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iPhoneにWii、GT‐Rにストリートビュー…栄冠は誰の手に? 大賞はあの携帯開発者 エンジニアオブザイヤー2008
「2008年、最も活躍したエンジニアはだれなのか?」年の瀬もせまったこの時期に今回、Tech総研が満を持して開催する『エンジニアオブザイヤー2008』。栄えある第1回のグランプリ受賞者は?
(総研スタッフ/山田モーキン)作成日:08.12.03
はじめに『エンジニアオブザイヤー2008』とは?
今回、20代〜40代までの一般エンジニア800人に「2008年、最も活躍したと思うエンジニアは誰ですか?」というアンケート調査を実施。ただしここでいうエンジニアとは、ある著名な個人だけを対象にしたものではなく、例えば「今年ヒットした○○製品を開発したエンジニア」といった回答も含まれる。
アンケート結果を集計後、上位10人のノミネート候補を選出してから今回、「特別審査員」として過去、Tech総研レポートに登場した著名エンジニア7人に、審査していただいた。具体的にはノミネート候補の中から各々、「ベスト3」を選出していただきその結果と、アンケートの結果を合算してグランプリを決定した。
2008年、今年も数多くのエンジニアたちが各分野で活躍した中、グランプリの栄冠に輝いたのは誰か? 早速、発表しよう。
2008 エンジニアオブザイヤー 特別審査員メンバー
高橋智隆氏 高橋智隆氏
ロボットクリエイター
ロボ・ガレージ代表


過去登場レポートはこちら
富田拓朗氏 富田拓朗氏
コードクリード株式会社
代表取締役CEO


過去登場レポートはこちら
稲見昌彦氏 稲見昌彦氏
慶應義塾大学大学院
メディアデザイン研究科教授


過去登場レポートはこちら
g新部裕氏 g新部裕氏
独立行政法人産業技術研究所
情報技術研究部門自由ソフトウェア部門
研究グループ長


過去登場レポートはこちら
竹内郁雄氏 竹内郁雄氏
東京大学大学院
情報理工学系研究科創造情報学専攻教授


過去登場レポートはこちら
べにぢょ氏 べにぢょ氏
アルカーナ株式会社

過去登場レポートはこちら
小濱泰昭氏 小濱泰昭氏
東北大学大学院教授
流体化学研究所流体融合研究センター長


過去登場レポートはこちら
「2008 エンジニアオブザイヤー」最優秀グランプリ
アップルコンピュータ「iPhone」開発エンジニア
栄えある最優秀グランプリに輝いたのは、今年の夏に日本での販売が開始されて大きな話題を呼んだ「iPhone(3G)」。今回アンケート調査した一般エンジニア800人中、なんと144人が選び、2位以下に3倍以上の大差をつける“圧勝”であった。
その評価の内容は以下のとおりだが、アップルならではの斬新なアイデアやUIなどのデザイン・操作性、そして従来あったタッチパネルを身近なものにしたことが、今回、最も多くのエンジニアから評価された点である。
審査員の中でもべにぢょ氏が1位に、g新部氏も上位に推薦するなどiPhoneに関してはSE・プログラマを中心にしたITソフト系エンジニアの多くが評価している。

