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ビジュアルTech絶景技術アルバムをめくれVol.4 最長62mの腕をもち70tを吊上げる大型クレーン車
今回の主役は、「働くクルマ」の中でも人気のクレーン車。実際に間近に見ると、その大きさもさることながら、機能に特化した研ぎ澄まされた“美しさ”が。そんなクレーン車の最新鋭の車種に迫ってみた。
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:09.04.21
迫力の70t吊りクレーン車は足回りも最新鋭!
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 精悍な機能美、特殊な用途に合わせた面白いカタチや凝った機構、迫力あるボリューム感……。建設・土木などの現場で見られる「働くクルマ」たちには、メカ好き人間を惹きつけてやまない魅力がある。検索エンジンを叩けば、いくつもファン・サイトがヒットするのはうなずけるというもの。

 今回は、そんな「働くクルマ」のなかから、いざ出番となれば、左右に大きく脚を踏ん張り、長く長く“腕”を伸ばす――“変形メカ”の魅力も十分のクレーン車にスポットを当ててみた。訪ねたのは、クレーン車や油圧ショベル、アースボーリングマシンなど、建設・産業用など特殊車輌のリーディング・メーカーとして、知る人ぞ知る株式会社加藤製作所の茨城工場。特にクレーン車の生産を受け持つ中心工場である。

 SL-700Rは、その最新鋭の車種。ラフテレーン・クレーン(ラフター)と呼ばれる、不整地や狭い場所での機動性に優れ、運転用とクレーン操作用のコックピットが共通のタイプで、クレーンの能力(最大吊上げ荷重)は70t、4軸8輪の足回りをもつ。分解せずに公道上を走れるクレーン車としては、国内最大の車輌でもある。
厳しい制約の下、より優れた性能を追求
「クレーン車は重い荷物を地上高く吊上げるという、危険で重要な仕事を担う車種。それだけに構造、強度、操作法など、『安全』に関して、法律的にも厳重に規制がかかっています。
 移動式に限らず、3t以上のクレーンを生産すること自体が許可制ですし、作ったものは1台1台国の検査が行われます。また、クレーン車の中でも公道を走れる車種に関しては、自動車としての法の適用を受けます。仕事の目的上、自動車の基本的な制限内に収まりにくいものが多いのですが、その場合は基準緩和をうけて走行しています。
 一方で、土木建築工事自体の大型化で、クレーンに要求される性能はますます高くなっている。そこを、どうバランスさせるか。難しいけれど、やりがいのある仕事です」(加藤製作所・設計第一部部長、岡田美津男氏)

 クレーン車は、大きく3種に分けられる。大型の自動車車体に、運転席と別に操作席をもつクレーンを備えた「トラック・クレーン」、広義にはトラック・クレーンに含まれるが、大型で強靭な足回りをもつ「オールテレーン・クレーン」〔写真2〕、不整地対応の足回りをもち、運転席と操作席が共通でそのまま公道上も走れる「ラフテレーン・クレーン」である。
「トラック・クレーンでは、国産としては最大の500t吊りのものを生産した実績もあります。ただし、これらは非常に大型なので、輸送時にはクレーン、上部旋回体、車体と、3分割する必要があります。一方でラフテレーンは一体のまま公道上を走れるので取り回しがよく、街なかでの工事などにはこちらが主力。しかしこれも、“ブームはより長く、吊上げ荷重はより重く”という強いニーズがあります」(岡田氏)

 これまでのラフテレーンの足回りは2軸が主だったが〔写真3〕新型のSL-700Rは4軸〔写真4、5〕。70tという、このタイプで最大の吊上げ能力をもちつつ、全体重量を抑えるだけでなく車輪ごとにかかる荷重も分散させ、特に橋が多く重量制限に厳しい日本の都市部での使用に対応するために導入された新機軸である。
「クレーン車は狭い現場での取り回しも考え、さまざまな走行モードをもっています。そのうえで、公道上を長距離、安定して走る必要もある。多軸の場合、操作も制御もそれだけ複雑になるので、操作の切り替えやロック機構、3重のセーフティ機能など、これまで以上に新しい技術の投入が必要でした」(岡田氏)
写真2
加藤製作所で現在生産されている中では、最大の300t吊りクレーン、KA-3000。運転席とクレーン操作席が別のオールテレーン・クレーンで、公道移動時は3分割される。
写真3
65t吊りのラフテレーン・クレーン、SL-650R。SL-700Rの先行車種で、2軸式としてはなお最大級。
写真4
SL-700Rは排気量12,882cc、三菱製6気筒ディーゼル・エンジンを搭載、全重量約41tで、最高速度49km/hで走行可能。
写真5
公道走行モードのSL-700R。公道走行時は、フック部分が揺れないよう車体に引っ掛けて固定される。
70tを支えるブームの鋼板は最薄部で4mm
写真6
4軸でもゴツいタイヤ。「多軸車は“まっすぐ快適に走らせる”ための工夫が大事。基本設計だけでなく、実際に試験して、五感による調整が重要になってきます」(羽中田氏)
写真7
ハイドロ・ニューマチック・サスペンションは車高の調節も可能。起伏の多い場所では車高を上げて(写真左)地上高をかせぐ。縮める(写真右)操作は、クレーン使用時にアウトリガーを張り、車輪を地面から引き上げる役も。
写真8
アウトリガーは、運転席でも車外パネルでも操作可能。4本それぞれが6段階の長さに設定できる。
 この多軸の足回りは、ステアリングひとつとっても、全輪が同じ方向を向くクラブ(かに)、前後輪が逆向きになり回転半径を小さくするカウンタ、あるいは前2輪だけ、後ろ2輪だけを選ぶこともできるなど、動作が多彩。長大な車体からはにわかに想像できないほどの自在な動きができる。
 ブレーキは各車輪に空気式のものを備えるほか、駐車時用に、2、3軸めのブレーキにはスプリング式も兼ね備える。陰になって見えにくいが、写真6車輪裏にかすかに見える円筒形が、この空気式+スプリング式のブレーキ動作部〔写真1〕2枚目も参照)。また各車輪はハイドロ・ニューマチック(油気圧式)・サスペンションで懸架され、上下8.5cmずつの範囲で車高を制御できる〔写真7〕

