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Tech総研発“今日はここへ行ってきました”

世紀の天体ショー! 種子島に皆既日食を見に行ってきた

世紀の天体ショー!

種子島に皆既日食を見に行ってきた

エンジニアなら皆既日食! ということで、Techスナイパーこと井元康一郎が日食ハンティングに飛び出した。で、どこで見る? 屋久島? トカラ列島の悪石島? 決まっているじゃないか。鉄砲伝来の地であり、ロケット打ち上げの地である、種子島だ!

(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:09.07.27

7月21日(日食前日)、一縷の望みを託して種子島に上陸!

種子島の商店街にかかる「日食照る照る坊主」

曇天の中で出航を待つフェリー

種子島の商店街にかかる「日食照る照る坊主」

種子島の商店街にかかる「日食照る照る坊主」

  天文スペクタクルの中でも見た目のインパクト、人気度ともトップクラスの皆既日食。ネイチャーサイエンスにはつい目の色が変わってしまうワタクシは、当初は観測ツアーのあまりのフィーバーぶりを嫌気して静観するつもりでいたが、やはり心のざわめきは抑えようがない。その目で故郷鹿児島の空にコロナが広がる様子を見たいと、皆既日食帯に出かけてきた。

  しかし、日食見物への出発が近づくにつれて、何と当初は予想もしていなかったアゲインストの風が。種子島・屋久島地方、トカラ列島について、まさかの天候悪化の予想が気象機関から発令された。今年は夏型の気圧配置が不安定で、いったんは北に去った梅雨前線が再び南下してくるというのだ。
  7月下旬の南の島エリアは通常、大気の状態は安定傾向。台風でもこない限り、日食のある午前中はバッチリ晴れるものなのに。なぜだ……見物自体を中止しようかとも思ったのだが、種子島がある! 島全体が平べったい種子島は、標高2000m近い宮之浦岳を擁し、にわか雨が降りやすいお隣の屋久島と比べて晴天率が高いのだ。いざとなれば晴れてくれるさ!!と、全く根拠のない期待感だけでフェリーに乗り込み、種子島へと向かった。

   出航当時、鹿児島の空は厚い雲に覆われていた。いかにも望みのなさそうな、忌々しい曇り空。フェリーは錦江湾から太平洋に出るや、梅雨前線の接近による時化で大きく揺れる。しかし、太平洋上を時速約20ノット弱で種子島に向けて南下するにつれて急速に雲が切れ、青空に。「おおお、日が照ってる!!!」と、甲板上では日食見物に向かう乗船客らが口々に喝采する。
  フェリーが到着するのは、南北に細長い種子島の北半分にある西之表港。が、この場所での日食時の食分(最大の皆既日食時が1。例えば太陽の視直径の4分の3が隠れたときは0.75となる)は0.99と、皆既日食に一歩及ばない。0.99といえば、下手な金環食より食分が大きいくらいで、見た目にもなかなかドラマチック。しかし日食とは不思議なモノで、0.99と皆既には、これまたとてつもない違いがあるのだ。

宇宙ヶ丘公園にてテントを設営、翌日の好天を祈る

キャンプ地として開放された宇宙ヶ丘公園

キャンプ地として開放された宇宙ヶ丘公園

種子島宇宙センターの吉信射場

種子島宇宙センターの吉信射場

  西之表からバスで1時間半ほど南に走り、中種子町の中心部を過ぎると、天文用語で「第2接触」と呼ばれる(第1接触は太陽の欠け始め)、通称ダイヤモンドリング現象が見られるエリアへ。さらに数キロ走ると、いよいよ完全な皆既日食が見られる皆既帯に入る南種子町中心部に到着する。南種子町と言えば日本唯一の実用衛星打ち上げ基地、JAXA種子島宇宙センターがある宇宙開発最前線の町だ。

  南種子町の中心からロケット発射場を見渡せる宇宙ヶ丘公園まで、2.5キロの道のりを徒歩にて向かう。キャンプをする日食見物客用に、同地を野営場として開放しているのだ。町中心でも皆既日食は見られるが、目と鼻の先の宇宙ヶ丘公園はさらにコロナがフルに見られる最終ラインを突破した先にある。「皆既日食とは、かくも微妙な位置関係でビジュアルが変わるのか」ということを、歩きながら実感する。
  他の島では野営場の使用料として一泊数千円を支払うケースが多々あったが、南種子町では野営場や体育館など、野宿のためのエリアは全部無料。また、町の中心から日食を見るのに適した南端の前之浜までのシャトルバスもすべて無料。本当に商売っ気の薄い土地柄である。自分のためというより、歓待に一生懸命な彼らのために、翌日の日食を晴れて迎えさせてあげたい気になるほどだ。