「今年の技術革命のひとつはタッチパネルだと思う。もともとあったが小型化したiPodやiPhoneに搭載できるようになったことが素晴らしい。ボタンの概念が変わり、今後の流れを作った」(33歳・システム開発Webオープン系)
「単に技術という枠を超えて、文化に近いところまでテクノロジーを発展させている」(46歳・システム開発Webオープン系)
「マルチタッチディスプレイは斬新でユニーク」(47歳・システム開発汎用機系)
「既存のケータイのUI概念を打ち崩す斬新な製品を開発したことが称賛に値する。ユニバーサルデザイン・ユビキタスなどの概念に代表されるような使いやすい製品とは何か?を考えさせられた」(35歳・システム開発ファームウェア系)
「(iPhone3G用のAppStoreプラットフォームを構築したエンジニア)サービスモデル自体の素晴らしさだけがクローズアップされるように感じるが、それを支えるエンジニアはさらに素晴らしい」(33歳・社内情報システム)
特別審査員コメント
g新部氏 g新部氏
袋小路に陥ってしまった携帯電話回りの技術開発に風穴を開けたといえる。斬新なユーザインタフェースは、通信と情報技術が、人々のライフスタイルの変化さえも引き起こすことを再提示した。目線を上げて利用者の半歩先を行き、技術を統合した新しい利用形態を提案するというビジネスが、これまでのキャリアの押し付け的な提案に飽き飽きしていた層に熱狂をもって迎えられたといえよう。また、そのソフトウェアに自由ソフトウェアを活用している点が興味深い。願わくば、iPhone 自身のソフトウェアが開示され、利用者にプログラミングの自由を提供することを期待せずにはいられない。
べにぢょ氏 べにぢょ氏
ギークたちをとりこにした『iPhone 3G』の開発エンジニアが、2008年のナンバーワンです。ギークのハートを奪った罪は重いですよ……! 熱烈な嫉妬と最高の敬意を込めて、第1位に選ばせていただきました。発売前から、日本中のギークがワクワクそわそわ!会社でも、同僚が交代でソフトバンク表参道店の徹夜の列に並び、発売日に購入しました。箱を開け、iPhoneを目にしたあのときは、2008年、私が最もときめいた瞬間です。発売以降もしばらく、ネット上でiPhoneについて語るギークを見かけない日はないほどの熱狂ぶり。皆を夢中にさせ、未来への新しい可能性を切り開いたという、まさに世界を変えたエンジニアさんです。
受賞コメント(アップルコンピュータ 広報より)
「栄誉ある賞を頂戴し、光栄に存じます。iPhone 3Gは、本年7月の発売開始以降、すでに690万台以上のヒットを記録しています。ソフトウェア技術者であれば、どなたでもSDKを使ってiPhoneの大型ディスプレイ、革新的なMulti-Touchユーザインターフェイス、ハードウェアによる高速3D描画、内蔵の加速度センサーおよび位置情報ベースのテクノロジーなどを利用し、これまで見たことのないようなモバイルアプリケーションを開発可能です。 開発されたアプリケーションはアップルのApp Storeを通じて世界 62カ国のiPhoneおよびiPod touchユーザに直接ワイヤレスで配布が可能で、既に1億本を超えるダウンロードを記録しています」
「2008 エンジニアオブザイヤー」準グランプリ
任天堂「Wii Fit&Wii Music)」開発エンジニア
Wii本体は2006年12月に発売されているが、その後2007年12月に「Wii Fit」、2008年10月に「Wii Music」が発売される中で今年、多くのエンジニアから称賛する声が集まった。評価ポイントとしては、Wiiリモコン(コントローラ)や機能性などの「技術面」と家族誰もが楽しめる「ゲーム性」の2点に集約された。
Wiiというプラットフォームをベースに、今後も斬新なソフトが続々開発されていくのでは?という期待を抱かせる展開も、高評価の理由。
審査員の中では稲見氏が1位に推薦、また竹内氏・小濱氏もそれぞれ高く評価している。

