り合ってもらった。
2004年大学院修了。同年4月、松下電器(当時)入社、オートモーティブシステムズ社配属。カーナビのロケーション──自車位置を検出するアルゴリズムの開発に従事。これがPND「ストラーダポケット」の商品開発につながる。2008年11月に現部署に異動。自動車の制動時に捨てていたエネルギーを、電気エネルギーとして回収し使用する「回生システム」の制御設計を担当。30歳。
2001年大学院修了。産業機器・計測器メーカーで、産業機器のハードウェア設計に従事。2005年10月松下電器(当時)にキャリア入社。純正向けカーナビ電源システム、SDメモリナビのプラットフォームの設計などに携わる。DVDからSDメモリナビへの移行では、PND(ポータブル・ナビゲーション・デバイス)サイズから2DIN(幅178mm×高さ100mm)までの幅広い領域をカバーするプラットフォームの要素開発リーダーを担当した。
2009年12月から現部署に異動。EV、PHVの充電システム開発を担当。33歳。
朝岡 | 会社も環境シフトを鮮明にしてきて、僕らオートモーティブ社の仕事も忙しくなってきました。電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHV)にかかわる要素技術の開発や、それをシステムとして高める技術というのが、これから重要になってきます。 |
佐藤 | これまでオートモーティブ社は、エンジン・コントロール・ユニット(ECU)のような、エンジンを制御して燃費向上につなげる技術を長年にわたって開発してきた。そういう意味ではクルマの環境技術への取り組みも長い。今後、クルマ全体が電動化されるようになると、エレクトロニクスの果たす役割が更に重要なものになるよね。 |
朝岡 | パナソニック全体としてみれば、家電はもちろん電気だし、クルマも電気で動くようになれば、それらをひとくくりにして電気という観点で関わっていける。そういう強みがありますよね。 |
佐藤 | そうそう。クルマに占めるエレクトロニクスの領域が一気に広がるという感じ。パナソニックは家電(ホーム)とクルマをつないで、充電したり、通信したりしながら、全体としてエネルギーの効率化を進めるための新しい提案ができる位置にいる。それを通して、低炭素社会実現に貢献できるし、新しいビジネス領域も広がる。これからすごく面白くなりそうだね。 |
朝岡 | でも、ホームの技術をクルマへ、と一口にいってもそう簡単じゃないことは確かですよね。 |
佐藤 | ルームエアコンのインバータやヒートポンプ、それらのベースにあるパワーエレクトロニクス技術などを、そのままクルマに応用しようといっても、いろいろ制限がある。 |
朝岡 | クルマは熱、振動、風雨にさらされるなどの悪条件がありますからね。でも、僕らは長年にわたる電装品の開発で培った独自の「車載」技術というものを持っています。 |
佐藤 | そう。だから、オートモーティブ社にある車載技術と、パナソニックグループの他ドメインにある省エネ・環境技術を融合させることが大切なんです。そのためにできたのが、僕たちが所属している「横断事業開発グループ」というわけです。 |
朝岡 | そのミッションを改めて確認しておきましょうか。 |
佐藤 |
家電と自動車の技術が融合すれば、面白い提案ができるわけだけれど、その接点はいろいろある。どこに着目して、どういう提案をすれば、事業としてうまくいくのか。そのビジネスモデルづくりが、まず第一のミッション。 |
朝岡 | そしてもう一つのミッションが、僕らがこれまで保有してきた、エンジンECU、ETC、カーナビなど車載機器の技術を核に、新規システム事業としてさらに高度化させることですね。 |
佐藤 | これら2つのミッションを抱えながら、メンバーがそれぞれ独自の技術テーマを深めていくというのが、グループの特徴。僕たちのチームはエネルギーを最適化し、無駄なく効率よく使うための「電源マネジメントシステム」を担当している。 |
朝岡 | その中でも僕は、回生システムが担当です。具体的には、ブレーキの際に捨てていたエネルギーを回収して、車内の電気機器を動かす電力として使う仕組みのことですけど、そのエネルギーをどのようにクルマの中に取り込み、どのように使うかのか、その制御設計が僕の専門テーマです。 |
