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ビジュアルTech絶景技術アルバムをめくれVol.5 【QUIZ】産廃生まれのエコ素材。これは何の粉?
従来のプラスチックと同じように成形が可能。使い勝手もほぼ同じなのに、焼却処分しても有毒ガスの発生はなし。しかも、なんとなくぬくもりのある手触り……。そんな不思議な素材に迫ってみた。
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:09.06.05
プラスチック? それとも天然素材?
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 一見、小麦粉のような白い粉。細かいうえに軽いので、「もし風にあおられたら、そのへんに真っ白にたちこめて、下手をしたら粉塵爆発ですよ」なんて脅されると、とてもコワいもののように思うけれど、何のことはない、その正体は「紙」である。
 紙といえばパルプ繊維が縦横にからんだシートというのが普通のイメージだが、これは古紙をおよそ50マイクロメートルの微粒子にまでグラインドしたもの。従来のプラスチックを代替でき、しかもプラスチックにはなかったさまざまなメリットをもつ新しい素材を作るもとになるのが、この「古紙パウダー」である。
 その新しい素材を開発・生産しているのが、株式会社環境経営総合研究所。同社を立ち上げ、技術開発についても共に携わってきたという松下敬通社長にお話を伺った。
モノづくりの“モ”の字もわからずにこの道へ
 同社が生産するのは、見た目はプラスチック、性質は十分に「紙」のそれを残した素材。そのミソとなっているのが、主に出版業で出る製本クズ・加工クズ〔写真2、3〕を材料にした、最初の写真にあるパウダーで、これを合成樹脂・でんぷんと合わせた発泡体材料を「アースリパブリック」、合成樹脂をバインダーとした成形材料を「マプカ」の商品名で世に出している。
 松下社長が40歳で独立創業した環境経営総合研究所は、その「経営」の文字が示すように、本来は環境ベンチャー企業を新規株式公開するまでサポートするコンサルタント会社として設立したという。

「当時は環境ベンチャー企業の出始めで、キラリと光る技術をもっているところも多かったけれど、どこもなかなか経営がうまくいかない。そんな企業をサポートするつもりで、金融業での経験を生かして起業したのです。しかし、最初のクライアントである企業の社長が出奔してしまい、手元に残ったのは担保としていた“おから”のリサイクルにかかわる特許だけ。いろいろ周囲で支援してくれた人にも申し訳なくて、モノづくりの“モ”の字もわからないまま、この道に飛び込んだのです」

 まずは現場の“空気”がわからなければ、モノづくりなどできない。というわけで、決心して最初に社長がしたことは、町工場での“修業”。
「ハタチそこそこの若いお兄ちゃんたちと一緒に、ツナギを着てオイルにまみれて機械いじりです。その後は原料メーカーにも行って、“こうやってモノを作るんだ”を一から勉強しつつ、唯一の足がかりをどう生かせるかを考えました」

 その特許とは、おからを粉末にし、樹脂材料と混ぜてリサイクルするというもの。しかし、これがなかなかうまくいかない。
「そのほかの食品関係の廃棄物もいろいろ試したのですが、どれもダメ。半ば諦めたころにたまたま出合ったのが、製本の過程で出る紙のクズ〔写真2〕でした。もらってきて細かくし、試すと“たまたま”いいものができたんです。確認すると、細かいぶん、残っている繊維が短くて再生紙には使えず、産業廃棄物としても厄介ものだという。量はたっぷり出て、ほかに使い道もない……原料として使うにはうってつけの条件でした」
写真2
「古紙パウダー」の原材料となる古紙クズ。製本の工程、断裁面の処理などで出る細かなクズで、軽量で空気中に舞ってしまうために焼却処理も面倒な廃棄物だった。
写真3
やはり「古紙パウダー」の材料だが、こちらはオフィスなどでも出る、パンチ孔のクズ。
そば屋の石うすをヒントに製造機械を自社開発
写真4
断熱材同様、でんぷんも混ぜた材料を水蒸気発泡させて作った「アースリパブリック」製緩衝材。家電製品などの梱包に使われている。
写真5
プラスチックの食器は多々あるが、それらも「マプカ」で代替可能。ここに挙げた箸のほかコップや皿もあり、電子レンジ使用もOK。
写真6
「マプカ」で作られたブロック玩具。一見、普通のプラスチックのブロックと変わりないが、なんとなくぬくもりのある手触り。
写真7
「マプカ」製のCD/DVDホルダ。モノづくり推進会議と日刊工業新聞社の共催による「“超”モノづくり部品大賞」の08年・環境関連部品賞を受賞している。
写真8
文房具は、現在、特に「環境性能」が注目される分野。「マプカ」製クリップは、軽量で錆びず、また外さなくても焼却できるのがメリット。
 しかし、これをどうやって原料として使えるようにするのかが、最初の課題。樹脂材料と混合・融解した後、成形機のノズルを通すには、原料の紙パウダーも十分に微細である必要があるが、これが、二十数社に問い合わせてすべて不可。結局、そば屋の石うすをヒントに、50マイクロメートルのパウダーを製造する機械・技術を自社開発した。その後も4度ほどの改良を重ねたこの機械は、現在6台が稼働中。残念ながらその姿は「社外秘」とのこと。