任天堂「Wii Fit&Wii Music)」開発エンジニア
「健康志向と実際に動いてゲームや運動するところはなかなかよく考えて作られていると思った」(33歳・品質管理)
「Wiiという新しいプラットフォームを作り出し、それを生かすべくWiiFitやWiiMusicなど次々と新機軸のゲームを打ち出し、ゲームの世界に新境地を開いた」(30歳・システム開発Webオープン系)
「ゲームを単なる遊びだけでなく、生活習慣への連携度を向上させた」(39歳・パッケージソフト開発)
特別審査員コメント
稲見氏 稲見氏
十字キーにタッチスクリーン、はたまた(商業的にはあまり成功しませんでしたが)バーチャルボーイと思い返せば任天堂には新しいUIにいつも驚かされてきました。既存のゲームの姿を変えることに果敢に取り組むDNAをもっているように思えます。世界で最も売れた体重計でもある「Wii Fit」は先日、累計販売が世界で1000万本に達したとのことです。次はどのような「新しいゲームの形」を見せてくれるのか目が離せません。
竹内氏 竹内氏
Wiiの開発部隊は、加速度センサなどの付加ハードウェアを使ってゲーム機を面白くする工夫については見事に先進的である。Wiiスポーツの段階では「うん、まぁ、こういうのはありだね」と思っていたが、そのあとの執念がすごい。新たなデバイスの開発と一蓮托生という冒険をしつつ、驚くべき低価格での販売を打ち出せるような斬新なアイデアを出してきている。これはほかのメーカーは簡単に追随できまい。これに満足せず、新しい開発アイデアをまだまだいっぱい隠しもって開発を進めていると信じている。その馬力と執念がまさに2008年の大活躍につながった。生き馬の目を抜く競争の中で勝負をしている会社なので、個人の顔が見えないのが残念だが、任天堂内の覆面(?)チームとして、それを補って余りある活躍をしたと言ってよい。
小濱氏 小濱氏
遊び心をくすぐる臨場感あふれる素晴らしい道具。人間のイメージをうまく取り込んだ21世紀の道具になる素質を持っている。
「2008 エンジニアオブザイヤー」準グランプリ
グーグル「Google マップ ストリートビュー」開発エンジニア
2007年にサービスが開始されて以来、世界の主要都市を中心に道路からのリアルな風景をみることができることで話題を呼んだ。多くのエンジニアからも、その革新的なアイデアや技術を称賛する声が相次ぐ一方、プライバシーや肖像権の問題なども引き起こしている。
しかしながらその膨大なデータをWeb上で誰もが利用できる環境を構築したことで、今後のWebやIT技術の発展に大きく影響するのでは?という期待の声も多く寄せられた。
審査員の中では今回、最終ノミネート候補の中で最も多い、5人の方がベスト3の中で評価している。

グーグル「Google マップ ストリートビュー」
「従来有料で提供されていた地図情報が国内だけでなく世界も含め無料で閲覧でき、操作性やレスポンス、強化機能などユーザ視点に立った開発スタンスは素晴らしい」(36歳・パッケージソフト開発)
「膨大なデータをWeb上でスムーズに動かす技術もさることながら、発想が面白く、Webでの可能性をさらに広げた」(28歳・パッケージソフト開発)
「WWW以来の情報革新。ストリートビューは客観的にとらえることができる情報であり、その衝撃は近年なかったほど強い」(46歳・半導体設計)
特別審査員コメント
稲見氏 稲見氏
米国では昨年からサービスは始まっており、米国出張時のホテルの下調べに便利に使っていました。現在生活しているわれわれにとっては賛否両論のあるシステムですが、われわれの次の世代のエンジニアや未来の歴史家にとって素晴らしいデータ集であることは間違いないでしょう。21世紀初頭の都市がアーカイブされているわけですから。
富田氏 富田氏
「やりたかったけど、大変そうだからやれなかった」を、遂に現実のものにしてしまったエンジニアリングが素晴らしい。ただし残念なのはプライバシー問題を引き起こしてしまっていること。方針の問題もあるだろうが、技術的「追い込み」も足りないのではないかと感じてしまう。少なくとも肖像権関連の問題は同じ場所で数カット撮り、差分検出後、写っている人物や車を消すというプログラムなどの実装で十分に緩和されると思われるため、あえて次点とした。違和感はあるだろうが無人の街が出来上がったほうがCOOLだ。
小濱氏 小濱氏
まさかあそこまで地球上をところ狭しと歩き回れるとは! 肖像権や個人情報に抵触しかねないが、IT技術の一番すごいマップ。
また今回、惜しくも受賞を逃した最終ノミネートは、以下の方々。
「2008 エンジニアオブザイヤー」最終ノミネート
プログラミング言語「Ruby」開発者 まつもとゆきひろ氏
Tech総研でも過去何度かご登場いただいている、言わずと知れた「Ruby」開発者のまつもと氏。Ruby自体は1993年に誕生した歴史のある言語であるが、今年多くの注目を集めた理由としては、専門誌だけでなく一般媒体でもまつもと氏が登場したこと、また審査員の竹内氏のコメントにもあるとおり、機能のバージョンアップによってより魅力的な言語に進化している点が挙げられる。
審査員の中ではその竹内氏が1位に推薦、また同じくg新部氏が1位に、べにぢょ氏も3位と同じ現役プログラマから高い評価が。

