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発見!日本を刺激する成長業界4 SaaSの魅力は多彩なビジネスモデル
インターネットを介してアプリケーションを提供するSaaS(Software as a Service)は、既にITの一分野である。郵便局や大手企業などでも導入が進むが、最近ではCRMなどの基幹系システムだけでなく、中小企業向けのユニークなサービスも増えている。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:09.06.17
市場規模は今後5年で約3倍、新規参入期待も
 インターネットをはじめとするネットワーク経由でアプリケーションサービスを提供するSaaSは、パッケージソフトに比べてサービス導入時の初期費用が安価であることなどから、エンタープライズ市場を中心に急拡大を続けている。
 IT市場の調査会社IDC Japanの調査によればSaaS、およびプラットホームやインフラをネット経由で提供するPaaSやIaaSを合わせたXaaS(ソフトに限らない総合的なオンデマンド型のサービス)の国内市場規模は、2008年で前年比2割増しの495億円。拡大基調の流れは変わらず、2013年には2008年比で2.9倍の1436億円に達すると予測している。今後は大手・中小を問わず幅広い企業への導入が見込まれ、基幹系ベンダーから小規模ソフトハウスまで、同分野への参入が大きく増える可能性が高い。
国内SaaS/XaaS市場 セグメント別投資額予測
コクヨS&T トレーサビリティ確立で紙伝票の電子化に挑む「@Tovas」
 IT全盛の今日でも、社内で相も変わらず飛び交うのが納品書や各種明細書などの紙伝票。やり取りの痕跡を残すうえで、やはり紙の信用は今でも厚いのだ。その紙伝票の電子化にSaaSで挑むのが伝票の老舗、コクヨS&T株式会社である。
100年の歴史をもつ伝票ビジネスのノウハウをSaaSに
「@Tovas」で送ったファイルの受け取り画面
「@Tovas」で送ったファイルの受け取り画面
 アメリカでペーパーレスという言葉が生まれたのは1980年前後のころ。それからもう四半世紀以上がたつが、あらゆるビジネスシーンにおいて、今でも紙が極めて重要な役割を果たしている。そのビジネス文書の電子化を狙ったSaaSに、明治時代から伝票を作り続けている老舗のコクヨS&Tが挑んだ。完成したのが「@Tovas」(アットトバス)だ。
 電子伝票などビジネスファイルのダウンロードサーバーを介した送受信、ビジネスFAXのPCからのペーパーレス送信、POP3メールを使わずSPAMを気にしないですむ私書箱送信などのサービスで構成。これらの機能はブラウザをGUIに使ったWebアプリケーションとして提供される。
 だが、ここで疑問が生じる。PC FAXやファイルダウンロード、電子私書箱などは、今日では珍しくないサービスだ。無料サービスも多い中でこうしたシステムに需要があるのだろうか。@Tovas事業開発部長の山崎篤氏は次のように語る。
「@Tovasのサービスの付加価値は、それらの機能を統合ソリューションとして提供している点にもありますが、それがメインではありません。ビジネス文書を電子化するうえで障害となっている『やり取りをした痕跡』を残すこと、すなわちトレーサビリティの確立と、重要なビジネス文書をセキュアに送受信するための環境を提供できることが、@Tovasの特徴なんです」

「私たちも、最初は伝票などのビジネス文書は、フォームのテンプレートに価値があると思い込んでいました。しかし、なぜビジネス文書が電子化されないかということを議論しているうちに、電子文書は結局、まだユーザーから信頼されておらず、それこそが最大の問題なのだということがわかってきたんです」
 実際、電子文書は送受信されていなかったというトラブルはビジネスシーンでも結構多い。渡したという証拠が残りやすい紙を、いまだに手放すことができないゆえんだ。「紙伝票の売り上げが落ちてきたため、代替ビジネスを考える意味合いでスタートした」というプロジェクトだったが、そのビジネスを成功させるヒントは、同社が100年つくり続けてきた紙伝票の利便性にあったのである。
 情報のやりとりのトレーサビリティとセキュリティという2つの特徴をもたせた@Tovasは、事業規模としてはまだ大きくはないがユーザー数を着実に増やし、前年比140〜170%というスピードで成長している。サービスの評価も高く、今年の2月には「ASP・SaaS・ICT アウトソーシングアワード2009」の総合グランプリを受賞した。
 @Tovasのような業務系SaaSに必要な人材について、山崎氏はこう語る。
「サービス開発の部分はWebアプリやXMLの知識、実務経験が役立ちますが、それ以上に大事なのは業務系ソリューションの改善意識があること。SIベンダーのPM経験者などがキャリアとしては有効だと思います」
 SaaSは技術の積み重ねというよりサービス開発の色合いが強い。発想力のあるエンジニアが強みを発揮できる分野なのだ。
山崎 篤氏
ドキュメントソリューション事業部
@Tovas事業開発部 部長