 最初に「製品」として出したのは、でんぷん・合成樹脂と混合し、水蒸気発泡を可能にした「アースリパブリック」。これは断熱材や緩衝材〔写真4〕として活用されている。その量産体制を整えるとともに、次に始めたのが、無発泡で従来のプラスチック製品の代替になりうる「マプカ」だった。
「古紙を再生紙として利用するリサイクルは、昔から当たり前にある。しかし、中には再生しづらい古紙もあり、再生できるのはせいぜい6割が最大だといいます。特に、繊維が細切れになった加工クズは再生しづらい紙の筆頭です。発泡材料だけでなく、通常のプラと同じように使えるものとして、その再生用途をさらに広げたかった。ではどんな樹脂を、どんな配合で、どう均一に混ぜるか。もと合成樹脂会社にいた技術者のおかげでレシピはでき、またそのネットワークで、中小の樹脂成形の工場にお願いして、いろいろと試作を重ねて完成したのが、これです」

「マプカ」の成分は重量比で約51%が古紙で、素材表示上も「紙」となる。従来のプラスチック同様に射出成形や押出成形などが可能で、耐水性もある。有害ガスを発生させずに焼却処分することができるのは「アースリパブリック」も同様だ。

 そんな素材を使ってまず作られたのが、容器や箸〔写真5〕、櫛など。食器では、一部のプラスチックと違い、電子レンジに入れても、変形・溶解しないというのもメリットのひとつ。さらに、玩具の組立ブロック〔写真6〕や換気扇用フィルタ、釣り糸のリール、CD/DVDホルダ〔写真7〕、文房具など、その用途は拡大しつつある。
 CD/DVDのホルダはプラスチック製が主だが、よく使う人はご存じのように、ノッチの部分を中心に意外に壊れやすいもの。しかもCD/DVDは、書き込み可能な媒体としても大量に使われるため、実はホルダも「大量消費・大量廃棄」されるものでもある。

「そして最近、特に問い合わせやリクエストの多いのが、文具の分野ですね。身近に使うものだけに、文具に対するエコ度の関心も高い。そのひとつがこのクリップ〔写真8〕ですが、ほかにもいろいろ代替できるものは多い。『もっと曲げ強度がほしい』『耐衝撃度はどうか』など、われわれももっと今後の工夫が必要になりそうです」
数少ない「MADE IN JAPANの素材」として海外へも
 いいこと尽くめのような新素材だが、「プラスチックのように成形可能」とはいえ、やはり違う素材なりのクセのようなものはある。

「まずは、温度管理が難しいこと。通常の合成樹脂の射出成形ではペレットを220℃程度で融解させ流しますが、マプカの場合、そこまで温度を高くすると紙の中の糖分由来の焦げ臭が出る。流動性も従来のプラスチックに比べ若干劣ります。
 そこで、当社では単に材料を製造するのではなく、金型の作り込みや温度管理などの成形ノウハウも開発し、ユーザーの皆さんへの技術指導も行っています。プラスチックの成形の現場は頑固な方も多くて、なんでも普通のプラと同じようでないと納得しない、という場合は『なんだ、違うじゃないか』と言われてしまう。けれど、『この材料はいったいどんなものなんだ? いろいろ試してみようじゃないか』という人だとうまくいくし、高く評価していただけますね。
松下敬通氏
松下敬通氏
株式会社環境経営総合研究所
代表取締役社長
 成形温度が低いことには、成形機のランニングコストを下げ、製造過程でのエネルギー消費を削減するメリットもあるんです」

 今は、とにかくできるだけ、既存のプラスチックを置き換えていけるように普及に尽くすのが最大の課題とか。
「日本のプラスチックは、単に原料に石油を使うというだけでなく、添加剤のかたまりでもある。その添加剤にもまた溶剤が使われるので、環境性能はますます悪くなるし、添加剤のために廃プラの再利用も難しい。われわれのマプカは材料もシンプルで、回収できればまた次の製品に混ぜることもできる。MADE IN JAPANといえば最終製品が多いけれど、その中では数少ない『素材』として、海外へももっと販路を広げたいですね」
取材協力 株式会社環境経営総合研究所
次回予告 次回の掲載は7月中旬です。 どんな技術のアルバムをめくるか、鋭意取材中。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
仕事で印刷所や製本所へ頻繁に出入りしていたころ、断裁・化粧裁ち・ガリ入れなどさまざまな工程から出る屑や紙粉は、「身近なゴミ」でした。あのゴミが、こんな製品に必須の「原料」になるとは、B印刷のC社長も、K製本のK専務(社長の息子)も、思ってもみなかったことでしょう。

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ビジュアルTech 絶景技術アルバムをめくれ

機能美あふれる技術製品を、表から裏から、遠くから近くから、多数の写真で徹底的にご紹介。百聞は一見にしかずです。

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