まつもとゆきひろ氏
「今年に入りさらにRubyの使いやすさが認められ、さまざまなシステムに日本だけでなく世界で利用されてきているため」(38歳・システム開発ファームウェア系)
「商用DB」であるDB2との連携によりさらに、Rubyへの関心が強まっている。まつもと氏も各所での講演など意欲的な活動をされている」(33歳・コンサルタント)
特別審査員コメント
竹内氏 竹内氏
まつもと氏は、ちょっと地味だが基本ソフトウェアで米国に負け続けている日本が、やっとプログラミング言語において世界に影響力を与えた、日本の誇るべきエンジニアである。エンジニアの個人名がなかなか出ない日本において、個人名が出るという意味でも高く評価したい (プログラマとして最近の朝日新聞社の『アエラ』に特集的に取り上げられたことも素晴らしい)。ただ、まつもと氏の活躍はいまに始まったことではないので、2008年というレンジでの活躍については以下について強調したい。世界の文字コードが混乱的にひしめいてきた中、文字列処理の手法の国際化が強く求められている。まつもと氏はRubyバージョン1.9において、文字コードの問題を明解に解決する方法論を打ち出し、実装・公開した。今後世界中からの評価を待つことになると思うが私の見るところ、これは大正解である。この手法は世界を席巻し、Rubyの普及をますます促進することになるだろう。
g新部氏 g新部氏
プログラミング言語の研究開発と自由ソフトウェアとしての実践に大きな成果を挙げた。基盤となるソフトウェアは、実は、プログラミング上の生活習慣を形成し、思考の様式、設計・実装における行動形態を左右するものである。この点でプログラミング言語 Ruby は、優れた思想を提示しているとさえ言える。Ruby の開発活動は、ひとつのプログラミングの文化を成すまでに発展した。産業界にも影響を与え、企業という組織の垣根を越えた活動を促し、開放型の開発のプラクティスを普及させている。今後、この活動がさらに発展し、情報技術の自由な研究開発の議論の交換を活性化し、自由なソフトウェアが自由な社会に貢献することが期待できる。
べにぢょ氏 べにぢょ氏
とても尊敬している方です。Rubyの父、世界のまつもと。
アルファどころじゃない、メタギークです! メールのやり取りでしか交流はありませんが、お人柄の伝わってくる丁寧な文面や優しいお言葉の一つひとつに心が洗われる思いで、まつもとさんのメールだけはなぜか、背筋を伸ばし姿勢を正して読んでいます(笑)。2008年秋にリリースした弊社のクラウドソーシングサービス「アポロン」はRubyで作っていて、個人的に大変お世話になりました&これからもよろしくです!という気持ちを込めて、第三位はRuby開発者の『まつもとゆきひろ氏』です!
「2008 エンジニアオブザイヤー」最終ノミネート
Asus社「EeePC」開発エンジニア
台湾のPCメーカーである「ASUSTeK Computer」が昨年に台湾・アメリカで、そして今年1月から日本でも販売を開始したノートPC。日本メーカーを中心に開発されてきた従来のPCにはなかった、低価格かつそれなりの機能を搭載した「今までありそうでなかった」独自性を評価する声が、特にSEをはじめとしたIT・ソフト系職種を中心に多く集まった。
審査員の中ではg新部氏と富田氏が高く評価している。