山崎 篤氏
IT投資が厳しい中小企業によりよいサービスを提供したい
メールの送信画面
メールの送信画面
メール送信する際の設定画面
メール送信する際の設定画面
「@Tovasのようなビジネスプラットホーム系SaaSで大切なのは、目立つ機能を実装することではなく、使い始めてしばらくたったときに『これがなくなったら困るな』とお客さまに思っていただけること。このサービス開発が実に面白いんですよ」
 @Tovasの開発を手がけるSaaS推進チームのリーダー、田地祐造氏は語る。SaaSを手がける前は、クライアントサーバーを使用したグループウェアであるロータスノーツ向けのアプリ開発を行っていた。スタンドアロンではなく、ネットワークを介したサービスの概念に慣れていたことから、@Tovasの開発セクションで仕事をすることになったという。
「以前にやっていたミドルウェア上で動くアプリの開発は、ユーザーのシステム向けに仕様書どおりのプログラムを作って納品するものでした。それに対して、サービス開発のSaaSは自分たちのアイデアがそのまま形になる。ただ、そのアイデアはユーザーにとって有用なものでなければならない。そこで重要となるのがユーザーニーズのくみ上げです」
 @Tovasは革命的な技術が考案されたから実現できたといった、いわゆるIT界のハイテク商品ではない。ソフト開発会社が手がけていたファイル送信システムをベースに、FAX、ファイル往復便、私書箱をアドオンして作られ、それに情報トレーサビリティをもたせたものだ。コクヨS&Tの主業務は技術開発というより、むしろアセンブリー役である。

「このうちのファイル往復便と私書箱は、現行モデルである2代目のV2で追加されたもので、私が実装を担当しました。例えばファイル往復便は、@Tovasのシステムを使っていないユーザーにファイルを送っても、相手の受領確認メールを@Tovas向けに返信できます。相手が誰であってもお互いに送受信の確認が取れるというのはビジネスでは必須なんですが、プログラムを磨くだけではこうしたニーズはくみ取れない。SaaS開発では、実はこういう何げない考えが大事なんです」
 @Tovasは柔軟性の高さでも好評を得ており、現在はSaaSベンダー5社と連携している。そのマッシュアップを手がけたのも田地氏だ。コンセプトやシステムが異なる他社のWebサービスのAPIとシステムを完全連携させるのは簡単なことではない。一方で、SaaSにおけるマッシュアップの重要性はますます高まっていくものと思われる。小規模なサービスを複数連携させることができれば、それをひとつのプラットホームのように使える可能性が出てくるからだ。
 今後の課題は、マッシュアップ力を高めてより簡単かつ確実に連携を取れるようにしていくこと、そして、インターネットに少々障害が生じてもサービスが止まらない強固さをもたせることであるという。
「大規模なIT投資が難しい中小企業によりよいシステムを提供し、コストダウンや取引の確実性向上に貢献したい。OEMや連携の話も数多くきていて、SaaS業界では人材不足にあると思います。ぜひ多くのエンジニアに、この分野に興味をもってほしいですね」
田地祐造氏
ドキュメントソリューション事業部
@Tovas事業開発部 SaaS推進チーム
チームリーダー

田地祐造氏
三三 名刺を使った人脈の共有化サービス「リンクナレッジ」
 ビジネスマンにとって、毎日大量に交換する名刺情報の管理は悩みの種だ。そこに目をつけたのがベンチャー企業の三三株式会社。名刺をスキャンするだけで情報を的確に管理できるSaaS「リンクナレッジ」で、人脈のナレッジマネジメントの新しい形を提案する。
名刺情報を組織で共有するという発想の転換からSaaS
「リンクナレッジ」で名刺の画像と文字データを表示
「リンクナレッジ」で名刺の画像と文字データを表示
「大学を卒業して商社に入社したとき、名刺交換のあまりの多さにびっくりした。これを管理しなきゃならないなんて、何と面倒くさいんだ、と」
 名刺の管理を的確に行い、企業でその情報を共有することで人脈管理、顧客管理などに役立てるというコンセプトのSaaS「リンクナレッジ」を展開する三三の創業者、寺田親弘社長は、名刺管理がビジネスになり得ると考えたきっかけを語る。
「名刺管理は個人でやるのが普通ですよね。でも、それって本当に非効率的なんですよ。例えば商社では、興味深い会社を見つけても、どんな担当者がいるのか調べるだけでも相当苦労したりする。やっとの思いでコンタクトしてみたら、何のことはない、身近な同僚が会った方だったなどということがよくある。そこで私は思ったんです。名刺情報は絶対ビジネスにできると」
 寺田氏によれば、日本では1年間に推定50億枚もの名刺が交換されているが、その情報が何らかの形でデータ化されるのは0.1%以下という。残りは捨てられるか、ファイリングされてもあまりに量が増えすぎて、人力では検索不能になっていくという悲しい運命をたどるようだ。
「それがもったいない。名刺情報を取り込み、その内容をデータベースに蓄積することができれば、自社の誰かがコンタクトを取ったことがあるかどうかということはもちろん、重要な人物の肩書の変化を追って異動情報をつくることもできるし、年賀状やダイレクトメールなど信書を送るリストに入っているか否かもチェックできる。名刺情報を極めていけば、企業にとってかけがえのない人脈のナレッジ(共有化)を進めることができるのです」