  午後4時ごろにテントの設営を終え、観天望気をしてみる。高空には白い筋のような絹雲が多いが、ひょっとすると翌22日の日食時まで持つかもと、淡い期待を抱く。が、午後6時を過ぎたころから、絹雲が薄い不織布のような絹層雲に変わってきた。観天望気的にもやはり天候悪化の可能性濃厚……しかし、日が沈んでも降るような星空が広がるのを見て、奇跡的に晴れないかと祈る。
  皆既日食を見にくる人たちの中には、もちろんエンジニアやサイエンティストもいる。宇宙ヶ丘公園で出合ったのは、半導体製造を手がける54歳のエンジニア。2週間のリフレッシュ休暇を利用してバイクでツーリング中で、メインイベントのひとつが日食見物だと語る。
「雨に降られたらバイクなら雨に濡れ、日食なら見られないのが当たり前。そんな自然の営みを感じることが素晴らしいと思う」

7月22日第1接触(09:37) 雨が上がって雲間から太陽が!

雲間から部分日食が!

雲間から部分日食が!

食分が約8割になった日食

食分が約8割になった日食

  日本国内で46年ぶりの皆既日食となる7月22日、テントに大粒の雨が落ちる音で目が覚める。ああ、やはりダメだったか。濡れネズミになりながらテントを撤収。とりあえず町の中心へと徒歩で戻る。豪雨のうえに風も強い。インパール作戦の撤退のようである。
  が、そのような絶望的状況にもかかわらず、多くの人たちが日食を見るのに適した前之浜や、鉄砲伝来の地である門倉岬へと向かっている。日食で空が暗くなる瞬間を体験し、雨雲に覆われて見えない皆既日食を「心眼」で見ようという意気込みだ。ワタクシも前之浜に向かった。

  皆既日食の第1接触は9時37分。この天気ではちょっとした欠け始めもわかるはずもない。しかし、皆既日食まであと30分を切ったころであろうか。雨が上がり、ごくわずかに薄くなった雲を透かし、三日月状になった太陽がおぼろに見えたのだ!
  部分日食など、通常は見てもそう大きな感動を得られるものではない。が、100%不可能とあきらめきっていた見物客は、その輪郭のぼやけた部分日食が見ると狂喜乱舞。とりわけちびっ子たちは「うわあ、見えた見えた! すごい」と大はしゃぎだ。
  その太陽も、食が進んで光が少なくなるにつれ、全く見えなくなった。見た目の細かい状況はもはや一切わからないが、秒針を正確に合わせた時計を見れば、日食の状態は逐次把握できる。飛行機で言えば、闇夜の計器飛行のようなものだ。

7月22日第2接触(10:57) 空が、雲が、一気に暗闇となる

皆既日食時の暗闇 (あまりに暗いので3倍に増感処理)

皆既日食時の暗闇
(あまりに暗いので3倍に増感処理)

皆既帯の外側にある水平線の色

皆既帯の外側にある水平線の色

  食分が0.95を超えたと思われるころから、周囲が急速に暗くなってきた。雲の色も青黒からほんのりと赤みを増して、不気味な風合い。10時57分50秒ごろ、皆既日食のスタートとなるに第2接触。空は一気に暗くなり、晴れていれば太陽付近の空が本当に暗転するのがわかるところだ。水平線を見れば、皆既帯の外側が夕焼けのようになっている。なかなか幻想的な光景だと感銘を受けるほどである。
  第2接触終了は10時59分40秒ごろ。それから1分もたたないうちに、空はぐんぐんと明るくなっていった。皆既日食は終わったのだ。そんなとき、見物客のひとりの携帯電話に、奄美大島で見ていた知人からの皆既日食の写真が届く。周囲の人たちから「きれい!」「せめて奄美が晴れてよかったねえ」などの声が飛ぶ。自分が見られずとも、ほかのエリアの幸運を素直に祝福する気になれるのは、ネイチャーウォッチングの素晴らしさだ。

  家族連れで東京から駆けつけたという映像機器エンジニアが、興奮気味に語る。
「皆既日食は肉眼では見られなかったけど、この場にいることができてよかった。夢を見られたし、景色は素敵だった。技術者はこういうものを見て、人間ができることの小ささを実感することも大事だと、あらためて思った」
  種子島では結局皆既日食を見ることはできなかったが、そこには曇り空なりの感銘があった。この地を皆既帯が次にとおるのは、少なくとも数世紀は後。そのころの人間の世界は、地球はどうなっているのだろうか。
  皮肉にも同日午後には、午前中の鉛色の雲はどこへやら、がぜん太陽が輝きだした。帰りのフェリーの上で、人々が楽しそうに日食グラスを使って何の変哲もない太陽を眺めている光景もまた、実にのどかなものであった。

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