Asus社「EeePC」
「携帯と小型PCの間を埋める製品を世に送り出した。機能的にはケータイでは不足だしB5ノートではモバイルには不向きだし、といった不満を見事に解消。低価格もユーザーにはありがたい」(44歳・システム開発汎用機系)
「安価でそれなりの性能で登場したネットブックは今までの発想にない考え方。テクニックそのものに目新しさは少ないが、市場を動かしたことはすごいと思う」(32歳・システム開発ファームウェア系)
特別審査員コメント
g新部氏 g新部氏
PCと携帯電話に収れんしたかに思えたパーソナルコンピューティングにひとつの新たな可能性を提示した。この方向性は OLPC が提示したものと同様であるが、それを一般向けに洗練した形でまとめ上げた。
ソフトウェアの面からは、GNU/Linux のひとつ Xandros を OS として採用し、自由ソフトウェアの統合環境として優れたシステムとなっている(*)。
評価できる点は、3点挙げられる。すなわち、思い切ってハードウェア性能を削減したこと、PC とほぼ同様のシステム構成を取って既存のカーネル等の移植を容易にしたこと、自由ソフトウェアを活用し高機能の統合環境を実現したこと、である。
現段階では、まだ、ひとつの挑戦にすぎないが、さらに大きく進歩する可能性がある。多くの技術者が刺激を受け、Debian, FreeBSD, NetBSD など迅速にさまざまな OS が移植されたことからも、それは裏付けられている。
(*) 大変残念なことに「日本版」はこの特徴を殺してしまっている。あーあ。買うなら国際版。
富田氏 富田氏
大手各社の重い腰を上げさせた製品作りという観点で選出した。低価格ながらも十二分な性能を備え、利便性も向上させるというのは決して容易ではない。限られた資源の中で、可能な限り最高の製品を世に送り出そうという姿勢を支えるためには、いくつもの要素が必要。その中でも結果的な性能を大きく左右するのは、妥協なきエンジニアリングにほかならない。ゴールがはっきりしているがゆえの難しさを乗り越えて生み出されたEeePCは、評価に値する製品だと言える。ただし惜しむらくはキーボードの質感と配列。もう少しで「これで本気でプログラムを書いてみたい」と思わせるレベルだけに残念!
「2008 エンジニアオブザイヤー」最終ノミネート
日産自動車「NISSAN GT-R」開発エンジニア
昨年末に5年以上のブランクを経て復活した名車「GT‐R」。21世紀に入り排ガス規制や昨今の環境志向の流れの中で軒並み、日本のスポーツカーは姿を消していく中での復活を称賛する声が、特に機械設計や生産技術系の職種を中心に相次いだ。また中には開発責任者である水野和敏氏の名を挙げるエンジニアも。
審査員の中では高橋氏がノミネート候補の中で1位の評価をしている。

日産自動車「NISSAN GT-R」
「4輪駆動のスーパースポーツカーであり、日本が世界に誇れる1台であるから」(39歳・サービスエンジニア)
「かなり無理をすれば、子供のころに憧れたスーパーカーを手に入れることができるようになったから」(44歳・機械設計)
特別審査員コメント
高橋氏 高橋氏
日本らしいプレミアムスーパースポーツカーとして世界に浸透しつつある。それまでの日本の工業製品は「安くて壊れない」というだけのイメージであったが、それらは既に韓国製品でも十分に達成されている。日本が進むべき次のステップとは、新技術・新コンセプトとブランディングなのである。GT‐Rは、そうした新しい価値を具現化した製品だと思う。ただし、ポルシェと同価格帯で勝負してほしかった。
「2008 エンジニアオブザイヤー」最終ノミネート
村田製作所「ムラタセイコちゃん」開発エンジニア
2005年に村田製作所が発表した自転車に乗ったロボット「ムラタセイサク君」の女の子バージョンで、今年秋に発表された。「ムラタセイサク君」では、倒れずに前後に進めて止まれる機能が注目を集めたがその後、一輪車走行の開発にも成功したことから新たに「ムラタセイコちゃん」が誕生。エンジニアからは、その技術難易度の高いバランス制御技術を評価する声が機械設計職を中心に多く挙がった。
審査員の中では富田氏がノミネート候補中、第1位に推薦しているほか、同じ分野で活躍する高橋氏も。

