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ビジュアルTech絶景技術アルバムをめくれVol.6 ハイブリッド車もEVも動かす「ハブベアリング」
「動く機械」、特に回転部分をもつ機械なら、まず間違いなく使われているベアリング。車輪を使って疾走する“クルマというマシン”には、なおさら欠かせない。そんな自動車の車輪を支える「ハブベアリング」の秘密に迫ってみた。
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:09.07.17
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 クルマはガソリン車からハイブリッドへ、そしてEV(電気自動車)へ……。19世紀末にダイムラーとベンツによって初の本格的ガソリン車が生まれて100年余り、クルマは大きな変化の時期を迎えつつある。
 しかし、どんな大きな変化が訪れようと、クルマがクルマである以上――SFチックな“浮上式”にでもならない限り――、「車輪を使って走る」ことは変わらない。ハブベアリングは、その車輪の付け根にあって、車輪を支える“かなめ”となる部品である。ハブベアリングの開発について、世界のトップメーカーでもあるNTN株式会社を訪ねた。

 普通クラスの乗用車でも総重量は1t前後あるが、それを4カ所でしっかり支えながら、車輪の滑らかな回転を約束するのが、ハブベアリングの役割。
 ハブベアリングの外側には、車輪とともにブレーキのディスクが付く。ハブベアリングの回転にブレがあると、車輪の回転時、ブレーキの制動時に振動が発生することになる。そこで、最新のベアリングではフランジ部のブレが10マイクロメートル(=100分の1mm)以下という高精度を達成しているものもある。
 表からはなかなか見えない、目立たない部分ではあるが、高い精度と耐久性が求められる、高度な技術に裏打ちされた部品なのだ。
自動車の性能向上を支える「見えない進化」
 ベアリングといえば、内側の輪と外側の輪、その間に挟まる鋼球やローラー(転動体)というのが、まず誰もが思い浮かべる基本形。しかしハブベアリングの、特に最近の製品を見ると、ずいぶん複雑な形状をしていることがわかる。

「自動車は“すり合わせ技術の固まり”とも言われる、多くの部品を組み合わせる機械です。ですから、複数の部品をユニット化し、組立性を向上すれば需要もあがる。同時に、走行性能や省資源の追求から、あらゆる部品には軽量化・コンパクト化が強く求められています。ハブベアリングの設計も、これらに応えて急速に進化しています。
 以前は皆さんが想像するような、ごく普通の形状のベアリングを2個配列して使っていました。1990年代、2個のベアリングをユニット化したもの〔写真2〕が登場します。これを『第1世代』と呼んでいます。ここから設計の急速な進化が始まるのですが、しかしこの時点ではまだ、ごくシンプルな形状ですね。これを、車輪を取り付けるハブフランジ、サスペンション側の受けになるナックルの間に装着するわけです。
 2000年代には、サスペンション側への取付用にフランジを付けたタイプ〔写真3〕が登場。これを『第2世代』と呼んでいます。
 さらに最近になると、今度はブレーキディスクやドラム、車輪を取り付けるフランジも作り付けとしたタイプが登場。これが現在主流になっている『第3世代』です」(アクスルユニット技術部部長 亀高晃司氏)

 しかも単に一体化を進めるだけでなく、その形状にも工夫を凝らし、たとえばフランジ部では、強度をしっかりもたせながら各部を薄肉化〔写真4〕。こうしたきめ細かな設計もあり、90年代の第1世代から現在の第3世代にかけ、同一クラスの車輌に使われるユニット全体で25%程度の軽量化を実現しているという〔写真5〕
 軽量化の最たるものが、写真1の中にあげた、軽自動車用超軽量ユニット。そのフランジ形状から、いつの間にか「手裏剣型」の通称が定着したとか。

「これは3年ほど前に開発したもの。こうした形状を実現するために、鍛造で製作するとともに特殊な熱処理を行って、剛性を高めています。ご覧になってわかるように、こちらの製品では、ドラム式のブレーキユニットをしっかり支えられるよう、若干フランジの幅も増してありますが、試作品ではぎりぎりまで絞り込んでいます。
 やはり新しいものを開発するときには、まず“とことん”やってみたい。どこまでできるのか極限までやってみて、そこで初めて、では製品としてどの辺が適当かが見えてくる。この2つのユニットは、その過程の証拠品でもあります」(亀高氏)
写真2
2個のベアリングを一体化した第1世代のユニット。この時点ではまだ内側、外側に形状の差異はない。これは小型車用で、ほぼ大人のこぶし程度の大きさ。
写真3
2000年ごろに登場した、第2世代のユニット。周囲に星形に出ているフランジのボルト穴で、サスペンションユニットと結合。さらに、車輪取付用のフランジをもつ部材を内側に差し込み固定して使用される。
写真4
車輪側にもフランジを設け一体化を進めた第3世代のユニット。省資源・軽量化タイプでは、単にフランジのボルト間の肉を除くのではなく、各部できめ細かに厚みを変化させるなど、強度を保ちながら軽量化する工夫が凝らされている。
写真5
第1世代から第3世代までの形状の変化を示す。この写真では、使われる車種の差もあり、世代が進むほど大型化しているように感じられてしまうが、実際にはユニット化により、同一車格用ならば大幅な軽量化が実現できている。
ハブも「インテリジェント化」
写真6
内側軸部(内側の黄色断面部分)が外周に溝を切り進む形で結合される、プレスカット加工を採用した第4世代ユニット「ハブジョイント」。そのまま一体化させたもの(手前)のほか、ボルト結合として後から交換可能にしたタイプ(奥)もある。
写真7
ABSセンサを内蔵した第3世代ユニット。仏SNR社との共同開発で、従来品の約40倍の高分解能をもち、車輪のミリ単位の動きを検知可能にした高精度タイプ。
掲載写真中、ベアリング球が見え、黄・青・白などの着色部分があるもの(写真1の一部、写真2、 写真3、写真5、写真6)は、カットモデルです
 高い信頼性、低燃費・省資源化、走行の快適性、そして運転制御その他の高機能化――。クルマは、より複雑・高度なものへと、日々進化を続けている。
 ハブベアリングのユニット化・軽量化は、直接的には組立性を向上するとともに、バネ下重量を軽減し、サスペンションのレスポンスをよくし、走行性能を上げることにつながる。それだけでなく、ますます高度化するクルマの中で、新たに付け加わるさまざまな機器の“積みしろ”を稼ぐためにも、ユニット化・軽量化の要求は一層厳しい。

