今日の味方は明日の敵…職場の八方美人エンジニア

誰にでもいい顔する人って、いますよね。クライアントや上司の依頼を安請け合いする調子のいいエンジニアの陰で、きまじめなエンジニアが涙していることがあるようです。今回は、悪気はないけど職場に混乱を引き起こす要注意人物、「八方美人エンジニア」にフォーカスしてみました。

（総研スタッフ／タニー只野　イラスト／早川　修）作成日：09.01.26

　本来、「八方美人」とは、誰に対しても上手にお付き合いすることができる人を指す。しかし完璧な人間はいないということなのか、この言葉、悪い意味で使われるケースがとても多い。さて、エンジニアが「八方美人だ」と感じるのは、一体、どんなときなのだろうか。
　まずは実態を把握するため、エンジニア300人にアンケート調査を行った。誰とも摩擦を生むことなく、業務をスムーズに進められることは理想だが、クライアントとの力関係や職場の人間関係、業務の質や量などさまざまな要因が絡み合い、全方位で評価を得ることは難しい。アンケートから浮かび上がった「八方美人」なエンジニアを分類し、タイプ別に検証していこう。


			クライアントや営業から要望されると、むちゃな納期でもノリノリで引き受けてしまう困った人。受けた依頼は自力で解決しきれずメンバーにむちゃ振りする。仕事を取ってくるので社内評価は上々だが、メンバーのモチベーションは下降線。						メンバーの意見は聞き流し、上司や偉い人の前では口だけアピール。油断すると、懇意な上司を通じて仕事を周囲に振るなどするため、常に気が抜けない人物である。仕事を回避していても上司の評価は高く、また、意見は玉虫のようによく変わる。


			性格は非常にまじめで、プレッシャーを受けると断れない。丸め込まれて仕事を抱えてしまい、見かねた周囲が手伝うこともしばしば。しかし、頼みやすく否定をしないため、周囲が目を光らせてさえいれば職場のムードメーカーとして重宝される人材でもある。						仕事では戦力外のため、こまめな社内コミュニケーションに全労力を注いでいる。愛想がいいので、飲み会や職場の雰囲気づくりには重要な存在である。誰に対しても返事はよく常にニコニコしているが、興味のない話は聞いていないことが多いようだ。

　4つのタイプに分けられた八方美人エンジニア。では実際、彼らは職場でどのような問題を引き起こすのか？　ここでは、職場で起こったエピソードと対処法を順にご紹介していく。

■ 命を削って作業しても、評価はすべてリーダーに

一次請け企業のリーダー。顧客から要望が出ると、何でも「できます！」と短納期で快諾してくる。文句を言うと「だってもう請けちゃったから」と言われておしまい。こちらは二次請けなので反論にも限度があり、仕方なく命を削って作業し、どうにか間に合わせてホッとするも、また何かを“快諾”してくる……。短納期開発なので顧客には評価が高いが、すべてリーダーの力だと思われている。
（35歳　男性　システム開発）

■ サポート対象外を引き受けないで！

システムやアプリケーションに関する問い合わせを受けているが、なかにはサポート対象外の依頼もある。本来は丁重にお断りをしなければならないのに、熱心に引き受けるチームメンバー。後日、問い合わせに対し私たちがお断りすると、「冷たすぎる」と逆切れされて本当に困る。
（39歳　男性　社内システムテクニカルサポート）

簡単にできそうな内容でも、本当に要件定義が間違っていないか、何度も念押しする癖がついた。（38歳　男性　システムエンジニア）
中間報告を頻繁にして、自分の仕事負荷や現状をリアルタイムで理解してもらうようにしている。（30歳　女性　エンジン部品の金型設計）
仕事を頼まれそうになったら、とにかく作業範囲と期日を明確にすること。無理なときは笑顔で「ムリ！」と言う。もともと人はいいので、それで悟ってもらえることもある。私は人に仕事を振るのが苦手なので、自然な仕事の振り方は見習いたい。25歳　女性　医療系パッケージシステムの構築、保守）

■ 上司が指摘したら態度急変

開発チーム内では、自分の設計を自画自賛し、指摘をしてもまったく受け入れようとしない。しかし、上長や他部署が同じ指摘をすると、「自分もそう考えているので、絶対に変更します！」などと言っている。チームではまったく話を聞かないので困っているが、上司からは積極的に仕事に取組んでいると思われている。
（35歳　男性　産業機器の開発リーダー兼制御設計）

