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発見!日本を刺激する成長業界2 モバイルビジネスが広告もゲームも変えていく
「ケータイでネット」時代の今、モバイルビジネス市場が急伸している。エンターテインメントからネットショッピング、広告など、サービス開発もヒートアップ。今回は特にモバイルのゲームと広告配信について取り上げた。プログラマにもSEにも見逃せないジャンルだ。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/高橋マサシ 撮影/関本陽介)作成日:09.03.18
1兆1400億円の市場(2007年)が分野別に規模拡大
 iモードがリリースされてから10年が経過した今日、モバイルビジネス市場が急速に伸び始めた。Eコマース、モバイルゲーム、着うた配信といった個人ユーザー向けサービス、またはモバイル広告配信やアフィリエイト、セキュリティなどのサイト運営者に向けたビジネスソリューション提供など、サービスの種類も多様化している。
 総務省の調査によれば、2007年時点のモバイルビジネスの市場規模は国内だけで実に1兆1400億円、前年比の23%増だ。分野別では、調査会社のシード・プランニングがモバイル広告市場を2007年の815億円から、2012年には3倍の2500億円規模に拡大すると予測。モバイルゲーム市場では矢野経済研究所が、2007年の約1000億円から2011年には1700億円に成長すると予想している。まさにこれからが市場成長の本番なのだ。
モバイル広告市場規模の推移(2009年版)
グリー 自社開発ゲーム配信でコンテンツビジネスが加速
 モバイル向けSNSに早くから力を入れてきたグリー。昨年は東証上場を果たすなど業績は絶好調だが、その原動力のひとつがSNSと連動したモバイルサービスの提供だ。中でも4本のSNS連動型自社開発ゲームは、サービスの活性化に大きく貢献している。
成長の源はコミュニケーションツールとしてのモバイルゲーム
クリノッペの着せ替えバージョン8点
クリノッペの着せ替えバージョン8点
 現代の新しいサイバーコミュニケーション空間として定着した感のあるSNS。特に好調なのは、携帯人口の増加で利用者が急増したモバイルSNSだ。その大手企業であるグリーは今年1月に2008年10〜12月の四半期決算を売上高29億円、営業利益18億円と発表。前年同期に比べて5〜6倍という飛躍の原動力となったのが、ゲームなどのモバイルサービスだ。
「2〜3年ほど前からPCからモバイルへの移行が加速し、業績も堅調に推移するだろうと予測はしていました。ただ、今日のモバイルサービスの伸びは予想を超える勢いです」
 グリーの取締役執行役員CTOでプラットフォーム開発部長を務める藤本真樹氏は、モバイルSNSの状況についてこのように語る。
「ユーザーは昨年末時点で800万人を超え、1000万人も目前に迫ってきています。当初は若年層に偏るのではないかと見ていたのですが、フタを開けてみると20代と30代を軸に10代から40代まで、ユーザー層はかなり幅広い。アクセスがPCからモバイルへと流れるのは、もはや止めようがないと感じました」
 今や国内最大級のSNSとなったGREE。SNSと連動したモバイルゲームは、それだけでなく、多数のユーザーの満足度を維持、向上させるという点でも、極めて重要な役割を果たしているという。

「弊社のモバイル向けゲームコンテンツの中でも、特に人気があり成長の要因となっているのが『踊り子クリノッペ』『釣り★スタ』『探検ドリランド』『ハコニワ』で、いずれも自社で開発しています。この4本は、単にゲームで遊ぶだけでなく、ユーザー同士でさまざまな交流がもてるように開発しました」
 GREEのみならず、モバイルSNS業界全体の動向を見ても、ゲームは間違いなくキラーコンテンツのひとつとなっている。そのモバイルゲーム開発の世界に、例えばビジネス系などからの、畑違いのプログラマが飛び込むことはできるのだろうか。
「できると思います。弊社にもさまざまなバックグラウンドをもつエンジニアが数十人いますが、必ずしも全員がウェブサービス開発の経験者とは限りません。もちろんウェブサービスを開発するのが好きであることは大前提ですが、高度なスキルよりも素晴らしいサービスを提供したいという熱意が重要。また、弊社のサービスは非常に規模が大きいため、大容量トラフィックが必要となるサービスの経験者は、畑違いの分野であっても、これまでの経験を生かして活躍できると思います」
 モバイル向けSNSは今、第2のブレイク期に差しかかっており、エンジニアの人材ニーズもさらに増えることが予想される。エンドユーザーに直結したウェブサービスを手がけてみたいというエンジニアにとっては、まさに今がチャンスと言える。
藤本真樹氏
取締役 執行役員CTO
プラットフォーム開発部長