「クレーン車は、クレーン操作時には地面の上にアウトリガーを張り〔写真8〕、ブームを長く伸ばして作業を行います。当然、下が重く、上が軽いほど安定します。
 SL-700Rの場合、ブームを最大に伸ばしたときの長さは44.5mもある。ジブを合わせ62m以上で、住宅用のフロア高なら20階建てまで対応できます。これだけ、細く長くなると、また、安定を求めて軽量化すればなおのこと、どうしても“しなり”が発生してしまうのですが、そうなると吊り下げた荷物の据え付け時にズレが大きくなる。
 これらを考え合わせて、クレーンにはより高い荷重に耐える高張力鋼を多用。断面形状などにも工夫して、軽量で、高強度で、しならない剛性を併せ持つように設計しています。これだけの大きさのブームですが、使用している鋼板の厚さは、厚いところでも7mm、薄いところでは4mmしかないんですよ。
 車体も、それだけの荷重を支えるわけですから、シャーシなどは普通の車輌とは比べ物にならないくらいガッチリしています」(岡田氏)

 大きな形態の変化はないように見えて、確実に、徐々に進化しているクレーン車。先に触れたように規制や安全性と性能の関係でも、またクレーンや車体など個々のメカニズムの関係においても、重要なのは“いかに優れた機能を満たしたうえでバランスさせるか”だという。もちろん、解析技術も進化している現在のこと、さまざまなシミュレーションも導入しているが、経験則が占める要素も大きいという。
「そこで大事なのが、実際にモノを作った後の評価、チューニングです。そんな実験を担当するのが、われわれ工場の研究部。クレーンの操作は非常に神経を使う、疲れる仕事ですが、その負担をいかに軽減できるか。また、現場での柔軟な走行モードに加えて、長距離の走行をどう簡単・安全・安定したものにするか。このへんは、数値上いいものが必ずしもベストではない場合があるんです。もちろん、より解析技術が正確なものになるよう、こうした経験値のフィードバックも行います」(茨城工場・研究部課長代理、羽中田守氏)
必ず、次には「今はないもの」を作れる!
「クレーン車というのは、機械として歴史の長いものです。そこに、基本的には大きな変革はないにしても、着実な性能の向上、そして何よりも高い安全性が要求される。それをいかに確保するか。やはり大きな機械だけに、例えばひとつアタッチメントを付けるだけでも大掛かりです。
 さらに現在では、高い環境性能も求められます。ハイブリッド化やモータ化なども検討課題には上りましたが、さすがにこれだけ大きい車輌ではあまり現実的でないかもしれません。しかし少なくとも排ガスや騒音の低減は重要。その追求は欠かせません」(岡田氏)

 もちろん仕事である以上「開発」には期限がある。そんななかで、危険な作業を受け持つ機械をどう確実で信頼性の高いものにまとめるか。常に緊迫感があり、体力的、精神的にも消耗する仕事なのは確か、という。
岡田美津男氏
岡田美津男氏
株式会社加藤製作所
設計第一部 部長
「しかも、さまざまな要素がかかわりあう機械ですから、例えば自分の専門が油圧の制御であったとしても、その分野しかわからない、全体を見通せないというのでは、検証のしようがないんですね。
 けれど、さまざまな機種の一部分だけでなく、ひとつの車輌丸ごとにかかわれる――その難しさこそが、面白さでもある。また、同業他社が少ない分、頑張ればトップを目指せるのも魅力です」(羽中田氏)
 単にライバル社と優劣を競うというだけでなく、「自分は、世の中で“いちばんいいモノ”を作っているんだ」という誇りを目指し、たどり着くことができる。確かにそれは、エンジニアとしてこのうえなくうれしいものに違いない。

「どんな分野の技術でもそうだと思いますが、開発には決して終わりがない。どんなにいいものを作っても、その先には必ず、“今はない、もっといいもの”がある。常にそれを目指して頑張りたいですね」(羽中田氏)
取材協力 株式会社加藤製作所
次回予告 次回の掲載は5月中旬です。 どんな技術のアルバムをめくるか、鋭意取材中。
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