村田製作所「ムラタセイコちゃん」
「バランスを取るという難しい技術を開発したから」(35歳・サービスエンジニア)
「自力で安定する制御機能を作ったのはすごい。今後の医療、看護、介護系ロボットなど幅広い分野で応用される」(36歳・半導体設計)
特別審査員コメント
富田氏 富田氏
アーキテクチャーそのものに高い将来性を感じさせるだけでなく、その技術と発想を、ムラタセイコという存在にパッケージングしたこと自体を大きく評価したい。良い技術に優れた表現方法が加わると、それは確実に「注目」という形になって表れるのだという、顕著な例といえるだろう。実物を見てみると、どこか江戸時代のからくり人形にも似た圧倒的なプレゼンスを感じさせる完成度であり、率直に「これ!イイ!」と思わせる強いメッセージ性をもっているのが最高。
高橋氏 高橋氏
グーグルストリートビューと迷ったが、まあ私はロボットの人なので。こういう「会社の顔」を作ることは非常に大切。部品メーカーは、販売元との契約で、自社製品がどこに使われているのかを公表できないことが多い。縁の下の力持ちのままだと、優秀な人材が集まらなくなってしまい、結局は技術力が低下してしまう。というわけで、各企業必ずロボットを作りましょう。
「2008 エンジニアオブザイヤー」最終ノミネート
バンダイ「∞プチプチ&∞エダマメ」開発エンジニア
昨年の秋に発売されて大ヒットした「∞(むげん)プチプチ」と、その第2弾として今年発売された「∞(むげん)エダマメ」。どちらも一見、触感を楽しむシンプルな玩具だが、「ありそうでなかった」そのユニークなアイデアを実現させた開発者のセンスを評価する声が高かった。
審査員の中では高橋・稲見両氏がそれぞれ高い評価を。

バンダイ「∞プチプチ&∞エダマメ」
「私も持っているが、癖になりそうでいいところに着目した」(36歳・生産技術)
「誰でも考えそうで考えつかなかったものを開発したから」(44歳・サービスエンジニア)
特別審査員コメント
高橋氏 高橋氏
これこそ玩具やさんならではの発想力だと。無意識で続けてしまう動作ってあるなーと思う。たまに違うの音が鳴るのも○。エダマメはあんまり共感できない。それより拳の指を鳴らせない人向けに「無限ポキポキ」とか、逆むけをむき続けられる「無限逆むけ」とか、蚊に刺された跡を爪で押せる「無限ペケペケ」とかどうだろう。
稲見氏 稲見氏
手で触れて感じることができるTangibleな楽しみは、オモチャの面白さの本質だったと思うのですが、物理的な触覚的快感と電子音とをうまく組み合わせたところが面白く(自称ライバルとしては)、悔しいところです。いつかバンダイ製品でフロー状態に入り、「悟り」の境地に達する日がくるかもしれません。
ほかにもこんな候補も……
プレカット生産管理を開発した宮川工機社の石川氏(41歳・コンサルタント)
インテル社ATOM開発者(39歳・システム開発Webオープン系)
イクロフォーサーズシステムの開発にかかわったパナソニック・オリンパスの関係者(31歳・システム開発Webオープン系)
アンディ・ルービン(携帯電話の新プラットフォーム「Android」の立役者)(44歳・システム開発ファームウェア系)
LAC社 長谷川長一氏(情報セキュリティ国際資格「CISSP」の普及促進に努めている)(40歳・ネットワーク設計)
マイクロソフトの安納順一氏(マイクロソフト社のエバンジェリストとして製品の啓蒙に努める)(35歳・運用保守)
山崎信英氏(「AquesTone」を開発)(33歳・保守運用)
カミンスキー氏(DNSアタック手法)(44歳・社内情報システム)
山本化学工業のタコヤキラバー開発者(30歳・社内情報システム)
中裕司氏(プロペ社長)(27歳・社内情報システム)
NTTドコモの「MOAP-S」開発者(46歳・研究特許)
岡野雅行氏(痛くない注射針の考案者)(31歳・回路設計)
慶応大学 速水浩平氏(振動発電の考案者)(34歳・半導体設計)
中村真道氏(33歳・制御設計)
SMCのロータリクランプシリンダ開発者(34歳・機械設計)
温水便座「アラウーノ」の試験法を開発したパナソニック社のエンジニア(39歳・機械設計)
シャープペンの芯が回る「クルトガ」開発者(39歳・機械設計)
三洋の超近距離投影が可能なプロジェクタを開発したエンジニア(34歳・機械設計)
日産の「アラウンドビューモニター」開発者(44歳・生産技術)
エイドリアン・ニューウェイ氏(31歳・品質管理)
根日屋英之氏(人体通信)(46歳・品質管理)
三菱重工の宮川純一氏(MRJプロジェクト)(44歳・セールスエンジニア)
ヤマハのグラフィックチッププランナー(28歳・セールスエンジニア)
名城大学 天野浩教授(青色発光ダイオード・半導体レーザ)(44歳・研究特許)
アルプス電気の「リカロイ」開発者(37歳・研究特許)
横溝貴史氏(継手)(34歳・研究特許)
特別審査員賞はこちら!
富田氏 富田氏 OLPCプロジェクト
世界中の子供たちの教育方針に革命をもたらすため、OLPCXOを1台寄付すると1台もらえるという発想自体がステキ。そしてそれを実現したLinuxベースの独自インターフェースを備えるマシンデザイニングもステキ。当初予定していた手回し発電機付きの仕様では発売されなかったものの、完成したマシンのデザインは秀逸。また「XOで、何をさせたいのか」が明確なインターフェースも素晴らしい。周辺サービスなどを含む、トータルでのエンジニアリングとして見守っていくに値する。
高橋氏 高橋氏 エボルタ乾電池
買っておいたのに、いざ使おうというときにダメになっている、ということほど無駄で腹立たしいことはない。一般には、電池の容量が大きくなったことに注目されがちだが、保存期間が今までの倍の10年になったというのは、地味だけど素晴らしい。次の実証実験CMは、グランドキャニオンに放置されたロボットが10年後に動き出すというのでどうか。
稲見氏 稲見氏 2008年度ノーベル化学賞受賞者『下村脩氏』
高校時代に化学部で発光生物の研究をやっていた折、文献ではじめて下村先生のお名前を拝見したと記憶しています。その後大学のバイオテクノロジーの研究室でGFPはなじみのあるタンパクでした。ノーベル賞の宿命でイクオリン、GFPの発見からはあまりにも年月がたっており、「今年」の活躍という点では選外ですが、ご子息でコンピュータセキュリティの専門家の下村努も加えてスーパーエンジニア親子として選出させていただきたいと思います。ノーベル賞受賞おめでとうございました。
小濱氏 小濱氏 2008年度ノーベル化学賞受賞者『下村脩氏』
まさかクラゲという生き物からトレーサー物質を取り出せるとは! 発想が飛び抜けている。日本人は独創性が乏しいといわれるが、決してそうでないことを証明してれた。