藤本真樹氏
キモかわいさが受けた!? 人気の「クリノッペ」誕生秘話
踊るクリノッペ
踊るクリノッペ
「釣り★スタ!」のモバイルサイト
「釣り★スタ!」のモバイルサイト
 グリーが展開する4つのSNS連動型ゲーム。その中で最も特異な存在感を放っているのは、いわゆる「育てゲー」に属する「踊り子クリノッペ」だろう。顔のない、人ともヒヨコともクラゲともつかないデジタルキャラクターのクリノッペを飼育し、いろいろな服を着せたりメーキャップをしたり。踊り子だけにダンスも得意だ。
 ほのぼのとしたゲームだが、完成するまでには実は苦労が多かった。開発を担当したメディア開発部プロデューサーの荒木英士氏は語る。
「企画が立ち上がったのは2007年春でした。ちょうど女性ユーザーのサービスを活性化したいということで、女性に喜んでもらえるようなコンテンツをつくろうと考えました」
 しかし、いくつも上がってきたキャラクターの中で、クリノッペはいちばんの不人気だったという。
「4〜5人のデザイナーに声をかけて出された案の中で、クリノッペは街頭アンケートでも社内でも『かわいくない』『キモい』と、本当に評判が悪いキャラクターでした。しかし、評判が悪いからこそ印象に残ると考え、最終的には直感で決めました」
 こうして荒木氏の押しで開発が進められた結果、クリノッペが人気ゲームとして日の目を見ることとなったのである。

 このクリノッペ、デザインさえ固まれば仕様策定からコーディングへとスムーズに開発ができてしまいそうだが、実はモバイルゲームならではの意外な難しさもあった。
「キャラクターを動かしたり、髪、顔、服、アクセサリーなどを着せ替えられるようにするのに、意外に手間取りました。基本的にはFlashですが、PCならば簡単にできるものがモバイルでは難しかったりする。例えば、クリノッペと服などの複数の素材をどう合成したらよいかなどです」
 最終的には、アニメーションはFlash、服を着せたり成長させたりというアクションはWebアプリというハイブリッド方式で解決したのだが、「Flashでの処理は一部で、残りはサーバ側でさまざまなアクションをプログラミングする」という作業を繰り返したという。
 さらに、膨大な数のアクティブユーザーのデータを、サーバ側で処理する必要が出てくる。リアルタイムでは追いつかないため、非同期で処理する方法を採用したのも工夫のひとつだ。
 人によっては、ゲームにそこまでやるかと思うかもしれない。だが、荒木氏はゲームづくりに、大いにやりがいを感じるという。
「私はエンターテインメント全般に興味があるのですが、中でもゲームはとても魅力的なコンテンツ。1億人というオーダーで使ってもらえるものを開発するのが夢です。生活の中にそれがあると楽しいなと、みんなから思ってもらえるようなゲームをつくりたいですね」
荒木英士氏
メディア開発部 プロデューサー
荒木英士氏
サーチテリア サイトにマッチする広告配信技術で市場をリード
 モバイルサイトへのアクセス数が増加する中、市場が急成長を見せているのがモバイル広告分野だ。PCサイトに比べて1画面当たりの情報量が少ないことから、マッチングの高い広告をどう適切に配信するかが課題。「老舗企業」であるサーチテリアは、ユーザーの性別を推定して広告を的確に配信する新技術を開発した。
クリエイティブ能力が拡大させる広告配信市場
「EXILE」の検索で表示された広告
「EXILE」の検索で表示された広告
「広告業界ではテレビ、新聞、出版といった既存のマスメディアのバリューが下降していますが、インターネット接続機能をもつ携帯端末は、非常にポテンシャルの高いニューメディアととらえています。既存メディアに出稿していた広告の受け皿として、広告代理店からも熱い視線を浴びており、モバイル広告市場はさらに拡大するという手応えを感じています」
 2004年にモバイル広告企業として設立されたサーチテリアの三浦光取締役は、市場の将来性についてこう語る。同社は現在、検索エンジンに入力されたキーワードを解析して関連性の高い広告を表示する「サーチテリアリスティング」と、広告主とメディアを仲介するアドマーケットプレイス型の「OPAST」(オーパスト)の2つのサービスを展開している。設立当初に年2300万円だった売上高は、2008年には10億円を超えた。
 例えば、サーチテリアの広告配信システムが実装された検索エンジンで「EXILE」と入れて検索すると、着うたやファンサイトの広告が表示される(上の写真)。また、サイトの特性に合わせて、効果が高いと思われるバナー広告を表示する機能もある(下の写真)。
 この1月には、両サービスに新機能「属性推測ターゲティング」と「行動ターゲティング」をアドオンした。どちらも携帯電話のID機能を利用した技術で、前者は広告クリックの履歴によってユーザーの男女判定を行うアルゴリズム、後者はクリックした広告の種類によってユーザーの趣味や志向を割り出し、マッチングの高い広告を個別の端末に配信するシステムだ。