「そこで登場したのが、ハブベアリングに、さらに等速ジョイントまでも加えた『第4世代』のユニット、『ハブジョイント』です」(亀高氏)。
 等速ジョイントは、回転軸が自由な角度変化をとることができる継ぎ手。車輪はサスペンションの動きに従って上下するから、駆動輪に動力を伝えるドライブシャフトとして不可欠の機構である。
 従来はハブとは別々に作られ、後から結合していた部品だが、一体化をさらに進めた結果がこれで、ハブベアリングと等速ジョイントの両方を手がける同社ならではの製品といえる。

 さらにその製作にも工夫を凝らし、編み出されたのが「プレスカット加工」と呼ばれるもの〔写真6〕。従来、軸部の接合には、内側・外側双方に溝を切って組んでいたが、プレスカット加工では、最初、内側軸のみに溝切りを行い、これを押し込む際に、内側軸自体が外側に溝を刻んではまり込むようにしている。これによって、加工の手間を省くとともに、接合強度自体も上げるという手法である。
「ハブジョイントは、現在はまだ試作車に使われ始めた段階。部位ごとに交換できるようにしたいというニーズもありますから、今後、ここまでの一体化が主流になるかどうかはわかりませんが、小型化・軽量化や部品点数の削減に対するわれわれからの答えの一つです」(亀高氏)

 それと同時に進むのが、高機能化への対応。その例のひとつが、アンチロックブレーキシステム(ABS)用センサを内蔵したハブベアリングである〔写真7〕。高速走行中に急ブレーキをかけた場合、車輌が停止する前に車輪がロックされてしまうと制動不能になり、非常に危険な状態に陥る。それを防ぐ装置がABSだが、そのためには、各車輪の回転を監視する必要がある。
 従来のセンサは足回りに後付けされていたが、土ぼこりなどにさらされる過酷な条件下だけに、一体化のニーズは高い。
「さらに最近では、ハブベアリングの外側ケースにひずみセンサを付け、各車輪にかかる荷重を積極的に検知し、制御に活かそうというモデルも開発しています」(亀高氏)
 90年代以降、急速な進化を遂げてきたハブベアリング。しかし、ハイブリット車はもとよりEVのような次世代自動車の普及に向けて、その進化は一段落つくどころか、「今はますます加速している状態」という。
「搭載されたクルマは、つい欲しくなる」

「なかなか皆さんには気付いてもらえないような地味な部品ですが、ベアリングの剛性がサスペンション全体の剛性を決定する、大事な部品でもあります。
 その形状は、数値解析によって作り上げていきます。形状最適化のためのソフトウェアも自分たちで組みます。しかし、コンピュータは生産性までは考えてくれないので、さらにそこから、細かい検討を重ねていかなければなりません」(亀高氏)
 摩擦を減少させる“主役”であるベアリング内部の転動体(球)は、「地球上で最も完全な球」とも言われ、その精度はサブミクロン(10000分の1mm)単位。それを支える外周部も、1ミクロン、2ミクロンのレベルで考えなければならない精緻な世界という。

亀高晃司氏
亀高晃司氏
NTN株式会社 自動車商品本部
アクスルユニット技術部 部長
「ただ、形状はとりあえず計算で出せますから、まだいいんです。今は光硬化樹脂を使った造形で、2日もあれば形状検討用のモデルもできてきますから。それに比べ、やはり素材の微細組織は難しいですね」(亀高氏)
 素材の硬さは計測できる。組織自体も顕微鏡を使って見ることができる。しかし硬さも見た目も同じようなのに、実際に試験してみると性能が違うこともしばしばだという。

 素材、形状、そして加工・処理方法、さらに最近ではセンサなどの電子応用技術も加えて、さまざまな技術を集積。どの部分をとっても、「手を入れようと思えば、入れられないところはない」という。それを、どう突き詰めていくか。それが、ハブベアリング開発の仕事の難しさでもあり、楽しさだとか。
「多くの要素を検討し、『たぶん、こうだろうな』と予測をする。なかなか思いどおりにはなりませんが、時に自分の予測どおりに“決まって”くれる。そんなときがいちばん面白い。
 やはり、自分が手塩にかけたハブベアリングはかわいい。それが搭載されたクルマが世に出ると、つい購入したくなってしまいますよ」(亀高氏)
取材協力 NTN株式会社
次回の掲載は8月下旬です。「日用品にも宇宙・航空産業にも欠かせない職人技」のアルバムをめくります。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
「人類最古の偉大な発明品」ともいわれる車輪ほどではないとしても、ハブベアリングの技術史は途方もなく長いはず。それでもなお技術の進化が加速しているのには驚きです。「この2つ、形が違うだけでなく、作り方も違います。従来品は鋳造ですが、新しい製品はプレスです」と、自ら手がけた“進化”を説明する亀高さんの表情は、楽しげで、かつ、誇らしげでした。

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