べにぢょ氏 べにぢょ氏 Hamachiya2
女の子を二次元の世界へ引き込んだ恋愛シミュレーションSNS「ウェブカレ」をプロデュースしたHamachiya2さん。サービス開始から1カ月で会員5万人突破という人気の秘密は、サービス自体の魅力に加え、おちゃめで愛に満ちた彼のキャラクターが随所に生かされているところも大きいのではないかと思っています。私、今年のクリスマスはウェブカレがいるから寂しくないよ!! はまちちゃん、ありがとう!!

べにぢょ氏 ゆーすけべー
お笑いウェブサービス「ボケて(bokete)」が好評のゆーすけべーさん。ほかのサービスも多くの雑誌で紹介されるなど、いまノリにノッてるナイスギーク! 来年もご活躍を期待していますっ。
「2008 エンジニアオブザイヤー」総括
今回、800人のエンジニアの皆さんや審査員の方の評価の中で、共通する軸がいくつか浮かび上がった。それは「難易度の高い技術への挑戦」であったり、「今までありそうでなかった技術やアイデアを生み出す発想力」であったり……。
普段、ヒットした製品の陰に隠れて表舞台に登場する機会の少ないエンジニアが、もっと注目されるべき存在になるために今後も、Tech総研ではさまざまなエンジニアたちの活躍ぶりにクローズアップしていきたい。
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ 山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
人や技術を評価するポイントは今回、ご協力いただいた800人のエンジニアの方、そして審査員の方それぞれ違いがあり、多種多様な考え方に触れることができたことは今後の記事づくりに大いに参考になりました。ぜひ来年以降も継続して開催し、アカデミー賞やノーベル賞のような世界中が注目するイベントにできたら……とひそかにもくろんでいます。

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