■ 責任は相手に、評価は自分に

二人のプログラマで開発した部分に、仕様の間違いが発覚。先方には「別の担当が」と責任転嫁し、社内には「自分が担当したので直します」と報告。自分の株をなんとか上げようとしているのが垣間見えた。
（28歳　男性　システムエンジニア）

対外的に仕事をもらう場合は評価につながるのでいいが、仕事の処理を上手に行わなければ部下から評価されないことが身をもってわかり、反面教師として参考にしている。（31歳　男性　品質管理、データ処理）
その人物の上司や部下、顧客とのコミュニケーションを密にし、情報を入手することで、真実や実態を把握するようにしている。（31歳　男性　金融系システムデザイン）

■ 断れずに抱えた仕事は納期寸前

一応上司なのだが、クライアントのわがまますべてを受け入れてしまい、自分で裁ききれないほどの仕事を抱え込んでしまった。さすがに終わらせることが不可能なことに気付き、周囲にも仕事を割り振る始末。期限を聞くと明日、明後日の仕事ばかり……。仕方ないので徹夜で終わらせたが、残業代はすべてカットでした。
（30歳　男性　電気回路の設計）

■ 部下と上司の板ばさみ

業務に対する疑問を上司にぶつけたところ、よい返事(YES)を出したので安心していたら、その後、役員から反対意見が出たが、そこでもYES。結局どちらにもNOと言えないまま、ズルズルこう着状態が続き、全然仕事が進まなかった。
（35歳　男性　ネットワーク設計）

スケジュールなどはあらかじめ、先にリスクを多めに乗せて話をする。（30歳　女性　設計）
どんな場合でも、断らないことはすごいと思うので、目的や体制、実施時期などをはっきり決め、実施できるようにネゴシエーションを取っておく。（29歳　男性　設計・製造・試験）
自分の作業に影響がないことは普通に会話をするが、自分の作業に影響がある部分は、業務チームリーダー同席の上で話すようにしている。（34歳　男性　システム設計）

■ 作業はメンバー、トークはリーダー

隣のチームリーダー。自分の作業を極力減らしてメンバーに仕事を押しつけ、ほかのチームメンバーとおしゃべりばかり……。大変なプロジェクトだったので、愚痴を聞いてもらえると助かる人も中にはいたようだが、メンバーはいっぱいいっぱいになっていた。話し好きなのもあって、お客様にも好評だったがメンバーはかわいそう。
（31歳　女性　家電の組み込みエンジニア）

■ 飲み会よりも仕事してくれ

社内・社外問わず誰にでもすぐ話し掛けて、｢今度飲みに行こう｣が口癖のチームメンバー。社外の人からは親しみやすいと思われているが、フラフラしていて仕事は一向に進んでいない。トラブルが発生した際、客先から彼あての電話がひっきりなしに掛かってきたが本人はどこかに行ってしまい、仕事にならなかった。
（34歳　女性　社内システム）

無駄に対立せず、時として軽いジョークを交えながら、理論的に相手がメリットを感じるように話を進めること。（37歳　男性　システムエンジニア）
何かあったときはいい加減な情報に流されず、まず事実関係を確かめる。また、本当にしゃべられて困ることは、その人に言わないようにしている。（29歳　男性　プログラマー）

　最後に、アンケート調査で挙げられた「八方美人」エンジニアと回答者との関係を聞いてみたところ、「上司・先輩」が53％、「同僚・チームメンバー」が22％、「部下・後輩」が13％という、職場の人間関係をテーマにしたＴｅｃｈ総研の調査ではおなじみの結果となった。同僚や部下なら働きかけもしやすいが、相手が上司や先輩だと指摘や回避することは難しく、それだけにストレスに感じる人も多いのだろう。

　興味深いのは、ごく少数ながら「自分」と回答したエンジニアがいた点か。自分への依頼に対し、強く断りきれず自省しているエンジニアもいるようだ。だが、「八方美人は、上手な人であればコミュニケーションの達人とも言える。ある意味マネジャー職にも欠かせない要素だと考えている。自分はそれを目指したい。（37歳　男性　システムエンジニア）」という回答に見られるように、「八方美人」であることを前向きに受け止め、コミュニケーション能力を練磨することで、エンジニアとして成長していけるのも確かである。もし、周囲に「八方美人」だと感じる人がいるならば、コミュニケーション方法を参考にしてみるのもいいのではないだろうか。