佐藤 | 朝岡さんはソフトウェア系だからね。僕はもともとハード屋なんで、この部署に来てから、EV、PHVの充電システムを担当している。 |
朝岡 | 佐藤さんはパワエレの経験がありますよね? |
佐藤 | FA(ファクトリー・オートメーション)システムを構成する産業機器の開発をやっていたので、共通要素もたくさんある。ただ、産業機器のパワエレと、車載パワエレとでは条件が全然違うから、同じ考え方ではうまくいかない。 |
朝岡 | どの辺が難しいのですか。 |
佐藤 |
まず車載では熱と振動条件が格段に厳しい。産業機器も非常に厳しい条件での動作を求められるけれども、クルマは砂漠から氷の上まで、より厳しい温度・振動条件で動くでしょう。しかも、すべて舗装された道ばかりとは限らないし。それら厳しい条件に耐える設計を行わなければならない。 |
朝岡 | 大きい電力を使うということはノイズも大量に発生するということですよね。 |
佐藤 | そこも頭が痛いところ。電動車になると動作時にどうしてもノイズが発生することは避けられず、それが車載AV機器などの受信性能に与える影響を考慮しないといけない。ノイズを出してはいけない条件下で大電力を扱うという、二律背反の制約があるね。 |
朝岡 | 僕のテーマにも同様の課題があるけれど、その二律背反を解決する秘策ってないんですよね。ひたすら地道に技術的な検証を重ねていきます。設計し、ものをつくって、検証してというループを何度も繰り返すことで、問題点を明らかしていくことが大事なんですね。 |
佐藤 |
さらに、従来からのパワエレで培った技術の中にこそ、様々な問題を解決するヒントはある。そこで、グループ内の各ドメインや事業部を訪れて、パワエレ技術者と盛んに情報交換をしている。 |
朝岡 | 僕が担当している回生システムでも、同じ課題があります。回生システムでは、エネルギーを創る、蓄める、使うという過程のなかで、つねに周辺デバイスの情報を取り込まないといけません。そこで出てきた課題を、二次電池やモーターの技術者とよく摺り合わせをやっています。 |
佐藤 | お互い、しょっちゅう打合わせがあって、デスクの前にはあまりいないものね(笑)。分からないところを聞くためには、どの部署、どのドメインにどういう専門家がいるかを知っておくことは欠かせない。人的ネットワークを広げておかないと右往左往してしまう。 |
朝岡 | 逆に人的つながりをたどって、専門の人に出会い、その話で、これまで解決できなかった問題点がクリアになることもある。ジクソーパズルの欠けたピースがぴたっと嵌るような、そういう爽快感を感じることもありますよ。 |
佐藤 | これからは外部から転職してくる人の知恵を借りるシーンも増えてくると思う。実際、転職してきた人の話を聞いて、なるほどと思ったことが僕自身にもある。パナソニックにはない特殊な知見を持たれた方だった。 |
朝岡 | グループ内ではなかなか得られない経験、専門性というのを転職者にはまず期待したいですね。その他には? |
佐藤 | パワエレ関連ということでいえば、電源回路に精通していて、できれば一つの製品を量産化まで持っていった経験のある人。それからEVやPHVに関連する開発は未開拓のところだらけだから、そういうところにもリスクを恐れず飛び込んでいける人がいいな。 |
朝岡 | たしかにそれは言えます。新しい分野なので壁にぶちあたることも多い。打たれ強い人、壁を押し返せるような人ですね。 |
佐藤 | さっき、パワーエレクトロニクスの領域が広がっていく感じということを話したけれど、これから僕たちが勝負するのは世界マーケット。もはやグローバルの視点なしに自動車業界を語れなくなっているからね。 |
朝岡 | そうですね。これからはBRICsなど新興国での自動車需要が爆発的に増えるけれど、そこでもやはり環境技術がキーテクノロジーになります。 |
佐藤 | 環境技術で、一歩抜きんでた会社が優位に立てることは間違いない。だからこそ、僕たちへの社内外の期待は熱い。結構、プレッシャーあるけど、ガンバらなくっちゃね。 |
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