 リンクナレッジの具体的なサービス内容は、ユーザーが無償で貸与される名刺スキャナと通信用の小型PCを使って名刺情報を三三に送り、オペレータが名刺情報を打ち込んでくれるというものだ。だが、名刺管理ソフトは今日、いろいろなソフトメーカーから発売されている。それをSaaSで提供することに果たして優位性はあるのか。
「それが大いにあるんですよ。名刺の情報管理は、送られてきた画像データをOCR(光学式文字読み取り装置)にかけて文字情報化し、オペレータが内容を修正して入力するという方法で行っていますが、肩書のつけ方ひとつとってもそこには非常に多くのノウハウがある。デジタルで完全に処理できず、手入力など泥くさい部分がある名刺管理のような分野こそ、ネットを介するSaaSの本分と言っていいと思いますね」
 リンクナレッジは「Tech Venture 2009」で審査員特別賞と準グランプリをダブル受賞しており、寺田氏の発言を裏づける。こうした情報系SaaSにはどんなエンジニアが向くのだろうか。
「セキュア環境に対してある程度高い意識をもっている人がいいですね。システム開発ではSIベンダーでPM、SEを経験したWebやオープン系の人材需要が高いですが、企画の分野ではネット配信やSNSなど、柔らかい分野の人材も大いに活躍できると思います」
寺田親弘氏
代表取締役社長
寺田親弘氏
1日6000枚の名刺をミスなくデータ化するシステム
蓄積された名刺データの統計をグラフ化
蓄積された名刺データの統計をグラフ化
CRMとしてスケジューラーとの連携も可能
CRMとしてスケジューラーとの連携も可能
「名刺管理だけでなく、名刺情報を出発点としてビジネス支援全体を手がけるという発想で、リンクナレッジのシステムを構築しました。単に名刺の中身をOCRで読み取るだけでなく、いつ、その企業の誰が会ったのかという基本情報をフォームに入力して一緒に送信するだけで、それらの情報をサーバー側で的確に管理できるよう工夫を重ねました」
 技術開発を統括する常樂諭取締役は、リンクナレッジのシステムの設計思想についてこのように語る。
 リンクナレッジはSaaSで、UIはWebアプリケーションの形を取る。入力端末は専用機器というわけではなく、一般にも販売されている小型のスキャナと小型ノートパソコン。ただ、パソコンにインストールされたサーバーにデータを送信するためのプロファイラアプリは自社開発。また、サーバー側では送られてきた画像を解析するが、その際に使用する画像処理ソフトも自社で仕様策定を行った。
「OCRをかけやすいよう画像上のノイズを効果的に除去し、傾きも自動補正します。また、画像のパターン認識を行って似た配置の名刺をデータベースから探し出し、肩書や住所、社名などを的確に分類します。OCRはサードパーティ製ですが、名刺管理への適合性を高めるため辞書を自社内で補正しました」
 スキャンした画像をOCRにかけた時点で、ほぼ100%に近い正答率が出せることを目指したことが、システム開発にこだわった理由だ。三三では現在、1日6000枚程度の名刺をデータ化し、解析した文字情報をオペレータがチェックしているが、誤入力ゼロを誇る。オペレータの負担を、ソフト側の性能の高さで軽減しているからこそなせるワザなのだ。


 前職は大手SI系開発会社のSEだったという常樂氏だが、SaaSでのアプリケーションサービスでは、UIデザインでの苦労が多かったという。
「リンクナレッジは初期費用無料で1カ月ごとの契約というサービス形態ですから、気に入られなかったらおしまいなんです。業務系ではユーザーが積極的にシステムに慣れてくれる部分もありますが、エンドユーザー向けとなるとそうはいかない。デザインからインターフェースの機能まで、あらゆる部分を工夫しました」
 リンクナレッジの機能は日々進化している。「メール送信や面会の履歴がわかるようにしてほしい」「携帯電話の発信履歴をデータに反映させてもらいたい」といった、ユーザーの要望を随時取り入れているからだ。こうしたバージョンアップが簡単に行えるのも、パッケージソフトにはないSaaSのメリットだ。
 開発は現在8人体制。「うちではひとりがひとつの枝プロダクトについて、設計、開発、テストまで全部を担当しています。工程による分担に比べて、自分のスキルやアイデアを生かしやすいと考えてのことです」
 SaaSには「大手企業が参入する基幹系の有力分野」というイメージがあるかもしれないが、いわば通信を使ったサービス提供の一手法。だからこそ、アイデアと工夫次第で多方面への展開が可能だし、上記2社はその代表例と呼べる。今後の市場の発展性は非常に高いとみられているので、転職に限らず情報は要チェックだ。
常樂 諭氏
取締役 技術担当
常樂 諭氏
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
数年前から話題になっているSaaSですが、キモとなるのは即時性を生かしたサービスの内容です。大手や外資の独壇場では決してなく、知恵と技術でいくらでもユーザーニーズを掘り起こせる分野。そう考えて、上記の2社に取材依頼をさせていただきました。4人ともとてもイキイキしていて、元気をもらったような気になりましたよ。

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