ベンチャーで終身雇用？家族も安心できる職場を用意！

移り変わりの激しいIT業界において、いつまでも長く安心して働ける職場づくりを目指して奮闘しているベンチャー企業がある。今回その具体的な取り組みを探るため、拠点を構える静岡県三島市を訪れた。

（総研スタッフ／山田モーキン）作成日：09.06.03

東京から新幹線で1時間弱、富士山のふもとに広がる静岡県三島市。この地方都市を拠点に今から9年前、地元静岡出身者である山本社長が立ち上げたのが今回紹介するサイバーエリアリサーチだ。同社の特徴でもあり、またいちばんの強みとしているのがインターネットへのアクセスユーザーを、地域別に認証・分析する技術。特許を取得し、国内唯一であるこの技術を活用することによって、例えば閲覧される地域に合わせてその地域のみを対象としたバナー広告を自動的に差し替えたり、また逆に「このサイトは○○地域からアクセスしないと閲覧できません」というように、地域単位でアクセス制限をかけることも可能だ。
また最近ではネットバンキングやオンライントレードビジネスの急速な発展に伴い、社会問題となっているセキュリティの保護にも効果を発揮し、現在では主に金融機関からの引き合いが増加しているそうだ。

会社設立後、山本社長は一貫してエンジニア採用に力を注いできた半面、実は失敗の連続だったという。
「当社は東京にも営業所をもっている関係で、本社のある静岡と東京の2カ所で採用活動を行ってきました。IT業界はご存じのとおり変化の激しい世界ですから、転職意欲の高いエンジニアの多くは『やりがいがあり、高い技術力を必要とする仕事内容』『明確なキャリアステップが描ける環境』『実力主義・成果に見合った高い評価・待遇』といった要望を抱いていると考え、その要望に即した条件を用意しました」
そこで山本社長は、「国内唯一となる、アクセスユーザーの地域認証技術を提供する企業」であることを前面にアピールしたり、また社長との直接交渉による年俸制の導入によって、実力や成果に見合った高い評価制度を設けるなど積極的に取り組んできた。それにもかかわらず、期待していたようなエンジニアを採用できなかったのはなぜか？

その最たる原因として山本社長が挙げたのは「東京と地方の、採用ニーズの違い」。
「当社に応募してくるエンジニアの特徴として、東京では30歳前後の中堅、静岡では新卒2、3年目くらいの若手が多いのです。そしてそうした応募者が当社に求めるのは、仕事の中身ももちろんですが、それと同じくらい重要視しているのが『安心して長く働ける環境』。つまり当社のような地方に拠点を構える企業に入りたいと考えるエンジニアの多く、特に東京から応募してくるエンジニアは高待遇よりも、もっと自分のペースで腰を落ち着けて長く仕事ができ、また家族ともども安心して生活できる環境を求めていることに気付いたんです」
このように、地方に構えるIT企業に求めるエンジニアの本音に気付いた山本社長は2年前、その採用スタイルを大きく変革することになったのである。

サイバーエリアリサーチ株式会社
代表取締役社長
山本　敬介氏

まず山本社長が手を入れたのは、評価待遇制度だ。
「先ほども触れましたが、特に東京のエンジニアが当社に応募してくる大きな動機は、「当社独自の技術への関心」、そして「地方で家族ともども安心して長く働ける環境」の2点。確かに東京では常に刺激のある環境でエンジニアとして飛躍的にスキルアップできたり、また成果に見合う高い報酬を得るメリットもある一方、長時間勤務によるハードワークで体調を崩したり、また変化の激しさについていけず将来に不安をもつ方が非常に多い。
そこで当社では年を追うごとに段階的に給与を高く設定する、終身雇用的な評価制度に変えました。それによって安心して長く働けると考える応募者が以前に比べて多くなりましたね」

しかし従来の年俸制からの変更によって、社員の受け取る報酬額は大きく下がってしまう。そこで、その減少分を補填するために「残業代」で調整を図ったそうだ。
「従来は社員平均で月に50～60時間残業していて、それも踏まえて年俸を決めていました。そこで評価制度の変更後に残業代を新たに設定し、平均30時間残業をすれば変更前とほぼ同じ額を手にできるようにしたのです」
つまり、以前より短い労働時間でもほぼ同じ報酬を得ることが可能になったわけだ。
ただしそもそもの給与標準額が東京と地方では大きな違いがあるため、東京勤務時の報酬額と比べれば、いささか少なくなってしまうのは否めない。しかし東京と比べ安価な生活費や、長く働けることの安心感なども考慮すれば、決してハンディキャップを負っているとはいえないはずだ。

サイバーエリアリサーチで活躍するエンジニア社員。企業理念にもあるとおり、地方に構える企業だからこそ地域密着型の経営をモットーにしている

とかくサイバーエリアリサーチのようなITベンチャー企業、まして地方に拠点を置く企業に転職する場合、「いったい何をやっている会社なの？」「そんなところに転職して、本当にこの先、生活していけるの？」といったように、エンジニア当人以上に家族が不安に思うことも少なくない。
そこで同社では「オープンハウス」と称して定期的に、子供も含めた家族全員を会社に招待している。
「最初はまず私や経営陣が今の会社の状況や、今後の展開についてわかりやすく説明します。それから食事会やゲームなどのイベントを開きつつ、家族の方に楽しく、そしてより当社に対する理解を深めてもらうように努めています。また私としても家族の方と直接お話しすることで、日ごろ当社に対して抱いている不満や要望などを聞けるので大いに役立っていますね。ただ最近は『もっと早く帰宅させてほしい』といった耳の痛い話をされて、頭を下げるケースも多いのですが（笑）」
このように、社員だけでなく家族に対しても定期的にコミュニケーションを図っていくことで、安心して生活してもらえるように取り組んでいるのも、同社ならではだろう。

オープンハウス開催時の様子。社長から子供まで終始リラックスしながら楽しいひとときを過ごしている

今後、今ある技術をベースに日本だけでなく、世界的な規模でビジネスを展開していきたいと山本社長は語る。
「当社は設立から10年、地域認証技術というほかにはない、オンリーワンの技術をもっていることが最大の強み。だから今後も地方にあるから、といったデメリットを感じさせないほど、大企業や世界を相手に積極的にビジネスを展開していくつもりです。そしてそのために今、当社が求める理想のエンジニア像として、AjaxやFlashなどを駆使して当社が提供するサービスのインターフェースを改善できるWebアプリ系、そしてISP出身者などネットワーク系、また当社のメインクライアントである金融系に精通した方などを求めています」
またその一方、今まで以上に地域に密着した経営を行うことで地元からも愛される企業を目指しているそうだ。現に今でも、仕事終わりに地元の祭りの練習に参加したり、消防団員として活躍しているエンジニア社員もいる。
地域に会社と家族が共に密着しながら、世界を相手にオンリーワンの技術で勝負できる環境は、都会に勤務するエンジニアにとって魅力的な職場ではないだろうか。

「とにかく地方でも、長く安心して働きたいエンジニアの方をお待ちしてます」と語る山本社長


	都会から地方へのUターン転職を希望するエンジニアは多い一方、地方に行ったら最先端の技術から取り残されてしまうといった不安をもつ人も多い。しかし今回紹介したサイバーエリアリサーチのように、オンリーワン技術で勝負している元気な企業もあるのだ。またエンジニア本人だけでなく、その家族も含めて長く安心して生活できる環境づくりに力を入れていることも、願望レベルだったUターン転職をより現実的なものに近づける大きな動機付けになるはず。都会だけにこだわらず、地方にももっと目を向けてみることが、よりチャンスを拡大させることになるのではないだろうか。