「モバイル広告市場が成長する中、個々の広告効果を上げるのは市場をリードするうえできわめて重要な要素。そういう視点でシステム開発を行える人材が求められています」
 三浦氏は、効果の高いモバイル広告システムを生み出すにはもちろん一定の技術スキルが必要だが、最も重要なのは「何をすればよりよいビジネスモデルができるかを考えられる発想力」であるという。
「スーパープログラマのニーズは大いにありますよ。ですが、基本的にはコミュニケーションスキルが欠かせません。また、当社をはじめモバイル広告企業は、システムの開発だけでなく運用も行う自社サービス志向が強い。一貫した自社製作は受託開発より面白いと思いますが、その分スキルだけでなく、クリエイティブも要求されます」
 モバイル広告のプログラマやSEになるための最低要件は、携帯やPCを問わずWebサイトの構築経験があること。また、膨大な量のデータ解析を行うため、サーバなどのインフラを手がけたことがあればなお適合性が高い。データベース系のPHP、MySQL、Javaなどのスキルも有用だ。
「携帯電話の将来技術などにも目配りする必要があります。いろいろな技術が実用化されるたびに新しいことが可能になるため、それを先取りしていくことが肝心。やはり企画力がモノを言う世界なんです。そういう仕事をしたいエンジニアにとっては、大いにやりがいのある世界だと思いますよ」
三浦 光氏
取締役
三浦 光氏
発想の転換から生まれた「ターゲティング機能」開発
サイトの上部に表示されたバナー広告
サイトの上部に表示されたバナー広告
別のバナー広告
別のバナー広告
 サーチテリアが今年1月に発表した「属性推測ターゲティング」と「行動ターゲティング」。広告のクリック履歴によってユーザーの性別や志向を推測し、マッチングの高い広告を配信するというシステムだ。
「例えば、女性ユーザーに男性用商品の広告を配信しても、広告効果は薄いですよね。もしサイトを閲覧しているのが女性だと特定できれば、台所用品など女性にマッチした内容を配信してクリック率を上げられるのではないか。これが着想のポイントでした」
 こう語るのは、開発を担当した情報システム部の中野英行部長。モバイル広告に限らず広告は、受け取る相手の属性や志向が明確であればあるほど効果が上がりやすい。「誰が見ているのか」を知る技術は、広告主や広告代理店にとってノドから手が出るほど魅力的なのだ。

 問題はどうやって閲覧者の情報を知るかだが、PCの場合は閲覧者が入力した検索キーワードや、開いたサイトに書かれているテキストを解析することで、相手の志向を推測するシステムが普及しつつある。
「ところがモバイルサイトの場合は、サイトのテキスト量が少ないこともあって的確な解析が難しいんです。そこで私たちはサイトの文脈を読ませることをやめ、むしろバナーをクリックするという、ユーザーの行動を解析したらどうかと考えたのです」
 キーワードやテキストではなくバナークリックに注目したのは、インターネット広告におけるユーザーリサーチとしては逆転の発想。しかし、試してみるとなかなか効果的であることがわかってきた。

「携帯端末のID機能と独自の解析プログラムを使って、数百万というユーザーのバナークリック傾向を解析しています。もちろん100%正確に判別できるわけではありませんが、正確性はかなり高いと自負しています。広告効果を上げるには、実はそれで十分なんです」
 中野氏は大学卒業後、最初はIT系企業で営業や販売などの企画部門で働き、後にネットワークやルートハブなどのハードウェア開発、PCのWebアプリケーション開発などを経てサーチテリアに入社した。
「モバイルアプリの開発は初めての経験でした。最初は『へーCookieが使えないんだ』というレベルでしたが、Webアプリの経験さえあればハードルは高くなかったですね。特許出願中の解析プログラムの開発からサーバ構築まで、システム開発全体を社内で行っているのですが、企画、ハード、ソフトを横断的に経験したことがむしろ大いに役に立ったと思います」
 ターゲティングのシステムはプログラミング言語にPHP、Perl、データベースはMySQL、OSはRedHat Linuxと、きわめてオーソドックスなもの。
「何も最先端技術を使う必要はありません。もちろん技術やスキルは大事ですが、それ以上に柔軟な発想力が求められます」
 ターゲティング機能以外にもさまざまなシステムの構想を練っているが、詳細はヒミツだそうだ。アイデアがあれば進化の余地は無限大というのが、現在のモバイル広告ビジネスなのかもしれない。
中野英行氏
情報システム部 部長
中野英行氏
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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
この取材で「踊り子クリノッペ」をはじめて知ったのですが、もう、かわいい! 水飴を主食とし、ダンスが得意で、着せ替えもできるこのキャラに、私はほれてしまいました。あまり強調するとヘンな野郎と思われそうですので、記事の話を。「モバイル市場」はあまりに大きく魅力的なマーケットですので、続編を計画中です。お楽しみに!

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